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スポットライトリサーチ

実験と機械学習の融合!ホウ素触媒反応の新展開と新理解

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第489回のスポットライトリサーチは、千葉大学大学院医学薬学府先端創薬科学専攻 薬化学研究室(根本研究室) の伊藤 翼(いとう つばさ)さんにお願いしました。

根本研究室では革新的な創薬の実現を目標に、医薬品合成に有用な高効率分子変換法や合成プロセスの短工程化を実現する触媒的合成法の開発に取り組んでいます。本プレスリリースの研究内容は、ホウ素触媒を用いた脱芳香族化反応についてです。脱芳⾹族化反応は平⾯的な構造を持ち、⼊⼿しやすい芳⾹族化合物を、⽣体とより強い作⽤が期待されますが、合成が難しい三次元的な化学構造へと⼀挙に変換できる反応であり、天然有機化合物や、薬理効果を⽰す分⼦の⼈⼯合成に⽤いられる⼿法です。⼀⽅、この反応の難点として、安定的な芳⾹族化合物の芳⾹族性を壊す(脱芳⾹族化)のに⼤きな活性化エネルギーを要する点や、⼀般に⾼価であったり毒性があったりする⾦属元素を含む触媒が必要となる点が挙げられます。そこで本研究グループでは、⼈体への害が少なく安価、さらに電⼦を受け取る⼒が強いという特性を有するホウ素原⼦を含む触媒に着⽬し、環境負荷に配慮したメタルフリーな脱芳⾹族化反応の開発を行いました。

この研究成果は、「ACS Catalysis」誌に掲載され、プレスリリースにも成果の概要が公開されています。

Mechanistic Investigation on Dearomative Spirocyclization of Arenes with α-Diazoamide under Boron Catalysis

Tsubasa Ito, Shingo Harada, Haruka Homma, Ayaka Okabe, Tetsuhiro Nemoto

ACS Catal. 2023, 13, 1, 147–157

DOI: doi.org/10.1021/acscatal.2c04504

指導教員の原田慎吾 講師より伊藤さんについてコメントを頂戴いたしました!

伊藤翼くんは現在ドクター2年の学生です。高度な実験技術に加え、高い課題解決能力を持ち合わせております。この研究プロジェクトにおいては、それまで当研究室になかった様々な解析方法や計算技術を導入し、インシリコ研究の部分で持ち前の能力を充分に発揮してくれました。彼は前回の業績を基盤に特別研究員となり、公私共に順風満帆?な日々を過ごしております。企業への就職活動も上手くいった一方で、伊藤くんならアカデミックでも活躍が期待できるのに勿体ない気もしております。本研究では、本間榛花博士が展開のきっかけとなる重要な部分を遂行し極めて大きな貢献をしてくれました。共著者の方々にも深く感謝申し上げます。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

芳香環を有する末端α-アミド構造をもつ基質にホウ素触媒を作用させる、分子内脱芳香族的スピロ環化反応を開発しました(図1)。ホウ素触媒を用いたジアゾ基活性化法は既に報告されていましたが、そのほとんどがα-ジアゾエステル基質の分子間反応に限定されていました。開発した脱芳香族的スピロ環化反応はフェノール環だけでなく、インドール環、ナフトール環に対しても適用することができます。

本研究の最大の見どころは反応機構解析です(図2)。DFT計算の結果、従来法で提唱されているB-O結合やB-N結合を介するものではなく、金属カルベンと同様な直接ジアゾ炭素と結合するB-Cモードで活性化されていることを発見しました。また、この経路が有利である原因を様々な解析手法を駆使することで追求し、視覚的、数値的に明らかにしました。

本研究テーマのもう一つの特徴的なポイントは、条件最適化にベイズ最適化を用いたことです(図3)。ベイズ最適化は機械学習の一手法であり、反応条件と収率データを学習し、回帰曲線を予測することで、改善期待度の高い反応条件を求める手法です。実際にこちらを用いて6種の変動パラメーターを7検討で最適化することに成功しました。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

新しく発見した活性種を様々な解析手法を活用して、数値的だけでなく、視覚的にも理解しやすくまとめたことです。NBO解析によるwiberg bond indexの算出やNEDA(Natural Energy Decomposition Analysis)を用いた解析手法で相互作用の詳細な解析を行い、数値による相対比較を行うことで解析結果と考察の根拠を明示しました。また、非共有結合性相互作用の可視化やDFT計算で算出された分子の局所構造にフォーカスすることで、視覚的に安定化機構の解析結果が理解しやすくなるようにまとめてみました。中でも私の一番のお気に入りは、カルベン炭素に対するカルボニル酸素の隣接基効果がB-Cモード中のカルベン中間体に存在していることを印象的に伝えるために創意工夫した論文中の図です。(笑)

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

ベイズ最適化の導入です。ナフトールのスピロ環化反応が最適条件では効率的に進行しなかったことから本法の導入を試みました。ベイズ最適化の導入のためにプログラミング言語の学習から始める必要があるだけでなく、ベイズ最適化の仕組みを学習することは非常に困難でした。プログラミング言語の学習こそ独学で進めることができましたが、ベイズ最適化の学習では躓く場面が多々あり、多方面の方に力を借りて理解を進めました。しかし、論文のリビジョンが戻ってきた際には、査読者の指摘の内容の解釈が難しく、あたふたしながら勉強し直したことは良い?思い出です。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

前回のインタビューでは、研究を通して得られる感動や経験を伝えられる存在になりたいと回答しましたが、今回は私自身が新しい発見に感動し続けていきたいとお答えします。私が研究をしていて一番面白いと感じる瞬間は、予想外に出会えた時です。TLCを見て、新たなスポットが不意打ちで現れたり、解析をした結果、思っていた結論に至らなかったりと良い意味で結果に裏切られた瞬間です。将来は企業で研究を続ける予定ですが、世界の未発見を開拓していく面白さを伝えられる存在になる上でも、まずは自分が研究への興味、感動が褪せないように好奇心全開で化学の発展に挑戦し続けたいと思っています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

お時間を割きながらも記事を読んでいただき、ありがとうございました。本研究成果は卒業した本間榛花博士から引き継いでまとめたものでした。根本哲宏先生、原田慎吾先生、本間榛花博士、岡部彩華さんをはじめ、沢山の方の助力がなければ本研究をまとめることができませんでした。この場を借りて感謝申し上げます。

私はこの研究を完成させる中で一つ意識して良かったと思えることがありました。それは研究者としてのアイデンティティを確立することでした。結果として、機械学習や新たな解析手法に挑戦し技術を獲得することができ、新しい技術を積極的に研究に取り入れていくというアイデンティティの根幹を形成できたと思っています。大きな挑戦に自分の成長目標を紐づけることで、挑戦の過程で得られる成長幅がぐんと広がることを実感できました。皆さんもぜひ試して見てください!因みに現在は、研究室に爪痕を残せるような研究テーマを見つけるという挑戦の中で、これまでに研究ノウハウと共に蓄えた体脂肪を卒業までに減らすことを目標にしています。(笑)

研究者の略歴

名前:伊藤 翼(いとう つばさ)

所属:千葉大学大学院医学薬学府先端創薬科学専攻 薬化学研究室(根本研究室) 後期博士課程2年

略歴:

2021年3月 千葉大学大学院医学薬学府創薬科学専攻 修了(根本哲宏 教授)

2021年4月  千葉大学大学院医学薬学府先端創薬科学専攻 後期博士課程 入学(根本哲宏 教授)

2022年4月  日本学術振興会 特別研究員 (DC2)

受賞歴:

2021年3月  修士論文発表会優秀発表賞

2021年3月  日本薬学会第141年会口頭発表の部優秀発表賞

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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