[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

新しい構造を持つゼオライトの合成に成功!

[スポンサーリンク]

第109回のスポットライトリサーチ。今回は横浜国立大学大学院工学研究院 機能の創生部門 窪田好浩研究室 博士課程2年中澤直人さんにインタビューを行いました。

窪田研究室では、環境を守る材料の開発に取り組んでおり、結晶またはそれに近い構造を持つゼオライトやメソポーラスシリカに代表される「規則性多孔体」の創生で顕著な研究成果を挙げています。

今回、中澤さんは全く新しい構造を持つゼオライトの合成研究に取り組み、見事成功されました。この新規ゼオライトはYNU-5と命名されています。(Yokohama National Universityが由来でしょうか)

JACS誌に受理された本成果はプレスリリースもされましたので、今回インタビューをさせていただく運びとなりました。

A Microporous Aluminosilicate with 12-, 12-, and 8-Ring Pores and Isolated 8-Ring Channels

N. Nakazawa*, T. Ikeda*, N. Hiyoshi, Y. Yoshida, Q. Han, S. Inagaki, Y. Kubota (*contributed equally)

J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 7989. DOI: 10.1021/jacs.7b03308

論文筆頭著者の中澤さんについて、窪田先生から以下の通りコメントをいただきました。

中澤君は、いわゆる外柔内剛型の人物ですが、「型」にはめるのが妥当ではない程、個性にあふれています。研究を始めてからまだ日の浅いうちに、本件に限らず、多くの興味深い発見をしてきました。彼特有のセンスのなせる業だと思います。他人が見ていないものをよく見ています。今回の発見も、関連分野の研究者すべてに同じチャンスがあったはずですが、彼だけがそれをものにしました。これほど簡単なことを世界中の誰も気づかなかったことが、むしろ意外な位で、まさにコロンブスの卵です。これに甘んじることなく、今持っている才能を生かしつつ、より困難な課題に立ち向かってもらえればと思います。

それでは研究成果をご覧ください!

Q1. 今回の受賞対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

我々は新規骨格を有するYNU-5ゼオライトを発見しました。ゼオライトとは結晶性アルミノ珪酸塩であり、吸着剤・イオン交換剤として幅広く利用されており、また石油化学プロセス、ファインケミカル合成および自動車排ガス浄化プロセスでの触媒として非常に有用な材料です。今回発見されたYNU-5は、2次元に広がる大細孔 (12-ring) (といっても7.4 Åですが)と小細孔 (8-ring, 4 Å) からなる3次元細孔と、孤立した1次元の8員環細孔を有しており、たいへんユニークな構造をもっております。日本人が見つけた新規骨格ゼオライトとしては、2000年の窪田ら (当時 岐阜大) によるGON型、および2004年の池田ら (産総研) によるCDO型に続き、3例目となります。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

新規大細孔ゼオライトが得られる合成条件を安価に実現したことにこだわりがあります。ゼオライト合成では細孔を形成させるための鋳型剤(アミン系を中心とする低有機分子でいろいろあります)が一般に使われますが、今までは小さな鋳型剤を用いると大きな細孔が形成しないという問題がありました。また大きな鋳型剤は高価であり、かつ応用上重要であるアルミニウム原子の導入が難しいという問題がありました。我々の方法では小さな鋳型剤を用いて、特殊な濃厚シリケート溶液の組成を見つけ、そこへFAU型とよばれる別のゼオライトを原料として投入することで、新規ゼオライトの水熱合成に成功しました。FAU型ゼオライトは国内でも工業化されていて、低コスト合成に寄与するシリカ−アルミナ原料と見なすことができます。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

新規ゼオライトだけが純相で結晶化する条件を見つけることが非常に難しかったです。YNU-5が初めに得られたサンプルでは、少なくとも4種類もの副生成物が混ざっておりました。不純相を取り除くにはどうすればいいか悩んだ結果、合成系に含まれる水の量を緻密にコントロールすることが肝であることに気づきました。ここが一番のポイントです。このおかげで、ともすると数百回もの試行錯誤が必要だったことを、数十回で済ませることができました。

また他の合成ゼオライトでも共通のことですが、YNU-5では大きな単結晶が得られないことから構造解析も大変でした。近年粉末X線回折法を使って未知構造を解明する技術は大きな進歩を見せていますが、YNU-5ほどの大きなユニットセルを持ち多数の原子からなる複雑な無機化合物の構造を解明するのはまだまだ容易ではありません。結晶性の良いサンプルが得られたことに加え、固体NMRをはじめ多くの分析データを加味するとともに、最新の解析技術を駆使して何とか解明できました。もちろん、ひとえに共同研究者の池田さんのおかげです。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

新規材料を合成することで化学に貢献していきたいと思います。物質は機械のように思い通りデザインできるものでは決してありませんが、実験化学を通じて少しでも原子・分子をコントロールができるような新しい技術やノウハウを見つけたいと思います。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

人間の創造力および好奇心は非常に神秘的なもので、無いものを創り出す「0を1する」作業は決してコンピューターには真似できません。しかし、これらの力はどこから湧いてくるかもわからず、また些細なことで失われやすいという儚いものでもあります。だからこそ大事にする必要があります。研究活動に限らず、自分にしかできないことで他者に貢献することは、それこそ社会における己の存在意義と直結し、なにより有意義な事だと思います。

関連リンク

横浜国立大学大学院工学研究院 機能の創生部門 窪田好浩研究室

新規な骨格構造を持つゼオライトの合成に成功

研究者のご略歴

名前 : 中澤 直人

所属 : 横浜国立大学大学院工学府機能発現工学専攻 窪田・稲垣研究室

研究テーマ : 新規ゼオライト合成

Orthogonene

投稿者の記事一覧

有機合成を専門にするシカゴ大学化学科PhD3年生です。
趣味はスポーツ(器械体操・筋トレ・ランニング)と読書です。
ゆくゆくはアメリカで教授になって活躍するため、日々精進中です。

http://donggroup-sites.uchicago.edu/

関連記事

  1. 239th ACS National Meeting に行ってき…
  2. 岸義人先生来学
  3. 資金洗浄のススメ~化学的な意味で~
  4. 高硬度なのに高速に生分解する超分子バイオプラスチックのはなし
  5. 第46回ケムステVシンポ「メゾヒエラルキーの物質科学」を開催しま…
  6. Zachary Hudson教授の講演を聴講してみた
  7. タンパク質の定量法―ローリー法 Protein Quantifi…
  8. SNSコンテスト企画『集まれ、みんなのラボのDIY!』

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第103回―「機能性分子をつくる有機金属合成化学」Nicholas Long教授
  2. ルテニウム触媒を用いたcis選択的開環メタセシス重合
  3. 期待のアルツハイマー型認知症治療薬がPIIへ‐富山化学
  4. フランスの著名ブロガー、クリーム泡立器の事故で死亡
  5. English for Presentations at International Conferences
  6. 分子の形がもたらす”柔軟性”を利用した分子配列制御
  7. 1-ヒドロキシタキシニンの不斉全合成
  8. ダニエル・ノセラ Daniel G. Nocera
  9. 高分子鎖デザインがもたらすポリマーサイエンスの再創造|オンライン R2
  10. ポール・ロゼムンド Paul W. K. Rothemund

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年7月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2025年7月号:窒素ドープカーボン担持金属触媒・キュバン/クネアン・電解合成・オクタフルオロシクロペンテン・Mytilipin C

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年7月号がオンラインで公開されています。…

ルイス酸性を持つアニオン!?遷移金属触媒の新たなカウンターアニオン”BBcat”

第667回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科 野崎研究室 の萬代遼さんにお願いし…

解毒薬のはなし その1 イントロダクション

Tshozoです。最近、配偶者に対し市販されている自動車用化学品を長期に飲ませて半死半生の目に合…

ビル・モランディ Bill Morandi

ビル・モランディ (Bill Morandi、1983年XX月XX日–)はスイスの有機化学者である。…

《マイナビ主催》第2弾!研究者向け研究シーズの事業化を学べるプログラムの応募を受付中 ★交通費・宿泊費補助あり

2025年10月にマイナビ主催で、研究シーズの事業化を学べるプログラムを開催いたします!将来…

化粧品用マイクロプラスチックビーズ代替素材の市場について調査結果を発表

この程、TPCマーケティングリサーチ株式会社(本社=大阪市西区、代表取締役社長=松本竜馬)は、化粧品…

分子の形がもたらす”柔軟性”を利用した分子配列制御

第666回のスポットライトリサーチは、東北大学多元物質科学研究所(芥川研究室)笠原遥太郎 助教にお願…

柔粘性結晶相の特異な分子運動が、多段階の電気応答を実現する!

第665回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院工学研究科(芥川研究室)修士2年の小野寺 希望 …

マーク・レビン Mark D. Levin

マーク D. レビン (Mark D. Levin、–年10月14日)は米国の有機化学者である。米国…

もう一歩先へ進みたい人の化学でつかえる線形代数

概要化学分野の諸問題に潜む線形代数の要素を,化学専攻の目線から解体・解説する。(引用:コロナ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP