[スポンサーリンク]

一般的な話題

タンパク質立体構造をPDBjViewerで表示しよう

[スポンサーリンク]

 

知っている人は知っている。意外と簡単。タンパク質の立体構造データの取り扱いについて、初心者向けのレクチャーをしたいと思います。

表示機能を備えた可視化ソフトウェアビュワー)はゴマンとありますが、ダウンロードして立ち上げが簡単・軽くてサクサク動く・初心者向けのシンプルな機能・日本語のマニュアルもあるよ、ということで「PDBjViewer」を紹介したいと思います。

Greenがケムステで書かせていただいている記事には、しばしばタンパク質の立体構造を描いた図が登場します。今日はコレの書き方を紹介します。

ちなみに、作業環境はWindowsなので、Macintoshなど他の場合ではどうなのかは、あまり確認していません。ご了承ください。とはいえ、だいたい同じです。

 

  1. タンパク質の立体構造データを手に入れよう「Protein Data Bank」

Protein Data Bankと呼ばれるタンパク質立体構造の情報を取りまとめる機関は、米国「RCSB PDB」・欧州「PDBe」・日本「PDBj」の3つが拠点になっています。データは3機関で共有されているため、本質的にはどこも内容は同じです。タンパク質の結晶構造解析をした場合、これらのどこかに登録しないと、たいてい論文に載せられないので、実質的にすべての構造データがここにあります。ただ、検索窓など、使いやすさが少しずつ異なるので、自分の好みでどれかひとつを選ぶとよいでしょう。例えば、PDBjは部分的に日本語なので取っつきやすいかもしれません。わたしは、いつもRCSB PDBを使っているので、こちらで使い方を説明させていただきます。

まず「PDB」でグーグル検索しましょう。PDBjもRCSB PDBも上位にあるはずです。とりあえずRCSB PDBのホームページにアクセスしてみてください。

 

P1.PNG

そうすると、ホームページの上部に検索窓があるはずです。デフォルトでは「All categories」になっているはずなので、そのまま今回は試しに「FLOWERING LOCUS T」で検索してみてください。

 

P2.PNG



そうするとシロイヌナズナのフロリゲンの立体構造が引っかかるはずです。この論文は「A divergent external loop confers antagonistic activity on floral regulators FT and TFL1 (EMBO 2006)」に発表されているみたいですね。

構造データにはそれぞれPDB IDが割り振られており、この結晶構造解析の場合は1WKPです。先ほどは適当な語句を検索窓に打ち込みましたが、PDB IDを打ち込んでも、この構造データのページにいきつきます。PDB IDは結晶構造解析を報告したEMBO2006の論文にも記載されているはずです。

このページには、いろいろ情報が書いてありますが、とりあえず「Downloads Files」をクリックして、「PDB File (Text)」をダウンロードしてください。デスクトップなど分かりやすい場所に保存して、「1WKP.pdb」のファイルがあることを確認してください。

 

  1. タンパク質用のビュアーを用意しよう

立体構造のデータは拡張子「.pdb」が基本です。頑張れば低分子化合物用のビュアーでも見られる場合もありますが、動作が軽く編集もしやすいタンパク質用のビュアーがあった方が便利です。ダウンロードが簡単な「PDBjViewer」をここでは紹介します。「PDBjViewer」でグーグル検索すると上位に表示されるはずなので、そこからチェックしてみてください。

P3.PNG

「ダウンロード・インストール」の項目に「jnlpファイル[Java Web Start版(推奨)」とあるので、これを右クリックして、「対象をファイルに保存」しましょう。前後にいろいろと書いてありますが、たいていのパソコンにJavaは入っているはずなので、とくに気にしなくてもたいていは大丈夫です。

P4.PNG

デスクトップなど分かりやすい場所にダウンロードしたら、アイコンをクリックすると立ち上がります。「File」・「Open-Local」・「PDB」で先ほどの「1WKP.pdf」を開きましょう。マウス操作でタンパク質の位置を調整できます。最初はDisplayがWireframe、ColorsがCPKで表示されると思います。このままでは見づらいので、「Display」・「Ribbons」・「Colors」・「Chain」で表示を変えてみましょう。

P5.PNG

ここで、あれれっと思った方は、だいぶ生物化学に造詣のある方でしょう。フロリゲンが四量体タンパク質で機能しているわけがありませんね。

 

  1. PDBファイルを書き換えよう  

「分子が空間的に繰り返しパターンを持って配列した物質」を結晶と言います。生体内では単量体として機能する分子も、結晶では隣り合っていて当然です。ものによってはひとつだけエックス線回折を読み取ったデータもありますが、今回のように多くの場合そうとは限りません。

さらに、意地悪なことをしてみましょう。下の「jV>」にコマンドを打ってみましょう。「select hetero」と打ち込んでください。次にまた「Colors」・「CPK」・「Display」・「Spacefill」です。

P6.PNG

なんじゃ、この赤玉は!

 

結晶水として含まれていた水分子の酸素原子です。絵を作るには、水分子も、タンパク質の多量体も、不都合ですよね。ちなみに、水素原子がないじゃんと言いたくなるかもしれませんが、結晶構造解析の場合、水素原子は小さすぎて技術的に位置を決めることが困難なため、たいていは構造データに入っていません。

では、PDBファイルの編集に入りましょう。ビュワーはいったん閉じます。デスクトップなど分かりやすい場所に保存した「1WKP.pdf」を右クリックし、「プログラムから開く」・「Word Pad」を選択してください。そうすると、バーッとおびただしい情報が表示されるはずです。

P7.PNG

いくらかすると、「ATOM」から始まる行が登場すると思います。第1行目にはペプチド鎖Aのアルギニンの窒素原子の座標が示されています。

さらに下の行を見ると、ペプチド鎖Aからペプチド鎖Bに変わります。ペプチド鎖B・ペプチド鎖C・ペプチド鎖Dはいらないので削除してしまいましょう。始点を一度クリックし、そのあとSHIFTを押しながら終点をクリックすれば、大きな範囲でも選択でき、そのままキーボードのDeleteキーなりを押せばすぐに済むでしょう。

P8.PNG

次に「HETATOM」の項目です。酵素の基質や、受容体のリガンドの場合に限っては、いくらか残しておいた方がよいでしょう。ただ、生体内でフロリゲンに相互作用し何らかの機能を持つ低分子は知られていないので、今回はすべて消してしまって構いません。これで編集が完了です。「ファイル」から「上書き保存」してください。

 

  1. 画像を出力しよう

編集したPDBファイルをまたPDBjViewerで読み込みます。自分好みに表示をいじってください。マニュアルは日本語版があるのでそちらをご覧ください(http://www.pdbj.org/jv/manual/index_ja.html)。

 

コマンド例.

select backbone(主鎖を選択)

select protein(タンパク質を選択)

select ligand(リガンドを選択)

select *:a(ペプチド鎖Aを選択)

select 6:a(ペプチド鎖Aの6番を付されたアミノ酸を選択)

select 6-50:a(ペプチド鎖Aの6番から50番を付されたアミノ酸を選択)

select ARG(アルギニンを選択)

background white(背景を白に)

だいぶ慣れましたでしょうか。できあがりましたら「File」・「Save」・「PNG」か「File」・「Save」・「JPEG」で画像ファイルとして保存ください。

 

P9.PNG

 

以上、初心者向けのレクチャーでした。気が向いたら、PDBjViewer 以外のツールも紹介するかも知れません。ホモロジーモデリングによる立体構造予測、リガンド結合部位の予測、静電ポテンシャルマップの描き方などなど。分子動力学シミュレーションや、フラグメント分子軌道法もやりたいな……。

Green

投稿者の記事一覧

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. Brevianamide Aの全合成:長年未解明の生合成経路の謎…
  2. カーボンナノチューブをふりかえる〜Nano Hypeの狭間で
  3. 史上最強の塩基が合成される
  4. 有機化学者のラブコメ&ミステリー!?:「ラブ・ケミスト…
  5. OIST Science Challenge 2022 (オンラ…
  6. アルキルラジカルをトリフルオロメチル化する銅錯体
  7. 化学を広く伝えるためにー多分野融合の可能性ー
  8. 研究最前線講演会 ~化学系学生のための就職活動Kickoffイベ…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第34回ケムステVシンポ「日本のクリックケミストリー」を開催します!
  2. Reaxys体験レポート:ログイン~物質検索編
  3. 共有結合性リガンドを有するタンパク質の網羅的探索法
  4. Accufluor(NFPI-OTf)
  5. 製薬各社の被災状況
  6. 分子内ラジカル環化 Intramolecular Radical Cyclization
  7. マッチ博物館
  8. 有機合成化学協会誌2021年6月号:SGLT2阻害薬・シクロペンチルメチルエーテル・4-メチルテトラヒドロピラン・糖-1-リン酸・新規ホスホジエステラーゼ阻害薬
  9. 「魔法の水でゴミの山から“お宝”抽出」
  10. 化学者がMidjourneyで遊んでみた

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年4月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

注目情報

最新記事

メカノケミカル有機合成反応に特化した触媒の開発

第 497回のスポットライトリサーチは、北海道大学総合化学院 有機元素化学研究室…

ポンコツ博士の海外奮闘録XVII~博士,おうちを去る~

ポンコツシリーズ国内編:1話・2話・3話国内外伝:1話・2話・留学TiPs海外編:1話・…

研究内容を「ダンス」で表現するコンテスト Dance Your Ph.D.

アメリカ科学振興協会(AAAS)と科学誌Scienceが開催する論文ダンスコンテスト「Dance…

ゲノムDNA中の各種修飾塩基を測定する発光タンパク質構築法を開発

第496回のスポットライトリサーチは、東京工科大学大学院バイオ・情報メディア研究科 バイオニクス専攻…

SDGsと化学: 元素循環からのアプローチ

概要 元素循環化学は、SDGs の達成に寄与するものとして近年関心が増している。本書では、元…

【技術者・事業担当者向け】 マイクロ波がもたらすプロセス効率化と脱炭素化 〜ケミカルリサイクル、焼成、乾燥、金属製錬など〜

<内容>脱炭素化と省エネに貢献するモノづくり技術の一つとして、昨今注目を集めているマイクロ波。当…

分子糊 モレキュラーグルー (Molecular Glue)

分子糊 (ぶんしのり、Molecular Glue) とは、2個以上のタンパク質…

原子状炭素等価体を利用してα,β-不飽和アミドに一炭素挿入する新反応

第495回のスポットライトリサーチは、大阪大学大学院工学研究科 応用化学専攻 鳶巣研究室の仲保 文太…

【書評】現場で役に立つ!臨床医薬品化学

「現場で役に立つ!臨床医薬品化学」は、2021年3月に化学同人より発行された、医…

環状ペプチドの効率的な化学-酵素ハイブリッド合成法の開発

第494回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院生命科学院 天然物化学研究室(脇本研究室) 博…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP