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化学パズル・不斉窒素化合物

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Q: 「不斉窒素」だけが含まれ、かつ形式電荷をもたない光学活性有機化合物を考えてください。 「不斉炭素」や「不斉○○(窒素以外の元素)」、「軸・面不斉などの不斉源」が含まれてはいけません。合成可能かどうかも、とりあえずここでは問わないことにします。

これは筆者が修士課程のとき、実験の合間に考えてみたパズルの一つです。日々の実験でシカクくなってしまったアタマを、マルくしてみませんか?

このブログの読者なら、「不斉炭素」という化学用語はおそらくご存じでしょう。一応説明しておくと、「4つの置換基がすべて異なる炭素原子」のことです(上図)。不斉炭素をもつ化合物には鏡像異性体が存在します。一方の鏡像異性体だけを多く含む化合物は光学活性である、といいます。

さて、今回のキーワードは「不斉窒素」、すなわち不斉炭素の窒素バージョンです。窒素原子は三角錐型の立体構造をとり、三つの置換基(R1~R3)と結合に関与しない非共有電子対が四面体頂点方向に向かって伸びています。電子対を置換基の一種と考えれば、窒素上の4つの基は全て異なることが可能です。すなわち原理的には「不斉窒素」が考えられます。

しかしながら、例えばメチルエチルプロピルアミンのような場合、低温であっても素早い立体反転が起こっています。つまり「不斉窒素」であっても、光学活性化合物として存在することはできないのです。必ず鏡像異性体1:1の混合物(ラセミ体)になります。

asym_N_2.gif

つまり、メチルエチルプロピルアミンのようなものは、正解ではありません。さらに、このクイズでは形式電荷をもってはいけないので、キラル四級アンモニウムも除外になります。

こういうものを考え出すには、デザイン上の”ひと工夫”が必要になります。 皆さんも、ラボのメンバーと実験の合間に考えてみてください。

オリジナルな化学パズルやクイズを他にもご存じの方は、ぜひ教えてくださいね!

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cosine

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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