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化学者のつぶやき

大阪大学インタラクティブ合宿セミナーに参加しました

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先日、京都の合宿所で大阪大学のあるプログラムの合宿に講師として呼ばれましたので参加してきました。あるプログラムとはインタラクティブ物質科学・カデットプログラム。現在日本学術振興会が先導して選抜された大学で行われている博士課程教育リーディングプログラムの1つです。今回は講師として研究者としてでなく、化学コミュニティーをウェブで展開しているChem-Staionの代表として呼ばれましてお話ししてきました。

ところで、リーディングプログラムとはなに?カデットプログラムとは?

と思われる方、いろいろ聞き慣れないものばかりだと思いますので、少しはじめに解説しながら今回の合宿セミナーの話をしたいとおもいます。

博士課程教育リーディングプログラムとは?

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平成23年度からはじまった日本学術振興会の事業です。内容はHPから抜粋すると、

「博士課程教育リーディングプログラム」は、優秀な学生を俯瞰力と独創力を備え広く産学官にわたりグローバルに活躍するリーダーへと導くため、国内外の第一級の教員・学生を結集し、産・学・官の参画を得つつ、専門分野の枠を超えて博士課程前期・後期一貫した世界に通用する質の保証された学位プログラムを構築・展開する大学院教育の抜本的改革を支援し、最高学府に相応しい大学院の形成を推進する事業です(引用:日本学術振興会HPより)

とあり、要するに、

博士をもったリーダー格となる人材を育てる

プログラムなんですね。その根幹となるキーワードは「グローバル」「産学官連携」「専門分野を超える」「博士課程一貫教育」といったものでしょうか。

各大学が特色のあるプログラムを申請し、秀逸なプログラムが採択されリーダー格となる博士を育てるために学生を「採用し」、これまでの博士課程教育に加えて様々な教育プログラムが提供されています。リーディング大学院プログラムでプログラムによる経験はもちろんプラスですが、現実的に学生に恩恵があるのが、お金。プログラムによって異なりますが、選抜されたメンバーは最高20万円/月、修士課程から得ることができます。これまでは博士課程から日本学術振興会特別研究員として選ばれた人だけがもらえる額と同じなのです。これなら完全に自立して生活もできるでしょう。

筆者の所属する名古屋大学でも4つ、理学研究科化学でも「グリーン自然科学国際教育研究プログラム」 が現在2年目で走っています。前回「近況報告 part IV」で記載しましたが、このプログラムで企画されている「スキルセミナー」という枠組みで、NIMSの広報チームリーダーの小林さんを講師としてお招きしました。

 

大阪大学 インタラクティブ物質科学・カデットプログラムとは?

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まずは内容をHPより抜粋。

大阪大学大学院基礎工学研究科(物質創成専攻、システム創成専攻)、理学研究科(物理学専攻、化学専攻、高分子科学専攻)、工学研究科(マテリアル生産科学専攻、精密科学・応用物理学専攻、応用化学専攻、生命先端工学専攻)が 参画・協働し、将来の物質科学研究・事業におけるイノベーションを牽引し、産・官・学で活躍できる人材を育成する博士教育課程プログラムです。

 

つまり、物理と化学の融合プログラムですね。様々な企画を通して、分野にまたがったリーダーを育成するのが目的です。特徴的なものは「特別科目」と呼ばれる以下の、付加カリュキュラム。

 

  1. 専門分野以外の物質科学を幅広く学ぶ為の「物性物理学入門(化学系学生向け)」「物質化学入門(物理系学生向け)」
  2. 3ヶ月間在籍する研究室を変えて研究活動に従事する「研究室ローテーション」
  3. 「物質科学英語1、2」
  4. 3ヶ月以上の留学による「物質科学海外研修1」
  5. 3ヶ月以上の国内の研究機関もしくは企業において指導教員の指導を直接受けずに(自立して)修業することを目的とした「物質科学国内研修1」など。

 

要するに、化学で考えれば物理の授業をとって、英語も頑張って、3ヶ月他の研究室に行き、3ヶ月留学をして、3ヶ月企業や他の大学に行って研究しなさいということ。なかなかハードなプログラムですね。これはプログラムに振り回されるひと、プログラムを率先して利用するひとで随分と差が出そうな気がします。前者だとおそらく参加することでプラマイゼロ、へたするとマイナスになります。後者ですと、こんな機会到底得られないものですので、大きな成長が見込めます。まさに、選ばれたメンバーから更に本当のリーダー格を厳選するプログラムであるといえます。

 

今回の合宿セミナー

さて、少し長くなりましたが、今回の合宿セミナーについてお話しましょう。今回の合宿セミナーは京都府立ゼミナールハウスで行われました。この合宿セミナーは上記の付加カリュキュラムとは別に、年1回、学生が主体となって、講演者も場所も内容もすべて計画する1泊2日の企画だそうです。

学生が呼びたい講演者を選ぶ。ここ、重要ポイントです。

多くの夏の学校、若手の会でもそうですが、学生に選ばれて「No!」という講演者はいません(少なくとも筆者はいいません)。今回も、「ケムステの内容を話してください!」という謎の申し出でしたが、快くお引き受けさせていただきました。が、しかし、化学の内容では結構お話させていただいていますが、ケムステの内容で1時間話すのははじめてだったので、快諾した反面全く用意せず、前日の夜中に必死に徹夜で作成しました(最近毎回そうですが)。もう一人、招待講演者が呼ばれていまして、物理系で「スーパー准教授」と呼ばれている東京大学の加藤雄一郎さん。米国UCサンタバーバラ大学でPh.Dを取得しており、その経験を話していました。学生時代の業績が確かにスーパーでとっても参考になりました。

 

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会場と講演の様子

ちょっと早口になりましたが、筆者のお話も無事?終わり、続いては学生の口頭発表。招待講演の他に、学生の口頭発表が6件ありました。正直な話、難しそうな内容だったのでどうしたものかなと思っていましたが、さすが、選抜されたプログラム生。素晴らしいプレゼンテーションで分野外の人にもわかる内容で丁寧にしゃべっていました。講演会後、皆で夕食。外でバーベーキュー。その後、ポスター発表を2回に分けて聞きまして、物理や異分野三昧。感じたのはかなり積極的にプログラム生が交流、議論しようと試みているところ。これは刺激になりますね。その後、2時過ぎまで部屋飲みしまして、就寝しました。

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ポスター発表の様子

次の日は、朝食の後、京都の両足院にて座禅体験、その後サントリー研究所に見学と研究者とのディスカッションにいったようで盛りだくさんの内容であったようです。「ようです」というのも、残念ながら筆者は途中で用事があったので失礼させていただきましたが(写真をもらったのでその様子のみ掲載します)、お世辞抜きで科学とそれ以外で交流議論する場がうまい具合に混ざっている素晴らしい会だなと思いました。

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座禅体験、サントリー研究所でのディスカッションの様子

最後に

一言でいうと、「異分野でとってもかけがえのない関係が結べそうなプログラムであること」です。ただし、気をつけなければならないことは上記にも述べましたが、君たちの貴重な時間を費やしていることです。例えば、1つのことに集中すれば10得られるところが10個のことをやると1ずつしか得られません。なんでもできるひと、知っている人がよいわけではないのです。

様々なことにチャレンジすることは言うまでもなく重要な事ですが、自分自身で他には負けないコアとなる分野を磨き広げるために得られた知識も関係も「利用する」ことです。つまりは、参加したら受け身でなくガツガツと全力で取り組んでほしい、得たものを1ではなくて、すべて自分の(現在だけでなく将来の)研究やキャリアにフィードバックし10以上に変えてほしいわけです。それが出来る人だけが本当のリーダーになれるのではと思います。言うは易し行うは難しですね。どうやら、2期生の募集が現在行われているようです。現在、また将来のプログラム生の皆さんぜひぜひ頑張って欲しいと思います。

最後に、今回の合宿の実行委員長のの田中雄大さん、また、座長の宮野哲也さんをはじめ、出会ってお話した学生さん、引率の先生方に感謝申し上げます。とーっても楽しかったです。このようなプログラム今後も増えていくと思いますので、融合分野のプログラムで講演者を困っている方、呼ばれればどこへでも出張しますよ!

 

P.S. 今回、さらに嬉しい事ながらケムステスタッフ候補生を1人ゲットすることができました。学生も多く活躍していますのでケムステスタッフになりたいという方、いつでも募集していますのでぜひぜひご連絡を!→ 「ケムステスタッフになりませんか?

 

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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