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化学者のつぶやき

なんだこの黒さは!光触媒効率改善に向け「進撃のチタン」

 

 Attack on Titan? Attack on Titanium!

二酸化チタンと言えば、光触媒材料でおなじみ。その真っ白な色彩が印象的です。しかし、通常「光触媒」と言っても、エネルギーが高い紫外線でないとダメで、普通の可視光ではほとんどはたらきません。その元凶の一端が、すべての波長の光をはねかえすその白さにあり、というのは何とも皮肉でしょうか。

白か…いや黒だ

最近[5]になって、ひと手間の化学処理を表面に施すだけで、可視光を効率よく吸収して光触媒に使える特別な二酸化チタンの作り方が報告されました。その色彩は、驚くべきことに、真っ黒すべての波長の光を吸収する闇のような黒にはどのような可能性がひそむのか、エネルギーの高い紫外線から、そうではない可視光へと進撃を続けるチタンの魅力に迫ります。

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処理前の白い二酸化チタン / 処理後の黒い二酸化チタン

素材にとって原材料の価格は重要項目です

金属チタンは高価です。製錬がコストの主な原因で、塩素ガスに作用させたあと、金属マグネシウムで還元するという、とても手間とエネルギーの必要な方法でとりおこなわれています。金属チタンは軽くて強く錆びにくいため、かつてはゴルフクラブなどのスポーツ用品で使われていました。高性能がもとめられる航空機の分野では今もよく使われているそうです。

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チタンの製錬に使われるクロール法の化学反応式

製錬にコストがかかる一方、チタンは地球上で大量に手に入る元素であり、製錬しなくてよければずっと安価に流通しています。クラーク数で順番に並べると、酸素O・ケイ素Si・アルミニウムAl・鉄Fe・カルシウムCa・ナトリウムNa・カリウムK・マグネシウムMg・水素Hに次いで、チタンTi10番目に多い元素です。たくさんあります。決してめずらしくはありません。光触媒作用のある二酸化チタンが、塗料として建築物の壁面など規模が大きな用途であっても、コストを抑えて使うことのできるわけはこのためです。

元素のチタンは、土壌でほとんどは水に不溶なかたちで含まれているため、基本的には植物には吸収されず、必須元素でもありません。人体に影響が少なく、アレルギーもほとんど起こしません。

 黒金竹のようにチタンを使いこなせる生き物は存在しません

二酸化チタンの光触媒作用は、全金属酸化物でもトップクラス。価格や安全さを考えると、他の材料の追随をなかなか許しません。このチタンの酸化物が、いわゆる光触媒作用によりきわだって脚光を浴びたきっかけは、1972年ネイチャーに発表された一篇の論文[1]……

Electrochemical Photolysis of Water at a Semiconductor Electrode.

……でした。権威ある学術論文データベースであるウェブオブサイエンス(Web of Science)によれば、2013年現在、被引用数は驚愕の6469本ノーベル賞はまだかまだかと、各方面から期待される点もうなずけます。

 

進撃の黒いチタン

二酸化チタンに光が当たると、電子(e)と正孔(h)が生成します。正孔とは、あたかも正の電荷を持った電子のようにふるまう固体の結晶構造の中の電子が欠落した部分、のことです。ここに水分および有機物があると、生じた活性酸素によって有機物が分解、さらには水とよくなじむ超親水作用を示します。おかげで、二酸化チタンを壁面に塗装しておくと、光触媒が効いていれば、付着物は分解され、汚れも流れ落とされるという寸法です。

しかしながら、通常、二酸化チタンは紫外光だけしか吸収できません。可視光を使えない理由は、白いのだから、確かにそんな気がします。とはいえ、地表へ降り注ぐ太陽光に含まれている紫外光はたかが知れているため、これでは困ります。そこで、エネルギーの小さな可視光でも使えるように、バンドギャップを小さくしようと、今までいくつかのアプローチで改良が試みられてきました。バンドギャップとは、簡単に言うと、電子が存在することのできない領域にどれくらい幅があるかを示す概念のことです。

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太陽光のすべての波長を使いたい!

よく知られた改良の例としては、酸化チタンに窒素原子をドープ(添加)し、ある種の欠陥を作ってやる方法があります。窒素原子2p軌道からチタン3p軌道へ、電子の遷移を引き起こすのです。この方策も一定の成果を収めましたが、光触媒作用の効率などを考えると、まだまだ課題は多く残っています。

ここで新たに登場したアプローチ[5]が、水素ガスの表面処理です。二酸化チタンの白い微粒子を作ったのち、20気圧の高圧、200度の高温で、5日間にわたり、水素ガス雰囲気下にさらします。そして、できあがったのが真っ黒な色をした冒頭の粉末です。はじめはさぞやびっくりしたことでしょう、論文[5]の本文にも「dramatic color change」と表現されているほどです。確かに、この色彩変化は文句なくドラマティックな変化でしょう。

太陽光を当てて光触媒作用を調べてみると、黒い酸化チタンは、従来の白い酸化チタンに比べて高性能。しかも、光をあてっぱなしで使っても、3週間以上にわたって、性能の低下は観察されませんでした。その他、指標も良好。バンドギャップも3.3eVから1.5eVに小さくなっていました。密度汎関数法による理論計算でも、黒い酸化チタンの有用さを示唆する結果が得られました。

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状態密度(density of state; DOS)図 / 論文[5]より転載

 

巨人の肩の上に立つ

光触媒は、いらない物質をただ分解して、それだけの技術ではありません。例えば、ほしい物質を合成し作り出すときにも使うことができます。二酸化チタンを触媒にしたアルコールとアミンの反応[2]が有機合成化学分野での活用例としてあげられ、この反応を使うとピペコリン酸を華麗に合成することもできます[3]。このように、光触媒の活躍の場はまだまだ広がりうるでしょう。

Standing on the shoulders of giants.

ギリシャ神話では、天空を象徴する神ウラヌスを父に、大地を象徴するガイアを母に、地球最初の子として生まれたティタン十二柱。神々の戦いに敗れ、地底に閉じ込められたこの巨人たちにちなみ、ドイツの化学者クラプロートは1795年ルチル鉱石に含まれる未知の元素をチタン(titanium)と名づけました。この時代からゆうに200年の歳月が過ぎました。光触媒分野を含め科学は発展を続け、先人の叡智の上に新たな発見を重ね巨人の肩の上に立つことで、これからも進歩していくはずです。

参考論文

[1] “Electrochemical Photolysis of Water at a Semiconductor Electrode.” Akira Fujishima & Kenichi Honda Nature 1972 DOI: 10.1038/238037a0

[2] “A novel photocatalytic process of amine N-alkylation by platinized semiconductor particles suspended in alcohols.” Bunsho Ohtani et al. J. Am. Chem. Soc. 1986 DOI: 10.1021/ja00262a028

[3] “Photocatalytic one-step syntheses of cyclic imino acids by aqueous semiconductor suspensions.” Bunsho Ohtani et al. J. Org. Chem. 1990 DOI: 10.1021/jo00308a005

[4] “Visible-Light Photocatalysis in Nitrogen-Doped Titanium Oxides.” Asahi Ryoji et al. Science 2001 DOI:10.1126/science.1061051

[5] “Increasing Solar Absorption for Photocatalysis with Black Hydrogenated Titanium Dioxide Nanocrystals” Xiaobo Chen et al. Science 2011 DOI: 10.1126/science.12004

 

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