[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

キラルLewis酸触媒による“3員環経由4員環”合成

[スポンサーリンク]

キラルなルイス酸触媒を用いた新規シクロブタノン不斉合成法が開発された。高いジアステレオ/エナンチオ選択性でドミノシクロプロパン化/セミピナコール転位が進行する。

触媒的不斉シクロブタノン合成

シクロブタン誘導体は、医薬品及び天然物に頻出する骨格である。特にシクロブタノンは環ひずみを利用した開環及び環拡大反応により様々な化合物へ合成できる有用なビルディングブロックであり、近年この骨格の触媒的不斉合成法の開発がいくつか成されている。例えば、最近Dongらはコバルトを触媒とする分子内不斉ヒドロアシル化を用いたシクロブタノンの合成を報告した(1A)[1]。一方で、シクロプロパノール誘導体の触媒的セミピナコール転位によるシクロブタノン合成法がいくつか報告されている。Alexakisらはキラルリン酸(CPA)触媒存在下、アルケニルシクロプロパノールのセミピナコール転位によるβハロスピロシクロブタノン合成を開発している(1B)[2]。不斉遷移金属触媒を用いた例としてはTosteらが金を、Trostらがパラジウムを触媒としてアルケニルシクロプロパノールのセミピナコール転位をそれぞれ報告している(1C)[3]。また、酸、塩基、熱によるカルボニル部位に対するセミピナコール転位によるシクロブタノン合成も報告されているが、エナンチオ選択的な例はない(1D)[4]

 今回、Ryu教授らはLewis酸触媒にキラルオキサボロリジニウムイオン(COBI)を用いて、αシリルオキシアクロレインとジアゾエステルとの反応で、連続的にシクロプロパン化/セミピナコール転位を起こし、高ジアステレオ/エナンチオ選択的に隣接した2つの不斉中心をもつシクロブタノンの合成に成功したので紹介する(1E)

図1.触媒的不斉シクロブタノン合成

Asymmetric Synthesis of Cyclobutanone via Lewis Acid Catalyzed Tandem Cyclopropanation/Semipinacol Rearrangement

Shim, S. Y.; Choi, Y.; Ryu, D. H. J. Am. Chem. Soc.2018, 140, 11184−11188. DOI: 10.1021/jacs.8b06835

論文著者の紹介

研究者:Do Hyun Ryu

研究者の経歴:

1993-1997 Ph. D., Department of Chemistry, KAIST (Prof. Sung Ho Kang)
1997-2001 Associate Research Scientist, SK Chemicals, Life Science Institute
2000-2002 Postdoc Fellow, Harvard Medical School (Prof. Robert R. Rando)
2002-2005 Postdoc Fellow, Harvard University (Prof. E. J. Corey)
2005-2009Assistant Professor, Sungkyunkwan University
2009-2015Associate Professor, Sungkyunkwan University
2015- Professor, Sungkyunkwan University

研究内容:触媒開発、不斉反応開発、全合成研究、ケミカルバイオロジー

論文の概要

著者らはこれまでに、COBI触媒を用いた不飽和アルデヒドとジアゾエステルとの不斉シクロプロパン化を報告している[5]。今回、αシリルオキシアクロレインに対して同様の手法を用いて1-ホルミル-1-シリルオキシシクロプロパン1が生成すれば、連続的にセミピナコール転位が起こりシクロブタノン2が得られると考えた。実際に想定どおりに反応が進行し、広範なジアゾエステルが適用可能であった(2A)。ハロゲン、シアノなどの官能基をもつアリール基、アルキル基、嵩高いエステルをもつジアゾエステルを用いても、高収率、高ジアステレオ/エナンチオ選択的に反応が進行する。

 著者らは種々の対照実験の結果から、遷移状態4を経由してシクロブタノン2が生成する機構を提唱した(2B)。まず、COBI触媒が不飽和アルデヒドのカルボニル部位に配位することで面選択的にジアゾエステルの1,4-付加が起こり、続くシクロプロパン化によって4が生成する。さらにCOBI触媒によって活性化されているカルボニル部位に対してセミピナコール転位が起こり、シリル移動を経て目的のシクロブタノン2が得られる。

 以上、連続した不斉中心をもつ新たなシクロブタノン合成法が報告された。本手法は今後、様々な複雑化合物の有用な合成中間体としての応用が期待できる。

図2. (A)基質適用範囲、(B)遷移状態モデル

参考文献

  1. Kim, D. K.; Riedel, J.; Kim, R. S.; Dong, V. M. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 10208. DOI:10.1021/jacs.7b05327
  2. Romanov-Michailidis,F.;Gueńeé,L.;Alexakis, Angew. Chem., Int. Ed. 2013, 52, 9266. DOI: 10.1002/anie.201303527
  3. [a]Kleinbeck, F.; Toste, F. D. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 9178. DOI: 10.1021/ja904055z[b] Trost, B. M.; Yasukata, T.J. Am. Chem. Soc.2001, 123, 7162. DOI: 10.1021/ja010504c
  4. [a]Paukstelis, J. V.; Kao, J. L. JAm. Chem. Soc. 1972, 94, 4783. 10.1021/ja00768a086[b] Appendino, G.; Bertolino, A.; Minassi, A.; Annunziata, R.; Szallasi, A.; de Petrocellis, L.; Di Marzo, V. Eur.J. Org. Chem. 2004, 2004, 3413. DOI: 10.1002/ejoc.200400122
  5. Gao, L.; Hwang, G.-S.; Ryu, D. H. J. Am. Chem. Soc. 2011,133, 20708. DOI: 10.1021/ja209270e
山口 研究室

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 2012年Wolf化学賞はナノケミストリーのLieber博士,A…
  2. 2014年ケムステ記事ランキング
  3. 聖なる牛の尿から金を発見!(?)
  4. 化学研究ライフハック:情報収集の機会損失を減らす「Read It…
  5. 研究室クラウド設立のススメ(経緯編)
  6. NHCが触媒する不斉ヒドロフッ素化
  7. ペプチドの革新的合成
  8. 有機反応を俯瞰する ーMannich 型縮合反応

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 3級C-H結合選択的な触媒的不斉カルベン挿入反応
  2. 材料研究分野で挑戦、“ゆりかごから墓場まで”データフル活用の効果
  3. pH応答性硫化水素ドナー分子の開発
  4. 化学者のためのエレクトロニクス入門④ ~プリント基板業界で活躍する化学メーカー編~
  5. 研究室でDIY!~エバポ用真空制御装置をつくろう~ ④
  6. ケミストリ・ソングス【Part 2】
  7. 向山酸化 Mukaiyama Oxidation
  8. トップリス ツリー Topliss Tree
  9. Mgが実現する:芳香族アミンを使った鈴木―宮浦カップリング
  10. 第16回 結晶から結晶への化学変換 – Miguel Garcia-Garibay

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

注目情報

注目情報

最新記事

巧みに設計されたホウ素化合物と可視光からアルキルラジカルを発生させる

第268回のスポットライトリサーチは、金沢大学医薬保健研究域薬学系(大宮研究室)の佐藤 由季也(さと…

第111回―「予防・診断に有効なナノバイオセンサーと太陽電池の開発」Ted Sargent教授

第111回の海外化学者インタビューは、Ted Sargent教授です。トロント大学電気・計算機工学科…

アレノフィルを用いるアレーンオキシドとオキセピンの合成

脱芳香族化を伴う直接的な酸化により芳香族化合物からアレーンオキシドとオキセピンを合成する手法が開発さ…

ケムステニュース 化学企業のグローバル・トップ50が発表【2020年版】

It's no secret that the COVID-19 pandemic ha…

スポットライトリサーチムービー:動画であなたの研究を紹介します

5年前、ケムステ15周年の際に新たな試みとしてはじめたコンテンツ「スポットライトリサーチ」。…

第110回―「動的配座を制御する化学」Jonathan Clayden教授

第110回の海外化学者インタビューは、ジョナサン・クレイデン教授です。マンチェスター大学化学科(訳注…

化学研究で役に立つデータ解析入門:エクセルでも立派な解析ができるぞ編

化学分野でのAIを使った研究が多数報告されていてデータ解析は流行のトピックとなっていますが、専門外か…

高分子化学をふまえて「神経のような動きをする」電子素子をつくる

第267回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院工学研究科 バイオ工学専攻 三ツ石研究室 助教の…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP