[スポンサーリンク]

ケムステニュース

新型コロナウイルスの化学への影響

[スポンサーリンク]

中国で症例が確認され、爆発的に患者が増えているコロナウイルスですが、いろいろな影響が世界中で出ています。今回のケムスケニュースでは化学に関連するトピックをまとめました。

相次ぐイベントの中止

コロナウイルスの感染拡大を防止するため、学会や就活イベントの延期や中止が増えています。2020年3月22日(日)~25日(水)には、日本化学会第100春季年会が予定されています。現時点では開催されるとのことですが、下記のイベントは中止が決定しています。(追記:2020年2月26日14;00 最終的に日本化学会春季年会も中止となりました。100回記念大会だったのですが、残念です。

  • 第100春季年会 懇親会
  • ATP交流会
  • Chem-Stationイブニングミキサー
  • 男女共同参画 懇親会
  • 国際交流懇親会

毎年化学会年会・薬学会年会で行われている付設展示会ケムステキャンペーンも中止といたしました。

また年会の中止を決定した学会も下記のように出てきています。

現時点で開催としている学会も、コロナウイルスの状況によっては中止とする可能性も十分にあり、学会からの連絡をよく確認する必要があるかと思います。2011年の東北大震災の時は、日本化学会の年会も中止となり筆者も発表できませんでした。発表実績としては認められましたが、人前でのプレゼンと質疑応答があっての学会参加であり、オンライン発表のような仕組みが構築されることを願います。

ケムスケでも紹介している化学系学生のための企業合同説明会について今週の大阪セッションは予定通り開催されるものの、3/3(火)・3/4(水)東京セッションは中止が決定されました。就活イベントの中止も広がっていて、リクナビを運営しているリクルートキャリアでは、2021年春卒業の学生向け合同企業説明会を3月末まで中止すると発表し、他の就活サービスもイベントの中止を検討しています。こちらに関してもオンラインイベントのような形で、移動することなく情報が入手できるようになるのが理想だと思いますが、ネット環境によって不平等になってはならないので、難しいところではないでしょうか。現に中国では、在宅ワークの急増によってWeb会議の回線品質が安定しないなどの問題も起きていると聞きます。

その他の出張に関して、中国への渡航はもちろんのこと、国内の移動も控える動きが出ています。コロナウイルスを過度に怖がるのではなく、移動するリスクとその必要性を天秤にかけて冷静に判断する必要がるのではないかと思います。

化学産業への影響

マスクや防護服、消毒用エタノールの需要が急増しているため、その原料である過酸化水素やアルコール、ポリプロピレン繊維、ポリウレタン繊維といった化学品の生産も急増しています。その一方で中国での物流のストップや工場の停止によって需要が低下している化学品もあります。世界規模の経済を考えると、コロナウイルスは悪い影響があると主張する声が多く、化学業界もその影響を受けるとの見方があります。

ウィルス対策への貢献

悪いニュースだけでなく、ウィルス対策に関連した化学技術の発展もニュースになっています。

コロナウイルスの問題点の一つとして、検査キットが開発されておらずPCR法で判定する必要があることが挙げられます。PCR法では、特定の塩基配列を増幅させて体内にウィルスがあるかどうか調べます。具体的には人の粘液を採取し、そこにウイルスの塩基配列だけ増幅させるように試薬を加え、ウィルス由来のDNAが増幅されて検出されれば、その人は陽性と判断されます。

コロナウイルスは、プラス鎖一本鎖のRNAをウイルスゲノムとして有するエンベロープウイルスなので、PCRで増幅するためにDNAに逆転写する必要があります。そのため前処理にも時間がかかり、トータルで結果が出るまで数時間かかります。

ここでいうウィルス検出キットとは、PCRの前処理を行うキットである。

一方で、インフルエンザの場合、どこの病院に行っても数十分で診断されます。これは、イムノクロマト法を使った検査キットが開発されているため、PCRで塩基配列を調べなくてもウィルスの有無を調べることができるからです。イムノクロマト法では、抗原と結合するような標識抗体と試料を混合した後、クロマトグラフィーを行います。クロマト紙の途中にも抗原を捕捉する抗体が塗布されていてウイルスが含まれていると、先に混合しておいた標識抗体ともに色が変化し、目視でウィルスの有無を確認できます。

イムノクロマト法の検出原理(引用:東京都

デンカグループのデンカ生研は、インフルエンザの迅速診断キットで国内のトップメーカーであり、新型コロナウィルスの抗原を、迅速・簡易に検出するキットの開発に着手したと発表しました。イムノクロマト法で検出するには、新型コロナウイルスにのみ特異的に結合する抗体を開発する必要があります。また東ソーはTRC 法を用いた新型コロナウイルス検査キットの開発に着手したと発表しました。TRC法では、RNAを直接増幅させるためPCR法よりも簡便となります。すでに結核菌やノロウイルスなどの検出では使われていて、新型コロナウィルスに適合する試薬を開発することで50分以内の検出を目指すそうです。

TRC法で使われる自動遺伝子検査装置(引用:東ソー

さらに、栄研化学では、独自の遺伝子増幅技術であるLAMP法を利用した新型コロナウィルスの検出試薬開発を進めていると発表しました。LAMP法は、60度付近で働く酵素と自己の配列を鋳型とする連続的な伸長反応のために工夫されたプライマーを使った増幅方法で、目視による検出も可能です。1時間以内に検出できる試薬を早期に開発することを栄研化学では目標としているそうです。PCRよりも簡便で早い検査方法の開発は強く求められているものの、このウイルスの展望が見通せない中で開発と商品化に投資をすることはビジネス上のリスクがあります。感染拡大を防ぐためにもぜひ3社とも開発した技術を商品化までつなげてほしいと思います。

治療薬の投与開始

各国でコロナウイルスに感染した患者に対して治療薬を投与する試みが行われていますが、確たる特効薬は見つかっていないのが現状です。そんな中、日本ではファビピラビル (アビガン錠)の投与を開始しました。これは、富山大学医学部富山化学工業(現:富士フイルム富山化学)が共同開発した「RNAウイルス」の増殖を抑える効果が期待されている治療薬で、新型のインフルエンザが流行した場合に備えて国内に備蓄されています。催奇形性の危険があるものの、ウイルスの遺伝子複製を阻害して増殖を防ぐ作用が認められ薬としての認可が下りました。すでに中国では投与が始まっていて、良好な結果も得られています。高齢で持病がある方の死亡例が多数報告されているため、効果が期待されます。

ファビピラビルの構造式

今すぐに感染拡大が止まることは考えにくく生活の不自由が続きますが、科学的でない話に惑わされず冷静な対応で乗り切りる必要があると思います。世界規模でこのウイルスへの予防と治療の研究が進められていますが、一刻も早く有効な手段が見つかればと思います。

関連書籍

[amazonjs asin=”406518732X” locale=”JP” title=”カラー図解 分子レベルで見た薬の働き なぜ効くのか? どのように病気を治すのか? (ブルーバックス)”] [amazonjs asin=”4274506916″ locale=”JP” title=”創薬科学入門 ―薬はどのようにつくられる? (改訂2版)”]

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 宇部興産、MCPTや京大と共同でスワン酸化反応を室温で反応させる…
  2. 北大触媒化研、水素製造コスト2―3割安く
  3. 被ばく少ない造影剤開発 PETがん診断に応用へ
  4. 名大・山本名誉教授に 「テトラへドロン賞」 有機化学分野で業績
  5. リン酸アルミニウムを飲んだら爆発?
  6. 盗難かと思ったら紛失 千葉の病院で毒薬ずさん管理
  7. はやぶさ2が持ち帰った有機化合物
  8. 新規作用機序の不眠症治療薬ベルソムラを発売-MSD

注目情報

ピックアップ記事

  1. 【書籍】化学探偵Mr.キュリー5
  2. トップデザイン変更
  3. パラトーシスを誘導する新規化合物トリプチセンーペプチドハイブリッド(TPHs)の創製
  4. (-)-ナカドマリンAの全合成
  5. <アスクル>無許可で危険物保管 消防法で義務づけ
  6. 日本化学会ケムステイブニングミキサーへのお誘い
  7. 還元的アルドール反応 Reductive Aldol Reaction
  8. Wei-Yu Lin教授の講演を聴講してみた
  9. 年収で内定受諾を決定する際のポイントとは
  10. 生命が居住できる星の条件

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年2月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
242526272829  

注目情報

最新記事

第61回Vシンポ「中分子バイオ医薬品分析の基礎と動向 ~LCからLC/MSまで、研究現場あるあるとその対処~」を開催します!

こんにちは、Macyです。第61回Vシンポのご案内をさせていただきます。今回は、Agilen…

水分はどこにあるのか【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

「MI×データ科学」コース 〜LLM・自動実験・計算・画像とベイズ最適化ハンズオン〜

1 開講期間2026年5月26日(火)、29日(金) 計2日間2 コースのねらい、特色近…

材料の数理モデリング – マルチスケール材料シミュレーション –

材料の数理モデリング概要材料科学分野におけるシミュレーションを「マルチスケール」で理解するた…

第59回天然物化学談話会@宮崎(7/8~10)

ごあいさつ天然物化学談話会は、全国の天然物化学および有機合成化学を研究する大学生…

トッド・ハイスター Todd K. Hyster

トッド・カート・ハイスター(Todd Kurt Hyster、1985年10月10日–)はアメリカ出…

“最難関アリル化”を劇的に加速する固定化触媒の開発

第 703回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院 理工学府 博士課程前期で…

「ニューモダリティと有機合成化学」 第5回公開講演会

従来の低分子、抗体だけでなく、核酸、ペプチド、あるいはその複合体(例えばADC(抗体薬物複合体))、…

溶融する半導体配位高分子の開発に成功!~MOFの成形加工性の向上に期待~

第702回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理学部(田中研究室)にて助教をされていた秋吉亮平 …

ミン・ユー・ガイ Ming-Yu Ngai

魏明宇(Ming-Yu Ngai、1981年X月XX日–)は米国の有機化学者である。米国パデュー大学…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP