[スポンサーリンク]

世界の化学者データベース

セス・B・ハーゾン Seth B. Herzon

[スポンサーリンク]

セス・B・ハーゾン(Seth. B. Herzon、1979年7月26日–)は米国の有機化学者である。米国イェール大学教授。

経歴

2002 テンプル大学卒業
2006 ハーバード大学 博士号取得 (Andrew G. Myers 教授)
2006–2008 イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校 博士研究員 (John F. Hartwig 教授)
2008–2012 イェール大学 助教授
2012–2013 イェール大学 准教授
2013–イェール大学教授

受賞歴

2002 The F. Albert Cotton and Al Tulinsky Prize
2003 Harvard University Certificate of Distinction in Teaching
2008 Lilly New Faculty Award
2010 Searle Scholar Award
2010 American Cancer Society Research Scholar Award
2011 Synthesis/Synlett Journal Award
2012 NSF CAREER Award
2012 Alfred P. Sloan Fellowship
2012 Cottrell Scholar Award of the Research Corporation for Scientific Advancement
2012 Camille Dreyfus Teacher-Scholar Award
2012 Boehringer Ingelheim Pharmaceuticals Creative Synthetic Organic Chemistry Award
2013 Amgen Young Investigator Award
2013 Eli Lilly Grantee Award
2014 Arthur C. Cope Scholar Award
2015 Natural Products Reports Emerging Investigator Lectureship
2016 Novartis Chemistry Lectureship
2018–2019 Defense Science Study Group, Sponsored by the Institute for Defense Analyses
2018 Elias J. Corey Award for Outstanding Original Contribution in Organic Synthesis by a Young Investigator
2018 Tetrahedron Young Investigator Award (Organic Synthesis)

研究概要

天然物の全合成研究

2008年の研究室立ち上げ以来、1)遺伝毒性をもつ天然物、2)ヒト腸内細菌叢の代謝産物、3)抗生物質・医薬品候補の開発および合成研究に焦点を当てている。また、1)に関しては生体内のメカニズム解明にも注力している。

1) 遺伝毒性をもつ天然物

ユニークなジアゾフルオレン骨格の大量合成法を確立し、lomaiviticin類のアグリコンおよびkinamycin Fの全合成研究に適用した[1]。また、一連の研究を通じ新たにlomaiviticin C–Eの単離も報告した[2]。また、単離したlomaiviticin Cの化学変換により、これまで明らかでなかったlomaiviticin Aグリコン部位の絶対立体配置を決定することにも成功した。Lomaiviticin AのDNA損傷作用の機構解明研究にも力を入れており、lomaiviticin Aのもつジアゾフルオレン部位からアルケニルラジカル種が生成し、それがDNA二本鎖を切断することを初めて明らかにした[3]


2) ヒト腸内細菌叢の代謝産物

大腸がんの原因物質とされるcolibactinは、大腸菌から生産される二次代謝産物であり、遺伝毒性をもつ。しかし、colibactinは菌の培養・抽出による単離が困難であることからその分子構造が明らかではなく、大腸がんの研究においてcolibactinの構造解明は多くの科学者の研究対象となっていた。Herzonらもイェール大学のCrawford准教授との共同研究により、10年間以上不明であったcolibactinの構造決定を目指して研究を行っている。生合成遺伝子クラスター解析に基づく特定遺伝子変異体を用いる生物学的手法、大腸菌の代謝産物のMS/MS解析、そして有機合成化学の融合研究により、2019年にcolibactinの構造決定に至った[4]


3) 抗生物質・医薬品候補

アセチルコリンエステラーゼ阻害剤である(–)-huperzine Aの効率的な合成ルートを開発した[5]。既知化合物である(R)-4-メチルシクロヘキサ-2-エン-1-オン(1)からわずか8工程、総収率35–45%でエナンチオ選択的な合成が可能となった。本合成ルートは、わずか3回のカラムクロマトグラフィー精製で済み、効率的にグラムスケールで(–)-huperuzine Aを供給できる。また、新規抗生物質として期待されるpleuromutilin類の短工程合成も達成している(詳細:ケムステ記事[6]。従来の直線的合成戦略とは異なり、合成終盤で二つのユニットを連結する収束的手法を用いた点が特徴的である。


三環式プロパラン骨格をもつhasubananおよびacutumineアルカロイドの網羅的全合成を報告している[7]。3工程で得られる2を共通中間体とすることで、2から5–9工程で10種類のhasubananアルカロイドの合成に成功した。2種のacutumineアルカロイドも2から合成できることを報告した。


不飽和炭素炭素結合のヒドロ官能基化 

室温条件で末端アルキンから逆マルコフニコフ型水和反応および還元型水和反応を進行させるための新規ルテニウム触媒3および4を開発した(関連記事:海外研究記[8]。触媒3を用いれば末端アルキンの逆マルコフニコフ型水和が進行しアルデヒドが得られる。また、触媒4とギ酸を併用することで還元型の水和が進行し、一級アルコールが温和な条件で合成できる。この触媒4シグマアルドリッチより市販化に成功している。なお、この還元型水和反応は、抗ウイルス活性をもつグアニジンアルカロイド(+)-batzelladine Bの全合成に利用されている[9]

ハロアルケンの水素化は脱ハロゲン化体の副生が問題となることが多い。その問題を解決するために、水素原子移動(HAT)経路で進行するハロアルケンの水素化を開発した[10]。本反応はアルキルラジカル中間体を経由する。このラジカル中間体の安定性から着想を得て、その後本手法を用いれば多置換オレフィン選択的な水素化ができることを見出した。さらに、生成するラジカル中間体を種々のラジカル捕捉剤と反応させることで、種々の位置選択的ヒドロ官能基化の開発へと展開した[11]。例えば、捕捉剤としてTsBrを用いればヒドロブロモ化が、ピリジニウム塩5を用いればオレフィンのヒドロアリール化が進行する。

コメント&その他

  • 博士課程時代にMyers研でStephacidin Bの全合成を達成し、注目を集めた(ケムステ記事)[12]。また、ポスドクとして在籍したHartwig研では、タンタル触媒を用いたヒドロアミノアルキル化反応を開発した[13]
  • 配偶者は米国イェール大学のアリソン・M・スウィーニー准教授である[14]。専門分野は進化生物学。
  • 日本が大好きで、日本酒を差し入れすると喜ぶ。(海外研究記より)

関連文献

  1. (a) Woo, M.; Lu, L.; Gholap, S. L.; Smith, D. R.; Herzon, S. B. Development of a Convergent Entry to the Diazofluorene Antitumor Antibiotics: Enantioselective Synthesis of Kinamycin F. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 2540–2541. DOI: 10.1021/ja910769j (b) Herzon, S. B.; Lu, L.; Woo, C. M.; Gholap, S. L. 11-Step Enantioselective Synthesis of (–)-Lomaiviticin Aglycon. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 7260–7263. DOI: 10.1021/ja200034b
  2. Woo, C. M.; Beizer, N. E.; Janso, J. E.; Herzon, S. B. Isolation of Lomaiviticins C–E, Transformation of Lomaiviticin C to Lomaiviticin A, Complete Structure Elucidation of Lomaiviticin A, and Structure-Activity Analyses J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 15285–15288. DOI: 10.1021/ja3074984
  3. Colis, C.; Woo, C. M.; Hegan, D. C.; Li, Z.; Glazer, P. M.; Herzon, S. B. The Cytotoxicity of (–)-Lomaiviticin A Arises from Induction of Double-Strand Breaks in DNA. Nat. Chem. 2014, 6, 504–510. DOI: 10.1038/nchem.1944
  4. Xue, M.; Kim, C. S.; Healy, A. R.; Wernke, K. M.; Wang, Z.; Frischling, M. C.; Shine, E. E.; Wang, W.; Herzon, S. B.; Crawford, J. M. Structure Elucidation of Colibactin and Its DNA Cross-Links. Science 2019, 365, eaax2685. DOI: 1126/science.aax2685
  5. Tun, M. K. M.; Wüstmann, D.-J.; Herzon, S. B. A Robust and Scalable Synthesis of the Potent Neuroprotective Agent (–)-Huperzine A. Chem. Sci.2011, 2, 2251–2253. DOI: 10.1039/c1sc00455g
  6. (a) Murphy, S. K.; Zeng, M.; Herzon, S. B. A Modular and Enantioselective Synthesis of the Pleuromutilin Antibiotics. Science 2017, 356, 956–959. DOI: 1126/science.aan0003 (b) Zeng, M.; Murphy, S. K.; Herzon, S. B. Development of a Modular Synthetic Route to (+)-Pleuromutilin, (+)-12-epi-Mutilins, and Related Structures. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 16377–16388. DOI: 10.1021/jacs.7b09869
  7. (a) Herzon, S. B.; Calandra, N. A.; King, S. M. Efficient Entry to the Hasubanan Alkaloids: First Enantioselective Total Syntheses of (–)-Hasubanonine, (–)-Runanine, (–)-Delavayine, and (+)-Periglaucine B. Angew. Chem., Int. Ed. 2011, 50, 8863–8866. DOI: 10.1002/anie.201102226 (b) Calandra, N. A.; King, S. M.; Herzon, S. B. Development of Enantioselective Synthetic Routes to the Hasubanan and Acutumine Alkaloids. J. Org. Chem. 2013, 78, 10031–10057. DOI: 10.1021/jo401889b
  8. (a) Li, L.; Zeng, M.; Herzon, S. B. Broad-Spectrum Catalysts for the Ambient Temperature Anti-Markovnikov Hydration of Alkynes. Angew. Chem., Int. Ed. 2014, 53, 7892–7895. DOI: 10.1002/anie.201404320 (b) Zeng, M.; Li, L.; Herzon, S. B. A Highly Active and Air-Stable Ruthenium Complex for the Ambient Temperature Anti-Markovnikov Reductive Hydration of Terminal Alkynes. J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 7058–7067. DOI: 10.1021/ja501738a
  9. Parr, B. T.; Economou, C.; Herzon, S. B. A Concise Synthesis of (+)-Batzelladine B from Simple Pyrrole-Based Starting Materials. Nature 2015, 525, 507–510. DOI: 1038/nature14902
  10. King, S. M.; Ma, X.; Herzon, S. B. A Method for the Selective Hydrogenation of Alkenyl Halides to Alkyl Halides. J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 6884–6887. DOI: 10.1021/ja502885c
  11. (a) Ma, X.; Herzon, S. B. Non-Classical Selectivities in the Reduction of Alkenes by Cobalt-Mediated Hydrogen Atom Transfer. Chem. Sci. 2015, 6, 6250–6255. DOI: 10.1039/c5sc02476e (b) Ma, X.; Herzon, S. B. Intermolecular Hydropyridylation of Unactivated Alkenes. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 8718–8721. DOI: 10.1021/jacs.6b05271
  12. Herzon, S. B.; Myers, A. G. Enantioselective Synthesis of Stephacidin B. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 5342–5344. DOI: 10.1021/ja0510616
  13. Herzon, S. B.; Hartwig, J. F. Direct, Catalytic Hydroaminoalkylation of Unactivated Olefins with N-Alkyl Arylamines. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 6690–6691. DOI: 10.1021/ja0718366
  14. 履歴書より

関連リンク

Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 生越 友樹 Tomoki Ogoshi
  2. アミール・ホベイダ Amir H. Hoveyda
  3. 伊丹健一郎 Kenichiro Itami
  4. エリック・アレクサニアン Eric J. Alexanian
  5. リチャード・ヘンダーソン Richard Henderson 
  6. クリストファー・ウォルシュ Christopher Walsh
  7. イリヤ・プリゴジン Ilya Prigogine
  8. 宮坂 力 Tsutomu Miyasaka

注目情報

ピックアップ記事

  1. カリカリベーコンはどうして美味しいにおいなの?
  2. howeverの使い方
  3. 有機合成化学協会誌2025年11月号:英文特集号
  4. ワールドクラスの日本人化学者が語る研究物語―『化学者たちの感動の瞬間』
  5. 【スポットライトリサーチ】汎用金属粉を使ってアンモニアが合成できたはなし
  6. 深共晶溶媒 Deep Eutectic Solvent
  7. ALSの新薬「ラジカット」試してます
  8. トレハロースが癒着防止 手術に有効、東大など発表
  9. 村井 眞二 Shinji Murai
  10. 企業研究者のためのMI入門②:Pythonを学ぶ上でのポイントとおすすめの参考書ご紹介

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年2月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
242526272829  

注目情報

最新記事

CIPイノベーション共創プログラム「有機電解合成の今:最新技術動向と化学品製造への応用の可能性」

日本化学会第106春季年会(2026)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「有機電解合…

CIPイノベーション共創プログラム「世界を変えるバイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第106春季年会(2026)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「世界を変え…

年会特別企画「XAFSと化学:錯体, 触媒からリュウグウまで –放射光ことはじめ」

放射光施設を利用したX線吸収分光法(XAFS)は、物質の電子状態や局所構造を元素選択的に明らかにでき…

超公聴会 2026 で発表します!!【YouTube 配信】

超公聴会は、今年度博士号を取得する大学院生が公聴会の内容を持ち寄ってオンライン上で発表する会です。主…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part II

さて、Part Iに引き続きPart II!年会をさらに盛り上げる企画として、2011年より…

凍結乾燥の常識を覆す!マイクロ波導入による乾燥時間短縮と効率化

「凍結乾燥は時間がかかるもの」と諦めていませんか?医薬品や食品、新素材開発において、品質を維…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part I

まだ寒い日が続いておりますが、あっという間に3月になりました。今年も日本化学会春季年会の季節です。…

アムホテリシンBのはなし 70年前に開発された奇跡の抗真菌薬

Tshozoです。以前から自身の体調不良を記事にしているのですが、昨今流行りのAIには産み出せな…

反応操作をしなくても、化合物は変化する【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか温度を測ること…

ジチオカーバメートラジカル触媒のデザイン〜三重項ビラジカルの新たな触媒機能を発見〜

第698回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院工学研究科(大井研究室)博士後期課程1年の川口…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP