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吉野彰氏がリチウムイオン電池技術の発明・改良で欧州発明家賞にノミネート

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5月7日、欧州特許庁は、リチウムイオン電池を発明した旭化成株式会社の吉野彰(よしのあきら)氏が2019年欧州発明家賞(European Inventor Award)の「非ヨーロッパ諸国部門」(Non-EPO countries)においてファイナリスト3名(チーム)に選ばれたことを発表いたしました(2019年5月7日:欧州特許庁プレスリリース)

吉野氏の研究テーマは、現在リチウムイオン電池を安全に作動させている材料とその機能を特定することです。吉野氏はこの分野の産業研究と開発を先導し続け、今でも旭化成の顧問、名誉フェローとしてこの研究に取り組んでいます。旭化成は、吉野氏がその技術を発展させ、世界的な商品化に繋げた企業です。吉野氏の2019 年同賞ノミネートに際し、アントニオ・カンピノス(AntónioCampinos)EPO 長官は、「吉野彰氏が今日のリチウムイオン技術及び産業の基礎を築きました。新しいタイプの充電式電池を私たちが自由に使えるようにし、その電池を使った携帯用デバイスで人々が繋がるようになったことで、吉野氏は私たちの暮らす社会に大きな衝撃を与えました」と述べています。

リチウムイオン電池の模型

欧州特許庁が主催する欧州発明家賞は、ヨーロッパで最も権威のある発明家賞の一つで、ヨーロッパ以外でノミネートされるのは毎年世界で3名(チーム)のみです。
日本人のノミネートは、2015年に同賞を日本人で初めて受賞した飯島澄男氏(およびカーボンナノチューブ開発メンバー)以来、4年ぶり6人(チーム)目となりました。「非ヨーロッパ諸国部門」の他のファイナリスト2 名(チーム)は、Eben Bayer and Gavin McIntyre(USA)(発明:Eco-friendly packaging from mushrooms)とDr Gideon Stein(イスラエル)(発明:Vision for vehicles to improve road safety)です。

受賞者は6月20日(現地&日本時間)ウィーンでの式典において発表されます。

欧州発明家賞(European Inventor Award)とは

欧州発明家賞(EIA)は、EPOにより2006年に設立された、ヨーロッパで最も権威のある発明家賞の1つです。
この賞は欧州特許庁が、時代の最大の課題に答えをもたらす先駆的な発明を行う個々の発明者や発明者のチームを讃たえ、毎年付与するものです。
産業部門、研究部門、中小企業部門、非ヨーロッパ諸国部門と功労賞の5部門と、一般投票で決定する「Popular Prize(ポピュラープライズ)」 で構成され、毎年5つの部門から各3 名(チーム)、合計15 名(チーム)が最終選考者としてノミネートされます。
最終選考者と受賞者は、欧州での技術進歩、社会発展、経済的繁栄と雇用創出への貢献についての提議を審査する、政治経済、科学、学術研究機関および研究の分野における国際的権威からなる独立した審査員団によって選ばれます。

過去の欧州発明家賞(非ヨーロッパ諸国部門)日本人(チーム)のノミネートと受賞

○受賞
・2015年:飯島澄男氏および開発メンバー(小塩明氏、湯田坂雅子氏)
(カーボンナノチューブ)…「非ヨーロッパ諸国部門」受賞
・2014年:原昌宏氏および開発チーム(QRコード)… 「ポピュラープライズ」受賞
○ノミネート
・2009年:佐々木正一氏(ハイブリッドカー、パワーコントロールシステム)
・2007年:中村修二氏(青色発光ダイオード)
・2007年:中西茂雄氏、山中巌氏(プログラフ、免疫抑制剤)

吉野彰氏のリチウムイオン電池技術の発明

使い捨てから充電式に

電池は現代生活に欠かせないものであり、そのお陰で私たちはさまざまな携帯用電子機器を使えます。

今日最も普及しているのはリチウムイオン電池です。その発明以前の総ての電子機器は、電源、或いは 不可逆反応によって化学結合に蓄えられたエネルギーを放出する電池によって動いていました。

その為、素材に含まれるエネルギーがなくなれば、電池は捨てるしかありませんでした。これは、1980 年代 にビデオカメラ、ノート型PC、携帯電話などの携帯電子機器を開発する製造業者にとって、問題になり ました。これらの新製品は、小型で軽量、かつ十分な容量を備えた充電式電池を必要としました。

しかしながら、当時開発されていた、鉛蓄電池やニッケルカドミウム電池など従来型の蓄電池は、携帯用の 用途には重すぎ、またかさばりすぎました。 吉野彰氏による研究は、この問題を解決するのに役立ちうるものでした。

吉野氏は1972 年に京都大学 工学部石油化学科の修士課程を修了した後、旭化成工業会社(現旭化成株式会社)の研究部門に入社、現 在も顧問及び名誉フェローとして同社に勤めています。初期の彼の研究では導電性ポリマー、とりわけポリアセチレンに焦点が当てられていました。これは電池の負極材料として用いられる可能性を秘めていたのです。軽量金属リチウムは爆発する危険性があるため使えませんでしたが、より安全な素材を使 う新しいアプローチが可能なことを、吉野氏は研究で確信しました。

彼はポリアセチレンの負極とコバルト酸リチウムの正極を持つ新しいタイプの電池を開発しました。この二つは両方とも、新たに発見された特徴を備えていました。ポリアセチレンは、導電性のあることが 1977 年に化学者の白川英樹氏が行った公開実験によって示されており、また、空気中で安定するコバル ト酸リチウムは、1979 年にアメリカ合衆国の物理学者、ジョン・グッドイナフ氏により発見されていま した。これらの素材を使うことは、吉野氏の電池が、他の当時開発中だった発火する危険性を伴う充電 式電池よりも安定していることを意味しました。

電池の安全性における飛躍的な進歩

吉野氏が更に、ポリエチレンベースの薄い多孔膜を材料間のセパレート材として取り入れたことで、電池に安全機能が備わりました。この膜が溶けることで、電池の過熱化が発火前に止まりました。安全ヒ ューズの役割を果たすこの化学物質は、リチウムイオン電池が発火する危険を抑えるために、今でも使われています。 安全性は今も向上し続けており、リチウムイオン電池が研究ラボを越えて一般消費者 向け製品に実用化されうるための鍵であり続けています。

吉野氏、電池性能の向上を実現

最初のリチウムイオン電池は1983 年に作られました。同年、旭化成は吉野氏の充電式リチウムイオン 電池について日本初の特許申請を行い、商品化の道のりが始まりました。

1985 年には、電池が多くの充 放電サイクルに耐えられるよう、電池の一極に使う素材をより効率的なカーボン含有物に置き換えまし た。電圧を1.5V から4V 以上へと高めるためにアルミニウムと銅箔のコネクタ、有機溶媒電解液を取り 入れ、また、より大きな容量を与えることで 、吉野氏は電池の性能を向上させました。更なる特許が これらの発明・改良を保護するのに役立ち、今日、吉野氏の名前は 56 件の日本の特許及び6 件のヨーロ ッパ特許に、発明者として記されています。

これらの多くの改良は、リチウムイオン電池が他の電池技 術を越えて商業的な成功へと発展するのに役立ちました。

電気自動車の出現を可能にした発明

吉野氏の発明は、カムコーダからラップトップPC にわたる携帯用電子機器の消費者市場を切り開くのに役立ちました。彼の充電式電池は今日50 億にも上る携帯電話で使われています。その発明は電気自動車の出現をも可能にしました。リチウムイオン電池の電気自動車への応用は、急速に進んでいます。

吉野氏の最初の発明及びその後の改良は、1970 年代から彼が勤めている旭化成にとって、非常に重要であり続けています。「私たちの特許をライセンスするというアイデアは、多くの企業でのリチウムイオ ン電池製造を可能にしました。その結果、市場は遙かに早く成長でき、新しい技術を導入するのがずっと楽になり、消費者の助けになっています。」と吉野氏は述べています。

同社は吉野氏のリチウムイオ ン電池の基本特許について、ソニー株式会社を含む外の電池製造業者に使用ライセンスを与えています。ソニーはこの技術を1991 年に市場化しました。基本の特許は既に失効していますが、吉野氏の継続的な取り組みによって旭化成は市場での存在感を保ち、リチウムイオン電池セパレータ世界市場シェ アの17%を2016 年まで維持しています。

東京を基点に、同社は3万5 千人近い従業員を有し、年間の 売上高は156 億ユーロに上ります。吉野氏の研究は今日も続き、最近は安全基準の向上と電池の効率性 強化のために新しい手法を開発しています。

リチウムイオン電池の世界市場は2017 年に265 億ユーロと推定され、2025 年までには900億ユーロを超えると予測されています。

このように、吉野氏の過去30 年以上にわたる先駆的な研究は新しい発展 を促進し続け、その将来の方向性に影響を与え続けています。 吉野氏自身にとって、彼の発明はその増え続ける用途と密接に関わっています。彼は自らの開発した技術を、ラップトップ型PC、携帯電話、電気カミソリ、外の電動工具などで日常生活に使うことを楽しんでいます。「研究は市場の需要を念頭に置いて行わねばなりません。」と吉野氏は語りました。「そしてそれらの需要は、探さない限り見えては来ないのです。」

紹介動画

関連リンク

※欧州特許庁公式ページ
https://www.epo.org/learning-events/european-inventor.html
※プレスリリース
・欧州特許庁発表:
http://www.ycommunications.co.jp/release/EIA_NM20190507.pdf
・旭化成発表:https://www.asahi-kasei.co.jp/asahi/jp/news/2019/ze190507.html
・名城大学発表:https://www.meijo-u.ac.jp/news/detail_21014.html

*本記事は欧州特許庁によるプレスリリースの提供により作成したものです。

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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