[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

安定な環状ケトンのC–C結合を組み替える

[スポンサーリンク]

シクロペンタノンの触媒的C–C結合活性化と続くアリール基のC–Hメタル化による結合変換反応が報告された。本手法は反応条件の調整でシクロヘキサノンにも適用できる。

遷移金属による環状ケトンのC–C変換反応

環状ケトンのC–C結合の切断を伴う新規C–C結合形成反応は、画期的な合成戦略を切り拓く可能性をもつ。C­–C結合の高い活性化障壁を如何に乗り越えるかが最大の鍵となる。これまで遷移金属触媒を用いて、主に以下の二つの手法が取られてきた。

一つは、1994年の伊藤・村上らが報告したように、小員環ケトンがもつ歪み解消エネルギー(RSE: Ring Strain Energy)を駆動力とするものである(図1A)[1]。特に高い歪み解消エネルギーをもつシクロブタン環(27.0 kcal/mol)で効率よく反応が進行する。しかし、この手法は高い歪み解消エネルギーをもつ環状ケトン限定的であり、より大きな環状ケトンへの適用は難しい。実際、伊藤、村上らの報告中でシクロペンタノンのC–C結合変換は成されているものの、金属を当量使用する、反応時間が長いといった課題がある(図1B)[1]

二つ目の手法として、より大きな環状ケトンに対しては2001年にJunらが見出した、配向基を用いたC–C結合切断法が知られる(図1C)。2-アミノピリジン類を共触媒に用いて系中でケチミンを生成し、そのピリジン環が配向基として作用することで金属触媒へのC–C結合酸化的付加が促進される[2]。この方法は中員環以上の環状ケトンのC–C結合変換に有効だが、シクロペンタノン、シクロヘキサノンには適用できない。

図1. 遷移金属を用いた環状ケトンのC–C変換反応の代表例

 

今回シカゴ大学のDongらはロジウム触媒と2-アミノピリジン共触媒を用いることでシクロペンタノンの効率的なC–C結合変換反応によるα-テトラロン合成法の開発に成功したので紹介する(図1D)。本反応は、反応条件の調整によりシクロヘキサノンのC–C結合変換にも適用できる。

* “Catalytic Activation of Carbon–carbon Bonds in Cyclopentanones”

Xia, Y.; Lu, G/; Liu, P.; Dong, G. Nature, 2016539, 546 DOI: 10.1038/nature19849

論文著者の紹介

研究者:Guangbin Dong
研究者の経歴:
-2003 B.S., Peking University, China (Prof. Zhen Yang, Prof. Jiahua Chen)
2004-2009 Ph.D, Stanford University, California (Prof. Barry M. Trost)
2009-2011 Camille Henry Dreyfus Postdoctoral Fellow, California Institute of Technology, California (Prof. Robert H. Grubbs)
2011-2016 Assistant Prof. at University of Texas at Austin, Texas
2016 Prof. at University of Texas at Austin
2016- Prof. at University of Chicago, Illinois
研究内容:C–H, C–C結合活性化反応の開発、天然物合成

論文の概要

Dongらはシクロペンタノン1に対しRh/IMes触媒と2-アミノピリジンを共触媒に用い、C–C結合切断を伴うα-テトラロン2の合成に成功した(図2A)。配位子をより嵩高いIPrへ、共触媒を2-アミノ-6-ピコリンにすることでシクロヘキサノン3のC–C結合変換も可能とした(図2B)。

歪み解消エネルギーの利用が困難なシクロペンタノン、シクロヘキサノンC–C結合切断の成功の要因は何であろうか。それは上述の配向基を用いる手法(アミノピリジンの使用)とC3位にアリール基を導入したことである(図2C)。Junらと同様、アミノピリジンを用いケトンをケチミンへ変換し、ピリジン環が配向基として働くことでロジウムへのC–C結合酸化的付加が促進される。しかし、シクロペンタノンの場合はこのC–C結合切断が可逆的であり、しかも逆反応が優先してしまう。この平衡を生成系に傾けるのを可能にしたのがC3位に導入したアリール基である。C–C結合活性化中間体6に対しC3位のアリール基が分子内C­­–Hロジウム化することでローダサイクル中間体7の形成が可能となる。続く還元的脱離と加水分解によりα-テトラロンが生成する。このような巧みな反応設計が安定なシクロペンタノン、シクロヘキサノンC–C結合の変換反応を可能にしている。

図2. Rh触媒によるシクロペンタノン、シクロヘキサノンのC–C変換反応

参考文献

関連書籍

[amazonjs asin=”B015Q0JLBC” locale=”JP” title=”Cleavage of Carbon-Carbon Single Bonds by Transition Metals”]
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 光照射による有機酸/塩基の発生法:②光塩基発生剤について
  2. 第96回日本化学会付設展示会ケムステキャンペーン!Part II…
  3. 【早期申込特典あり|Amazonギフト5000円】第2弾!研究者…
  4. シリンドロシクロファン生合成経路の解明
  5. 「鍛えて成長する材料」:力で共有結合を切断するとどうなる?そして…
  6. 光親和性標識法の新たな分子ツール
  7. 有機合成化学協会誌2022年2月号:有機触媒・ルイス酸触媒・近赤…
  8. 四国化成ってどんな会社?

注目情報

ピックアップ記事

  1. 呉羽化学に課徴金2億6000万円・価格カルテルで公取委
  2. 日本化学会 第103春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part3
  3. 有機合成化学協会誌2026年3月号:環状オキシムエステル・糖鎖分子プローブ・人工核酸・シラノール・TAFIa阻害剤のプロセス開発
  4. 中村栄一 Eiichi Nakamura
  5. 保護により不斉を創る
  6. ケムステチャンネルをチャンネル登録しませんか?
  7. 点群の帰属 100 本ノック!!
  8. 小島 諒介 Ryosuke Kojima
  9. モビリティ用電池の化学: リチウムイオン二次電池から燃料電池まで(CSJ:44)
  10. ウイルスーChemical Times 特集より

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年1月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

アンモニウム構造によりラジカル種の発生位置を完全に制御!

第710回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理工学研究科 村上研究室の榊原 陽太(さかきばら …

化学つれづれ草【ある研究者の回想】

概要物理化学者で量子機能材料を専門とする著者によるエッセイ集.化学者としての研究,教育,人生…

第60回有機反応若手の会

開催概要有機反応若手の会は、有機化学分野で研究を行う全国の大学院生を中心とした若手研究者が集い、…

ノーベル賞受賞者と語り合う5日間!「第18回HOPEミーティング」参加者募集!

申し込みはこちら概要主催:独立行政法人 日本学術振興会(JSPS)開催地:神奈川…

光触媒による高効率なCO2還元の実現―まさかの光を弱く当てることが重要だった―

第709回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 理学院(前田研究室)博士後期課程2年の仲田竜一 …

「π-πスタッキング」という言葉が生む誤解【芳香環の相互作用を見直す: 前編】

芳香環が平行に並んで近接しているとき、その構造を「π–π スタッキング」と表されることがよくあります…

一重項酸素によるC(sp2)−P結合切断を用いた長波長光によるリン化合物のアンケージング

第 708 回のスポットライトリサーチは、同志社女子大学 薬学部 医療薬学科 5…

マテリアルズ・インフォマティクスにおける画像解析の活用ガイド

開催概要材料開発において、電子顕微鏡やX線トモグラフィーを用いて材料の微細構造を観察するために画…

世界初のPROTAC医薬、ついに承認 ―「タンパク質を阻害する」から「分解する」時代へ

2026年5月、創薬化学の歴史に残る大きな出来事が起きました。米国 FDA は、…

有機蛍光とは異なる新しい有機りん光の分子設計指針の発見

第707回のスポットライトリサーチは、電気通信大学 情報理工学研究科(牧昌次郎研究室)の林希久也 助…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP