[スポンサーリンク]

一般的な話題

Fmoc-N-アルキルグリシンって何ができるの?―いろいろできます!

[スポンサーリンク]

N-置換グリシンで構成されるポリアミド(ペプチドミメティック)はペプトイドpeptoidと呼ばれ、ペプチド性化合物の脂溶性の向上や分解酵素に対する耐性付加、立体構造の改変による生物活性のチューニングなどを目的に研究されています。

本稿ではN-アルキルグリシンをはじめとするN-置換アミノ酸を構成単位とするポリアミド分子に関する最近の研究をご紹介します。

プロテアーゼ耐性を調整

置換基によるプロテアーゼ耐性の違い1

 

N-アルキル化されたアミノ酸を含むペプチドは、プロテアーゼ耐性が向上することが期待できます。様々なN-アルキルアミノ酸を含むペプチドが合成され、プロテアーゼに対する耐性が検証されています。

一方で、N-ベンジル化を行った場合は、エラスターゼ存在下での半減期が、N-メチルグリシンの場合よりも短くなりました。これはN-ベンジル化による置換基のサイズと立体的制約の増加によるものと考えられています。

これとは対照的に、より親水性のN-置換基を持つ場合はN-メチル化体と同様の半減期値となり、プロテアーゼ耐性が向上しました。N-置換基によって生じるこの傾向は、ほかのアミノ酸でも観察されており、今後、医薬品への応用にも期待が持たれています。

アフィニティリガンドへの応用

68Ga標識ペプチド-ペプトイドハイブリッドは、Fmoc-N-(4-Boc-アミノブチル)グリシンを使って合成されました2。これを使った[68Ga]3は、ニューロテンシン受容体サブタイプ1(NTS1)を発現する腫瘍に非常に適したPETプローブです。

Fmoc-N-(4-Boc-アミノブチル)グリシンを使って合成された68Ga 標識ペプチド-ペプトイドハイブリッド化合物[68Ga]3 は、高い安定性、特異的な腫瘍取り込み (0.7%ID/g、p.i. 65 分)が特徴です。

ニューロテンシン受容体(NTS1)は、様々な腫瘍を画像化するときの標的分子です。[68Ga]3 は、NTS1 発現腫瘍細胞に取り込まれ、小動物 PET による in vivo での NTS1 発現腫瘍の可視化に非常に適していることが証明されました。

現在は、[68Ga]3 をリード化合物として、in vivo での低受容体密度の PET イメージングを容易にするために、高い NTS1 結合親和性を持つ類似体の開発が進められています。

このペプトイドはプロテインAやプロテインGの代替品となり得るアフィニティリガンド3。精製コストが削減できる可能性があります。

 

他にも、ペプトイド構造を持つアフィニティリガンドについての特許が出願されています。

近年、抗体を使った治療が注目されています。この抗体の精製には、例えばプロテインAまたはプロテインGがよく使われているのですが、これらが高価なうえに劣化しやすく、精製用カラムの寿命も短いため、精製のコストが高くなっています。

この特許では、抗体に対する高い親和性および選択性をもつペプトイド構造を持つアフィニティリガンドについて報告しており、プロテインAやプロテインGを使用する方法と比較して精製コストが下がることが期待されています。

N-置換グリシンを使ったペプトイドのサブモノマー合成法により、ペプトイドは広い化学的多様性を持つことができ、より高い標的特異性および結合活性を獲得することができます。この特許の中で報告されているペプトイドはIgGとの高い親和性が確認されており、こちらも今後の活用が期待されています。

3次元構造を調整

オリゴ-N-置換アラニンと立体構造4

 

ペプチドよりも優れた膜透過性、酵素耐性を示すペプチドの類似体、「ペプトイド」の1つ、オリゴ(N-置換グリシン) (以下、オリゴ-NSG) は、タンパク質分解に対して非常に耐性があり、 N-置換アミド骨格により高い膜透過性を示すことが知られています。また、オリゴ NSG のサブモノマー合成法によってN -置換基として多様な官能基を導入できます。

一方で、残念なことにオリゴ-NSG は柔軟な構造で、水中でコンフォメーションを保つことが困難であるため、応用が制限されていました。これを克服するため、かさ高い置換基を入れることなどが考えられましたが、それによる水溶性の低下を補おうとすると、オリゴ-NSGの設計にバリエーションを持たせることができないなどの問題がありました。

そこで、オリゴ-(N-置換アラニン) (以下、オリゴ-NSA)の登場です。オリゴ-NSGの主鎖のα位にメチル置換基が導入され、このメチル基が立体を固定する役割を担います。これにより水中で一定の構造を取ることができるようになり、より効果的な生体分子認識につながることが期待できます。

渡辺化学工業では、Fmoc固相合成でお使いいただけるN-アルキルグリシン誘導体を多数取り揃えております。固相合成によるペプチド-ペプトイドハイブリッド化合物の合成には特に有用です。詳細はリンク先のWatanabe Chemical Newsをご覧ください。

リストにない化合物やより大きいスケールでの受託合成も検討いたします。どうぞお気軽にご連絡ください。

参考文献

  1. R. Kaminker et al., Chem. Commun., 2018, 54, 9631. DOI:10.1039/C8CC04407D
  2. S. Maschauer et al., ACS Med. Chem. Lett., 2010, 1, 224. DOI:10.1021/ml1000728
  3. S. Menegatti, WO, A1-2014/194073
  4. J. Morimoto et al., J. Am. Chem. Soc., 2019, 141, 37, 14612. DOI:10.1021/jacs.9b04371

*オリゴ-NSAとCCDC-1951744の図は東京大学 工学系研究科 化学生命工学科 森本淳平先生よりご提供いただきました。

本記事は渡辺化学工業からの寄稿記事です。

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 第六回ケムステVプレミアレクチャー「有機イオン対の分子設計に基づ…
  2. 触媒表面の化学反応をナノレベルでマッピング
  3. 化学探偵Mr.キュリー8
  4. Google翻訳の精度が飛躍的に向上!~その活用法を考える~
  5. なんだこの黒さは!光触媒効率改善に向け「進撃のチタン」
  6. アセタールで極性転換!CF3カルビニルラジカルの求核付加反応
  7. 有機反応を俯瞰する ー芳香族求電子置換反応 その 1
  8. 高校教科書に研究が載ったはなし

注目情報

ピックアップ記事

  1. 免疫系に捕そくされない超微粒子の薬剤
  2. 第146回―「原子から社会までの課題を化学で解決する」中村栄一 教授
  3. Actinophyllic Acidの全合成
  4. やまと根岸通り
  5. 日化年会に参加しました:たまたま聞いたA講演より
  6. 超多剤耐性結核の新しい治療法が 米国政府の承認を取得
  7. 服部 倫弘 Tomohiro Hattori
  8. 化学に関する様々なサブスクリプション
  9. アサートン・トッド反応 Atherton-Todd Reaction
  10. 立体特異的アジリジン化:人名反応エポキシ化の窒素バージョン

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2023年3月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

欧米化学メーカーのR&D戦略について調査結果を発表

この程、TPCマーケティングリサーチ株式会社(本社=大阪市西区、代表取締役社長=松本竜馬)は、欧米化…

有馬温泉でラドン泉の放射線量を計算してみた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉は、日本の温泉で最も高い塩分濃度を持ち黄褐色を呈する金泉と二酸化炭素と放射性のラドンを含んだ…

アミンホウ素を「くっつける」・「つかう」 ~ポリフルオロアレーンの光触媒的C–Fホウ素化反応と鈴木・宮浦カップリングの開発~

第684回のスポットライトリサーチは、名古屋工業大学大学院工学研究科(中村研究室)安川直樹 助教と修…

第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」を開催します!

第56回ケムステVシンポの会告を致します。3年前(32回)・2年前(41回)・昨年(49回)…

骨粗鬆症を通じてみる薬の工夫

お久しぶりです。以前記事を挙げてから1年以上たってしまい、時間の進む速さに驚いていま…

インドの農薬市場と各社の事業戦略について調査結果を発表

この程、TPCマーケティングリサーチ株式会社(本社=大阪市西区、代表取締役社長=松本竜馬)は、インド…

【味の素ファインテクノ】新卒採用情報(2027卒)

当社は入社時研修を経て、先輩指導のもと、実践(※)の場でご活躍いただきます。…

味の素グループの化学メーカー「味の素ファインテクノ社」を紹介します

食品会社として知られる味の素社ですが、味の素ファインテクノ社はその味の素グループ…

味の素ファインテクノ社の技術と社会貢献

味の素ファインテクノ社は、電子材料の分野において独創的な製品を開発し、お客様の中にイノベーションを起…

サステナブル社会の実現に貢献する新製品開発

味の素ファインテクノ社が開発し、これから事業に発展して、社会に大きく貢献する製品…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP