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N-ヘテロ環状カルベン / N-Heterocyclic Carbene (NHC)

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炭素周りに6電子しか価電子を持たない、二価化学種をカルベンという。オクテット則から外れるため化学的に不安定であり、高い反応性を持つのが常である。

しかし隣接位に窒素原子を有すると、カルベンの空軌道と窒素の電子対が共役し、また窒素の電気陰性がもたらす誘起効果も加わり、カルベンは安定化される(上図・右)。また、環状に配座固定されることでその度合いはより強まる。

こういった化学種をN-ヘテロ環状カルベン(N-Heterocyclic Carbene; NHC)と呼称する。通常は一重項状態で存在する。

1991年にArduengoらによって初めて結晶性カルベンが単離され、X線を用いた構造決定が成された。

 

 

NHC_yogo_1

このブレイクスルーを皮切りに、NHCに関する研究は多くの化学者の注目を集めるところとなった。

近年では化学的知見が蓄積され、カルベン隣接位は必ずしも窒素原子でなくとも良いことが判明している。たとえば、硫黄原子やリン原子を隣接位に有するカルベンや、窒素を一つしか持たずとも良いNHC、中には環状で無くとも安定に存在しうるNHCも知られるようになった。

様々な製法が知られているが、上記スキームのように、イミダゾリウムカチオン2位のプロトンを塩基で引き抜く調製法が一般的かつ簡便である。

二量化や水などとの反応を経て壊れていくため、カルベンとして単離・結晶化させるには、窒素上の置換基が嵩高いものを用い、非水・不活性ガス雰囲気下で取り扱うことが求められる。

NHCは強いルイス塩基性を有し、さまざまな金属類、とくに後周期遷移金属と極めて強く配位することが知られている。その強固さは窒素原子やリン原子のそれをしのぐ。

NHCの配位能は大変強いため、その置換基を嵩高いものにしても安定な錯形成が行える。構造有機化学・有機金属化学領域においては、反応中間体や不安定化学種の速度論的安定化・構造解析を行うための、重要なツールにもなっている。

有機合成観点からの応用としては、ルイス塩基型/極性転換型有機分子触媒、パラジウム触媒(クロスカップリングetc)、オレフィンメタセシス触媒(Grubbs第二世代触媒)の配位子などが代表的である。

 

NHC_yogo_3

関連文献

[1] “A stable crystalline carbene”

Arduengo, A. J.; Harlow, R. L.; Kline, M.  J. Am. Chem. Soc. 1991, 113, 361. doi:10.1021/ja00001a054

[2 ]総説:(a) “N-Heterocyclic Carbenes”

Herrmann, W. A.; Kocher, C. Angew. Chem. Int. Ed. 2003, 36, 2162. doi:10.1002/anie.199721621

The chemistry of N-heterocyclic carbenes has long been limited to metal coordination compounds derived from azolium precursors, a development that was started by Öfele and Wanzlick in 1968. Since free carbenes are now available through the work of Arduengo (1991), a renaissance in this little-recognized area of chemistry has occurred. A leading motive is the advantages of N-heterocyclic carbenes as ligands in organometallic catalysts, where they extend the scope of application reached by phosphanes (functionalized, chiral, water-soluble, and immobilized derivatives). The present review summarizes the state of the art with regard to synthesis, structure, bonding theory, metal coordination chemistry, and catalysis. Chelating, functionalized, chiral, and immobilized ligands can be generated and attached to metal centers in straightforward procedures under mild conditions. A wealth of new chemistry is thus opened. It is also shown how carbenes derived from imidazoles and triazoles behave as ligands in catalysis. It is reasonable to assume that N-heterocyclic carbenes surpass the ubiquitous phosphanes as ligands in a number of organometallic catalytic reactions.

(b) “The chemistry of functionalised N-heterocyclic carbenes”

Kuhl, O. Chem. Soc. Rev. 2007, 36, 592. DOI: 10.1039/B603765H

GA

This tutorial review presents the synthesis, chemistry and applications of functionalised N-heterocyclic carbenes NHC and their transition metal complexes. Functionalised NHC comprise those carrying a phosphino-, amino-, imino– or oxygen-containing functionality on the imidazole sidechain. Main applications have been the modification of catalysts and their immobilisation by fixation on a polymeric support using the functional group. Whereas the functionalisation of the NHC has not improved their performance in catalysis, new developments have occurred in the use of imidazole-containing biomolecules such as L-histidine or caffeine as precursors for NHC.

(c) “Heterocyclic Carbenes: Synthesis and Coordination Chemistry”

Hahn, F. E.; Jahnke,  M. C. Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 3122. DOI: 10.1002/anie.200703883

mcontent

The chemistry of heterocyclic carbenes has experienced a rapid development over the last years. In addition to the imidazolin-2-ylidenes, a large number of cyclic diaminocarbenes with different ring sizes have been described. Aside from diaminocarbenes, P-heterocyclic carbenes, and derivatives with only one, or even no heteroatom within the carbene ring are known. New methods for the synthesis of complexes with N-heterocyclic carbene ligands such as the oxidative addition or the metal atom template controlled cyclization of β-functionalized isocyanides have been developed recently. This review summarizes the new developments regarding the synthesis of N-heterocyclic carbenes and their metal complexes.

 

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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