[スポンサーリンク]

odos 有機反応データベース

ツヴァイフェル オレフィン化 Zweifel Olefination

[スポンサーリンク]

概要

アルケニル金属試薬をボレート形成させて、ヨウ素処理の転位によって置換アルケンを得る手法。

同様の組み合わせからアルケンを与える鈴木-宮浦クロスカップリングとは相補的な幾何異性体を与える。遷移金属触媒を必要としないことも特徴である。

基本文献

  • Zweifel, G.; Arzoumanian, H.; Whitney, C. C. J. Am. Chem. Soc. 1967, 89, 3652. doi:10.1021/ja00990a061
  • Zweifel, G.; Fisher, R. P.; Snow, J. T.; Whitney, C. C. J. Am. Chem. Soc. 1971, 93, 6309. doi: 10.1021/ja00752a075
  • Zweifel, G.; Fisher, R. P.; Snow, J. T.; Whitney, C. C. J. Am. Chem. Soc. 1972, 94, 6560. doi:10.1021/ja00773a059
  • Suzuki, A.; Miyaura, N.; Abiko, S.; Itoh, M.; Brown, H. C.; Sinclair, J. A.; Midland, M. M.  J. Am. Chem. Soc. 1973, 95, 3080. doi: 10.1021/ja00790a092
  • Matteson, D. S.; Jesthi, P. K. J. Organomet. Chem. 1976, 110, 25. doi:10.1016/S0022-328X(00)90155-4
  • Evans, D. A.; Thomas, R. C.; Walker, J. A. Tetrahedron Lett. 1976, 17, 1427. doi:10.1016/S0040-4039(00)71274-3
  • Evans, D. A.; Crawford, T. C.; Thomas, R. C.; Walker, J. A. J. Org. Chem. 1976, 41, 3947. doi:10.1021/jo00887a003
  • Slayden. S. W. J. Org. Chem. 1981, 46, 2311. doi:10.1021/jo00324a020
  • Bonet, A.; Odachowski, M.; Leonori, D.; Essafi, S.; Aggarwal, V. K. Nat. Chem. 2014, 6, 584.  doi:10.1038/nchem.1971
  • Armstrong, R. J.; García-Ruiz, C.; Myers, E. L.; Aggarwal, V. K. Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 786. doi:10.1002/anie.201610387
  • Armstrong, R. J.; Niwetmarin, W.; Aggarwal, V. K. Org. Lett. 2017, 19, 2762. doi:10.1021/acs.orglett.7b01124
<review>

開発の経緯

1967年にGeorge Zweifel (UC Davis)らによってアルキンのヒドロホウ素化に依って得られるアルケニルボランを用いる条件が開発された。

George Zweifel

トリアルキル型ホウ素を用いる初期の条件では、中間体が酸素などに弱く、どの置換基が転移するかも予測しづらいという問題を抱えていた。ボロン酸エステルを用いる改良法がEvans、Mattersonらによって独立に報告され、この問題は解決された。

反応機構

1,2-メタレート転位は立体特異的に進行する。ホウ素置換基の立体化学も保存される。最終的にボロン酸エステルが塩基と反応し、anti脱離を起こす形で望みのオレフィンが得られる。

反応例

バリエーション

構築困難とされる四級炭素の立体特異的合成にも活用可能[1]。

ボレートに対し、アリール塩化セレン→酸化の工程を附すことで、stereodivergentな選択性にてオレフィンを得ることが出来る[2]。

アルキニル基はボレート形成が可逆であるため、転位を起こさずヨウ素で捕捉されたヨウ化アルキンを与えてしまう。Zweifel条件でアルキニル化を行なうには、脱離基を備えるアルケニルメタル種を用いて反応条件に附し、脱離させるという迂回工程を経る必要がある[3]。

金属触媒により誘起される1,2-メタレート転位をクロスカップリング反応に連結させた事例[4]。

全合成への応用

無置換ビニル基を立体特異的に導入できる数少ない手法の一つである。下記は(+)-faranalの全合成へと応用した事例[5]。

(−)‐Filiforminの全合成[6]:分子内Zweifel反応により、縮環骨格に備わる連続不斉中心を効率的に合成している。

Solanoeclepin Aの形式全合成[7]:橋頭位ビニル基の導入に本反応が効果的に用いられている。

debromohamigeran Eの全合成[8]:ヒドロキシ基配向型ジボリル化→鈴木・宮浦カップリング→Zweifel反応によって、置換基を立体選択的かつ位置選択的に導入している。

[5]-ラダラン脂質の合成[9]:エナンチオ選択的触媒的ヒドロホウ素化と組み合わせて用いている。

Vinigrolの全合成[10]

参考文献

  1. (a) Sonawane, R. P.; Jheengut, V.; Rabalakos, C.; LaroucheGauthier, R.; Scott, H. K.; Aggarwal, V. K. Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 3760. doi:10.1002/anie.201008067 (b) Pulis, A. P.; Blair, D. J.; Torres, E.; Aggarwal, V. K. J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 16054. doi:10.1021/ja409100y
  2. Armstrong, R. J.; García-Ruiz, C.; Myers, E. L.; Aggarwal, V. K. Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 786. doi:10.1002/anie.201610387
  3. Wang, Y.; Noble, A.; Myers, E. L.; Aggarwal, V. K. Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 4270. doi:10.1002/anie.201600599
  4. Zhang, L.; Lovinger, G. J.; Edelstein, E. K.; Szymaniak, A. A.; Chierchia, M. P.; Morken, J. P. Science 2016, 351, 70. DOI: 10.1126/science.aad6080
  5. Dutheuil, G.; Webster, M. P.; Worthington, P. A.; Aggarwal, V. K. Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 6317. doi:10.1002/anie.200901194
  6. Blair, D. J.; Fletcher, C. J.; Wheelhouse, K. M. P.; Aggarwal, V. K. Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 5552. doi:10.1002/anie.201400944
  7. Kleinnijenhuis, R. A.; Timmer, B. J. J.; Lutteke, G.; Smits, J. M. M.; de Gelder, R.; van Maarseveen, J. H.; Hiemstra, H. Chem. Eur. J. 2016, 22, 1266. doi:10.1002/chem.201504894
  8. Blaisdell, T. P.; Morken, J. P. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 8712. doi:10.1021/jacs.5b05477
  9. Mercer, J. A. M.; Cohen, C. M.; Shuken, S. R.; Wagner, A. M.; Smith, M. W.; Moss, F. R.; Smith, M. D.; Vahala, R.; Gonzalez-Martinez, A.; Boxer, S. G.; Burns, N. Z. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 15845.doi: 10.1021/jacs.6b10706
  10. Yu, X.; Xiao, L.; Wang, Z.: Luo, T. J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 3440.  DOI: 10.1021/jacs.9b00621

関連反応

関連書籍

関連リンク

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. ウォルフ転位 Wolff Rearrangement
  2. ウィッティヒ反応 Wittig Reaction
  3. ランバーグ・バックランド転位 Ramberg-Backlund …
  4. ペタシス・フェリエ転位 Petasis-Ferrier Rear…
  5. 金属水素化物による還元 Reduction with Metal…
  6. アセト酢酸エステル/マロン酸エステル合成 Acetoacetic…
  7. ビシュラー・ナピエラルスキー イソキノリン合成 Bischler…
  8. カルボニル-エン反応(プリンス反応) Carbonyl-Ene …

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 嘘か真かヒトも重水素化合物をかぎわける
  2. ファヴォルスキー転位 Favorskii Rearrangement
  3. 二刀流センサーで細胞を光らせろ!― 合成分子でタンパク質の蛍光を制御する化学遺伝学センサーの開発 ―
  4. 鍛冶屋はなぜ「鉄を熱いうちに」打つのか?
  5. 科学技術教育協会 「大学化合物プロジェクト」が第2期へ
  6. スポンジシリーズがアップデートされました。
  7. 富山化学 新規メカニズムの抗インフルエンザ薬を承認申請
  8. ACD/ChemSketch Freeware 12.0
  9. 糖のC-2位アリール化は甘くない
  10. 治療応用を目指した生体適合型金属触媒:② 細胞外基質・金属錯体を標的とする戦略

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年10月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

超塩基配位子が助けてくれる!銅触媒による四級炭素の構築

銅触媒による三級アルキルハライドとアニリン類とのC–Cクロスカップリングが開発された。高い電子供与性…

先端領域に携わりたいという秘めた思い。考えてもいなかったスタートアップに叶う場があった

研究職としてキャリアを重ねている方々の中には、スタートアップは企業規模が小さく不安定だからといった理…

励起パラジウム触媒でケトンを還元!ケチルラジカルの新たな発生法と反応への応用

第 611 回のスポットライトリサーチは、(前) 乙卯研究所 博士研究員、(現) 北海道大学 化学反…

“マブ” “ナブ” “チニブ” とかのはなし

Tshozoです。件のことからお薬について相変わらず色々と調べているのですが、その中で薬の名…

【著者に聞いてみた!】なぜ川中一輝はNH2基を有する超原子価ヨウ素試薬を世界で初めて作れたのか!?

世界初のNH2基含有超原子価ヨウ素試薬開発の裏側を探った原著論文Amino-λ3-iodan…

千葉 俊介 Shunsuke Chiba

千葉俊介 (ちばしゅんすけ、1978年05月19日–)は日本の有機化学者である。シンガポール南洋理⼯…

Ti触媒、結合切って繋げて二刀流!!アルコールの脱ラセミ化反応

LMCTを介したTi触媒によるアルコールの光駆動型脱ラセミ化反応が報告された。単一不斉配位子を用いた…

シモン反応 Simon reaction

シモン反応 (Simon reaction) は、覚醒剤の簡易的検出に用いられる…

Marcusの逆転領域で一石二鳥

3+誘導体はMarcusの逆転領域において励起状態から基底状態へ遷移することが実証された。さらに本錯…

5/15(水)Zoom開催 【旭化成 人事担当者が語る!】2026年卒 化学系学生向け就活スタート講座

化学系の就職活動を支援する『化学系学生のための就活』からのご案内です。化学業界・研究職でのキャリ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP