[スポンサーリンク]

ケムステまとめ

Dead Endを回避せよ!「全合成・極限からの一手」シリーズ

[スポンサーリンク]

全合成(Total Synthesis) は、ときに山登りに例えられるほど過酷な研究領域です。多くは数年という長い時間を要し、幾人もの共同研究者による血の滲む努力と試行錯誤の末に、その合成は達成されます。

直面した困難を克服するべくものづくりの匠によって編み出された、全合成における優れた問題解決とその発想をクイズ形式で紹介しているシリーズです。困難に直面した全合成化学者がいかにして創造的発想からの解決に至ったか、それを追体験できるような記事となっています。

Dead Endを回避せよ!「全合成・極限からの一手」記事一覧

問題1Danishefskyらによる(+/-)-Myrocine Cの合成(1994)から

本合成においてはもともと、Aの脱離基Lを有機金属試薬へと交換し、共役系を介したエポキシド開環を駆動力とする分子内三員環形成にてCを合成する計画だった。しかしAtBuLiで処理すると、実際には化合物Bのみが得られることがわかった。
この予備的知見をもとに、試薬Xを二度加える手順が開発され、メシル化体ACの短工程変換が達成された。試薬Xの候補となり得るものを提案せよ。

next_move_2

解答はこちら

問題2E.J.Coreyらによるβ-Araneoseneの全合成(2005)から

本合成では中間体Aからピナコール転位により天然物骨格Cを得ようとしたが、望みのbycyclo[9.3.0]骨格ではなく、bicyclo[9.2.1]骨格をもつBが得られてしまった。

Coreyらは中間体Aに適切な変換を施すことで、この転位反応を見事成功に導いている。どのような変換もしくは工夫を行えば、望む骨格Cが得られるだろうか。ピナコール転位の反応機構をもとに提案せよ。

next_move_2q_1.gif

解答はこちら

問題3:白濱晴久らによる(-)-Grayanotoxin IIIの全合成(1994)から

本合成の最終段階におけるMOM基の脱保護は困難を極め、酸性条件では完全な脱保護を行うことが不可能だった。
そこで化合物の基本骨格が酸化条件に強いという特性を踏まえ、アセチル保護後、酸を使用しない2工程の化学処理を行った。これにより見事脱保護に成功し、全合成が達成された。

ここで用いられている化学工程としては、どのようなものが考えられるか、提案せよ。

next_move_3q_1

解答はこちら

問題4: 宮下正昭・谷野圭持らによるNorzoanthamineの全合成(2004)から

以下に示すアルキンBの形成では、ジヒドロピラン体Cの副生が問題となって、収率の低下を招いていた。各種条件検討では解決が難しいと判断され、基質構造の修正から収率の向上が図られた。最終的に、基質Aに適切な重水素化を施すことよって、収率の劇的な向上が達成された。
以下に鍵反応を含めた合成スキームを示す。副反応の反応機構および重水素試薬の入手性を加味しながら、鍵反応の収率向上が期待できるように、基質Aの重水素化体をデザインせよ。

next_move_4q_1

解答はこちら

問題5: Sturmer・Hoffmannによるエリスロノリド類縁体の全合成(1993)から

本合成では酸性条件に弱い複数の保護基が共存する中で、シクロペンチリデンアセタールのみを選択的に脱保護することが求められた。この目的にて、驚くべきことに2,4,6-トリニトロトルエン(TNT)の添加が効果的であることが見出されている。TNTの役割を説明せよ。

next_move_5q_1

解答はこちら

問題6柴崎正勝金井求らによるGarsubellin Aの全合成(2005)から

以下のアリル化反応においては、太赤字の添加剤がない場合には副反応を生じ、収率が低下してしまう。どのような副反応を抑制する目的で選択されているかを推測し、合理的説明を与えよ。

next_move_6q

解答はこちら

問題7林雄二郎石川勇人らによるタミフルの短工程合成(2009)から

以下に示すタンデム鍵反応では、上スキームのように5位立体が逆に出てしまうことが問題であった。しかしone-potでチオフェノール付加体に変換するという本来必要のない変換を挟むことで、下スキームのように望む立体を持つ生成物を単離することができ、問題を解決できた。成功に至った理由(チオフェノールの効能)を考察せよ。

next_move_7q.gif

解答はこちら

問題8: J.A.PorcoらによるOximidine IIIの全合成(2004)から

本合成の鍵工程である12員閉環メタセシスは、素直に設計された基質Aを用いると、目的物Cの生成が低収率にとどまってしまった。しかしながら一見余分な置換基(黄色でハイライト)を備えた基質Bを用いると、収率が大幅に向上した。この置換基の効能と、収率向上に寄与した理由を説明せよ。

next_move_8q_2

解答はこちら

問題9Andreas Pfaltzおよび鈴木啓介らによるMacrocidin Aの全合成(2010)から

合成終盤の鍵となるDieckmann環化においては、素直な基質設計からはまったく反応が進行しなかった。しかしながら、p-アジドベンジル(PAB)基でアミド窒素を保護することにより、環化に成功している。PAB基の果たす役割を説明せよ。また、汎用される類似構造保護基(ベンジル基p-メトキシベンジル基)で不都合が生じる理由についても考察せよ。

解答はこちら

関連書籍のケムステレビュー記事

関連書籍

[amazonjs asin=”3527306447″ locale=”JP” title=”Dead Ends and Detours”][amazonjs asin=”3527329765″ locale=”JP” title=”More Dead Ends and Detours”][amazonjs asin=”3527310215″ locale=”JP” title=”Side Reactions in Organic Synthesis: A Guide to Successful Synthesis Design”][amazonjs asin=”3527337210″ locale=”JP” title=”Side Reactions in Organic Synthesis II: Aromatic Substitutions”][amazonjs asin=”4621080660″ locale=”JP” title=”有機合成の落とし穴 -失敗例から学ぶ成功への近道”][amazonjs asin=”3527319646″ locale=”JP” title=”Design and Strategy in Organic Synthesis”]
Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. チャート式実験器具選択ガイド:実験メガネ・白衣編
  2. 論文執筆ABC
  3. 生合成研究の記事まとめ
  4. 化学の成果で脚光を浴びた小・中・高校生たち
  5. 有機合成テクニック集[ケムステ版]
  6. コロナウイルス関連記事 まとめ
  7. インフルエンザ治療薬と記事まとめ
  8. 計算化学記事まとめ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 論文執筆ABC
  2. 笑う化学には福来たる
  3. 第118回―「糖鎖のケミカルバイオロジーを追究する」Carolyn Bertozzi教授
  4. Dead Endを回避せよ!「全合成・極限からの一手」④
  5. IRの基礎知識
  6. 中村 浩之 Hiroyuki Nakamura
  7. 三菱ケミカルと三井化学がバイオマス原料由来ポリエステルの関連特許に係るライセンス契約を締結
  8. 槌田龍太郎 Ryutaro Tsuchida
  9. 化学者のためのエレクトロニクス講座~フォトレジスト編
  10. ダイヤモンド構造と芳香族分子を結合させ新たな機能性分子を創製

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年2月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
29  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP