[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

エナンチオ選択的α-アルキル-γ-ラクタム合成

[スポンサーリンク]

ニッケル触媒反応によるエナンチオ選択的a-アルキルg-ラクタム合成法が開発された。新奇配位子Quinimを用いることで高いエナンチオ選択性で種々のαアルキルラクタムを与える。

α-アルキルピロリドンの不斉合成

γ-ラクタムは、天然物や医薬分子に頻出する骨格である[1]。その中でもキラルなα-アルキルピロリドン構造をもつ化合物は優れた生物活性を示すため、不斉合成法が種々報告されている [2]

先駆的な例として、1998年に古賀らは化学量論量のキラル塩基を用いたピロリドンのエナンチオ選択的α-アルキル化を報告した。しかし、副反応として過アルキル化やエピメリ化が進行する(図1A)[3]。現在頻用されているのは、多段階反応であるものの、Evans不斉補助基を用いたアルキル化により不斉中心を導入し、α-アルキルピロリドン構造へ誘導する方法である(図1B)[4]

一方、近年では不斉触媒を用いた手法がいくつか知られている。例えば、ZhangおよびDingらはエナミドの不斉水素化によるa-ベンジルピロリドンの不斉合成を報告した。また、Cramerらはアルケンのエナンチオ選択的な分子内ヒドロカルバモイル化によってa-メチルピロリドンの不斉合成を達成した(図1C,D)[5][6]。しかし、いずれの手法もアルキル部位に関して基質適用範囲が限定的であった[7]

今回、華東理工大学のQuとChenらは、ニッケル触媒を用いたアルケンをもつ塩化カルバモイルの分子内環化、続くヨウ化アルキルとの還元的クロスカップリング反応を開発した(図1E)。本反応は、独自に開発した不斉二座配位子Quinimを用いるとエナンチオ選択性が向上し、キラルなa-アルキルピロリドンを効率よく合成できる。

図1. (A) 古賀らの合成法 (B) Evans不斉補助基を用いる合成法 (C) Zhang、Dingらの合成法 (D) Cramerらの合成法 (E) 今回の合成法

 

Quinim: A New Ligand Scaffold Enables Nickel-Catalyzed Enantioselective Synthesis of a-Alkylated g-Lactam

Wu, X.; Qu, J.; Chen, Y. J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 15654–15660.

DOI: 10.1021/jacs.0c07126

論文著者の紹介

研究者:Jingping Qu


研究者の経歴:

–1983 B.S., Dalian University of Technology, China
1986–1988 M.S., Dalian University of Technology, China
1989–1991 Researcher, Showa Denko K. K., Japan
1991–1993 Lecturer, School of Chemical Engineering, Dalian University of Technology, China
1993–1996 Ph.D., The University of Tokyo, Japan (Prof. Masanobu Hidai)
1996–1997 Postdoc, The University of Tokyo, Japan (Prof. Masanobu Hidai)
1997–2003 Senior Researcher, Mitsubishi Chemical Corporation, Japan
2003–2004 Project Manager, Mitsubishi Chemical Corporation, Japan
2004–2011 Professor, School of Chemical Engineering, Dalian University of Technology, China
2011–2015 Vice President, Dalian University of Technology, China
2015– President, East China University of Science and Technology

研究内容:有機金属化学、生物無機化学

研究者:Yifeng Chen


研究者の経歴:

–2007 B.S., Soochow University, China (Prof. Jianping Zou)
2007–2012 Ph.D., Shanghai Institute of Organic Chemistry, China (Prof. Yuanhong Liu)
2012–2013 Research Associate, Shanghai Institute of Organic Chemistry, China (Prof. Yuanhong Liu)
2013–2014 Postdoc, Massachusetts Institute of Technology, USA (Prof. Stephen L. Buchwald)
2014–2017 Postdoc, Yale University, USA (Prof. Timothy R. Newhouse)
2017– Professor, School of Chemistry and Molecular Engineering, East China University of Science and Technology, China

研究内容:遷移金属触媒を用いた反応開発

論文の概要

著者らは、Ni(ClO4)2·6H2O触媒存在下、NMP溶媒中塩化カルバモイル1aに対しヨウ化ヘプタン(2a)およびマンガン、臭化リチウムを添加し、反応条件を検討した(図2A)。配位子は8-Quinox(L1)を用いたところ、中程度の収率でα-アルキル-γ-ラクタム3aを与えた。一方で、L1t-ブチル基をi-プロピル基にしたL2を用いると収率およびエナンチオ選択性が低下した。また、ピリジンとオキサゾリンがジメチルメチレンで架橋されたL3では反応が進行しなかった。これより、オキサゾリン部位のt-ブチル基およびキノリン部位が本反応では重要であることがわかった。L1のオキサゾリン部位をN-フェニルイミダゾリンに変更したQuinim(L4)を用いたところ、高エナンチオ選択的に3aが得られた。なお、L4のフェニル基C4位に電子供与基をもつL5や電子求引基をもつL6では収率およびエナンチオ選択性が向上しなかったことから、L4を最適配位子とした。さらなる検討の結果、触媒をNi(cod)2、溶媒をDMFにすることで、高収率かつ高エナンチオ選択的に3aを得た。

次に、基質適用範囲を調査した。本反応は2aの他に、ハロゲンや保護アルコール、エステル、ボロン酸エステルをもつヨウ化アルキルに適用可能である(3b3e; 図2B)。塩化カルバモイルの窒素上の置換基はベンジル基に限らず、種々のアリール基でも反応は進行する(3f3i)。また、本反応はアリール基をもたないエステルにも適用可能だった(3j)。

機構解明研究より、本反応のエナンチオ選択性はカルバモイルニッケル中間体が分子内のアルケンに挿入する段階で発現することがわかった。これより、著者らは本反応の推定反応機構を提唱した(図2C)。まず、1のC–Cl結合がニッケル触媒に酸化的付加し、カルバモイルニッケル中間体IM1を形成した後、分子内アルケンの挿入反応でIM2が生成する。マンガンによって還元されIM3となり、酸化されたIM42がSETで反応することで、IM5となる。続く還元的脱離により、3が得られる。

図2. (A) 条件検討 (B) 基質適用範囲 (C) 推定反応機構

 

以上、エナンチオ選択的α-アルキル-γ-ラクタムの合成法が開発された。高いエナンチオ選択性および広い基質適用範囲が本反応の魅力であり、全合成などへの応用が期待される。

参考文献

  1. (a) Ye, L.-W.; Shu, C.; Gagosz, F. Recent Progress Towards Transition Metal-Catalyzed Aynthesis of g-Lactams. Org. Biomol. Chem. 2014, 12, 1833–1845. DOI: 10.1039/C3OB42181C (b) Pandey, G.; Mishra, A.; Khamrai, J. Generation of All Carbon Quaternary Stereocenters at the C-3 Carbon of Piperidinones and Pyrrolidinones and Its Application in Natural Product Total Synthesis. Tetrahedron 2018, 74, 4903–4915. DOI: 10.1016/j.tet.2018.05.004
  2. Caruano, J.; Muccioli, G. G.; Robiette, R. Biologically Active g-Lactams: Synthesis and Natural Sources. Org. Biomol. Chem. 2016, 14, 10134–10156. DOI: 10.1039/C6OB01349J
  3. Matsuo, J.; Kobayashi, S.; Koga, K. Enantioselective Alkylation of Lactams and Lactones via Lithium Enolate Formation Using a Chiral Tetradentate Lithium Amide in the Presence of Lithium Bromide. Tetrahedron Lett. 1998, 39, 9723–9726. DOI: 1016/S0040-4039(98)02235-7
  4. a) Dragovich, P. S.; Prins, T. J.; Zhou, R.; Webber, S. E.; Marakovits, J. T.; Fuhrman, S. A.; Patick, A. K.; Matthews, D. A.; Lee, C. A.; Ford, C. E.; Burke, B. J.; Rejto, P. A.; Hendrickson, T. F.; Tuntland, T.; Brown, E. L.; Meador, J. W., III; Ferre, R. A.; Harr, J. E.; Kosa, M. B.; Worland, S. T. S. Structure-Based Design, Synthesis, and Biological Evaluation of Irreversible Human Rhinovirus 3C Protease Inhibitors. 4. Incorporation of P1 Lactam Moieties as L-Glutamine Replacements. J. Med. Chem. 1999, 42, 1213–1224. DOI: 10.1021/jm9805384 (b) Boy, K. M.; Guernon, J. M.; Shi, J.; Toyn, J. H.; Meredith, J. E.; Barten, D. M.; Burton, C. R.; Albright, C. F.; Marcinkeviciene, J.; Good, A. C.; Tebben, A. J.; Muckelbauer, J. K.; Camac, D. M.; Lentz, K. A.; Bronson, J. J.; Olson, R. E.; Macor, J. E.; Thompson, L. A. Monosubstituted g-Lactam and Conformationally Constrained 1,3-Diaminopropan-2-ol Transition-State Isostere Inhibitors of b-Secretase (BACE). Bioorg. Med. Chem. Lett. 2011, 21, 6916–6924. DOI: 10.1016/j.bmcl.2011.06.109
  5. (a) Liu, X.; Gridnev, I. D.; Zhang, W. Mechanism of the Asymmetric Hydrogenation of Exocyclic a,b-Unsaturated Carbonyl Compounds with an Iridium/BiphPhox Catalyst: NMR and DFT Studies. Agnew. Chem., Int. Ed. 2014, 53, 1901–1905. DOI: 10.1002/anie.201309677 (b) Liu, X.; Han, Z.; Wang, Z.; Ding, K. SpinPhox/Iridium(I)-Catalyzed Asymmetric Hydrogenation of Cyclic a-Alkylidene Carbonyl Compounds. Angew. Chem., Int. Ed.2014, 53, 1978–1982. DOI: 10.1002/anie.201309521
  6. Donets, P. A.; Cramer, N. Diaminophosphine Oxide Ligand Enabled Asymmetric Nickel-Catalyzed Hydrocarbamoylations of Alkenes. J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 11772–11775. DOI: 10.1021/ja406730t
  7. 脱炭酸型不斉a-アリル化によりピロリドンのa位に不斉4級炭素を構築する方法はある。Behenna, D. C.; Liu, Y.; Yurino, T.; Kim, J.; White, D. E.; Virgil, S. C.; Stoltz, B. M. Enantioselective Construction of Quaternary N-Heterocycles by Palladium-Catalysed Decarboxylative Allylic Alkylation of Lactams. Nat. Chem. 2012, 4, 130–133. DOI: 10.1021/jacs.7b04086

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 博士課程学生の奨学金情報
  2. その置換基、パラジウムと交換しませんか?
  3. エーテル分子はすみっこがお好き?-電場・磁場・光でナノ空間におけ…
  4. 変幻自在にジアゼンへ!アミンを用いたクロスカップリングの開発
  5. 文具に凝るといふことを化学者もしてみむとてするなり⑳ドッキングス…
  6. MOF の実用化のはなし【京大発のスタートアップ Atomis …
  7. 2017年(第33回)日本国際賞受賞者 講演会
  8. 光照射下に繰り返し運動をおこなう分子集合体

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 令和3年度に登録された未来技術遺産が発表 ~フィッシャー・トロプシュ法や記憶媒体に関する資料が登録~
  2. 専門家要らず?AIによる圧倒的高速なスペクトル解釈
  3. 中国へ行ってきました 西安・上海・北京編③
  4. Lectureship Award MBLA 10周年記念特別講演会
  5. 金属水素化物による還元 Reduction with Metal Hydride
  6. 化学系ラボの3Dプリンター導入ガイド
  7. 研究者1名からでも始められるMIの検討-スモールスタートに取り組む前の3つのステップ-
  8. 2016年8月の注目化学書籍
  9. 「抗炎症」と「抗酸化」組み合わせ脱毛抑制効果を増強
  10. 変わったガラス器具達

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年11月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

光と水で還元的環化反応をリノベーション

第609回のスポットライトリサーチは、北海道大学 大学院薬学研究院(精密合成化学研究室)の中村顕斗 …

ブーゲ-ランベルト-ベールの法則(Bouguer-Lambert-Beer’s law)

概要分子が溶けた溶液に光を通したとき,そこから出てくる光の強さは,入る前の強さと比べて小さくなる…

活性酸素種はどれでしょう? 〜三重項酸素と一重項酸素、そのほか〜

第109回薬剤師国家試験 (2024年実施) にて、以下のような問題が出題されま…

産総研がすごい!〜修士卒研究職の新育成制度を開始〜

2023年より全研究領域で修士卒研究職の採用を開始した産業技術総合研究所(以下 産総研)ですが、20…

有機合成化学協会誌2024年4月号:ミロガバリン・クロロププケアナニン・メロテルペノイド・サリチル酸誘導体・光励起ホウ素アート錯体

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年4月号がオンライン公開されています。…

日本薬学会第144年会 (横浜) に参加してきました

3月28日から31日にかけて開催された,日本薬学会第144年会 (横浜) に参加してきました.筆者自…

キシリトールのはなし

Tshozoです。 35年くらい前、ある食品メーカが「虫歯になりにくい糖分」を使ったお菓子を…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP