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化学書籍レビュー

フラックス結晶育成法入門

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概要

【書籍の特徴】
本書は,フラックス結晶育成法の一般原理と実用知識を体系的に解説した入門書です。物性研究のために自分で単結晶試料をつくろうとする学生をおもな読者対象にしていますが,目で見えて手に持てる大きさの結晶を調べる学問に興味をもっている人にとっても有益な内容になっています。
フラックス法は,1000℃程度でフラックス(融剤)に溶かし込んだ状態から目的の結晶を成長させる方法で,近年では最先端の物性研究において広く利用されています。
フラックス法の特長としては,(1)遷移金属酸化物や金属間化合物など多種類の結晶育成に適用でき,(2)普通の電気炉を使って,多くの物性測定に必要な数ミリ角程度の良質結晶をつくることができる,などが挙げられます。結晶をつくるには結晶成長の基本的な理論と実験技術の具体的な知識を頭の中で結びつけることが大切で,本書の目標は読者にそのような理解を与えることにあります。

【各章について】
1章は,結晶(単結晶)の説明をして,物性研究で必要とされる結晶の種類や大きさの具体例を挙げています。
2章は,フラックス法の一般的な特徴を述べたあとに,ほかの結晶育成法との比較を行っています。
3章は,物性測定においても重要な問題となる結晶の外形についての説明です。
4章は,結晶がフラックス溶液から成長するメカニズムを解説しています。結晶が成長するイメージをもつことは,実際に手を動かして結晶をつくる際にも重要になります。
5章は,相図(状態図)について,フラックス法で利用する視点から解説を進めています。
6章は,理想的なフラックスの性質を述べたあと,実際に広く利用されている代表的なフラックスについて説明しています。
7章は,電気炉,るつぼ,および原料試薬について,フラックス法で実験を進めていく視点から解説しています。
8章の前半では,実験の具体的な手順について,酸化物と金属間化合物の場合に分けて説明しました。また,後半では得られた結晶の評価法について概観しました。

【著者からのメッセージ】
良質な単結晶の試料を手に入れることは物性科学の研究において非常に重要ですが,結晶育成の問題はいろいろな分野に関連しており,初学者は何をどのように勉強してよいか分からないことが多いと思います。また,文献などで「この結晶はこうやって育成した」という記述を見ても,そういう実例の意味や背景をよくイメージできないことも多いと思います。
そこで本書は,代表的な結晶育成法であるフラックス法に焦点を絞り,初学者に系統的な学習の手助けをすることを目的として執筆しました。基礎概念から実験手順まで重要な基本知識をまとめたので,本書を読めば容易に実験に入っていけると思います。読者の手によって,世界をアッと言わせるような結晶が現れることを楽しみにしています。

引用:コロナ社HPより

目次

1.物性研究と単結晶
1.1 なぜ単結晶か
1.1.1 単結晶と多結晶の違い
1.1.2 物性研究と結晶育成
1.2 物性研究で必要になる結晶の大きさ
1.3 物性研究のおもな対象になる化合物の例
1.4 本書の構成

2.フラックス法の特徴
2.1 フラックス法の実験例
2.1.1 ルビーのフラックス育成
2.1.2 フラックスに要求される性質
2.1.3 徐冷法以外の方法
2.2 フラックス法の特徴
2.3 フラックス法で得られる結晶の例
2.4 ほかの結晶育成法
2.4.1 融液法
2.4.2 溶液法
2.4.3 気相法
2.5 結晶育成法の比較

3.結晶の形態
3.1 結晶の成長と形態
3.2 結晶面と結晶の対称性
3.2.1 結晶軸の決め方
3.2.2 結晶面の決め方
3.2.3 ブラベー格子
3.2.4 点群と空間群
3.3 結晶形とブラベーの法則
3.3.1 結晶形の定義
3.3.2 結晶形の例
3.3.3 ブラベーの法則とその拡張
3.4 結晶形における閉形と開形
3.5 結晶の多様な外形
3.5.1 晶相と晶癖
3.5.2 結晶面の成長速度と大きさの関係

4.結晶の成長メカニズム
4.1 結晶成長の過程
4.2 溶解度曲線と過飽和度
4.2.1 溶解度曲線の性質
4.2.2 過飽和度の定義
4.3 核形成
4.3.1 水滴形成のモデル
4.3.2 溶液中における核形成
4.4 層成長機構
4.5 渦巻成長機構
4.6 骸晶と樹枝状結晶の成長
4.7 結晶成長機構のまとめ
4.8 結晶に見られる不完全性
4.8.1 双晶と平行連晶
4.8.2 内包物
4.8.3 成長縞
4.8.4 小傾角粒界

5.相図の利用
5.1 フラックス法と相図
5.2 2成分共晶系
5.2.1 共晶系の特徴
5.2.2 共晶系の相図における結晶成長の経路
5.2.3 共晶系の相図とフラックス法の特徴
5.2.4 共晶系の具体例
5.3 分解溶融と分解飽和
5.3.1 分解溶融化合物
5.3.2 他成分のフラックスを加えた場合の相図
5.3.3 分解溶融化合物の例
5.4 固溶体
5.4.1 完全固溶体の相図
5.4.2 適切なフラックスからの固溶体の成長
5.4.3 部分固溶する場合の相図
5.5 酸素圧と酸化物の安定性
5.6 相図の決定
5.6.1 急冷法
5.6.2 溶解度決定法
5.6.3 高温顕微鏡法
5.6.4 示差熱分析法

6.フラックスの選択
6.1 相図だけでは見えない結晶成長
6.2 理想的なフラックスの性質
6.3 酸化物系の代表的なフラックス
6.3.1 鉛およびビスマスの酸化物とフッ化物
6.3.2 ネットワーク構造を形成する酸化ホウ素
6.3.3 錯形成するモリブデン酸塩とタングステン酸塩
6.3.4 単純イオン性のアルカリ塩
6.3.5 酸化剤としてのアルカリ水酸化物
6.3.6 ほかに考慮する点
6.4 金属間化合物系の代表的なフラックス

7.電気炉,るつぼ,および原料試薬
7.1 電気炉
7.1.1 フラックス法に利用するうえでの注意点
7.1.2 縦型管状炉
7.1.3 箱型炉
7.1.4 発熱体
7.2 るつぼ
7.2.1 白金
7.2.2 石英ガラス
7.2.3 アルミナ
7.2.4 タンタル
7.3 原料試薬
7.3.1 酸化物系の試薬
7.3.2 金属間化合物系の試薬

8.フラックス結晶育成の基本的な実験手順
8.1 はじめに
8.2 空気中での酸化物の育成
8.2.1 準備
8.2.2 結晶育成
8.2.3 結晶の取り出し
8.2.4 白金るつぼの洗浄法と修理法
8.3 石英封入管を使った金属間化合物の育成
8.3.1 石英封入管の特徴
8.3.2 石英管への封入
8.3.3 タンタルるつぼの使用
8.4 結晶の評価
8.4.1 物質の同定
8.4.2 質の評価
8.5 結晶を扱う際の注意点

対象者

固体物性を研究しており、物性計測用の単結晶を作成したい研究者向け。大学院生以上。

内容

濃い!の一言。目次を見てもわかるように単結晶育成への筆者の熱い思いが伝わってきます。

第一章では、物性研究を行う上での単結晶の必要性に関して述べられており、具体的なサンプルにて電子物性に関して異方性が出る際にどの程度のサンプルが必要になるかに関して述べられています。試料ホルダーに対して4端子法での計測(数mm)や比熱計測のために必要な量(数十mg)などが述べられています。

第二章では数mm角程度の結晶を得るために必要なフラックス法の具体的な例と特徴が述べられています。いわゆるフラックスとは再結晶するための溶媒に相当するものですが、例えばルビーの結晶を作るときには溶媒としてPbOとB2O3の混合物を使用します。実際に白金製のるつぼを用いてAl2O3、Cr2O3、PbO、B2O3を重量比12:0.3:90:10の比率で混合し、炉で1250℃まで加熱し除冷することによって、固体の混合物に対して希硝酸につけることによってルビーを作ることができます。これらのフラックスには結晶を置換せず、るつぼやサンプルにダメージを与えず、安く熱的に安定などの様々な条件を必要とします。このようにフラックス法では通常の単結晶育成方法とは異なる方法を必要としますが、具体的な結晶とそれに対するフラックス法に関してなぜその条件が必要なのかを詳細に記述されており、勉強になります。またフラックス以外の方法に関してもチョクラルスキー法に代表される融液法や低温での溶液法、気相成長法に関して紹介されています。

第三章では結晶学を説明した後に結晶成長においてどの指数面が配向して結晶成長しうるかなどに関して詳述されており、第四章では結晶成長メカニズムに関して説明されています。この手の本は結晶成長の理論などに関して説明されがちですが、結晶成長の際の層成長や渦巻成長機構など具体的な結晶成長機構の結果としてどのような単結晶が得られることがあるのかについて述べられています。第五章では相図の利用としてフラックス成長法でどのような条件であれば不純物を含まない結晶の成長が理想的に可能か、また酸化物における気相中の酸素との平衡に関して述べられており、結晶成長をさせる際の考え方について詳述されています。

第六章ではフラックスの選択する上での条件での必要性に関して非常に細かく述べられています。特に表6.1,6.2にあるようなフラックスの具体的な選定例が実に100種類以上述べられており、結晶成長の具体例と考え方について述べられています。第七章では電気炉、るつぼ、原料試薬の選定方法について述べられています。電気炉にも管状炉や箱型炉などの種類がありますが、熱の伝わり方など含めて説明されており、必要な結晶を成長させるための条件が示されています。るつぼに関しても高温での溶融塩と接触する領域なので、化学反応性が高いのですが、例えば、Pt, Ag, Au, Ir, Ni, Mo, Ta, W, C, SiO2, Al2O3, MgO, ZrO2, BNなどの材料をあげた上で、どのるつぼがどの結晶成長に向いているのかなど詳述されています。一方で、これらのるつぼは高いものも多いなどの苦労話なども書いてあり、著者の実感を感じさせます。原料試薬に関しても粉体や金属などの取り扱いについて述べられており、実用的です。第8章ではフラックス結晶育成の基本的な手順に関して述べられており、起こりうる事故なども含めて書いてあり、非常に参考になります。

筆者が冒頭で述べていますが、良質なサンプルを手に入れることにより、物質の示す様々な現象を開拓、解明できる可能性を述べているように、物性研究においては良好な単結晶を得ることが必要不可欠であり、その上でのノウハウを非常にコンパクトに纏められています。固体物性に関わる研究者には必携です。

関連書籍

*同一著者による英語書籍

 

はいぶりっど。

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はいぶりっど化学者。好きな言葉は"The sky is not limited"

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