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秋吉一成 Akiyoshi Kazunari

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秋吉 一成(あきよしかずなり)は日本の有機化学者である。京都大学大学院 工学研究科 高分子化学専攻 教授。第22回ケムステVシンポ講師

経歴

1980年3月 九州大学工学部合成化学科卒業
1985年3月 九州大学大学院工学研究科合成化学専攻博士課程修了工学博士
1985年 10月 米国 Purdue大学化学科 博士研究員(根岸英一教授)
1987年 10月 長崎大学工学部工業化学科 講師
1989年 1月 京都大学工学部高分子化学科 助手
1993年 4月 京都大学大学院工学研究科合成・生物化学専攻 助手
1993年 8月 京都大学大学院工学研究科合成・生物化学専攻 助教授
1997年 12月 フランス、ルイ・パスツール大学 客員助教授
1999年 10月 科学技術振興事業団さきがけ研究21「組織化と機能」研究員兼任
1999年12月 工業技術院物質工学工業技術研究所 客員研究員
2002年 2月 東京医科歯科大学生体材料工学研究所 教授
2005年 4月 東京工業大学精密工学研究所 客員教授 (2007年まで)
2010年 9月~ 京都大学大学院工学研究科 教授
2011年 8月 JST-ERATO秋吉バイオナノトランスポータープロジェクト 研究総括兼任 (2018年まで)
2017年 ノルウェー科学技術大学 (NTNU) 客員教授 (2018年まで)

受賞歴

1994  日本化学会、若い世代の特別講演賞
1997  The Poster Awards of Gordon Research Conference (Polymer), USA
1998  高分子学会賞
2001  Barre Lecturer Awards, the University of Montreal, Canada
2007  MHS2007 Best paper awards IEEE 2007
2014  第14回日本DDS学会永井賞
2018  平成29年度日本化学会賞
2018  平成30年度文部科学大臣表彰科学技術賞

研究業績

バイオインスパイアードナノ材料の設計と医療応用

我々のグループでは、”生体システムへの挑戦” から生まれてくる新しい概念の創出と新規分子システムの創製、さらにその原理にもとづいてドラッグデリバリーシステム(DDS)を含む新規バイオマテリアルの開発を目指す研究を行っています。

具体的には、1)ナノゲル工学:両親媒性高分子の自己組織化によるナノゲルの開発とナノゲルをビルディングブロックとした新規ボトムアップゲル材料(ナノゲルテクトニック材料)の開発と医療応用、2)リポソーム工学(人工細胞機能を有する機能性ベシクルの開発):リポソームシャペロンを用いた無細胞膜タンパク質手法による機能性プロテオリポソームの開発、また、物質透過性ポリマーベシクルの設計と酵素封入型治療用ナノリアクターの開発、3)エクソソーム工学:細胞が分泌(放出)する小胞であるエクソソームのDDS医療応用に向けたハイブリッドエクソソームの開発やエクソソーム表層糖鎖解析と診断、糖鎖制御による機能制御法の開発、など広範囲な研究を進めています。

ナノゲル工学:自己組織化ナノゲルの開発とバイオ医療応用 

疎水化高分子(会合性高分子)の自己組織化により物理架橋ナノゲルが得られる現象を世界に先駆けて見出し、様々な自己組織化ナノゲルを開発しました。1)また、このナノゲルがタンパク質を安定に複合化し、ナノゲルからの放出と巻き戻りを制御しえる人工分子シャペロン機能を示すことを発見し、シャペロンインスパイアード材料へと展開しました。2) 

疎水化多糖ナノゲルはシャペロン機能を有する初のナノキャリアとして、タンパク質を安定にナノ複合化する製剤技術と同時に優れたDDS機能を有することを実証してきました。例えば、抗原や抗原ペプチドを封入したがんワクチンナノキャリアの開発とがん免疫治療への臨床応用に成功し、3)現在ではCovid-19に対するタンパク質ワクチンの開発も行なわれています。さらに、カチオン性疎水化多糖ナノゲルは、経鼻ワクチンナノキャリアとして優れていることを見出し、4) 肺炎球菌経鼻ワクチンとしての実用化に向けた取り組みが進んでいます。

ナノゲルをビルディングブロックとして、ボトムアップ的集積制御、そして、無機・金属、エクソソーム、細胞とのハイブリッド制御によるゲル材料の新たな構築法(ナノゲルテクトニクス)を開発しています。1,5,6)

1) Y. Hashimoto, et al., Adv. Healthcare Materials, 23(7), 1800729 (2018) 総説
2) T. Nishimura, K. Akiyoshi, Bioconjugate Chem., 31, 1259 (2020) 総説
3) D. Muraoka, et al., J. Clin. Investigation, 129(3), 1278 (2019)
4) T. Nochi, et al., Nature Materials, 9, 572 (2010)
5) Y. Tahara, et al., Adv. Mater., 27, 5080 (2015)
6) R. Kawasaki, et al., Angew. Chem. Int. Ed. 55, 11377 (2016)

エクソソーム工学による新規バイオナノキャリアの開発

近年、細胞外小胞であるエクソソームが様々な疾患に関与しており、生理活性タンパク質や核酸などの情報分子を輸送する細胞間情報伝達におけるバイオシャトルとして機能していることが明らかになってきました。しかし、エクソソームの多様性のために、分離、構造解析から機能解析技術まで、様々な課題が残されています。我々は、エクソソームの生物学的機能解析1)および工学的な機能改変2, 3)とDDSとしての応用に向けての研究を進めています。また、細胞外小胞の多様性、不均一性の新規指標として表層糖鎖が有用であることを提案しています。4)レクチンマイクロアレイによるエクソソーム表層糖鎖の構造多様性評価と糖鎖の機能に関するバイオサイエンスを進展させ、糖鎖を基軸とした分離、計測、解析、DDS技術の開発を行っています。

1) N. Seo, et al., Nature Commun., 9, 435(2018)
2) R. Mizuta, et al., Bioconjugate Chem., 30, 2150 (2019)
3) S. Sawada, et al., Biomater. Sci., 8, 619 (2020)
4) A. Shimoda, et al., Sci. Rep., 9, 11497 (2019)

熱応答性ポリマーベシクルの開発とバイオ医療応用

我々は、膜タンパク質をナノデバイスとしてリポソームに効率よく組み込む、リポソームシャペロン/無細胞膜タンパク質合成法を提案し、様々な人工細胞を開発してきました。1)

一方、オリゴ糖末端を有する温度応答性高分子(ポリプロピレンオキサイド:PPO)が、室温付近で二分子膜構造を有する高分子ベシクルを形成し、リポソームではみられない物質透過性を示すことを見出しました。2) その特性を利用した新規治療用DDSナノリアクターとしての機能を明らかにしています。3, 4) また、水溶性多糖にPPOをグラフト化した会合性多糖は、PPOの熱誘起会合に伴う多糖高分子鎖のフォールディングにより、二分子膜構造を有する単分散な熱可逆的な高分子ベシクルを形成することを明らかにしました。この現象は、タンパク質でみられる高次構造の記憶と呼べるもので、高分子フォルダマーの自己組織化という新しい概念を提唱しています。5)

1) M. Ando, et al., Adv. Science, 5, 1800524 (2018)
2) T. Nishimura, et al., Adv. Mater., 29,1702406 (2017)
3) T. Nishimura, et al., J. Am. Chem. Soc., 142, 1, 154 (2020)
4) T. Nishimura, K. Akiyoshi, Adv. Science, 5, 1800801(2018) 総説
5) T. Nishimura, et al., J. Am. Chem. Soc., 142, 27, 11784 (2020)

関連文献

上記の研究項目で挙げた論文、総説を参考にしてください。

関連リンク

秋吉研究室ホームページ

Macy

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有機合成を専門とする教員。将来取り組む研究分野を探し求める「なんでも屋」。若いうちに色々なケミストリーに触れようと邁進中。

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