[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第124回―「生物・医療応用を見据えたマイクロ流体システムの開発」Aaron Wheeler教授

[スポンサーリンク]

第124回の海外化学者インタビューはアーロン・ウィーラー教授です。トロント大学化学科に所属し、化学、生物学、医学の問題を解決するための小型化システムの開発に取り組んでいます。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

他の方々の多くは、化学セットでものづくりの経験をしているように見うけられますが、私については正直に言うと、ちょっとした偶然で化学へと進んでしまったといわねばならないでしょう。授業と研究室は楽しく、途中でサポートしてくれる先生方に励まされながら興味をもってきました。何度かやり直してみると、結果が違う方向に向かうのがわかりました。そうは言っても、今の自分はこうなっているわけで、それは好ましいことです。物理、生物、医学、工学、食品、環境など、興味ある問題が何であるかに依らず、化学は中心的なものとして重要ですし、ほとんど何にでも手を出すことができる素晴らしいプラットフォームです。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

人生は面白く、選択肢が多すぎて考えられません。科学の範囲内であれば・・・神経科学者になりたいと思っています。脳の化学と生物学と思考・感情・記憶の間のつながりはとても魅力的な話で、理解され始めたばかりです。

Q. 現在取り組んでいることは何ですか?そしてそれをどう展開させたいですか?

我々のグループでは、マイクロ流体工学によって小型化された「ラボオンチップ」システムを開発しています。プロテオーム解析ツールの開発、希少細胞の増殖・培養・多重アッセイ法、がん発症リスクのある患者の低侵襲スクリーニング技術など、様々なものへと応用しています。ある日は臨床サンプルを採取し、次の日はバニースーツを着てクリーンルームで装置を製作し、その次の日には質量分析計を修理したりと、いろいろな面白い分野に手を出せるのがこの分野の魅力です。この仕事はそれ以外の何物でもありません。

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

これらの質問は難しいですね・・・チャールズ・ダーウィンを推すと思います。彼は明らかに広範囲で変革的なアイデアを生み出した人物ですが、大小の問題に興味を持っていました。どうやら彼はミミズ(!)に非常に情熱を注いでいたようで、ミミズが駆動する土壌のターンオーバー率を測定するために、地面にマーカーを散布して数十年に渡ってミミズの行動を評価したそうです。チャールズ・D.との会話は、ちょっとおだてつつも、太陽の下(場合によっては土の下)のあらゆる話題をカバーできるのではないでしょうか。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

数年前に研究室を立ち上げたときは、主には装置の設置やセットアップを少しやっていましたが、それ以降はデスク・モンキーになってしまいました。グラントは自然に仕上がって来るものではないですよね!とはいえ私は実験に関わることが大好きで、実験の計画、実行、解釈には可能な限り関わるようにしています。このため仕事はとても楽しいです。しかし、アカデミアで行われている(科学的な)仕事は、100%学生によって成り立っていることを忘れてはいけません。学外の人たちにはこれがあまり認識されていないのではないかと思います。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

The Sceptical Chymistはこれらの質問に手加減しませんね!

本1冊については、ジャレド・ダイアモンドの民族や社会の進化についての本の中から一つを選ぶでしょう。 毎回読み返すたびに新しいこと、面白いことを学んでいます。

音楽はどうしましょう?南部のルーツにこだわって、スキナードのアルバムを選ぶと思いますが、この質問は時代遅れですよね?「今まで聴いたことのある曲が全部入ったiPod」を持っていくことはできませんか?

Q.「Reactions」でインタビューしてほしい化学者と、その理由を教えてください。

これらの質問に興味深い回答をしてくれる化学者としては、スタンフォード大学のDick Zareやイリノイ大学のJonathan Sweedlerなどがいるでしょう。

原文:Reactions – Nick Fisk

※このインタビューは2009年7月17日に公開されました。

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 【第一回】シード/リード化合物の創出に向けて 2/2
  2. 第62回―「再生医療・ドラッグデリバリーを発展させる高分子化学」…
  3. 第170回―「化学のジョブマーケットをブログで綴る」Chemjo…
  4. 第94回―「化学ジャーナルの編集長として」Hilary Cric…
  5. 第34回「ポルフィリンに似て非なるものを研究する」忍久保洋 教…
  6. 第10回 太陽光エネルギーの効率的変換に挑むー若宮淳志准教授
  7. 第172回―「小分子変換を指向した固体触媒化学およびナノ材料化学…
  8. 第28回「ナノバイオデバイスが拓く未来医療」馬場嘉信教授

注目情報

ピックアップ記事

  1. リアルタイムFT-IRによる 樹脂の硬化度評価・硬化挙動の分析【終了】
  2. 人工嗅覚センサを介した呼気センシングによる個人認証―化学情報による偽造できない生体認証技術実現へ期待―
  3. オッペナウアー酸化 Oppenauer Oxidation
  4. 化学物質の環境リスクを学べる「かんたん化学物質ガイド」開設
  5. 【味の素ファインテクノ】新卒採用情報(2025卒)
  6. 高分子材料におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用:高分子シミュレーションの応用
  7. 位置選択性の制御が可能なスチレンのヒドロアリール化
  8. 第128回―「二核錯体を用いる触媒反応の開発」George Stanley教授
  9. 抗体触媒 / Catalytic Antibody
  10. 含『鉛』芳香族化合物ジリチオプルンボールの合成に成功!①

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年10月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP