[スポンサーリンク]

医薬品

ボルテゾミブ (bortezomib)

[スポンサーリンク]

ボルテゾミブ(bortezomib)は、医薬品としてはじめて認められた有機ホウ素化合物。細胞内のタンパク質管理を行うプロテアソームを狙った分子標的薬であり、多発性骨髄腫などがん治療で使われています。

詳細

細胞はタンパク質を新たに作るだけでなく分解もします。細胞が飢餓状態にあり、アミノ酸が不足したときに、リソソームと呼ばれる膜区画で、ほとんど区別なく行われる細胞内消化が、そのひとつです。これとはまったく独立に、細胞の特定のタンパク質だけを分解する別の仕組みもあります。主役としてはたらく分子がプロテアソーム(proteasome)です。プロテアソームは複数のサブユニットが組み合わさった巨大なタンパク質分解酵素であり、ユビキチン(ubiquitin)で目印がつけられたタンパク質だけを認識して分解します。細胞分裂をはじめ、細胞のシグナル伝達に関わるタンパク質の少なくない数が、このユビキチンとプロテアソームを使った仕組みによって管理されています。リソソームでのタンパク質分解が栄養飢餓という消極的理由で行われるのに対し、ユビキチンを目印にしたプロテアソームによるタンパク質分解では細胞内シグナル伝達の遂行という積極的理由で行われる点が、一般的な相違です。

ボルテゾミブの親にあたるシード化合物は、プロテアソームの阻害活性を持つということで探し出された化合物であり、アルデヒド基(-CHO)を持っていました。このアルデヒド基をトリフルオロメチルケトン基(-COCF3)に変えるなど構造展開を進めるうちに、ボロニル基(-B(OH)2)への置換が有効であると判明しました。半数阻害濃度で比較すると、ボロニル基に変えたボルテゾミブは、従来の1000倍以上の効き目があったのです[1]。

GREEN2013bortezomib03

ボルテゾミブは少量でもよく効く

やがて、ボルテゾミブは臨床試験を経て、抗がん剤として認められることになります。プロテアソームにボルテゾミブが作用した状態で結晶にし、その立体構造を調べてみると、ボルテゾミブのボロニル基が、プロテアソームのスレオニン残基のヒドロキシ基共有結合していました[2]。アルデヒド基やトリフルオロメチルケトン基ではこのようなことは起きえません。

GREEN2013bortezomib04.png

ボルテゾミブの強力な薬理活性はボロニル基に由来

分子モデル

GREEN2013bortezomibmovie.gif

参考文献

  1.  “Potent and selective inhibitors of the proteasome: Dipeptidyl boronic acids.” Adams J et al. Bioorg. Med. Chem. Lett. 1998 DOI: 10.1016/S0960-894X(98)00029-8
  2. “Crystal structure of the boronic acid-based proteasome inhibitor bortezomib in complex with the yeast 20S proteasome.” Groll M et al. Structure 2006 DOI: 10.1016/j.str.2005.11.019
Avatar photo

Green

投稿者の記事一覧

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. 化学者のためのエレクトロニクス講座~次世代の通信技術編~
  2. 塩化ラジウム223
  3. 緑色蛍光タンパク Green Fluorescent Prote…
  4. 18F-FDG(フルオロデオキシグルコース)
  5. ボツリヌストキシン (botulinum toxin)
  6. 化学者のためのエレクトロニクス講座~無電解卑金属めっきの各論編~…
  7. マラカイトグリーン /Malachite Green
  8. ゲラニオール

注目情報

ピックアップ記事

  1. トムソン:2005年ノーベル賞の有力候補者を発表
  2. 研究者/研究力
  3. 国際化学オリンピック開幕間近:今年は日本で開催!
  4. 化学エンターテイメント小説第3弾!『ラブ・リプレイ』
  5. アルキンメタセシスで誕生!HPB to γ-グラフィン!
  6. 市川アリルシアナート転位 Ichikawa Allylcyanate Rearrangement
  7. メカノクロミズムの空間分解能の定量的測定に成功
  8. ロバート・クラブトリー Robert H. Crabtree
  9. 自在に分解できるプラスチック:ポリフタルアルデヒド
  10. 99.7%の精度で偽造ウイスキーを見抜ける「人工舌」が開発される

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年9月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

第32回光学活性化合物シンポジウム

第32回光学活性化合物シンポジウムのご案内光学活性化合物の合成および機能創出に関する研究で顕著な…

位置・立体選択的に糖を重水素化するフロー合成法を確立 ― Ru/C触媒カートリッジで150時間以上の連続運転を実証 ―

第 659回のスポットライトリサーチは、岐阜薬科大学大学院 アドバンストケミストリー…

【JAICI Science Dictionary Pro (JSD Pro)】CAS SciFinder®と一緒に活用したいサイエンス辞書サービス

ケムステ読者の皆様には、CAS が提供する科学情報検索ツール CAS SciFind…

有機合成化学協会誌2025年5月号:特集号 有機合成化学の力量を活かした構造有機化学のフロンティア

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年5月号がオンラインで公開されています!…

ジョセップ・コルネラ Josep Cornella

ジョセップ・コルネラ(Josep Cornella、1985年2月2日–)はスペイン出身の有機・無機…

電気化学と数理モデルを活用して、複雑な酵素反応の解析に成功

第658回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 農学研究科(生体機能化学研究室)修士2年の市川…

ティム ニューハウス Timothy R. Newhouse

ティモシー・ニューハウス(Timothy R. Newhouse、19xx年xx月x日–)はアメリカ…

熊谷 直哉 Naoya Kumagai

熊谷 直哉 (くまがいなおや、1978年1月11日–)は日本の有機化学者である。慶應義塾大学教授…

マシンラーニングを用いて光スイッチング分子をデザイン!

第657 回のスポットライトリサーチは、北海道大学 化学反応創成研究拠点 (IC…

分子分光学の基礎

こんにちは、Spectol21です!分子分光学研究室出身の筆者としては今回の本を見逃…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP