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2011年ノーベル化学賞予想ーケムステ版

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nobel2011forecast.png

さて今年もこの季節がやって来ました。ノーベル賞!化学賞は2011年10月5日夕刻に発表予定です。

ケムステでも2007年からノーベル化学賞の予想を行なっています。これまでの結果は以下のようになります。

 

 2007年 Gerhard Ertl  的中!(何人かあげたなかの一人)

2008年 Osamu ShimomuraMartin ChalfieRoger Y. Tsien 予想なし

2009年 Venkatraman RamakrishnanThomas A. SteitzAda E. Yonath 的中!(2007年予想。Thomas A. Steitzのみ)

2010年 Richard F. HeckEiichi NegishiAkira Suzuki 的中!(2009年予想クロスカップリング Akira Suzukiのみ)

2011年 ????

昨年は日本人が受賞したためかなりのお祭りさわぎとなりましたが、今年はいかがなものでしょうか。既に数社の記者から「今年は誰なの?」と連絡がありましたが、そんな簡単に当てられるものでもないですし、当たったからといって何にも得はありません。特に近年のノーベル賞は合理的予測が難しいため(【参考】ノーベル賞の合理的予測はなぜ難しくなったのか?)、予想に対してある程度の根拠はあれども、当てるのは大変難しいのです。

しかしながら1年に一回化学分野が大注目されるこの時期。というわけで、今年も予想してみましょう!

 

最近1点狙いばかりでしたので今年は3点狙いでいきます(苦笑)。

nobel2011candidate.png

1.レーザー化学・分光学による化学反応追跡・検出法の開発 Richard N. Zare (リチャード・ザーレ) 分析化学・物理化学

2.タンパク質中の電子移動反応の進展と長距離電子移動の原理の解明 Harry B. Gray (ハリー・グレイ) 理論化学・生物無機化学

3.分子力学シュミレーションへの貢献 Martin Karplus(マーティン・カープラス)[対象分野を広げればNorman L. Allinger(ノーマン・アリンジャー)] 理論化学・計算化学

 

3は今年のトムソンの予想と若干かぶってしまいましたが、今年は主に理論化学・分析化学(物理化学も含む)分野で多大な貢献を行なった化学者を候補に上げてみました。

以下、予想の経緯を示します。

 

  • 予想の経緯―分野によって受賞しやすい年がある?

以前にもノーベル化学賞の受賞には分野によって受賞しやすい年があることをお話ししました。現代は化学分野も細分化され、統合的に評価するのが困難となっているために、ある程度の分野の持ち回りがあるのではないか?という予想ができます。1984年以降に化学賞を受賞した化学者たちのおおまかな分野は以下のとおり。

 

1984 有機化学
1985 分析化学
1986 理論化学
1987 有機化学(超分子化学)
1988 生化学
1989 生化学
1990 有機化学
1991 分析化学
1992 理論化学
1993 生化学
1994 有機化学
1995 その他(環境化学)
1996 物理化学、有機化学
1997 生化学
1998 計算化学(理論化学)
1999 その他(分析化学、理論化学)
2000 その他(高分子化学)
2001 有機化学
2002 分析化学
2003 生化学
2004 生化学
2005 有機化学
2006 生化学
2007 無機化学(物理化学)
2008 生化学
2009 生化学
2010 有機化学
これをもっとわかりやすいように分野別に分けると以下のとおり。
有機化学 分析化学 理論化学 生化学 物理化学 無機化学
1984 1985 1986 1988 1996 2007
1987 1991 1992 1989 2007
1990 1999 1998 1993
1994 2002 (1999) 1997
(1996) 2003
2001 2004
2005 2008
2010 2009
ここから読み取れるのは
1. 圧倒的に有機化学、生化学分野からの受賞が多い
2. 有機化学は4?5年のペースで受賞している
3. 生化学は連続年受賞が多い
4. 分析化学や理論化学からは10年ほど受賞者がでていない
5. 物理化学、無機化学はそもそも少ない
ということです。
1は研究者人口の多さと分子変換が化学の本質ですから、仕方が無いことなのかもしれません。
2に関しては恐らく本当で2010年に有機化学が受賞したため、次の受賞は早くとも2013~15年となるでしょう(破っていただきたいですが。分野間を超えた研究、有機+somethingは別扱いです)
3に関しては生命科学分野は医学・生理学賞と相まって人命に直結する研究が多いためです。
4に関して。分析・理論分野は他分野の化学を変えてしまうくらいすばらしい貢献であるにも関わらず、やはり若干縁の下の力持ちというか基礎化学の側面が多く、ノーベル賞の受賞理由になかなか合致しないのが原因でしょうか。
5に関しても4と同様で、物性評価を超えてモノになった研究に対しては、ノーベル物理学賞が別に用意されているとも取れます。
分野を定義すること自体がナンセンスといわれかねないほどに最近の化学は多種多様なものになっており、今後はこの予測方法も難しくなってくると思いますが。
こう考えてみると、生化学分野を予想したほうが当たりやすそうに思いますが、今年はあえて長く受賞者の出ていない、4の分析化学・理論化学分野に焦点を当ててみました。
  • 話題性―今回に関しては関係ない?

時代背景に基づいた話題性もノーベル賞選定の重要なファクターです。研究のアウトプットが明確であり、今では誰しも使っているようなものは、自ずと皆が話題に挙げやすいものとります。他分野の科学で広く使われているという点も話題性には重要です。

しかし縁の下の力持ちとしての分析分野・理論分野に関しては、一般への話題性からはやや離れた位置づけにあるように思えます。専門家の間で既に周知されて、実用的に使われている理論もしくは分析機器を開発した人こそが対象になりそうな予感です。

そういう観点で考えてみると、

Zareらの「レーザー光を利用した分子レベルでの化学反応解析」や、キャピラリー電気泳動をはじめとする「微量分離分析法へのレーザー励起蛍光検出」は広く用いられている。

Grayらは近距離でしか電子移動は起こらないものと考えられていた背景にあって、3ナノメートル以上離れた距離でも電子移動を起こしうる系を見いだした。これは光合成をエネルギー移動/貯蔵系として捉えるための重要な基礎的知見となった。

Karplusらはタンパク質の分子運動の詳細を解析するために、世界で初めて分子動力学計算を行なった。ここから分子動力学シュミレーションが発展した。

となります。

 

  • 他の国際賞の受賞―ほぼ問題なし。

ノーベル化学賞の前哨戦とも言われている賞がいくつかあります。日本の賞ですと京都国際賞がその部類に入りますが、他に著名なものとしてはウルフ賞プリーストリーメダルウェルチ賞などが挙げられます。今回の候補者を見てみると

Zare: 1999年ウェルチ賞 2005年ウルフ賞 2010年プリーストリーメダル

Gray: 1991年プリーストリーメダル 2004年 ウルフ賞 2009年 ロバート・ウェルチ賞

Karplus: なし

とKarplus以外はひと通りを受賞しており、まさにノーベル化学賞最有力候補者であることがわかります。

 

  • 受賞年齢―死んだらもらえないノーベル化学賞

タイトル通り、どんなに化学にすばらしい貢献をしていても故人は受賞対象者にならないノーベル化学賞。人間年をとれば死期が近づいてくるのは当然です。候補者の年齢を見てみると、

Zare: 72歳

Gray: 76歳

Karplus:81歳

とかなりお年を召しており、年齢的にもそろそろいただきたいところです。

 

  • 日本人の受賞候補者はいないの?

難しいところですが、今回はおそらく難しいかもしれません。仮にKarplusが受賞し、授賞理由が計算化学寄りならば、上記に挙げたAllingerに加えてエモリー大学名誉教授の諸熊 奎治が入ってくるかもしれません。日本人に限定しなければ、Noel S. Hush (均一系/不均一系電子移動過程の研究および分子エレクトロニクスへの寄与) 、William H. Miller (化学反応ダイナミクス・速度理論に関する萌芽的研究)なども気になるところです。もちろんトムソンで候補に挙げられていた、 Allen J. Bardや過去に候補に挙げたJohn B. Goodenough(リチウムイオン二次電池の開発)も有力候補でしょう。今回は前述したように「ガチでの有機化学・生化学分野はない」という予測のもとに行なった受賞者予想です。個人的にはリビングラジカル重合で京大の澤本光男先生が出てくると日本が盛り上がるのでありだとも思いますが…

 

以上、今年は3件の2011年ノーベル化学賞受賞候補者を用意してみました。一般にわかりやすく、そして日本人が受賞しないと盛り上がらないマスメディアには物足りない結果となるかもしれないですが、今年も年に一度の祭典を楽しみに待ちましょう!

 

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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