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化学者のつぶやき

科学を理解しようとしない人に科学を語ることに意味はあるのか?

 

ケムステーションが2012年の化学コミュニケーション賞をとりました。ぼくもケムステーションで記事を書かせてもらって1年半がたち、自分的には満足度の高い記事も、そうでない記事もあったのですが、総体的にみてとても楽しかったです。

 

 

科学者が科学を語ることの重要性はよく言われています。個人的にこの問題は昔から気になっているテーマです。

僕は学部生時代に文系分野の職種でインターンをしていました。僕は大学に入った当初、科学者になることにあまり興味がなかったのです。しかしそこではアカデミアに対する理解の無さ、もっというと「あいつら、よく分かんない机上の空論ばかりやっている」という物言いを目の当たりにし、ちょっと違和感を感じました。逆にアカデミア界隈の人には、自閉的な大衆蔑視感も時に見受けられます。なんだかんだいって今は化学の大学院生になっているのですが、研究とは別にそこに存在する齟齬みたいなものに僕は興味があります。(これは化学だけではなく、「アカデミアとは?」論に拡張される話題になると思います。)だからケムステでブロガーを募集していたとき、参加することに迷いはありませんでした。

参加する以前に想像していたよりも、 ケムステーションは度量も規模も影響力も大きい団体でした。コンテンツも豊富ですし、そこにいる方々との交流も相当おもしろいです。(もしも興味が有るのでしたら、絶対にケムステのスタッフブロガーになることをオススメします。いやほんとうに楽しいっすよ!)

しかし、ことあるごとに自分の記事の意義みたいなものに対して自問することも多くありました。例えば、僕がナノパーティクルの最新の論文を紹介して、 その結果がいかにエキサイティングなものであったとしても、分野が外れた人にとっては、はっきりいって「トリビア」以上の要素は何もなく、明日には 忘れ去られていってしまう「無駄」な知識にしかならないのでは?ということ(もしくはその可能性)に対する無気力感です。自戒を込めてなのですが、知的な満足感をナルシス ティックに満たすだけで、結局明日には何も残っていないならば、それはどうなんだろうなぁと思うわけです。「自己満足」にならないためにはどうすればよいのだろう?あくまで自分の興味を読者に押し付けたいというのではありません。ただなにが人の興味の間口を広げて、ポジティブなバイブスの波及になりうるだ ろう。そしてそのバイブスって何なのだろう、と考えていたのです。

 

そういう中で最近、非常に気になる物言いが多いです。それは

 

「私はアナタのやっている科学には興味がある。ただしわかりやすく教えてちょうだい!」

「科学者は人々にわからせられないようではダメだぜ!」

 

というものです。サイエンスを語る時のことに関して書いた過去エッセイにも同様なレスポンスはありました。

 ただし残念ながら、分野外の人にわかりやすく一瞬で全てを理解させる術など存在しません。僕 はそういった態度に、知に対する不遜さを感じますし、すべてを人のせいにする、いわゆるモンスターペアレンツ的な何かを見ます。 そういった科学に対する安直な姿勢が理性的な判断を狂わせて、「水からの伝言」的な「理解しやすい」疑似科学が世の中を跋扈している理由になっているとすら思います。ある程度基礎から勉強しないと表層的な理解しか得られないというのは、マッチョな物言いかもしれませんが、真理だと思います。

 

その原因としてやはり時々思うことがあります。科学に興味のない人にとって、科学者および科学は「異文化的」もしくは「異物感的」に思われているのかな?ということです。だから当人が理解できる範囲でしか理解してもらえていないし、つまり「敬遠」されてしまっているのだろうと思います。

 

ここを乗り越えるのに重要なのが「感情的な」近さだと僕は考えています。なぜならある程度の自発的な努力が必要な上で、「分かりたい」と思ってくれるパッションみたいなものがないと何もはじまらないと思うからです。

 

だからアカデミックに近い分野で化学をしている人が、思い上がらないで、もっとポップに、お洒落に、かっこよくなっていけばいいのになぁと思います。馬鹿っぽい言い方をすればもっとモテる人が出てくればいいのにと思います。そうすればより「届く」ようになると思うんですよね、サイエンスの”人力”感が。サイエンスにそんなに詳しくない人が、「わかりやすい」解説をしている状況ってなんか悔しくないですか?

 

前述しましたとおり、化学分野ではケムステを始めとして、佐藤健太郎先生、城戸淳二先生などウェブ・書籍を通じて世の中に発信している人が多く、コミュニケーションがよくはかられていると思います。 ただひとつ残念なのが若い学生の少なさです。さまざまな人を動かすことが出来るかどうかは、シンプルにフックの多様性にかかっていると思います。にも関わらず、発信を続けている人は現状年齢が上の人たちだけ。これはある種の「若者が何を言っているんだ的風土」にも由来するものと思いますが、ちょっと歪な分布な気もするのです。まぁある程度長くやっていないと、注目はされないということもあるとは思うのですが・・・

 

そんな流れで、自分も学生のうちになにかを発信したいと思うようになりました。そんなわけで1年半お世話になったこの「つぶやき」コーナーからは引退し、個人媒体でブログを立ち上げようと思います。(僕は考えも未熟なのでこれから恥も垂れ流すことになると思いますが、またきっと頭のくるったブログになるとは思いますが(笑)よければ見に来てください!)

 

そんなわけで表題「科学を語ることに意味はあるのか?」に対して、僕の現状持ちうる答えは「もちろんある。ただそれによって話した人が自発的に変化しなくては意味が無い。そういう変化を起こすアプローチは1つではない。」ということです。 化学者として、科学者として、カッコいいことをやっている自信はあるので、それをたくさんの人に知ってもらって、好きになってほしい。 ニコニコ楽しんでやりながらやることに加えて、プラスアルファとして外面も意識して、お洒落に、ポップにやっていけば、もっといいバイブスが波及すると思うんですよね。

という想いをこめて、一旦筆を(このコーナーからは)置かせていただきます。ありがとうございました。

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コメント

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  • コメント (42)

  1. 道を極めるだけでなく、非専門家に対して、ポイントを絞って説明する力を付けることは重要だと思う。ただ、思考停止しちゃった人、科学全般に嫌悪感さえ持っている人に説明するには、全く別のスキルが要ると思う。

  2. 科学者が科学を語ることではなく政治を語ることの方が重要かと思います。

  3. わかりやすい言葉で説明すると実物とずれて一人歩きするのが怖い。このまえの”ゾンビ細胞”みたいなことにもなりかねないし。でも控えめに説明するなら導入として使うのは良いかもと思う。

  4. 予防医学・患者教育も医者の仕事だけど、医学は科学に入るのかしらん?

  5. 私は逆の立場なので「素人が中途半端な興味を持つこと」に対する拒絶は常に覚悟しているけど、相手によりけりとはいえ基本的にそれはなさそうなので安心しているところ。

  6. 残念ながら、分野外の人にわかりやすく一瞬で全てを理解させる術など存在しません。僕 はそういった態度に、知に対する不遜さを感じますし、すべてを人のせいにする、いわゆるモンスターペアレンツ的な何かを見ます

  7. 「基礎から勉強しないと表層的な理解しか得られないというのは、マッチョな物言いかもしれませんが、真理」 / 医学は科学かって、、つらいなあ。

  8. 正直、ブルーバックスや新書を読んで分からないというレベルの方に専門知識を説くのは難しいと思うです。

  9. 「分野外の人にわかりやすく一瞬で全てを理解させる術など存在しません」。確かにその通り。医師が同じことを言うとわりと反発を買うけど。

  10. この分野(理解しようとしない人に・・・)に果敢に挑戦する小飼弾 → isbn:4041103851

  11. 科学を理解しようとせず疑似科学を信じる連中は、科学を「英知」や「可能性」ではなく「足かせ」と捉える傾向がある。自分の願望を満たすには科学が邪魔になる。役に立たない。疑似科学の方がいい。という具合に。

  12. 『ただし残念ながら、分野外の人にわかりやすく一瞬で全てを理解させる術など存在しません。』『知に対する不遜さを感じますし、すべてを人のせいにする、いわゆるモンスターペアレンツ的な何かを見ます。』

  13. 「プラスアルファとして外面も意識して、お洒落に、ポップにやっていけば、もっといいバイブスが波及する」coolだね。

  14. 自己宣伝に熱心な人は胡散臭い。世間から相手にされないのは当然。科学の知識や魅力を伝えたいのか,自分のカッコ良さを誇りたいのか。論者が自覚していない欲望を,読者が理解していることもあるだろう。

  15. バカにはわかんねーんだよ!って突き放したいけどそれだと何も解決しない。バカは崇拝していればいいという宗教が流行るのは仕方がない。

  16. 「幽霊が存在しないことを証明してみろ!」

  17. 個人的に一番かっこいいと思うのは、一般には認知されていないけど、実は世界中で使われている、みたいな研究だったりする。

  18. うーむ

  19. 芸術もスポーツも事業も医療もみんな同じだけど、自腹で全部ファイナンスできるならIRなんて不要で、勝手にやればいいのでは

  20. 10年後のリテラシー底上げに一役買えたら素敵じゃんと個人的には思う。科学者じゃないけど。

  21. 化学は物理や生物より“ヘンな人”が寄り付きにくいとかありそう。知らんけど

  22. 科学を理解しようとしない人に科学を語ることに意味はあるのか? – 化学者のつぶやき -Chem-Station-

  23. 理系の基礎研究的なものには、当座の意義を見出しにくいものもあるのかもね。でも理系はまだマシだよ。文系の諸学問なんて、それこそトリビアルな重箱の隅だったり、翻訳だったり、自問自答そのものだったりしてさ。

  24. 専門分野を専門外の人に簡略的に教えるには喩え話を使うか要点だけ絞って簡便化するしかない。だけど簡便化された論理に落とし穴が存在するのは自明であって、それを踏まえた上で語る必要がある。

  25. この世界は人間の知識や知能に合わせて出来ているわけではないので、どうしたって解りにくい物事はある。それを解るようになるには、まず本人の努力が前提。(全てではなく、前提。あとは方法と能力。)

  26. ジョジョの話を聞くのにも、ある程度ジョジョネタ知らないといけない。/"科学を理解しようとしない人に科学を語ることに意味はあるのか? – 化学者のつぶやき -Chem-Station-"

  27. 啓蒙をボランティアの一環のように語るから意味がわからなくなる。科学分からない連中から金ださせたいから入り口設けなくちゃねっていう話だと理解しやすい。

  28. 領域を問わぬ話では。たとえば、競馬についていくら熱心に説明されても、僕には五月蝿いだけ、みたいな。

  29. 多くの人は科学的知識を理解しても便益がない(と思っている)から理解しようとしないのは当たり前。騙されて資源・資産を浪費を予防するための科学的思考教育が必要も、社会にはエセ科学の利害関係者も多く難しい。

  30. やっぱり、“ゆとり教育”っていうのは愚策だったと言わない訳にはいかないと思う。国民には最低限の教養を学ばせてもらえる権利が無いといけない。どうせ勉強させても役に立たないって思ってたのなら、侮辱行為だよ

  31. "そういった科学に対する安直な姿勢が理性的な判断を狂わせて、「水からの伝言」的な「理解しやすい」疑似科学が世の中を跋扈している理由になっているとすら思います。"

  32. 化学に対してはわからないひとは分からないと思って敬遠している。生物(医学を含む)に対してはわからない人も、対象が身近だから、なんとなく自分にも理解できるはずと思っている。…気がする。

  33. "お洒落に、かっこよくなっていけばいいのになぁと思います。馬鹿っぽい言い方をすればもっとモテる人が出てくればいいのにと思います。そうすればより「届く」ようになる"←ではバッタ博士とかいる生物系は安泰かな

  34. だが、後で「貴様らこれまで何も語ってこなかったじゃないか!」と言われたくはない。  ただしだからと行って、今語っても読ませられる保証はない。難しす。

  35. 会社勤めしていると実に様々なシチュエーションを想定したコミュニケーション研修があるんだけど、研究者にも同じような研修があるといいね。

  36. 語り手が多様になれば、聞こうとする人も増えるかも知れない。

  37. とりあえず,わかったつもりにさせるような話って意味ないんだよなってほんとに思う.そしてそう簡単な話で終わらないから研究してるっていうことを皆さんには知ってもらいたい.もちろん科学者はわかりやすく説明す

  38. 最低でも中高6年の下積みが必要な分野の知識を、A4一枚5分で説明し、理解してもらえるようなら、そもそも学校と教師など不要な訳で。しかし分野外の人は、スナック菓子のようなお手軽感覚で得られるのが欲しい訳で

  39. ブロガーやろうかなって思った 面白そう

  40. ああ炎の妖精が「なぜ一度で諦めるんだよ!わからなかったら質問しろよ」と叫んでいる(ナゼェ/ああそういえば質問する風潮があまりないのと「わかりやすさ」を求めてしまう心根は表裏一体だな

  41. 「分野外の人にわかりやすく一瞬で全てを理解させる術」嘘も方便。

  42. “科学を理解しようとしない人に科学を語ることに意味はあるのか? – 化学者のつぶやき -Chem-Station-” http://t.co/ctKkPHh8IT

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