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スポットライトリサーチ

染色体分裂で活躍するタンパク質“コンデンシン”の正体は分子モーターだった!

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第127回のスポットライトリサーチは、コロンビア大学のDepartment of Biochemistry and Molecular Biophysics, Greene研究室でリサーチフェローをされている寺川剛(てらかわ つよし)さんにお願いしました。

生命現象には多くの謎が残されていますが、今回紹介していただける内容は、その中でも最も根源的な現象の一つ“染色体分裂”の分子レベルの機構に迫る発見で、Science誌に掲載され該当巻の表紙を飾りました。

“The condensin complex is a mechanochemical motor that translocates along DNA”
Tsuyoshi. Terakawa, Shveta Bisht, Jorine M. Eeftens, Cees Dekker, Christian H. Haering, and Eric C. Greene
Science, 2017, 358, 672−676. DOI: 10.1126/science.aan6516

コンデンシンというタンパク質分子がDNAに沿って移動する分子モーターであることを実験的に明らかにした大仕事です。細胞内の物質輸送でのキネシンや、筋収縮におけるミオシンなどの分子モーターが生体活動に様々な形で活躍していることが知られています。今回確認されたコンデンシンの分子モーター活性は染色体分裂の際にDNA鎖の構造を変化させる重要な役割を果たしているとのことで、ユニークな活躍をする新たな分子モーターの報告に驚かされました。是非プレスリリースや本文もご覧になってみてください。

Prof. Greeneからは寺川さんと本研究成果について以下のようにコメントをいただきました。

Tsuyoshi first visited my laboratory when he was a graduate student visiting the United Stated to attend a Biophysical Society meeting. He had an enjoyable visit, but I felt a bit dubious because he was a theoretician interested in experimental sciences, and it is not easy to make the change between the two fields. Later, when I inquired about a postdoctoral position, I was still concerned that he might struggle to learn to use our experimental methods. But, he was very smart and I thought that he could make some contributions to our group. Now, four years later, I can only describe Tsuyoshi’s experience in the group has hugely successful. Not only was he able to make the leap from theoretical studies to experimental research, but his research represents a huge break-through in the field of chromatin biology. I expect great things from Tsuyoshi as he moves on to start his new position at Kyoto University and I anticipate that he will emerge as a leading scientist in his field.

それでは、寺川さんからの熱意溢れるメッセージをご覧ください!

Q1. 今回のプレスリリース対象となったのはどのような研究ですか?

生物の根幹はDNA複製と複製されたDNAの娘細胞への分配です。真核生物では有糸分裂というプロセスによって複製されたDNAが娘細胞へ正確に分配されます。これまでに、コンデンシンと呼ばれるタンパク質分子(図1A)が、有糸分裂において、DNAを分配しやすい構造に変化させることが知られていました。その分子機構として、コンデンシンがランダムにDNA上の2つの領域に同時に結合してループ様の構造を形成するモデル(ランダムモデル)と、コンデンシンがその分子内部にDNAを押し出してループ様の構造を形成するモデル(押し出しモデル)が提唱されてきました。ランダムモデルでは、複製されたDNAが別々に構造を形成する現象などを説明できませんでした。押し出しモデルはそれらの現象を説明できるのですが、コンデンシンが分子内部にDNAを押し出すことができる証拠は得られていませんでした。今回の研究ではその証拠をつかむことができ、論文はScience誌のカバーストーリーに選ばれました。

今回、DNAカーテンと呼ばれる研究室の独自手法をコンデンシン研究に応用しました。この手法では、ガラススライド上にナノテクノロジーを用いてパターンを描き、そのパターンに伸長したDNAを張ります(図1B)。DNAカーテン上にコンデンシンをロードすると、コンデンシンがDNAに沿って一方向に移動し始めました。この実験ではDNAの両端をパターンに結合させて伸長しているため、DNAの構造変化を観察することができません。そこで、 蛍光標識したDNAとコンデンシンをあらかじめ結合させておいて、そのコンデンシン・DNA複合体をDNAカーテンにロードしました。押出しモデルが正しいとすると、コンデンシン・DNA複合体が伸長されたDNAに沿って移動するのが観察されることが期待されます。実験の結果、コンデンシン・DNA複合体の移動が観察され、コンデンシンが分子内部にDNAを押し出すモデルが支持されました(図2)。

図1:(A)コンデンシンの構造の概略図。Smc2,Smc4,Ycs4,Ycg1,Brn1という5つのサブユニットから構成される5量体のタンパク質。(B)DNAカーテン法のイメージ図。

図2:今回確認された“押し出しモデル”の模式図。コンデンシンがDNA鎖上を移動しながらループを大きくしていく。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

過去の研究では、コンデンシンによるDNAの構造変化が主に調べられていました。本研究ではDNAを伸長させてパターンに貼ることで、あえてDNAの構造を変化させないように工夫しました。これによってこれまでに調べられていなかったコンデンシンのDNA上における動態を調べることができました。また、コンデンシン-DNA複合体をDNAカーテン上にロードすることで、実験手法をほとんど変えることなくDNAの構造変化の分子機構を調べることもできました。この実験は査読者にも「a clever surrogate experiment(賢明な代替実験)」と高く評価されました。このアイディアはDNAの構造を変化させる別のタンパク質の研究にも応用可能だと考えています

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

論文が雑誌に掲載されると決まった後に、編集者に生データの提出を依頼されました。今回の研究では、約500本のトラジェクトリ(コンデンシンが移動するさまを撮影した画像)を得られたのですが、それら全てをトラッキング(コンデンシンの座標の時系列を分析すること)して3日以内にグラフにして提出することを求められました。依頼された時点でパソコンも持たずに家族旅行に出かけていたため、3日のうち2日半は作業ができませんでした。そのため、3日目の晩に徹夜で図を作成する羽目になりました。博士課程では生体分子のコンピュータ・シミュレーション研究をしていたこともあって、プログラミングに精通しているので、ほぼ全自動で図を作成することできました。身につけたスキルがいつ役に立つかわからないものだなとしみじみ思いました。作成した図は論文の付録として公開されているので、ご覧いただければ幸いです。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

私は、博士課程までは分子動力学シミュレーションを専門としてきて、ポスドクになって初めて実験に挑戦しました。今回の研究では実験だけを行いました。将来的には、分子動力学シミュレーションと実験を上手く融合して、他の人には真似出来ないオリジナリティの高い研究を行っていきたいと考えています。そして、これまでに身に着けた生化学的・生物物理的・理論的・実験的アプローチを駆使して、タンパク質とDNAの相互作用という生命活動の根幹に関わる現象を詳しく調べていきたいです。我々の分野では実験・理論・シミュレーションを全て経験している人は少ないので、そういった経験を活かして人材の育成にも尽力していきたいです。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

本研究はアメリカのコロンビア大学、ドイツのEMBL、オランダのデルフト工科大学の3国間共同研究として行われました。昨今、インターネットや電子メールにより、物理的距離に関わらず容易に情報を交換できるようになりました。また、輸送網の整備により、サンプルも国境を越えて約2日以内にやりとりすることができるようになりました。これらのツールをフル活用することにより、それぞれの研究室だけではできないレベルの研究を行うことができました。こういった時代だからこそ、海外の研究者とコミュニケーションする能力が非常に重要です。語学はもちろんのこと、議論や交渉の能力を磨ける機会があるといいと思います。

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研究者の略歴

寺川 剛(てらかわ つよし)

所属:Department of Biochemistry and Molecular Biophysics, Columbia University
専門:蛍光顕微鏡による1分子の観察および分子動力学シミュレーションによるDNA結合タンパク質の機能の解明
略歴:2014年に京都大学大学院理学研究科博士課程修了(生物科学専攻 高田研究室)。日本学術振興機構・特別研究員(京都大学)、同・海外特別研究員(コロンビア大学)を経て、現在は上原記念財団・リサーチフェロー(コロンビア大学)。

spectol21

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ニューヨークでポスドクやってました。今は旧帝大JK。専門は超高速レーザー分光で、分子集合体の電子ダイナミクスや、有機固体と無機固体の境界、化学反応の実時間観測に特に興味を持っています。

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