[スポンサーリンク]

一般的な話題

化学者のためのエレクトロニクス講座~フォトレジスト編

[スポンサーリンク]

このシリーズでは、化学者のためのエレクトロニクス講座では半導体やその配線技術、フォトレジストやOLEDなど、エレクトロニクス産業で活躍する化学や材料のトピックスを詳しく掘り下げて紹介します。今回は、現代にいたるフォトレジストの歩みについて触れていきます。

Photoresist

フォトレジスト(画像:Wikipedia

初期のゴム系レジスト

フォトリソグラフィ技術の黎明は、1955年、ベル研究所のJules AndrusとWalter L. Bondによって開発されたものに遡ります。これは写真技術を応用したもので、写真用品で著名なEastman Kodak社のKPR(Kodak Photoresist)が使われました。KPRはゴム感光材を添加することで露光により架橋するもので、基板との密着性を優先させたものでした。しかしながら、フォトマスクがレジストと密着するコンタクト露光方式のため、マスクの解像度がレジストの解像度を規定してしまう点など、微細加工には限界がありました。

ゴム系ネガ型レジストの架橋反応(画像:Wikipedia

ポジ型フォトレジストの席巻

微細加工を行う上では、フォトマスクとレジスト表面とを非接触の状態で露光する投影露光方式に適し、より解像度の高いポジ型フォトレジストが有利です。しかしながら、ポジ型レジストは脆性が高く膜割れしやすいという欠点があり、米国企業のネガ型フォトレジストが主流となっていました。

東京応化工業はこうしたポジ型フォトレジストの改良に取り組み、その結果ノボラック樹脂を基盤とし、感光剤としてNQD(ナフトキノンジアジド)を用いたレジストを開発しました。

これは塩基性の現像液であるTMAH(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド)に不溶ですが、光によってカルベンが発生、ウルフ転位(Wolff rearrangement)と続く求核攻撃によってインデンカルボン酸を与え、可溶化する仕組みです。

ウルフ転位を利用した初期のポジ型レジスト(画像:Wikipedia

これによってg-line(436nm)や i-line(365nm)での縮小露光が可能となり、大いに微細化に貢献しました。とりわけi線分野では老舗の東京応化工業に加えて住友化学も大きくシェアを伸ばしました。しかしながら、ノボラック樹脂はより短波長の光を吸収してしまうため、この露光波長が解像度の限界でした。

光酸発生剤と化学増幅型レジスト

従来の水銀灯と比べて短波長の光源として、かねてよりエキシマレーザーの利用が脚光を浴びていました。KrFエキシマレーザー光(248nm)は先のノボラック樹脂に吸収されてしまうことから、水酸基を保護したポリヒドロキシスチレン(PHS樹脂へと変更、IBMの伊藤洋とC. G. Wilsonが開発した光酸発生剤を用いた酸触媒反応により脱保護を行うことで溶解性を変化させる手法が確立されました。このようなレジストは化学増幅型レジストと呼ばれます。

光酸発生剤としてはスルホニウム塩が、保護基としてはBocが広く利用され、露光するとフェノール性水酸基が露出して塩基に可溶となります。

この分野では東京応化工業に並び、信越化学工業も名乗りを上げるなど、多極化が進みました。

化学増幅型レジストの原理(画像:Wikipedia

エキシマレーザーと液浸の普及

その後、より短波長のArFエキシマレーザー(193nm)がもちいられるようになると、KrFレジストに用いられていたベンゼン骨格に二重結合をもつPHS樹脂はこれを吸収してしまうため、アクリル樹脂が利用されるようになります。この技術はJSR、富士通、日本電気(NEC)も開発に成功し、JSRが首位に躍り出るなど一層の多極化が進んでいます。

ArF対応レジストの一例(画像:Wikipedia

また、ArFでは、フォトマスクとレジストの間に水の層を作って露光する液浸が本格的に普及し、解像度の向上に寄与しました。

次世代EUVレジスト

微細化の要求は日に日に高まりを見せ、2020年現在では10 nm以下の解像度が求められるようになっています。その実現のため、極端紫外線EUV(13.5nm)の時代が幕を開けようとしています。この波長域はもはやX線に近く、ほとんどの物質が吸収してしまうために液浸はおろか、真空中での露光が必要となります。EUVレジストには従来通り光酸発生剤を起点とする方式のほか、露光によるベース樹脂の電離(イオン化を用いて励起するアプローチ[1]もあります。後者には、EUV光の吸収特性が良好な含フッ素樹脂の利用が嘱望されています。

様々な技術的困難を乗り越えたフォトリソグラフィ技術が今後どのような発展をたどるのか、楽しみですね。

参考文献

[1] 征矢野 晃雅, フォトレジスト材料における高分子材料技術, 日本ゴム協会誌, 2012, 85 巻, 2 号, p. 33-39, 公開日 2013/08/02, Print ISSN 0029-022X, doi:10.2324/gomu.85.33

関連リンク

東京応化工業 フォトレジストの歴史

日本半導体歴史館

戦後日本のイノベーション100選

関連書籍

[amazonjs asin=”4798053538″ locale=”JP” title=”図解入門 よくわかる半導体プロセスの基本と仕組み第3版”] [amazonjs asin=”4798030635″ locale=”JP” title=”図解入門よくわかる最新半導体リソグラフィの基本と仕組み (How‐nual Visual Guide Book)”] [amazonjs asin=”4864280371″ locale=”JP” title=”フォトレジスト材料の評価”]

 

gaming voltammetry

berg

投稿者の記事一覧

化学メーカー勤務。学生時代は有機をかじってました⌬
電気化学、表面処理、エレクトロニクスなど、勉強しながら執筆していく予定です

関連記事

  1. 光化学と私たちの生活そして未来技術へ
  2. 高分子材料におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用とは?
  3. 微生物細胞に優しいバイオマス溶媒 –カルボン酸系双性イオン液体の…
  4. 脱一酸化炭素を伴う分子間ラジカル連結反応とPd(0)触媒による8…
  5. IKCOC-15 ー今年の秋は京都で国際会議に参加しよう
  6. 「ヨーロッパで修士号と博士号を取得する」 ―ETH Zürich…
  7. ワンチップ顕微鏡AminoMEを買ってみました
  8. 非天然アミノ酸触媒による立体選択的環形成反応

注目情報

ピックアップ記事

  1. MEDCHEM NEWS 32-1号「機械学習とロボティックス特集」
  2. オーストラリア国境警備で大活躍の”あの”機器
  3. 相田 卓三 Takuzo Aida
  4. アレン・バード Allen J. Bard
  5. 実験条件検討・最適化特化サービス miHubのメジャーアップデートのご紹介 -実験点検討と試行錯誤プラットフォーム-
  6. 反応開発における顕著な功績を表彰する「鈴木章賞」が創設 ―北海道大学化学反応創成研究拠点(ICReDD)―
  7. 化学者のためのエレクトロニクス講座~無電解卑金属めっきの各論編~
  8. 2014年ノーベル化学賞・物理学賞解説講演会
  9. YMC「水素吸蔵合金キャニスター」:水素を安全・効率的に所有!
  10. カンプス キノリン合成 Camps Quinoline Synthesis

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年10月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

ミトコンドリア内タンパク質を分解する標的タンパク質分解技術「mitoTPD」の開発

第 631 回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院 生命科学研究科 修士課程2…

永木愛一郎 Aiichiro Nagaki

永木愛一郎(1973年1月23日-)は、日本の化学者である。現在北海道大学大学院理学研究院化学部…

11/16(土)Zoom開催 【10:30~博士課程×女性のキャリア】 【14:00~富士フイルム・レゾナック 女子学生のためのセミナー】

化学系の就職活動を支援する『化学系学生のための就活』からのご案内です。11/16…

KISTEC教育講座『中間水コンセプトによるバイオ・医療材料開発』 ~水・生体環境下で優れた機能を発揮させるための材料・表面・デバイス設計~

 開講期間 令和6年12月10日(火)、11日(水)詳細・お申し込みはこちら2 コースの…

【太陽ホールディングス】新卒採用情報(2026卒)

■■求める人物像■■「大きな志と好奇心を持ちまだ見ぬ価値造像のために前進できる人…

産総研の研究室見学に行ってきました!~採用情報や研究の現場について~

こんにちは,熊葛です.先日,産総研 生命工学領域の開催する研究室見学に行ってきました!本記事では,産…

第47回ケムステVシンポ「マイクロフローケミストリー」を開催します!

第47回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!第47回ケムステVシンポジウムは、…

【味の素ファインテクノ】新卒採用情報(2026卒)

当社は入社時研修を経て、先輩指導のもと、実践(※)の場でご活躍いただきます。「いきなり実践で…

MI-6 / エスマット共催ウェビナー:デジタルで製造業の生産性を劇的改善する方法

開催日:2024年11月6日 申込みはこちら開催概要デジタル時代において、イノベーション…

窒素原子の導入がスイッチング分子の新たな機能を切り拓く!?

第630回のスポットライトリサーチは、大阪公立大学大学院工学研究科(小畠研究室)博士後期課程3年の …

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP