[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

イオン性置換基を有するホスホール化合物の発光特性

[スポンサーリンク]

 

第17回目となるスポットライトリサーチは、新潟大学大学院自然科学研究科(俣野研究室) 修士課程2年・小柳誉也 さんにお願いしました。

小柳さんは修士学生ながら第42回有機典型元素化学討論会にて見事優秀講演賞を受賞されました。その成果は最近、学術論文として公開されてもいます。それを契機に今回の紹介に至りました。

“Effects of Boryl, Phosphino, and Phosphonio Substituents on Optical, Electrochemical, and Photophysical Properties of 2,5-Dithienylphospholes and 2-Phenyl-5-thienylphospholes”

Koyanagi, Y.; Kimura, Y.; Matano, Y. Dalton Trans. 2016, Advance Article. DOI: 10.1039/C5DT03362D

研究室を主宰する俣野善博 教授は小柳さんをこう評しておられます。

小柳君は、新潟大学で研究室を立ち上げた時に4年生として配属された一期生です。先輩がいない状況だったこともあり、研究を進める上で苦労したことも多かったと思いますが、修士課程の途中から取り組み始めた発光性ホスホールの研究では、蒔いた種からしっかりと若木を育て、有機リン化学の新しい局面を切り拓いてくれました。

新しい研究室での仕事は何かと苦労が多いのですが、見事にものにしたわけで大変素晴らしいと思います。それではいつもどおり、小柳さんにまつわるお話を聞いてみました。ご覧ください!

Q1. 今回の受賞対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください

剛直な構造を持つホスホール(リンを含む複素五員環)には高い発光性を示すものが多いのですが、カチオン性ホスホール誘導体の発光特性に対して、対アニオンや溶媒が与える影響はこれまで詳しく調べられていませんでした。そこで、ホスホニオ基を有するπ共役ホスホールを合成し、その発光特性に対する対アニオン、溶媒、濃度、添加物の効果を系統的に調べました。その結果、ハロゲン化物イオンを対アニオンとした場合、発光強度がイオン対の解離平衡に強く依存することが明らかとなり、高い発光性を持つカチオン性色素の設計指針を手にすることができました。

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

反応前の基質はとても良く光っていたのに、リン上をヨードメタンでメチル化するとたちまち発光しなくなってしまい、「光らないと意味がないだろう」と残念に思いましたが、TLCをあげてみると、なぜかスポットが発光しており、何が起きているのか一瞬戸惑いました。ただ、他のテーマを行っていた時に勉強した重原子効果がすぐ頭に浮かび、自分自身で研究の方向性を定めることができました。(本当はサンプル数を増やすために行った実験だったりする...)

色や発光の変化を注意深く観察していたことや、他のテーマで関わった分野の勉強が活かされたと思います。

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

イオン対の解離平衡という結論に至るまでに苦労しました。対アニオンとしてヨウ化物イオンを持つ誘導体の蛍光寿命をCH2Cl2中で測った際、複数の発光成分が存在することがわかり、はじめはサンプルが劣化してしまったのかと思いました。しかし、各成分の比が濃度に依存することや、同じサンプルをMeOH中で測定すると濃度に関わらず単一成分で減少することなどがわかり、なんとか観察結果を解釈できました。特に光物性に関して共同研究者の木村佳文教授(同志社大理工)から貴重なご助言をいただいたおかげで、結論に辿り着くことができたと感じています。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

今までは基礎研究を行うことが多かったですが、これからは応用研究についても行ってみたいと考えています。実際に自分が作った分子が世に出回り、社会に貢献できたという実感が得られたら幸せです。

個人的には、本研究の発表を行った有機典型元素化学討論会で特別講演をなされた浦野泰照教授(東大院薬・医)の蛍光プローブの研究に感銘を受けたので、そういった画期的な研究に携われたらと思います。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

ポルフィリン、BODIPY、ホスホール(現在)。

これが、私が携わってきた研究テーマです。テーマによっては研究が思うように進まず、論文としてまとめられる結果を出すまでにずいぶん時間がかかりました。(私が初めて論文を投稿したのは博士前期2年になってからです。)「結果」がついてこないと精神的に辛くなってきますが、その辛い時期を乗り越えたからこそ「結果」が得られたのだと思います。「結果が出なくて辛い」ではなく、「苦労したからこそ結果が出る」と、時には考え方を変え、現状を打破して行きましょう。

 

関連リンク

 

研究者の略歴

sr_Y_Koyanagi_2小柳 誉也(こやなぎ よしなり)

所属:新潟大学大学院自然科学研究科・俣野研究室

研究テーマ: リンの特性を活かした新規発光性分子の開発

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 内部アルケンのアリル位の選択的官能基化反応
  2. マイクロ波とイオン性液体で単層グラフェン大量迅速合成
  3. 大学院から始めるストレスマネジメント【アメリカで Ph.D. を…
  4. 化学者のためのエレクトロニクス入門⑤ ~ディスプレイ分野などで活…
  5. 【スポットライトリサーチ】汎用金属粉を使ってアンモニアが合成でき…
  6. マテリアルズ・インフォマティクスのためのデータサイエンティスト入…
  7. 軽くて強いだけじゃないナノマテリアル —セルロースナノファイバー…
  8. フラッシュ自動精製装置に新たな対抗馬!?: Reveleris(…

注目情報

ピックアップ記事

  1. パクリタキセル(タキソール) paclitaxel(TAXOL)
  2. 化学者のためのエレクトロニクス講座~電解金めっき編~
  3. 中学入試における化学を調べてみた 2013
  4. 部分酸化状態を有する純有機中性分子結晶の開発に初めて成功
  5. ボールミルを用いた、溶媒を使わないペースト状 Grignard 試薬の合成
  6. 生きた細胞内でケイ素と炭素がはじめて結合!
  7. 化学に魅せられて
  8. 『リンダウ・ノーベル賞受賞者会議』を知っていますか?
  9. 年収で内定受諾を決定する際のポイントとは
  10. 無限の可能性を合成コンセプトで絞り込むーリアノドールの全合成ー

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年2月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
29  

注目情報

最新記事

光励起で芳香族性を獲得する分子の構造ダイナミクスを解明!

第 654 回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 協奏分子システム研究セ…

藤多哲朗 Tetsuro Fujita

藤多 哲朗(ふじた てつろう、1931年1月4日 - 2017年1月1日)は日本の薬学者・天然物化学…

MI conference 2025開催のお知らせ

開催概要昨年エントリー1,400名超!MIに特化したカンファレンスを今年も開催近年、研究開発…

【ユシロ】新卒採用情報(2026卒)

ユシロは、創業以来80年間、“油”で「ものづくり」と「人々の暮らし」を支え続けている化学メーカーです…

Host-Guest相互作用を利用した世界初の自己修復材料”WIZARDシリーズ”

昨今、脱炭素社会への実現に向け、石油原料を主に使用している樹脂に対し、メンテナンス性の軽減や材料の長…

有機合成化学協会誌2025年4月号:リングサイズ発散・プベルル酸・イナミド・第5族遷移金属アルキリデン錯体・強発光性白金錯体

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年4月号がオンラインで公開されています!…

第57回若手ペプチド夏の勉強会

日時2025年8月3日(日)~8月5日(火) 合宿型勉強会会場三…

人工光合成の方法で有機合成反応を実現

第653回のスポットライトリサーチは、名古屋大学 学際統合物質科学研究機構 野依特別研究室 (斎藤研…

乙卯研究所 2025年度下期 研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

次世代の二次元物質 遷移金属ダイカルコゲナイド

ムーアの法則の限界と二次元半導体現代の半導体デバイス産業では、作製時の低コスト化や動作速度向上、…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP