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スポットライトリサーチ

異なる“かたち”が共存するキメラ型超分子コポリマーを造る

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第245回のスポットライトリサーチは、北本 雄一 博士にお願いしました。

矢貝研究室では自己集積型超分子ポリマーを用いる多彩な化学を展開されており、過去にもスポットライトリサーチで取り上げております(参考:光刺激で超分子ポリマーのらせんを反転させる)。北本さんは、ベンゼン環1枚分の構造が異なっているモノマーを混合するだけで、峻別されたキメラ型超分子コポリマーが得られるという驚くべき現象を発見しました。本成果はNature Communications誌 原著論文・プレスリリースに公開されています。

“One-shot preparation of topologically chimeric nanofibers via a gradient supramolecular copolymerization”
Kitamoto, Y.; Pan, Z.; Prabhu, D. D.; Isobe, A.; Ohba, T.; Shimizu, N.; Takagi, H.; Haruki, R.; Adachi, S.-i.; Yagai, S. Nat. Commun. 2019, 10, 4578. doi:10.1038/s41467-019-12654-z

研究室を主宰されている矢貝史樹 教授から、北本さんについて以下のとおり人物評を頂いています。現在は東北大学・助教としてあらたなアカデミックキャリアを歩まれており、一層のご活躍が期待されます。加えて本成果は北本さん自身、特別に思い入れの強い仕事と言うことで、熱の籠もったインタビューとなっています。是非お楽しみ下さい!

今後の矢貝研究室への博士研究員の応募が減ってしまう覚悟で書きますが、北本さんのせいで、私の中でのPDの水準がとっても上がってしまった気がします。北本さんは本当に研究好きでめっちゃ優秀であることは当然ですが、グイグイと研究を前に進める力があり、誠実で人付き合いもうまく、あまり議論に時間が取れない私と学生との間に立って、うまく研究室を回してくれていました。元々は合成の研究室出身で、かつ企業では有機デバイス研究に携わったこともあるので、分子集合化学を学んだ今はもう最強なんじゃないですかね。これからどんな研究を展開してくれるか、楽しみです。特に気になるところはありませんが、西千葉(どこや)で私と一緒にラーメン食べ過ぎて、肥えてしもうたくらいですかね。いやほとんど気になりませんよ。北本さんがいてくれた1年半は、当研究室にとても実りの多い素晴らしい時間であったと言えます。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

生体ポリマーであるタンパク質は、アミノ酸どうしの共有結合からなる主鎖がαヘリックス(らせん)やβシート(直線)などの異なる二次構造を発現することで、高度な組織化構造や機能を示します。このタンパク質の例は、二次構造や物性、あるいは機能が異なるポリマーを一本の主鎖内に共存させることの重要性を示しており、異なるポリマーがつながったブロックコポリマーの開発は、新たな機能や物性をもたらす高分子材料開発の模範的なアプローチといえます。モノマー分子が非共有結合によって鎖状につながった超分子ポリマーは、重合時に化学反応を必要としないことから、多彩な機能性分子をモノマーに利用できる高分子材料ですが1、その多くが単純なひも状構造であり、一本の鎖内に異なる二次構造を発現することは極めて困難でした。
矢貝研究室では、超分子ポリマーに様々な「かたち」を造形する研究に取り組んでいます2。今回、らせん二次構造を形成するモノマー(Nap)と直線二次構造を形成するモノマー(Ant)を用いて(図1)、「加熱下にあるNapAntの混合モノマー溶液を冷やす」という極めてシンプルな手法により、一本の主鎖内にらせんと直線の二次構造が共存するキメラ型超分子コポリマーが形成することを見出しました(図1中央)。この二次構造の共存は、NapAntが直接集合するのではなく、まず水素結合によって環状に6量化した風車状の超分子モノマー(ロゼット)を形成し、このロゼットが積層するという仕組みをもたせていることで実現します。

図1:以前に開発したらせんを形成する超分子ポリマー(左)、今回開発したまっすぐに伸びた超分子ポリマー(右)、同じく今回開発したキメラ型超分子コポリマー(中央)

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

異なる二次構造を形成し、かつその二次構造の超分子ポリマーどうしが一本の超分子ポリマーとして存在できるという、一見矛盾した要件を両立させる点です。本研究のように、らせんと直線という大きく異なる二次構造を形成させるには、モノマーの分子構造も大幅に変更する必要があるように思えます。一方で、分子構造が違えば違うほど、分子は自己を認識しやすくなり、別々に集合したホモポリマーを与えてしまいます。これまでの研究で、Napのロゼットは積層しながら内在的曲率を生み出すことでらせん二次構造を形成することを見出していました(図1左)3。この研究を始めるにあたり、Antのロゼットは内在的曲率を生み出さず剛直な直線二次構造を与えることを見出しました(図1右)。このように、モノマー構造の違いは僅かながら大きく異なる二次構造を与える系に辿り着いたことが一つのポイントだったと思います。また、異なる性質を有する超分子ポリマーどうしを一本の主鎖内に共存させたことによって、何ができるようになるか、その実践例を示した点も思い入れがあります。キメラ型超分子コポリマーに紫外光を照射すると、Antのアントラセン部位が分子間で光二量化することで、剛直な直線二次構造が柔軟になり、フォールディングします(図2)。このように、キメラ型超分子コポリマーを作ったところで研究を終わらせるのではなく、その性質に踏み込んだことが研究のクオリティをあげる一つの要因になったと思います。

図2:紫外光照射によって高次の折りたたみ構造へと組織化したキメラ型超分子コポリマーのAFM像(上)とその模式図(下)

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

なぜ、混ぜてただ冷やすというシンプルな手法でキメラ型超分子コポリマーが得られるのか、そのメカニズムを解明することです。重合中に起こる事象を最終的に形成される構造のみから議論することは困難でしたので、重合プロセスを温度可変吸収・発光スペクトル測定などにより詳細に解析することで、糸口をつかんでいきました。その結果、「NapAntは自己・非自己を水素結合では認識できない一方で、π-π相互作用では自己・非自己を認識できる」という性質や、「自己・非自己の認識が熱力学的・速度論的重合条件に大きく依存する」ことがメカニズムに深く関与していることが分かりました(図3)。NapAntが離合集散している高温の溶液をゆっくり冷やす(0.1 ℃ min-1)と、会合度の高いAntのロゼットが先に重合し、さらに冷やすと、Napが自己を認識して重合し、らせん超分子ポリマーと直線超分子ポリマーが別々に形成します(図3上)。速く冷やした場合(1.0 ℃ min-1)も先にAntのロゼットが重合しますが、速度論的な重合条件のため、稀にAntのロゼットにNapが取り込まれたまま重合してしまいます(図3下)。言い換えると、AntのロゼットがNapを含んでいると気がつかず、騙されて集合するのです。さらに冷やすと、Napが取り込まれる割合が徐々に高くなり、次第に重合するモノマーはNapが主成分となり、結果的にキメラ型超分子コポリマーが形成されます。

図3:らせん超分子ポリマーと直線超分子ポリマーが別々に形成する仕組み(上)と、キメラ型超分子コポリマーが形成される仕組み(下)

また、これらのメカニズムに加えて、「2種類のモノマーを混ぜて冷やすだけで勝手に出来上がる」という合成手法を的確に表すワードについても考えました。従来、異なる超分子ポリマーを一本の主鎖内に共存させるためには、シード重合法4を用いる必要がありました。詳細は参考文献4を参照していただきたいのですが、先にモノマーAを集合させることで速度論的にトラップしたシードを調製し、そのフラスコにモノマーBを加えることでモノマーAのシード末端に集合・伸長し、超分子ブロックコポリマーが形成します。このシード重合法と比較して、我々が今回見出した重合法では、主鎖を形成する成分が濃度勾配を伴ってAntからNapに変化するという点が大きな特徴です。このような濃度勾配を伴う重合プロセスは、共有結合ポリマーの世界においては「グラジエント共重合」5と呼ばれていることから、本研究の重合法に「グラジエント超分子共重合」というワードを用いました。そして、もう一点の大きな特徴が、「ワンポット」ではなく「ワンショット」という点です。シード重合法は、第二成分のモノマーを後から加えることによって、一つのフラスコ内で超分子ブロックコポリマーを合成することから、「ワンポット」という表現が合致します。一方で、我々が見出した重合法では、「フラスコ内で二つのモノマーを一挙に混ぜ、冷やすだけで勝手に形成する」という点が大きな特徴であり、「ワンポット」ではその特徴を表現しきることは難しいといえます。ちなみに、「ワンショット」6というタイトルは、矢貝先生がアメリカでの学会で名古屋大学の上垣外 正己先生にアドバイスをもらって、投稿直前にタイトルを「ワンポット」から修正しました。
論文のタイトルは、読み手の目に真っ先に入る情報であり、論文の内容をよく反映しかつ目に留まることが望ましいことから、非常に悩んだ点でもありました。しかし、メカニズムの詳細な解明を元に、矢貝先生やラボメンバーとのディスカッション、そして学会などでいただけるアドバイスやディスカッションによってその壁を乗り越えることができたと思います。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

「工学」での化学という観点からは、社会に役立つモノづくりに挑戦していきたいと思います。そのためにも、大学研究者との共同研究だけでなく、企業研究者との共同研究を積極的に行っていきたいと思います。「基礎科学」での化学という観点からは、自分が本質的に重要だと信じることに対して、真摯な姿勢で新現象や新反応などの発見、そして方法論へと昇華できるような研究を進めたいと思います。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

研究をしていると、最初から思った通りの結果が得られることは少ないと思います。その時に、「自分が成し遂げるんだ」という強い意志や、「この結果はこういう見方ができるのではないか」という柔軟な考えなど、その人の心持ちや意志によって研究が動いてくれるのだと個人的には思います。同時に、そういう姿勢で取り組むことによって、化学が示してくれている新たな発見に辿り着けるのではないかと思います。そういった発見に出会うまでは、必ずといっていいほど大きな壁に直面します。それを乗り越えるには、指導教員の先生や共同研究者、ラボメンバーとのディスカッションも非常に重要です。自分の考えをまとめて相手に伝えることは、思っている以上に難しく、同時に、思っている以上に現状を打破する起爆剤になりえるからです。私自身、これからも様々な学生や研究者の方との出会いやディスカッションを大切に、化学を展開していく所存です。
最後になりますが、本研究を遂行する機会を与えてくださった矢貝教授、共同研究者である潘さん(積水化学工業に就職)とDeepak博士(Sanatana Dharma College, India)、測定のご協力をいただいた共同研究者の皆様、そしてこのように研究を紹介する機会を与えてくださったChem-Stationスタッフの方々に厚く御礼を申し上げ、本寄稿の結びとさせていただきます。

参考文献

  1. a) L. Brunsveld, B. J. B. Folmer, E. W. Meijer, R. P. Sijbesma, Chem. Rev. 2001, 101, 4071; b) T. F. A. de Greef, M. M. J. Smulders, M. Wolffs, A. P. H. J. Schenning, R. P. Sijbesma, E. W. Meijer, Chem. Rev. 2009, 109, 5687; T. Aida, E. W. Meijer, S. I. Stupp, Science 2012, 335, 813.
  2.  a) S. Yagai, Y. Goto, X. Lin, T. Karatsu, A. Kitamura, D. Kuzuhara, H. Yamada, Y. Kikkawa, A. Saeki, S. Seki, Angew. Chem. Int. Ed. 2012, 51, 6643; b) S. Yagai, Y. Kitamoto, S. Datta, B. Adhikari, Acc. Chem. Res. 2019, 52, 1325.
  3.  D. D. Prabhu, K. Aratsu, Y. Kitamoto, H. Ouchi, T. Ohba, M. J. Hollamby, N. Shimizu, H. Takagi, R. Haruki, S.-i. Adachi, S. Yagai, Sci. Adv. 2018, 4, eaat8466.
  4.  a) X. Wang, G. Guerin, H. Wang, Y. Wang, I. Manners, M. A. Winnik, Science 2007, 317, 644; b) W. Zhang, W. Jin, T. Fukushima, A. Saeki, S. Seki, T. Aida, Science 2011, 334, 340; c) S. Ogi, K. Sugiyasu, S. Manna, S. Samitsu, M. Takeuchi, Nat. Chem. 2014, 6, 188; d) S. H. Jung, D. Bochicchio, G. M. Pavan, M. Takeuchi, K. Sugiyasu, J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 10570.
  5. a) J.-S. Wang, D. Greszta, K. Matyjaszewski, Polym. Mater. Sci. Eng. 1995, 73, 416; b) K. Nakatani, T. Terashima, M. Sawamoto, J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 13600.
  6. a) T. Saegusa, Y. Chujo, K. Aoi, M. Miyamoto, Macromol. Chem., Macromol. Symp. 1990, 32, 1; b) T. Ariga, T. Takata, T. Endo, Macromolecules 1993, 26, 7106; c) K. Satoh, H. Hashimoto, S. Kumagai, H. Aoshima, M. Uchiyama, R. Ishibashi, Y. Fujiki, M, Kamigaito, Polym. Chem. 2017, 8, 5002.

研究者の略歴

名前:北本 雄一(きたもと ゆういち)
所属:東北大学大学院工学研究科バイオ工学専攻 生体分子化学講座 応用有機合成化学分野 服部研究室 助教
専門:超分子化学、有機ホウ素機能性材料など
略歴:
1986年 岩手県盛岡市生まれ
2014年3月 東北大学大学院工学研究科バイオ工学専攻 博士課程後期 修了(服部徹太郎教授)
2011年4月~2014年3月 東北大学国際高等研究教育機構(現・学際高等研究教育院) 博士研究教育院生
2014年4月~2017年3月 東北大学環境保全センターならびに未来科学技術共同研究センター 産学官連携研究員(大井秀一教授)
2017年4月~2017年9月 コニカミノルタ株式会社
2017年10月~2019年3月 千葉大学グローバルプロミネント研究基幹 分子集合体化学研究室 博士研究員(矢貝史樹教授)
2019年4月より現職

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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