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ポンコツ博士の海外奮闘録XXIV ~博士の危険地帯サバイバル 筒音編~

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累計30話になりました…!そして連載開始からはや2年。改めて読み続けてくださる方々に深謝いたします。

ポンコツシリーズ

国内編:1話2話3話

国内外伝:1話2話留学TiPs

海外編:1話2話3話4話5話6話7話8話

続きだよ9話10話11話12話13話14話15話

続きの16話17話18話19話20話21話22話

締めの④23話

第24話:博士,SFで生きる術を探す

ポンコツ旅行者,快適さを追求する。

人生の中でそこそこ最大級の衝撃的な一夜を衝撃的な宿で過ごした筆者は,SF生活をどう改善して満足できるかを考えた。初めに,ACS Meeting(2日目)へ行く前にこびりついたマリファナ臭を落として身を清めるために南カリフォルニアで愛用する24時間営業のジムを利用した。当ジムで落ち着いてトイレやシャワーを済ますことができたものの,シャワーのお湯が出なかったため,かなり辛かった。筆者は,SFがUSサバイバル生活における最大の修行の場だと確信した。

次に,筆者はホテルに貴重品を置くことを危険と判断し,ラボメンに荷物をほぼ全て預けた。ラボメンはかなり安全なヒルトンホテルに滞在しており,ホテルの信頼性が段違いであった。また,筆者らはSFジャイアンツ戦をこの日に観戦する予定であった。試合終了後,10時過ぎのテンダーロインに近付くことは「飛んで火に入る夏の虫」状態だと筆者は考察した。そのため,アメリカクレカのポイ活でコツコツ貯めたAMEX point+ヒルトンポイントを駆使して250ドル超えのハンプトンヒルトンに泊まる権利を行使した。塵も積もれば山となるということわざを実感できた。

ポンコツやきう民,聖地観戦する。

サンフランシスコには危険がいっぱいだが,もちろん楽しい場所もいっぱいある。筆者は2日目のACS Meetingで午前発表を拝聴した後,筆者にとって貴重な安全地帯である会場付近の一風堂で$50の贅沢ランチを楽しんだ(Fig. 1)。そして,会場のソファで睡眠時間を確保した。

Fig. 1) 白丸ラーメン,唐揚げ,プレモル1杯で50ドルだ。滞在ホテル代と値段がかわらず,ハンパなく高かったが,感動した。

心地よい睡眠によって顔に生気が少し戻った筆者はオラクルパークへと向かった。野球観戦好きな筆者にとって,LAのドジャーススタジアムやSFのオラクルパークはまさしく聖地巡礼と言えよう。オラクルパークの周辺にはこれまでに所属した偉人が成し遂げた記念碑を埋め込んでおり,筆者はバリーボンズの記念碑を撮影した(Fig. 2)。そしてオラクルパークの景色を目に焼き付けながら球場入りし,野球観戦を堪能した。なお,試合はタンパベイ・レイズにボロ負けした。その後,ハンプトンヒルトンに帰還した筆者は,圧倒的なホテルホスピタリティと安堵感によって死んだように眠ることができた。

Fig. 2) オラクルパーク周辺および球場の写真

ポンコツ滞在者,全力を尽くす。

あと1日,テンダーロインへの滞在を凌ぎさえすれば,ロスのHyatt placeで暖かいクリーンな布団で寝られることが決まっていた。筆者は今がSF生活の正念場であると確信し,明日を生き抜くためにベストを尽くすことを目指した。具体的には,SFに日本人街で発見したダイソーでピクニックシートを購入し(3ドル),これをベッドに敷いてチクチク感や虫を回避した。この試みはかなりの功を奏し,筆者はベッド(の上)でストレスなく寝られることを確認できた(Fig. 3)。

Fig. 3) ピクニックシートとマリファナ臭を落としたバスタオルによる完全装備

今の日本はD論・修論で忙しくなってくる時期であろうから,多くの?院生から共感を得られる例えをしてみよう。上述の内容は研究室で椅子を集めて寝るより遥かに快適であった。また,再度ヤク中がホテル内で発生しようとNMRのヘリウムを回収・再圧縮する機械のクソうるさいシュコシュコ音に比べると少々静かなため,引き続き問題ないと判断した。筆者もポンコツとはいえ,人生の最底辺と自他共に認める地獄のD課程をくぐり抜けたため,少々面構えが違ったようだった

ポンコツ氏,楽しみと恐怖を存分に味わう。

一通りの準備ができた段階で,筆者は最後のSF観光を行った。まず,フォレスト・ガンプのロケ地となったThe Palace Of Fine Artsを巡り,そのまま北上してゴールデンゲートブリッジに向かった(Fig. 4)。ゴールデンゲードブリッジを歩いて往復しようと思ったが,思いの外寒い+時間がかかるのでちょろっとだけ歩いて真ん中ぐらいで撤退した。その後,Pier 39やフルハウスの家,Googleの口コミで大評価のポークジェリー(30ドル)を嗜んで大満足した後,日が暮れる前にテンダーロインへ帰還した。

Fig.) サンフランシスコの有名観光スポットと有名店の肉

充実した日中を過ごした筆者は,初日の騒がしさ程度なら経験上耐えられると推測していた。しかし,残念ながらテンダーロインの状況はさらに悪化してしまった。つまり,予想したヒップホップ音に代わって静寂の中に銃声のような音が鳴り響く夜中となった。人生で聞いたことない不定期な破裂音が鳴りやまなかった。筆者はあまりの恐怖に「もし銃激戦であれば流れ弾が来ないように気配を消そう」と思い,部屋を真っ暗にしてからお盆チュール中の日本の友人と連絡を取り続けた。「何…その時々聴こえるパンパァンって音…声が所々かき消されるのやばくない?」とあちらにも聞こえるほどの大音量で流石に恐怖しかなかった。1-2時間程度で音は鳴り止んだが,その後の静寂が筆者の不安感をさらに煽り,眠れなかった。

結局うまく睡眠をとることはできなかったが,目を閉じてあれやこれや考えていると早朝を迎えた。明るくなった段階でそろーっと窓から外を見ると音が鳴らない救急車が筆者の滞在するホテルの下にしばらく止まった後,去っていった。また,ホームレスさんまみれだった通路は車やテントごとほとんどいなくなっていた(Fig. 5)。この記事を書くタイミングで過去記事を調べたところ,その日の銃のニュースはなかったのでもしかしたら銃声音ではなかったのかもしれないが,本当に恐怖体験だった。

Fig. 5) 左から帰還後すぐ,銃声?前の夜,銃声?後の明くる朝

*とはいえ,その前の週では銃乱射が始まったのを監視カメラで捉えたニュース(その2日前に銃で死亡者),その次の週にナイフを武装した人が警官に射殺されたニュース,3ヶ月で100kg以上の麻薬が押収された州の掲示等が残っているため,テンダーロイン地区には銃やドラッグがゴロゴロある状況であることは間違い無い。その後も2週間に1回ペースで銃による死傷者出てるみたいなんだけど…。…死傷者が出なかっただけでやっぱりあれ銃声だよね…?

ポンコツ博士,南カリフォルニアに帰還する

人生で二度と体験しないであろうSF生活を経て少々グロッキーだった筆者は,早めにACS Meetingを切り抜け,ロスに帰還した。ロスの夏は日差しが強いものの気候は温暖であり,匂いも爽やかで快適だった。また,お盆チュール中に日本から来日した友人とLAXで合流して久しぶりな顔にホッとした後,生きて帰ってきたことを実感した。なお,その日のHyatt placeでは筆者の貯めていた潜在的なストレスがmaxだったのであろう,友人曰く,筆者はいきなりスッと返答がなくなって寝たにも関わらず,その後ハンパなくうるさい歯ぎしりを3時間程度していたようだ。

なにはともあれ筆者は,海外学会の良いところから悪いところまで存分にしゃぶり尽くすことができた。歳をとって次世代へ良質な情報を伝えられるようにするためには,ずっと上澄の旨味を味わい続けるのではなく,酸いも甘いも噛み分けたうえで適切なカードを人のためにいつでも引き出せるようになっていることが重要だと考えている。したがって,この経験もきっと将来どこかで活きてくることを信じて日々の生活に戻った。しかし,もう二度と経験したくない。

そして,筆者の海外奮闘録も終わりが少しずつ近づいてきたのであった…。

〜続く〜

関連リンク・おまけ

いらすとや :アイキャッチ画像の素材引用元。

Wikipedia:大谷選手のデータを参照

Baseball-reference:バリーボンズ選手のデータを参照

注:バリーボンズとは,後年ステロイドの使用が発覚したため,メジャーリーグの野球殿堂を逃したものの,今後おそらく抜かれることがない年間打撃成績を有する野球史上最高のバッターである。しかし,そもそもステロイドに手を出す時点で走攻守全てにおいて好成績を残していた選手であり(トリプルスリー3回,トリプルスリー未遂2回,未遂のうちいずれも盗塁は29),メジャーを代表する選手であることは間違いない。化け物クラスのプレーヤーがステロイドを使用すると完全にアンタッチャブルな存在になってしまう代表例として知られている。

スポーツにおいてドーピングしたことは決して許されることではないが,他のドーピングプレイヤーの異常なホームラン競争によって下記の素晴らしい成績が埋もれてしまい,1999年辺り(34歳)でドーピングに手を出してしまった悲しきモンスターである。筆者らと同年代の方は子供の頃,ボンズやマグワイヤソーサらのドーピング成績によってプロ野球選手は3割ホームラン40本以上が普通だと錯覚してしまった方もいるだろう。

野球に疎い読者のために,メジャーリーグで大活躍である大谷選手の今シーズン打撃成績と年齢が同時期であるボンズの成績を引用しておく(table 1)。ボンズと比較できるクラスまで成長した打者・大谷選手の凄さが分かる一方で,お薬前ボンズはこれに近い成績をデビューから大きなケガなく10年近く続けており,無事是名馬の偉大さも分かる比較である(ちなみにボンズは守備も歴代トップクラスである)。

打率 HR 三振 四球 敬遠 打点 出塁率 盗塁 OPS WAR
大谷翔平 (2023, 29歳) .304 44 143 91 21 95 41.2% 20 1.066 10.1
バリーボンズ (1993, 28歳) .336 46 79 126 43 123 45.8% 29 1.136 9.9
バリーボンズ (2004, 39歳,薬後) .362 45 41 232 120 101 60.9% 6 1.422 10.6

太字はシーズンリーグ最高記録,赤字は歴代最高記録,HR = ホームラン

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たぶん有機化学が専門の博士。飽きっぽい性格で集中力が続かないので,開き直って「器用貧乏を極めた博士」になることが人生目標。いい歳になってきたのに,今だ大人になれないのが最近の悩み。読み方はナナメルorナナメェ…?

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