[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

天然階段状分子の人工合成に成功

[スポンサーリンク]

階段様骨格をもつリン脂質Ladderane Phospholipid 。最近、ビシクロヘキサン骨格を光環化反応で二量化させるという”階段飛ばし”ともいえる手法を鍵反応とした効率的な人工合成が報告された。

連続したシクロブタン環の構築法

ラダラン脂質(Ladderane Lipid)はシクロブタン環が階段状に繋がった化合物群である。嫌気的アンモニア酸化(アナモックス)細菌の膜脂質中から発見されたこれらの分子は、その役割で生物学者を、化学構造で化学者を魅了する。

また、この分子群の生合成に関しては、有力な生合成経路研究が提案されているものの、現在までに証明はされていない。培養に関する問題、他の脂質との分離が困難であることも相俟って、研究が停滞しており、純粋なラダラン脂質の供給が望まれている。

リン酸部位をもつLadderane Phospholipid類はこの分子群で最も複雑な分子の一つである(Scheme 1A)。これまで、唯一Coreyらが1の部分構造である[5]-ladderanoic acid (2)の優れた合成法を報告している (Scheme 1B)[1](参考記事:階段状分子の作り方)。

彼らは、シクロブタンとシクロペンテノンの[2+2]光環化反応により、シクロブタン環を”増築”した後、シクロペンタノン環にジアゾ基を導入、Wolff転位によって環縮小することで、3つの連続したシクロブタン環を構築している。その後、再び光学活性シクロペンテノン誘導体と[2+2]光環化反応およびWolff転位を繰り返し、最後に側鎖の伸張により2の不斉合成に成功している。

最近、米国スタンフォード大学のBurns助教授らは、2のより効率的な合成法を開発し、Ladderane Phospholipidの不斉合成を試みた (Scheme 1C)。鍵反応はbicyclohex[2.2.0]ene(ビシクロシクロヘキセン環)を最小ユニットとした、光照射条件による[2+2]環化反応である。

“Chemical Synthesis and Self-Assembly of a Ladderane Phospholipid”

A. M. Mercer, C. M. Cohen, S. R. Shuken, A. M. Wagner, M. W. Smith, F. R. Moss III, M. D. Smith, R. Vahala, A. Gonzalez-Martinez, S. G. Boxer and N. Z. Burns, J. Am. Chem. Soc. 2016, ASAP DOI: 10.1021/jacs.6b10706

Scheme 1. (A) Ladderane Phospholipid 1 (B)部分構造2の合成例(C)2の逆合成解析

 

論文著者の紹介

研究者:Noah Z. Burns

研究者の経歴:
2004 B.A. Columbia University
2009 Ph.D. The Scripps Research Institute (Prof. Phil S. Baran)
2009 NIH postdoctoral fellow, Harvard University, USA (Professor Eric Jacobsen)
2012- Assistant Professor at Stanford University
研究内容:ハロゲン化反応の開発・生物活性物質の全合成

論文の概要

上述したように、最小ユニットのビシクロシクロヘキセン環を二量化することによって、[5]-ladarane骨格を一挙に構築する(Scheme 2)。この合成で課題となるのが、

  1. 最小ユニットの二量化反応の反応最適条件の開発
  2. 構築したラダランユニットに対する、脂肪鎖の導入法(非対称化)

である。課題1に関しては、銅触媒を用いた[2+2]光環化反応[2]によって二量化体4を収率42%で合成することで解決した。溶媒のベンゼンの融点より低い–4℃で反応を行うと収率が劇的に向上している点も興味深い。

課題2に関しては、マンガン触媒によるC–Hハロゲン化、脱離反応によりシクロブテンとした後に、不斉ヒドロホウ素化、続くカップリング反応によって、光学活性な側鎖の導入に成功した。直接側鎖を不斉炭素—炭素結合反応で導入できると、より理想的であるが、最近開発されたC-H活性化反応や不斉ヒドロホウ素化条件を巧みに用いた好例である。

合成の詳細は本論文を参照されたいが、最終的に1の不斉全合成を達成しており、1を用いた単層ベシクル膜の形成にも成功している。純粋ラダラン脂質の合成により、本分野の生物学的研究が進展することを期待したい。

Scheme 2. Ladderane Phospholipid1の不斉全合成(化合物番号は論文に対応)

 

参考文献

  1. (a) Mascitti, V.; Corey, E. J. J, Am. Chem. Soc. 2004, 126, 15664. DOI: 10.1021/ja044089a (b) Mascitti, V.; Corey, E. J. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 3118. DOI: 10.1021/ja058370g
  2. Salomon, R. G.; Kochi, J. K. J, Am. Chem. Soc. 1974, 96, 1137. DOI: 10.1021/ja00811a030
  3. Liu, W.; Groves, J. T. J, Am. Chem. Soc. 2010, 132, 12847. DOI: 10.1021/ja105548x
  4. Guisań-Ceinos, M.; Parra,A.;Martín-Heras, V.; Tortosa, M. Angew. Chem., Int. Ed. 2016, 55, 6969. DOI: 10.1002/anie.201601976
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. デュアルディスプレイDNAコード化化合物ライブラリーの改良法
  2. ダイヤモンドは砕けない
  3. 第28回Vシンポ「電子顕微鏡で分子を見る!」を開催します!
  4. 「一家に1枚」ポスターの企画募集
  5. 2-プロパノールに潜む過酸化物生成の危険
  6. 化学者のためのエレクトロニクス講座~次世代の通信技術編~
  7. 進化する高分子材料 表面・界面制御 Advanced:高分子鎖デ…
  8. 半導体ナノ結晶に配位した芳香族系有機化合物が可視光線で可逆的に脱…

注目情報

ピックアップ記事

  1. ESIPTを2回起こすESDPT分子
  2. 4,7-ジブロモ-2,1,3-ベンゾチアジアゾール:4,7-Dibromo-2,1,3-benzothiadiazole
  3. 進化する電子顕微鏡(TEM)
  4. 吸入ステロイド薬「フルタイド」の調査結果を発表
  5. 有機化学1000本ノック【反応機構編】
  6. 嘉部 量太 Ryota Kabe
  7. iBooksで有機合成化学を学ぶ:The Portable Chemist’s Consultant
  8. CASがSciFinder-nの画期的逆合成プランナーの発表で研究・開発の生産性向上を促進
  9. FT-IR・ラマン ユーザーズフォーラム 2015
  10. イソプロポキシボロン酸ピナコール:Isopropoxyboronic Acid Pinacol Ester

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年12月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

条件の「前後」も実験条件である【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

そのpH、“本当にその場所”の値ですか?ニードル式pHセンサーを使ってみた!

突然ですが、「培養の再現性がなんか悪い」「同じ条件のはずなのに結果がズレる」といった経験はあ…

「骨格編集」×「ナノカーボン合成」〜ナノカーボン合成の新戦略を実証〜

第719回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院工学研究科(忍久保研究室)博士後期課程2年の平…

【書評】立体化学 はじめの一歩

立体化学は,分子の三次元構造を理解するための重要な分野であり,有機化学や…

水のシミュレーション入門 — 水分子を計算機の中でどう”描く”か —

身近なのに、計算機にとって手強い"水"。本記事では、点電荷モデルから機械学習まで、その"描き方"の進…

◆◇◆◇ 第36回フォーラム・イン・ドージン開催のご案内 ◆◇◆◇

同仁化学研究所が熊本から世界へ情報発信するフォーラム・イン・ドージンの開催ご案内です。今年は『な…

『力』による円偏光発光のon/off制御を単一分子レベルで実現

第718回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 物質理工学院(相良研究室)博士後期課程2年の野中…

数日かかっていた反応機構解析を、わずか数分に!

機械学習ポテンシャルが変える計算化学の現在近年、DFT計算による反応機構解析は広く行われるよ…

海外ポスドクのオファーをもらう【アメリカで Ph.D. を取る: 進路編】

ポスドクとして海外に留学する場合、希望する研究室の教授に直接連絡を取り、面接などを通して適性を判断さ…

MDで観るトライボロジー 〜原子が擦れるその場をシミュレーション〜

軽くて強いのに摩耗に弱いチタン合金は、航空機や人工関節に広く使われています。原子が擦れ合うその場を分…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP