[スポンサーリンク]

odos 有機反応データベース

ウィッティヒ反応 Wittig Reaction

[スポンサーリンク]

概要

正の形式電荷を持つヘテロ原子により隣接位のアニオンが安定化された化学種を、一般にイリド(ylide)と呼ぶ。リンイリド(phosphorous ylide)を用いてカルボニル化合物からアルケンを合成する反応をWittig反応という。

古典的なE2脱離条件によるオレフィン合成は、強酸/強塩基および高温加熱といった過激な条件が必要であり、位置選択性や二重結合異性化の問題が常に付随する。比して本法の利点は、カルボニル基が特異的にC=C結合へと変換される官能基選択性の高さ、および低温で進行しうる条件の穏和さにある。操作も簡単で、収率も良好であり、幾何異性も制御可能である。このため、カルボニルからアルケンを合成する手法のFirst Choiceとして現在でも多用されている。。

欠点は生成するホスフィンオキシドの除去が時に難しいことである。本法の改良法であるWittig-Horner法(トリフェニルホスフィンの代わりにホスファイトを用いる)、Horner-Wadsworth-Emmons反応では、ホスフィン副生物が高極性・水溶性のため、簡便に除去可能になっている。

電子求引性置換基によりカルボアニオンが安定化され、単離可能なタイプのリンイリドを安定イリドとよぶ。安定イリドとの反応からはE-オレフィンが生成する。一方、単離不可能な(水・空気で分解する)タイプのリンイリドを不安定イリドと呼ぶ。このものは、ホスホニウム塩を塩基で処理して用時調製する。不安定イリドとの反応ではZ-オレフィンが生成する。
wittig2.gif

反応性・試薬の塩基性・幾何異性制御等の問題もあり、四置換オレフィン合成への適用は通常難しい。

基本文献

<Schlosser Modification>
<Mechanism>
<review>

開発の経緯

Heidelberg大学のゲオルク・ウィッティヒ(Georg Wittig)によって開発された。有機リンを用いる有機合成化学への貢献が評価され、H.C.Brownとともに1979年のノーベル化学賞を受賞している。

Geoge Wittig (引用:nobelprize.org)

Georg Wittig (引用:nobelprize.org)

反応機構

まず、リンイリドがカルボニル化合物に付加し、ベタイン中間体もしくはオキサホスフェタン中間体を生じる。引き続きホスフィンオキシドが脱離してアルケンを与える。リン―酸素結合が強いことが、反応を進行させる駆動力となっている。オキサホスフェタン中間体については、配位子のデザインにより安定化されたものが単離・構造決定されている。一方でベタイン中間体については現在に至るまで確認されておらず、存在は推測の域を出ない。

安定イリドの場合には、カルボニル+リンイリド付加段階が可逆となる。熱力学的支配下にもっとも安定となるオキサホスフェタン中間体を経由し、反応が進行する。このためE-オレフィンが主生成物になる。

wittig5

不安定イリドの場合には試薬の反応性が高く、カルボニル+リンイリドの付加が不可逆的に進行する。このため速度論支配型の遷移状態を経てオキサホスフェタン中間体が生成する。具体的には、もっとも立体反発の少ない下図のような四員環遷移状態を経由する。引き続くホスフィンオキシドの脱離を経て、Z-オレフィンを与える。 リチウム塩などが系中に含まれるとZ-選択性は低下するので注意。

wittig6

 

反応例

リンイリドをアルデヒドに低温で付加させて生じる中間体を、PhLiなどの強塩基で処理すると、β-オキシドイリドが生成する。これは熱力学的に安定なthreo型に速やかに移行することが知られている。これを活用すれば、不安定イリドからE-オレフィンが合成できる(Schlosser変法)。β-オキシドイリドは様々な求電子剤とも反応するため、多官能基化も可能である。

wittig3
リンイリド試薬は通常エステルとは反応しないが、分子内反応は例外。エノールエーテル型生成物を与える。

wittig4
MOMClとPPh3から調製されるメトキシメチレントリフェニルホスフィンは、アルデヒド/ケトンの一炭素増炭剤として有用である。[1]

wittig7

ホスホラン化合物は還元されやすい特性を利用し、リンを触媒量に減じたWittig反応が近年開発された[2]。

wittig10

カルボニル化合物の代わりにスルホニルイミンを求電子剤とすれば、窒素置換基に応じてオレフィンの幾何異性が制御される[3]。

wittig9

実験手順

ケトンからexo-オレフィンへの変換[4]

wittig8
メチルトリフェニルホスホニウムブロミド(7.84 g, 21.6 mmol)を無水THF(10 mL)に懸濁し、-78℃に冷却してn-ブチルリチウム(20.7 mmol)を加える。反応混合物を0℃に昇温し、1時間撹拌。再び-78℃に冷却し、ケトン(6.3 g, 19.77 mmol)のTHF溶液(90 mL)をゆっくり加える。その後0℃で5時間撹拌。塩化アンモニウム水溶液を0℃で加えて、エーテルで目的物を抽出する。有機相をまとめて飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥。濾過後、溶媒を減圧留去して、残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィ(ヘキサン/酢酸エチル=10/1)で精製し、目的物を得る(5.25g、収率84%)。

※メチルトリフェニルホスホニウムブロミドはイオン性化合物であり、しばしば水を含んでいる。精密に行いたい場合は減圧乾燥して使う。

参考文献

  1. Levins, S. G. J. Am. Chem. Soc. 195880, 6150. DOI: 10.1021/ja01555a068
  2. (a) O’Brien, C. J.; Tellez, J. L.; Nixon, Z. S.; Kang, L. J.; Carter, A. L.; Kunkel, S. R.; Przeworski, K. C.; Chass, C. A. Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 48, 6836 DOI: 10.1002/anie.200902525 (b) O’Brien, C. J. et al. Chem. Eur. J. 2013, 19, 15281. DOI: 10.1002/chem.201301444
  3. Dong, D.-J. .; Li, H.-H. ; Tian, S.-K. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 5018. DOI: 10.1021/ja910238f
  4. White, J. D.; Wang, G.; Quaranta, L. Org. Lett. 2003, 5, 4983. DOI: 10.1021/ol035939e

関連反応

関連書籍

知っておきたい有機反応100 第2版

知っておきたい有機反応100 第2版

¥2,970(as of 11/11 11:52)
Amazon product information

関連リンク

関連記事

  1. チオール-エン反応 Thiol-ene Reaction
  2. ボイヤー・シュミット・オーブ転位 Boyer-Schmidt-A…
  3. ピロティ・ロビンソン ピロール合成 Piloty-Robinso…
  4. シュガフ脱離 Chugaev Elimination
  5. フィッツィンガー キノリン合成 Pfitzinger Quino…
  6. パーキン反応 Perkin Reaction
  7. 2-(トリメチルシリル)エトキシカルボニル保護基 Teoc Pr…
  8. ナザロフ環化 Nazarov Cyclization

注目情報

ピックアップ記事

  1. NHC (Bode触媒2) と酸共触媒を用いるα,β-不飽和アルデヒドとカルコンの[4+2]環化反応
  2. 電子ノートSignals Notebookを紹介します!④
  3. 有機反応を俯瞰する ー芳香族求電子置換反応 その 2
  4. 化学者のためのエレクトロニクス講座~配線技術の変遷編
  5. 矢沢科学よりロゴがついて販売復活!ガス用バルーン
  6. CV測定器を使ってみた
  7. 山東信介 Shinsuke Sando
  8. 溶媒の同位体効果 solvent isotope effect
  9. ルィセンコ騒動のはなし(後編)
  10. レスベラトロール /resveratrol

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年6月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

3つのラジカルを自由自在!アルケンのアリール–アルキル化反応

アルケンの位置選択的なアリール–アルキル化反応が報告された。ラジカルソーティングを用いた三種類のラジ…

【日産化学 26卒/Zoomウェビナー配信!】START your ChemiSTORY あなたの化学をさがす 研究職限定 キャリアマッチングLIVE

3日間で10領域の研究職社員がプレゼンテーション!日産化学の全研究領域を公開する、研…

ミトコンドリア内タンパク質を分解する標的タンパク質分解技術「mitoTPD」の開発

第 631 回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院 生命科学研究科 修士課程2…

永木愛一郎 Aiichiro Nagaki

永木愛一郎(1973年1月23日-)は、日本の化学者である。現在北海道大学大学院理学研究院化学部…

11/16(土)Zoom開催 【10:30~博士課程×女性のキャリア】 【14:00~富士フイルム・レゾナック 女子学生のためのセミナー】

化学系の就職活動を支援する『化学系学生のための就活』からのご案内です。11/16…

KISTEC教育講座『中間水コンセプトによるバイオ・医療材料開発』 ~水・生体環境下で優れた機能を発揮させるための材料・表面・デバイス設計~

 開講期間 令和6年12月10日(火)、11日(水)詳細・お申し込みはこちら2 コースの…

【太陽ホールディングス】新卒採用情報(2026卒)

■■求める人物像■■「大きな志と好奇心を持ちまだ見ぬ価値造像のために前進できる人…

産総研の研究室見学に行ってきました!~採用情報や研究の現場について~

こんにちは,熊葛です.先日,産総研 生命工学領域の開催する研究室見学に行ってきました!本記事では,産…

第47回ケムステVシンポ「マイクロフローケミストリー」を開催します!

第47回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!第47回ケムステVシンポジウムは、…

【味の素ファインテクノ】新卒採用情報(2026卒)

当社は入社時研修を経て、先輩指導のもと、実践(※)の場でご活躍いただきます。「いきなり実践で…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP