[スポンサーリンク]

一般的な話題

仙台の高校生だって負けてません!

[スポンサーリンク]

 

 

Ag2O3 Clathrate is a Novel and Effective Antimicrobial Agent

Ando, S.; Hioki, T.; Yamada, T.; Watanabe, N.; Higashitani, A. J. Mater. Sci. 47, 2928 (2012). DOI: 10.1007/s10853-011-6125-0

先日茨城の女子高生BZ反応における新発見によりJournal of Physical Chemistry A誌に論文を発表したことをお伝えしましたが(記事:茨城の女子高生が快挙!)[1]、今度は仙台の女子および男子高校生がやってくれました。

仙台第二高等高校の化学部に所属する3名らが行った研究を東北大学科学者の卵養成講座(独立行政法人科学技術振興機構「未来の科学者養成講座」委託事業)において行われた研究をJournal of Material Science誌に報告しましたので、彼らの研究内容について紹介したいと思います(公立の第二高等学校というところが共通しているのは偶然でしょうか)。論文は東北大学科学者の卵養成講座(独立行政法人科学技術振興機構「未来の科学者養成講座」委託事業)の協力の下執筆されたとのことです(2011.11.29.加筆訂正)。

銀を用いた制汗スプレーなどの商品が一般的に出回っている事からもお分かりかと思いますが、銀イオンにはある種の抗菌活性があることが知られています。実はその機構はいまだ明らかになっているわけではありませんが、ヒポクラテスが既に銀の効能について言及していたとされており、保存性の向上を目的とした銀のミルクボトルの利用を始め、抗生物質が登場する前から第一次世界大戦においても薬品として銀(もしくはその化合物)は利用されてきました。現代でもスルファジアジン銀(通称ゲーベンクリーム)が火傷や傷口の細菌感染を抑えるのに処方されることがあります。ただし、何でもかんでも銀イオン入りの商品が必ずしも効果が期待出来るものばかりではないと思いますので慎重に商品を吟味されることをお奨めいたします。

goeben.png

ゲーベンクリームの成分(スルファジアジン銀)

さて、仙台二高化学部の諸子が行った研究は硝酸銀水溶液の電気分解という非常に基本的な実験に始まります。白金電極を用いて電気分解を行ったところ、陰極側には銀が、陰極側には黒光りする針状結晶が生じました。この針状結晶をX-線結晶回折によって分析したところ、Ag2O3クラスレート(包接化合物)であることが分かりました。銀には3種の酸化物、酸化銀(I) (Ag2O)、一酸化銀 (AgO)、酸化銀(III) (Ag2O3)が知られています。一酸化銀は二価ではなく一価と三価の混合物とみなされていることから、銀は一価のみならず三価も可能ということです。Ag2O3はNaClO4とAgClO4水溶液の電気分解によって得られることは知られていましたが、今回の方法は非常に安価にAg2O3を生成する方法です。

また、Ag2O3は必ずしも注目されていた物質ではなく、その性質や利用法もよく知られていませんでしたが、彼らは抗菌活性について調査しました。その結果、Ag2O3クラスレートはAg2Oよりも大腸菌に対する抗菌活性が10倍強いことを明らかとしました。飽和水溶液を比較すると得られたAg2O3はAg2Oの18倍程銀イオン(I)をその水溶液に含んでいること、さらに高い酸化力を示すことを明らかにしており、これらが高い抗菌作用をもたらしているのかもしれません。
安価に製造でき、強い活性を提供出来る事から様々な領域での広範囲の利活用が期待されるとのことです。

Ag2O3銀酸化物粉体を用いた大腸菌の生育阻害活性試験(論文より引用)

茨城の女子高生の件もそうですが、多くの高校生が若く溢れる活力を化学に注いでくれることは大きな喜びです。素朴な実験から大きな発見が生まれる事もあるでしょうし、何より化学実験を通じた新発見の喜びと興奮を体験することで、未来の科学者が育まれることを期待しています。高校の化学部の顧問の先生頑張って下さい!

参考文献

  1. Onuma, H.; Okubo, A.; Yokokawa, M.; Endo, M.; Kurihashi, A.; Sawahata, H. J. Phys. Chem. A ASAP, DOI: 10.1021/jp200103s

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4535600309″ locale=”JP” title=”高校で教わりたかった化学 (大人のための科学)”][amazonjs asin=”4621039180″ locale=”JP” title=”化学実験ガイドブック―中・高校生と教師のための”]
Avatar photo

ペリプラノン

投稿者の記事一覧

有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。

関連記事

  1. Angewandte Chemieの新RSSフィード
  2. フロー法で医薬品を精密合成
  3. TBSの「未来の起源」が熱い!
  4. 文具に凝るといふことを化学者もしてみむとてするなり : ② 「ポ…
  5. もし炭素原子の手が6本あったら
  6. 化学者のためのエレクトロニクス講座~めっきの原理編~
  7. 研究室でDIY! ~明るい棚を作ろう~
  8. 簡単に扱えるボロン酸誘導体の開発 ~小さな構造変化が大きな違いを…

注目情報

ピックアップ記事

  1. ポンコツ博士の海外奮闘録XVI ~博士,再現性を高める②~
  2. クロスメタセシスによる三置換アリルアルコール類の合成
  3. 有機合成化学協会誌2019年5月号:特集号 ラジカル種の利用最前線
  4. ラジカルonボロンでフロンのクロロをロックオン
  5. がん細胞をマルチカラーに光らせる
  6. 化学メーカー発の半導体技術が受賞
  7. Twitter発!「笑える(?)実験大失敗集」
  8. Google翻訳の精度が飛躍的に向上!~その活用法を考える~
  9. 「あの人は仕事ができる」と評判の人がしている3つのこと
  10. 櫛田 創 Soh Kushida

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2011年11月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP