[スポンサーリンク]

ケムステニュース

CASがSciFinder-nの新しい予測逆合成機能を発表

[スポンサーリンク]

 CAS announced the launch of a breakthrough retrosynthetic capability in SciFindern. This computer-aided synthetic design (CASD) solution utilizes AI technology, powered by CAS’s unmatched collection of scientist-curated reaction content and leverages John Wiley and Sons, Inc.’s award-winning ChemPlanner technology to now identify predicted retrosynthetic routes for both known and novel compounds.  (引用:PR Newswire 1月13日)

化学分野において論文検索で有名なSciFinderですが、知りたいのことが書いてある論文を探すだけでなく、その論文中で論ぜられている化合物や反応、測定データなどもSciFinderから直接アウトプットされるようになっています。2019年の7月には、SciFindernに新機能Retrosynthesis Plannerが追加され、目的の化合物を合成するために最適な反応を自動的に検索し、一つ一つ論文を調べることなく合成ルートを組むことができるようになりました。そして今月の発表で、報告されていない反応についても、AIが適切な反応を自動的に選択しその予想収率示すことができるようになりました。Retrosynthesis Plannerについてケムステニュースにて取り上げた際には、新規の化合物に対しても合成ルートを提案できるようになればより便利になると主張していましたが、まさにそれが実装されたようです。

実際の画面を見てみると、赤色の矢印は報告例がある反応で、緑色が今回実装されたAIによって予測された反応です。反応の予測については、ONとOFFのボタンがあるように表示しないこともできるようです。

他の新機能として各反応についても、収率が高い反応、信頼性が高い報告のある反応、原料の入手性が高い反応など、自分の目的に応じた反応を選択できるようになりました。さらにルート構築においても最初のステップで反応によって構築したい結合か原料の時点ですでに存在する結合の選択、ステップ数、予測反応の傾向を設定することができるようになりました。

この新機能は、研究におけるいろいろな場面で活躍すると考えられます。例えば、反応の研究を行っていると様々な官能基を持つ出発物質を使って新規反応の収率の表を作成し傾向を調べることをよく行いますが、原料が購入できないと自分で合成することになります。案外目的の出発物質が合成できず、本流でないところで研究がストップすることがあります。報告されていない=反応しないというわけではなく、誰もやったことがないから報告されていないこともあり、報告例に固執して高い原料をわざわざ取り寄せるよりも、報告例はないけれどもラボにある原料で簡単に合成できる可能性もあります。そんな可能性を考慮する余地をこの新機能が与えてくれるのではないでしょうか。極論を言えば、全合成という研究はこの新機能があれば、AIが示された合成をただ人間が手を動かして合成する研究となってしまいます。しかし、分子が大きくなってくれば、AIの予測も外れることがあるわけであり、人間 VS AIの合成ルート考案対決を行う中でAI側の傾向を修正し、よりよい反応を提案できるようになるのが新しい全合成研究の課題だと個人的には思います。また、ビジネスの話は置いておいて、予想された反応を実際に実験してみた結果をフィードバックできる機能がSciFinder内にあれば、よりこのAIは信頼性が増すのではないでしょうか。AIにおいては、過去のデータを使って構築されたモデルを、実測の結果をあてはめ修正していくことがより良いモデル得るために必要なことです。論文は日々発表され、報告反応は増えていますが、SciFinderが予測した反応収率を修正するには、その反応そのものを検証することが最適だと思います。

AI技術の進歩によってもたらされた新機能は、化学研究を加速させるだけでなく、新たな研究の課題を作り出したようです。

【追記】

Retrosynthesis Plannerに Feedback 機能が追加されました。これによりサービス全体へのフィードバックを直接CASに送信できます。CASとしても、この新しい機能について様々な意見を聞き、機能をより便利にしたいようです。

関連書籍

[amazonjs asin=”B011BKS1SA” locale=”JP” title=”Hybrid Retrosynthesis: Organic Synthesis using Reaxys and SciFinder (English Edition)”] [amazonjs asin=”4915572978″ locale=”JP” title=”SciFinder活用法―賢い化学情報検索のために”]

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. カラス不審死シアノホス検出:鳥インフルではなし
  2. サリドマイドが骨髄腫治療薬として米国で承認
  3. 「薬学の父」長井博士、半生を映画化へ
  4. 秋の味覚「ぎんなん」に含まれる化合物
  5. 三共・第一製薬の完全統合、半年程度前倒しを検討
  6. 中山商事のWebサイトがリニューアル ~キャラクターが光る科学の…
  7. オカモトが過去最高益を記録
  8. 米ファイザー、感染予防薬のバイキュロンを買収

注目情報

ピックアップ記事

  1. 化学者のためのエレクトロニクス講座~電解ニッケルめっき編~
  2. iPhoneやiPadで化学!「デジタル化学辞典」
  3. 第77回―「エネルギーと生物学に役立つ無機ナノ材料の創成」Catherine Murphy教授
  4. 未来の科学コミュニティ
  5. トーマス・レクタ Thomas Lectka
  6. 有機化合物のスペクトルによる同定法―MS,IR,NMRの併用 (第7版)
  7. ケミストリ・ソングス【Part1】
  8. 「大津会議」参加体験レポート
  9. 香月 勗 Tsutomu Katsuki
  10. 光刺激で超分子ポリマーのらせんを反転させる

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年1月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

欧米化学メーカーのR&D戦略について調査結果を発表

この程、TPCマーケティングリサーチ株式会社(本社=大阪市西区、代表取締役社長=松本竜馬)は、欧米化…

有馬温泉でラドン泉の放射線量を計算してみた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉は、日本の温泉で最も高い塩分濃度を持ち黄褐色を呈する金泉と二酸化炭素と放射性のラドンを含んだ…

アミンホウ素を「くっつける」・「つかう」 ~ポリフルオロアレーンの光触媒的C–Fホウ素化反応と鈴木・宮浦カップリングの開発~

第684回のスポットライトリサーチは、名古屋工業大学大学院工学研究科(中村研究室)安川直樹 助教と修…

第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」を開催します!

第56回ケムステVシンポの会告を致します。3年前(32回)・2年前(41回)・昨年(49回)…

骨粗鬆症を通じてみる薬の工夫

お久しぶりです。以前記事を挙げてから1年以上たってしまい、時間の進む速さに驚いていま…

インドの農薬市場と各社の事業戦略について調査結果を発表

この程、TPCマーケティングリサーチ株式会社(本社=大阪市西区、代表取締役社長=松本竜馬)は、インド…

【味の素ファインテクノ】新卒採用情報(2027卒)

当社は入社時研修を経て、先輩指導のもと、実践(※)の場でご活躍いただきます。…

味の素グループの化学メーカー「味の素ファインテクノ社」を紹介します

食品会社として知られる味の素社ですが、味の素ファインテクノ社はその味の素グループ…

味の素ファインテクノ社の技術と社会貢献

味の素ファインテクノ社は、電子材料の分野において独創的な製品を開発し、お客様の中にイノベーションを起…

サステナブル社会の実現に貢献する新製品開発

味の素ファインテクノ社が開発し、これから事業に発展して、社会に大きく貢献する製品…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP