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自律的に化学実験するロボット科学者、研究の自動化に成功 8日間で約700回の実験、人間なら数カ月

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英リバプール大学の研究チームが開発した 「A mobile robotic chemist」は、年中無休で化学実験を自律的に行う研究ロボットだ。人間だと数カ月かかるところを8日で完了し、研究の自動化を実証した。  (引用:7月15日 ITmedia)

実験の手間を省き、ミスを減らすために作業を自動化することは重要ですが、ラボスケールの有機合成実験において自動化が実現しているのは、GCやNMRなどのオートサンプラーによる自動測定や有機合成装置によるプログラミング運転など、部分的な作業がほとんどで、実験すべてを自動で行う装置などは実用化されていません。

Mettler Toledo社の合成装置

そんな中、 英リバプール大学のAndrew I Cooper教授らのグループは、試薬を加えるところから反応後、GCで収率を測定するまで全自動で行い、得られた結果に基づいて次の実験をAIで自動的に計画し実施することを実証しました。

研究成果をまとめたビデオ

 具体的な実験方法ですが、この実証実験の肝となるロボットは、KUKA社のKUKA Mobile Robotが使われました。KUKAはドイツの産業ロボットおよびファクトリーオートメーション関連機器の製造メーカーで、産業用ロボットの分野では世界2位のシェアを誇ります。KUKA Mobile Robotは、使用用途によって搭載される機能が異なるようですが、今回の実験では、サンプルの移動や機器の操作を行うアームと複数のサンプル瓶を載せて移動できるラックが搭載されました。このロボットはバッテリー駆動であるため充電時間が必要ですが、それでも一日に21.6時間以上作業を行うことができます。ロボットの移動や機器操作のためにはSLAMという掃除ロボットが自分の位置を決定するのに使われている技術が活用され、物体までの距離の測定には、自動車の自動運転で脚光を帯びているLIDARが使われているそうです。サンプルを掴む動作にはついては触覚センサーが使われています。

KUKAのロボット

次に実験ですが、1、固体試薬の量り取り 2、液体試薬の量り取り 3、ガス置換とキャップ 4、超音波撹拌 5、反応 6、GC測定の手順で行われました。それぞれの工程では下記のように市販の装置か、ハンドメイドで作り上げた装置を用いて行われ、ロボットがサンプルの運搬、装置の操作を行うことで実験が行われました。ロボットのアームの位置の正確性や量り取りの精度、酸素のコンタミ量といった各装置の性能については検証を行っていて、十分な精度があることを確認しています。

  1. Quantos QS30 instrument (Mettler Toledo)
  2. チューブポンプと天秤を組み合わせたハンドメイドの液体計量
  3. 特注のガス置換シーラー
  4. 一般的な超音波装置
  5. 振動モーターと光源を組み合わせたサンプルブロック
  6. 7890B GC に 7697A Headspace Samplerを搭載 (Agilent)

Quantos QS30

7697A Headspace Sampler

ではこの自動実験の題材となった反応ですが、これはP10と呼ばれる光触媒を使った水の分解反応で、触媒、正孔捕捉剤との組み合わせで最も反応を促進する基質を探すことを目的として実験が行われました。Cooper教授らのグループでは、機能性有機材料の研究を行っていて、本研究の実験の題材となった光触媒の研究についても論文を多数発表しています。そのためこの光触媒反応で試行したようです。実験の自動化だけならば、人が考えたレシピをロボットが実験してその結果を踏まえて人が次のレシピを考えて実験することになりますが、この研究では、AIによる実験条件の探索がもう一つのポイントであり、ベイズ最適化というアルゴリズムを使って実験条件の探索が自動的に行われました。

光触媒と正孔補足剤、色素の構造式

結果、8日間で43バッチ、688もの反応が実施されました。実験結果を見ると、最初は1μmolにも満たない水素発生量だったのが、回数を重ねるごとに収量が向上し、8日目には20μmolを超える反応条件が出てくるようになりました。

試験回と水素濃度の関係

AIが決定した実験条件をたどると、L-cysteine、NaOH、Na2Si2O5の有効性が早くから発見され、これらを含む反応が数多く実施されています。一方、色素は有効でないと判断されて100試験以降には登場しなくなりました。興味深いのはNaOHであり、初期は色素の影響に隠れてしまい有効でないと判断され100試験付近では登場しませんでしたが、色素が登場しなくなった後に再度有効性が確認されて、スクリーニングが再スタートし、最終的には有効であることが確認されました。

L-cysteineの試験回ごとの加えた量の変化

NaOHの試験回ごとの加えた量の変化

Na2Si2O5の試験回ごとの加えた量の変化

各色素の試験回ごとの加えた量の変化

 

ロボットのプログラムを担当した博士課程の学生であるBenjamin Burgerさんは、「安定したシステムを作ることが最大のチャレンジで、数時間にわたって自動で動くように数千もの繊細な操作を加えたことで人間が実験するよりもミスが少なくなるようになったとコメントしています。」また、Cooper教授は「私たちの戦略は、自動マシンというよりは、自動の研究者だった。これは、私たちの働き方と課題への取り組み方を変える柔軟性を持つものである。これは新しい機械ではなく、スーパーパワーを持つ新しいチームメンバーで、人間の研究者によりクリエイティブに考える時間を与えるものである」とコメントしています。

これは、今使われている技術を結集させて、ラボスケールでどこまで研究を自動化できるのかをまさに実証した成果だと言えます。もちろん有機合成の研究者から見れば、サンプル瓶に試薬を入れて室温の光反応を行い後処理なしでガスの生成物を測定したに過ぎず、合成を自動化するには程遠いと思うかもしれません。しかし、プラントの装置を小さくすれば手作業を最小限にした合成の装置を作ることは可能だと考えられ、技術的な壁は高くないと考えられます。コロナウィルスの影響でラボ作業にも影響が出ていますし、ラボの事故も依然として起きています。当然、人間は24時間実験を行うことはできず、実験の合間にも食事や休憩が必要です。そのため実験を全自動化する需要は高いと考えられます。また、不活性雰囲気下の実験は、人が立ち入らないのであれば、規模にもよりますが部屋を丸ごと窒素やアルゴンで満たせば、グローブボックスやシュレンクテクニックなしで実験を行うことができ、今までできなかったような実験を行うことができるようになるかもしれません。ただし、この実証実験は8日間と長くはない期間でしたが、さらに長期間の実験を連続で行うことは、多くの課題があると考えられます。長期間連続で実験機器が稼働していれば、故障も起きるわけであり、故障を検知して実験を中止するかロボット自身が原因を究明することが必要になります。現在の機器は人が操作することを前提に作られていますので、このようなロボットが機器を操作することが多くなればば、将来の操作や通信の共通規格が登場し、機器ごとの連携が容易になるかもしれません。

AIが実験条件を考えることについて、NaOHの検討はまさに人間が実験結果を解析して導き出す計画そのものだと言えます。ただし、人間が複数のパラメーターを最適する時には、経験や知識を使って条件を絞って計画を立てていますが、このAIによる実験では、経験や知識の感覚なしに条件が決定されるため、人間が思いつかない複雑な発見が見つかるかもしれません。またこの研究では、実験で得られた結果のみから次の条件を考えていますが、過去の結果を参照できるようになればより早く最適解にたどり着けるようになると考えられます。Cooper教授のコメントにあるように、近未来の化学研究では、作業と最適化は機械が行い、人間はより斬新で新しいイノベーションのアイディアを出すほうに注力することになるでしょう。

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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