[スポンサーリンク]

一般的な話題

ゾウががんになりにくい本当の理由

[スポンサーリンク]

「ゾウはなぜ、がんになりにくいのだろうか?」。

ある科学者が投げかけた難問に、1つの答えがでそうだ。

記事はネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)の出版している日本語の科学まとめ雑誌である「Natureダイジェスト」12月号から。最近、個人的に興味を持った記事を定期的に紹介しています*。過去の記事は以下のとおり。

12月号は、記事タイトルをみて最も気になった「ゾウはなぜ、がんになりにくいのか」という記事から。

 

Petoのパラドックスに解法が?

1970年に上記の疑問を投げかけたオックスフォード大学の疫学者Richard Peto。通常、ゾウのような大きな動物や、高齢の動物は細胞分裂をたくさんしている分だけ、変異の確率が高く、すなわちがんになりやすいはず。

それにもかかわらずゾウはがんになりにくい。

Petoは細胞ががん化しないようにする生物学的疑問がもともと備わっているのではないかと推測した。

この動物の体の大きさとがんになりやすさの関係のパラドックス(矛盾)を「Petroのパラドックス」といい、40年近くのあいだ難問とされてきたのです。

2015-12-06_00-49-09

Richard Peto (画像:IEA)

その矛盾に対する1つの答えが最近でました。記事によると、なんとゾウのゲノムにはガン抑制遺伝子「p53遺伝子」のコピーが20個も存在していたというのです。ヒトやその他の哺乳類には1コピーしか存在しない。

 

P53遺伝子

P53遺伝子(画像:wikipediaより)

p53遺伝子は、細胞ががん化した際にアポトーシス(細胞の自殺)を起こさせる。ゾウの細胞はDNAが損傷したときDNA修復するよりも発生した原因を早めに摘み取るという機構がうまくできているということでした。

 

SNSのチカラで未知の化石人類を探索する

「古人類学に携わる全ての人々の協力が必要です」

2013年10月、こう”話した”のは南アフリカ、ウィットウォーターズランド大学のLee Berger。話した、もとい、正確には”書いた”場所はソーシャルメディアFacebook。なんと、化石人骨の発掘協力者をソーシャルメディアを使って募集したのです。

その目的は、南アフリカ、ヨハネスブルグに位置するライジング・スター洞窟に眠る、未知の初期人類と思われる人骨発掘。その洞窟は、通称「スーパーマン・クロール」と呼ばれる、高さが25cm以下の細穴を通らなければいけませんでした。

ライジングスター洞窟(10.1126/science.aad1728)

ライジングスター洞窟(出典:Sience DOI: 10.1126/science.aad1728

 

その募集に60人ほどの候補者から、選んだのは何れも若くスリムな女性6名。Bergerは彼女らを「地下の宇宙飛行士」と呼んだ。

「地下の宇宙飛行士6名」(出典:Platypus)

「地下の宇宙飛行士6名」(出典:Platypus)

彼女らが発掘に成功した人骨は少なくとも15体以上。これまでの化石人類とは異なる特徴が見られたため「ホモ・ナレディ」(現地のことばで「星の人」の意味)と名付け、その研究結果を矢継ぎ早に論文誌に報告している。記事では、その経緯と、内容について紹介しています。

ソーシャルメディアの研究をつなげる大変良い方法だと感じました。それにしても、宇宙や考古学などにはロマンが感じられますね。楽しく読むことができました。専門家にはロマンが感じられても一般的には全くわからないこと、化学には多いんだよなあ。

 

分子部品が分子マシンに変わる日

  「15年後には、分子マシンが科学と材料設計の中核と見なされるようになるでしょう。」

そう語るのはマンチェスター大学の化学者David Leigh教授。これが今月号でもっとも化学と関係する話題ですが、これまで分子部品としてつくってきた、モーターや歯車、アームなどが組み合わさって分子マシンとして変わる日が近づいているというのです。

どうして15年後かはわかりませんが、最近報告されたMOFを組み込んだ分子スイッチ(DOI:10.1038/nchem.2258 関連記事:

固体なのに動くシャトリング分子)、光スイッチング可能な抗がん剤(DOI:10.1016/j.cell.2015.06.049)、人口分子ポンプ(DOI: 10.1038/nnano.2015.96)など、多くの”分子マシン”が報告されつつ有ります。分子を使ったお遊びといわれていた時代から一皮むけた研究に進んでいることは確かです。

2015-12-10_05-16-14

最近の分子マシンの一例

 

本記事では、最近の研究の流れと内容を、分野の第一人者にインタビューしながら詳しく紹介しています。

 

その他の記事

その他にも今月号では、2015年のノーベル化学賞物理学賞医学生理学賞に関する記事や、洗顔クリームなどに含まれるマイクロビーズが海を汚染していることに対する警告(海洋汚染と引き換えの美しい肌なんていらない)、学習障害のある小児の脳を”刺激”して改善する研究(小児への脳刺激の有望性と懸念)など面白い記事が満載です。

前回、我々の研究を紹介していたJapanese Authorでは、今回、理化学研究所の平野達也主任研究員を紹介しています。平野研究員は、精子の核に含まれる染色質(クロマチン)と精製タンパク質6種だけで、試験管内で染色体を形作る実験系の開発に成功しています。

 

 

最先端科学研究の動向をおおまかにフォロー

というわけで、Natureダイジェストの12月号の内容を少しだけ紹介しましたが、やっぱりいいですね。と同時に、やはりネイティブの方は異分野の記事でもスラスラ読めるのは羨ましい気がします。インターネットでなんでも調べられる世の中ではありますが、最先端科学研究の動向を正確に日本語で読めるのはこのオンライン雑誌だけだと思いますので、。興味のある方はぜひ購読を!

 

*本記事はNatureダイジェストの内容を筆者が個人的な感想を含めて紹介したものであり、記事自体の内容とは異なります。

 

外部リンク

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 誤った科学論文は悪か?
  2. ジアルキル基のC–H結合をつないで三員環を作る
  3. 電子デバイス製造技術 ーChemical Times特集より
  4. OPRD誌を日本プロセス化学会がジャック?
  5. 第18回次世代を担う有機化学シンポジウム
  6. 【マイクロ波化学(株) 石油化学/プラスチック業界向けウェビナー…
  7. センチメートルサイズで均一の有機分子薄膜をつくる!”…
  8. 化学者のためのエレクトロニクス講座~配線技術の変遷編

注目情報

ピックアップ記事

  1. CFDで移動現象論111例題 – Ansys Fluentによる計算解法 –
  2. 銅触媒によるアニリン類からの直接的芳香族アゾ化合物生成反応
  3. 高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。
  4. Zachary Hudson教授の講演を聴講してみた
  5. 光レドックス触媒反応 フォトリアクター Penn PhD Photoreactor M2をデモしてみた
  6. リンだ!リンだ!ホスフィン触媒を用いたメチルアミノ化だ!
  7. 海外で開発された強靭なソフトマテリアル
  8. カンプトテシン /camptothecin
  9. 【25卒化学系イベント】 「化学系女子学生のための座談会(11/18・19)」 「Chemical LIVE(12/9・10)」Zoom開催
  10. 2010年ノーベル化学賞予想ーケムステ版

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年12月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

MDSのはなし 骨髄異形成症候群とそのお薬の開発状況 その1

Tshozoです。今回はかなり限定した疾患とそれに対するお薬の開発の中身をまとめておこうと思いま…

第42回メディシナルケミストリーシンポジウム

テーマAI×創薬 無限能可能性!? ノーベル賞研究が拓く創薬の未来を探る…

山口 潤一郎 Junichiro Yamaguchi

山口潤一郎(やまぐちじゅんいちろう、1979年1月4日–)は日本の有機化学者である。早稲田大学教授 …

ナノグラフェンの高速水素化に成功!メカノケミカル法を用いた芳香環の水素化

第660回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院理学研究科(有機化学研究室)博士後期課程3年の…

第32回光学活性化合物シンポジウム

第32回光学活性化合物シンポジウムのご案内光学活性化合物の合成および機能創出に関する研究で顕著な…

位置・立体選択的に糖を重水素化するフロー合成法を確立 ― Ru/C触媒カートリッジで150時間以上の連続運転を実証 ―

第 659回のスポットライトリサーチは、岐阜薬科大学大学院 アドバンストケミストリー…

【JAICI Science Dictionary Pro (JSD Pro)】CAS SciFinder®と一緒に活用したいサイエンス辞書サービス

ケムステ読者の皆様には、CAS が提供する科学情報検索ツール CAS SciFind…

有機合成化学協会誌2025年5月号:特集号 有機合成化学の力量を活かした構造有機化学のフロンティア

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年5月号がオンラインで公開されています!…

ジョセップ・コルネラ Josep Cornella

ジョセップ・コルネラ(Josep Cornella、1985年2月2日–)はスペイン出身の有機・無機…

電気化学と数理モデルを活用して、複雑な酵素反応の解析に成功

第658回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 農学研究科(生体機能化学研究室)修士2年の市川…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP