[スポンサーリンク]

ケムステニュース

日本企業クモ糸の量産技術確立:強さと柔らかさあわせもつ究極の素材

[スポンサーリンク]

人工クモ糸、量産技術を開発 鋼鉄より強い「夢の繊維」

クモの糸を人工的に作った「合成クモ糸繊維」の量産技術の開発に、山形県鶴岡市のバイオベンチャー企業が成功し、24日、東京都港区の六本木ヒルズで、織り上げたドレスを披露した。

クモ糸は、鋼鉄より4倍ほど強く、ナイロンより柔軟なことから「夢の繊維」と言われる。だが、クモは縄張り争いや共食いが激しく、蚕のように人工飼育できないため、工業化は困難とされてきた。

開発したのは鶴岡市のスパイバー(関山和秀社長)。単純な微生物にもクモ糸のたんぱく質が作れるよう合成した遺伝子をバクテリアに組み込んで培養し、たんぱく質を生成。紡績技術も確立し、合成クモ糸の量産を可能にした。繊維は「QMONOS」(クモの巣)と名付けた。関山社長は「自動車や医療などあらゆる産業で利用できる。石油に頼らないものづくりの大きな一歩だ」と話した。

朝日新聞

 

 

強さ柔らかさをあわせ持つ究極の素材が新たに開発され、量産技術が確立されました。
クモ糸は優れた機械特性[1]を持つものの、クモは飼育困難なため、量産は不可能だと考えられていました。21世紀に入り分子生物学が発展すると、バイオテクノロジーの手法を用いたクモ糸の生産研究が、日本の他、アメリカ・中国・ドイツなど世界的に加熱。ユニークなアイディアが続々と報告されていました[2],[3]。クモではなく、培養しやすい微生物など、別の生き物で作ればいいじゃん、という寸法です。

しかし、クモの糸になる材料となる分子を作ることができても、それを糸に仕立て上げる紡績の過程などで、規模拡大に高い技術が要求されます。このため、微生物を使うにしても、安価な量産には困難がともないます。この課題を克服するためには、単なるアイディアだけで浮ついて終始することのない、ものづくりの地に足のついた確固な基盤が必要でした。

 

GREEN2013fibroin.png

クモの糸によく見られるくりかえし構造

日本発のベンチャー企業であるスパイバー(Spiber)株式会社は、従来たちはだかっていた不可能へ果敢に挑戦。世界最高レベルの繊維化技術を獲得して、常識を変える大量生産へのみちを拓きました。強度や伸縮性など品質管理も制御下に収めていると言います。

 

ぶつかっても歩行者にケガをさせない車
次世代医療を支える、生体適合素材
人間の身体を傷つけない宇宙服
やさしく守る、夢の繊維
クモの糸が、あらゆる世界を変えていく。
不可能だと思う? ‐ 私たちは、そう思わない。

スパイバー株式会社

いわく「世界一強い虫は?」と仲間と飲みながら話したのが事業のきっかけだったといいます。気づいたらクモの話に夢中になっていたそうです。

 

2013年の5月24日から5月28日まで六本木ヒルズウエストウォーク2階にて、人工クモ糸繊維で作られたドレスの展示が行われているとのことです。チャンスがあればぜひ見に行きたいものです。

 

参考文献

[1] “Spider silk as mechanical lifeline” Shigeyoshi Osaki Nature 1996 DOI: 10.1038/384419a0

[2] “Spider Silk: From Soluble Protein to Extraordinary Fiber.” Markus Heim et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2009 Review DOI: 10.1002/anie.200803341

[3] “Silkworms transformed with chimeric silkworm/spider silk genes spin composite silk ?bers with improved mechanical properties” Florence Teule et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA  2012 DOI: 10.1073/pnas.1109420109

 

参考ウェブサイト

スパイバー株式会社ウェブページ(http://www.spiber.jp/)

事業概要のイントロダクションムービー。必見の価値ありです。

 

 

Avatar photo

Green

投稿者の記事一覧

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. ファンケル、「ツイントース」がイソフラボンの生理活性を高める働き…
  2. 自律的に化学実験するロボット科学者、研究の自動化に成功 8日間で…
  3. <飲む発毛薬>万有製薬に問い合わせ殺到
  4. 経営統合のJXTGホールディングスが始動
  5. 防カビ効果、長持ちします 住友化学が新プラスチック
  6. 有望ヘリウム田を発見!? ヘリウム不足解消への希望
  7. 韮崎大村美術館が27日オープン 女性作家中心に90点展示
  8. 富大工学部実験研究棟で火事

注目情報

ピックアップ記事

  1. トリルテニウムドデカカルボニル / Triruthenium Dodecacarbonyl
  2. アシロイン縮合 Acyloin Condensation
  3. アスピリン あすぴりん aspirin 
  4. 光触媒で抗菌・消臭 医療用制服、商品化へ 豊田通商 万博採用を機に
  5. 2007年度ノーベル化学賞を予想!(3)
  6. 有機半導体の界面を舞台にした高効率光アップコンバージョン
  7. (S,S)-DACH-phenyl Trost ligand
  8. アルキン来ぬと目にはさやかに見えねども
  9. 構造化学の研究を先導する100万件のビッグデータ
  10. 白い粉の正体は…入れ歯洗浄剤

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年5月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

第4回鈴木章賞授賞式&第8回ICReDD国際シンポジウム開催のお知らせ

計算科学,情報科学,実験科学の3分野融合による新たな化学反応開発に興味のある方はぜひご参加ください!…

光と励起子が混ざった準粒子 ”励起子ポラリトン”

励起子とは半導体を励起すると、電子が価電子帯から伝導帯に移動する。価電子帯には電子が抜けた後の欠…

三員環内外に三連続不斉中心を構築 –NHCによる亜鉛エノール化ホモエノラートの精密制御–

第 628 回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院薬学研究科 分子薬科学専…

丸岡 啓二 Keiji Maruoka

丸岡啓二 (まるおか けいじ)は日本の有機化学者である。京都大学大学院薬学研究科 特任教授。専門は有…

電子一つで結合!炭素の新たな結合を実現

第627回のスポットライトリサーチは、北海道大有機化学第一研究室(鈴木孝紀教授、石垣侑祐准教授)で行…

柔軟な姿勢が成功を引き寄せた50代技術者の初転職。現職と同等の待遇を維持した確かなサポート

50代での転職に不安を感じる方も多いかもしれません。しかし、長年にわたり築き上げてきた専門性は大きな…

SNS予想で盛り上がれ!2024年ノーベル化学賞は誰の手に?

さてことしもいよいよ、ノーベル賞シーズンが到来します!化学賞は日本時間 2024…

「理研シンポジウム 第三回冷却分子・精密分光シンポジウム」を聴講してみた

bergです。この度は2024年8月30日(金)~31日(土)に電気通信大学とオンラインにて開催され…

【書籍】Pythonで動かして始める量子化学計算

概要PythonとPsi4を用いて量子化学計算の基本を学べる,初学者向けの入門書。(引用:コ…

ケムステ版・ノーベル化学賞候補者リスト【2024年版】

今年もノーベル賞シーズンが近づいてきました!各媒体からかき集めた情報を元に、「未…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP