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【速報】ノーベル化学賞2013は「分子動力学シミュレーション」に!

 

速報:スウェーデンの王立科学アカデミーは9日、2013年のノーベル化学賞のをマーティン・カープラス(仏ストラスブール大学)、マイケル・レビット(米スタンフォード大学)、アリー・ワーシェル(米・南カリフォルニア大学)の3氏に贈ると発表した。

 

今年のノーベル化学賞は理論分野から!3人の化学者に贈られることが決定しました。受賞理由は

 ”for the development of multiscale models for complex chemical systems”

「複雑な化学システムのマルチスケールモデル開発」

簡単にいえば、タンパク質や生体分子の振る舞いをコンピュータで計算しシミュレーションする方法を開発した先駆者達です。ケムステではとりあえず速報として、彼らの業績と研究内容を簡単に紹介しましょう!

パソコンで実験?

化学といえば、実験です。試験管やフラスコ試薬を混ぜ混ぜ、時々爆発…なんてイメージが頭に浮かぶと思います。そのイメージはあながち間違っておらず、かつての化学は実験室でのみ行われていたものでした。「実験しないとわからないよ!」――特に化学者の皆さんなら、それは今日でも同様だと同意してくれると思います。しかしコンピューターを使って、ある程度それが予測できたり、分子モデルを組んで議論したり、化学反応の動きやメカニズムを計算できたらどんなにすばらしいことでしょうか。

 

2015-11-14_03-49-48

実験とコンピュータ化学

古典力学と量子化学

原子を、結合をばねと考えて、それぞれのパラメータ(振動や角度など)を最適化し、簡単な分子構造を全体として最安定な構造にもっていく計算は可能でした。これは古典力学の考え方を使ったやり方で、一般に分子力学法(Molecular Mechanics: MM)と呼ばれています。

ただ、実際の化学反応はとにかく複雑。電子が原子間で瞬時に移動したりと、とってもダイナミックなのです。こうした現象を精密に議論するには、量子化学計算(Quantum Mechanics: QM)と呼ばれる方法が必要です。つまり量子力学の諸原理をもとに、原子と電子の振る舞いを計算し、そこから分子の構造・物性・反応性を説明づける必要があるわけです。簡単に言ってしまうなら、細部まで詳しく見なければ何も言えないのです。

じゃあ何でも量子化学計算すればいいじゃないか!と考えてしまうところでしょうか。しかしこれには大きな難点があります。精度の良い計算ができる反面、めちゃくちゃ時間がかかるのです。

ごく単純な分子計算であれば問題ないのですが、タンパク質のような複雑巨大分子が関わるとどうでしょう?実は、現在の超高速スーパーコンピューター(例えば日本の誇る「」)を用いても、タンパク質全体の量子化学計算というのは到底出来るものではありません。たとえ一個であっても、それほどまでに途轍もない計算量になってしまうのです。昔のコンピューターならなおさらで、複雑な分子が絡む化学現象を扱うことは、事実上不可能だったのです。

 

古典力学と量子化学のコラボーレーション

タンパク質などの複雑な分子(化学システム)をマルチスケールで見る!

それでもどうにかして複雑なものを計算したい!!と化学者たちは頭をひねって考えてきました。それを実現させたアイデアとはどんなものでしょうか?

最大のポイントは、大きな分子を全部量子化学計算すると大変なので、ほとんどの部分は分子力学法で求め、化学現象に関わる重要部分だけ量子化学計算を使うという工夫にありました。

これについては、ノーベル賞のプレスリリースに記載されている図がとってもわかりやすいです。たとえばタンパク質の場合は、活性中心まわり(真ん中)は量子化学計算(QM)で詳しく解き、おおまかな構造だけで必要十分な「覆いの部分」は分子力学(MM)で計算すれば事足りる、とする考えです(下左図)。

写真で例えるなら(下右図)、見たい顔の部分だけくっきりと、それ以外の周辺はボケボケでもまぁ見えてればいいや、という感じですね。

 

 

2015-11-14_03-50-51ノーベル賞プレスリリースより。
真ん中の重要部位は詳しく(量子化学計算で)解いて、それ以外はざっくりと(分子力学法)

これは現在QM/MM法(Quantum Mechanically/Molecular Mechanically:量子力学的/分子力学的)と呼ばれている計算手法に相当します。この手法が発展することにより、大幅に計算時間を短縮させつつ、必要十分な精度で計算を行えるようになり、巨大分子の化学的挙動をコンピュータ上で「視る」ことが可能になったのです。

QM/MM法の「原案」となるものは、1972年にカープラスとワーシェルによって報告[1]されました。その後1976年に、レビットとワーシェルがさらに磨きをかけ、手法として確立しました。[2]

このように量子-古典複合シュミレーション法の原案を開発したことが、3者がノーベル賞の授与対象になった大きな理由となっています。

  • タンパク質が動いて見えた!
1977年、カープラスらは、生体高分子の挙動を分子動力学法(Molecular Dynamics)でシミュレーションすることに成功しました。ウシすい蔵トリプシン阻害剤(BPTI)という実に58残基もあるペプチドを、コンピュータ上で「動かして」みせたのです。

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カープラスらが分子動力学シュミレーションを行ったBPTIの構造(58個のアミノ酸からなるタンパク質)

これはタンパク質のような複雑分子をコンピュータ上でシミュレートできた、世界で初めての研究です。これを皮切りに、生体高分子のシミュレーションは発展を遂げていくこととなります。

 

複雑分子のシミュレーションソフトいろいろ

このシミュレーションソフトの代表格と呼べるものが、カープラスらによって開発されたCHARMMです。小さな分子はもちろん、酵素などの巨大分子から多成分の分子複合体まで、あらゆる分子のエネルギー・ダイナミクスを計算できる優れたパッケージです。現在でもアップデートが行われており、各方面で広く使われています。

とくに創薬分野では、開発可能性を少しでも上げるべく、薬のもととなる分子を合理的にデザインしていくプロセスが大変重要になります。分子が標的タンパク質にどのように作用し、結合しているのかをシュミレーションできれば、これがとてもはかどることになります。実際、彼らの開発した計算手法は、薬作りの先端で大活躍しています。

ちなみにタンパク質の分子動力学シュミレーションに使われるソフトは、CHARMM以外にもあります。

たとえばAMBERと呼ばれるソフトは、計算化学者P.コールマンによって開発されました。残念ながら既に亡くなられており、存命であれば同時受賞の可能性もあったと言われています。
他にもQM:MM法の弱点をカバーしたものにONIOM法[3]があります。これを開発したのがエモリー大学の諸熊奎治教授。 複合シュミレーション法が受賞理由であったならもしや…と思わせるほどの業績なのですが、今回のノーベル賞プレスに「受賞者以外に分野に貢献した化学者」として挙げられてしまっていることもあり、残念ながら今後の受賞は難しくなったように思われます。

おわりに

以上、速報として報告させていただきました!

カープラスに関しては2011年のケムステでも予想しておりましたが(トムソン・ロイターも同様に予想)、予想のタイミングがちょっと早かったかもしれませんね。2年遅れではありますが、一応の的中と言うことでまずはホッとしております。

ノーベル賞を受賞された方々、この度は栄えある受賞、大変おめでとうございました!!

 

[追記] Facebookと連動した、ケムステの2013年ノーベル化学賞予想にご参加いただきましてありがとうございました!281票の投票があり、今回の受賞を的中させたのはなんと2人!!!もれなくアマゾン1万円分ギフトカードをプレゼントしたいと思います。後ほどご連絡させていただきます。

 

関連文献

  1.  Warshel, A.; Karplus, M. J. Am. Chem. Soc. 1972, 94, 5612. DOI: 10.1021/ja00771a014
  2. McCammon, J. A.; Gelin. B.R.; Karplus, M. Nature 1977267, 585. DOI: 10.1038/267585a0
  3. Maceras, F.; Morokuma, K. J. Comp. Chem. 199516, 1170.

外部リンク

 

関連書籍

 

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webmaster
Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院准教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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