[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

ジボリルメタンに一挙に二つの求電子剤をくっつける

[スポンサーリンク]

ジボリルメタンに対し銅触媒を用いて二種の求電子剤をジアステレオ選択的に連結し、二つの炭素–炭素結合を一挙に形成する手法が開発された。

二つの炭素–炭素結合を一挙に形成する

一つの炭素上に複数の炭素–炭素結合を一挙に形成する手法は、多様な炭素骨格の効率的合成を可能にする。最も直截的な手法はジアニオン、もしくはアニオンとカチオンの両方として振る舞う一炭素化剤を利用する手法であり、これまでにいくつかの反応が報告されてきた(1)

当該手法として最も認知されているものは、Smithらのジチアンをジアニオン等価体として用い、Brook転位を鍵として二種類の炭素–炭素結合を形成する手法であろう(図1A, a)(2a,b)。また、大嶌、内本らはシリルジハロゲン化メタンをジアニオン等価体に用いる手法を開発している(図1A, b)(2c)。一方、アニオン/カチオン等価体として、Johnsonらはシリルケトンが適用できることを見出し、アルキンとアルデヒドとのジアステレオ選択的三成分連結反応を報告している(図1A, c)(2d)

今回、ノースカロライナ大学チャペルヒル校のMeek助教授らは、ジボリルメタンをジアニオン等価体として用いた(図1A, d)。

ジボリルメタンは嵩高い塩基LTMP(Lithium 2,2,6,6-tetramethylpiperidide)により脱プロトン化されるが、一方でアルコキシドや銅触媒を作用させると脱ボリル化を伴うアニオン化が進行するなど、二種類の反応性が知られる(図1B)(4)(5)。Meekらはこれらの反応性を巧みに用いジボリルメタンにエポキシドと臭化アリル類をジアステレオ選択的に連結させることに成功した。

図1. (A) 一炭素化剤 (B) ジボリルメタンの反応様式

 

“Stereoselective Tandem Bis-Electrophile Couplings of Diborylmethane”

Stephanie, A. M.; Michael, Z. L.; Simon, J. M. J. Am. Chem. Soc.2017, 139, 14061. DOI: 10.1021/jacs.7b09309

論文著者の紹介

研究者:Simon J. Meek
1999-2003 M.S., University of Sheffield (Prof. Tom R. Pettus and Prof. Alan C. Spivey)
2003-2006 Ph.D., University of Sheffield (Prof. Joseph P. A. Harrity)
2006-2011 Posdoc, Boston College (Prof. Amir H. Hoveyda)
2011- Assistant Professor, The University of North Carolina at Chapel Hill
研究内容:新触媒および新触媒反応の開発、天然生物活性物質の全合成

論文の概要

MeekらはジボリルメタンとLTMPから調製したリチウムジボリルメタンに対しエポキシドを作用させ、続いてCuCl触媒存在下臭化アリルを作用させることで一挙に二つの炭素–炭素結合を形成することに成功した。

本反応では初めにリチウムジボリルメタンのエポキシドへの求核攻撃により環状の中間体1または2が生成する(図2A)。その後、CuClにより触媒的に脱ボリル化が進行し、臭化アリルと炭素–炭素結合を形成する。NMR追跡実験により、ジアステレオ選択性はエポキシドとの反応の段階では確認されず(1:2 = 56:44)、臭化アリルとの反応の際に発現することが示唆されている。

本手法は多様なエポキシドおよび臭化アリルに適用可能である(図2B)。様々なスチレンオキシド類やシクロヘキサン環上のエポキシドや多置換の臭化アリルを含め多くの基質で高ジアステレオ選択的に反応が進行し、anti体を優先して与える。臭化アリルに関してはC2位置換体を用いた場合にジアステレオ選択性が高くなる傾向にある。

一部の基質でジアステレオ選択性に課題は残るものの、生成するホウ素置換化合物は多様な官能基変換が可能であり、実際にいくつかの誘導化が実証されている。今後は選択性の向上および他の求電子剤への応用に期待したい。

図2. (A) 推定反応機構 (B)基質適用範囲

 

参考文献

  1. Eppe, G.; Didier, D.; Marek, I. Chem. Rev. 2015, 115, 9175. DOI: 10.1021/cr500715t
  2. (a) Smith, A. B., III; Boldi, A. M. J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 6925. DOI: 10.1021/ja970371o (b) Fischer, M.-R.; Kirschning, A.; Michel, T.; Schaumann, E. Angew. Chem., Int. Ed. Engl. 1994, 33, 217. DOI: 10.1002/anie.199402171 (c) Shinokubo, H.; Miura, K.; Oshima, K.; Utimoto, K. Tetrahedron Lett. 1993, 34, 1951. DOI: 10.1016/S0040-4039(00)91972-5 (d) Nicewicz, D. A.; Johnson, J. S. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 6170. DOI: 10.1021/ja043884l
  3. Matteson, D. S.; Moody, R. J. J. Am. Chem. Soc. 1977, 99, 3196. DOI: 10.1021/ja00451a071
  4. Brown, H. C.; Zweifel, G. J. Am. Chem. Soc. 1961, 83, 3834. DOI: 10.1021/ja01479a024
山口 研究室

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 向かい合わせになったフェノールが織りなす働き
  2. サイエンスアゴラ2014総括
  3. 究極の黒を炭素材料で作る
  4. 科学を伝える-サイエンスコミュニケーターのお仕事-梅村綾子さん
  5. 高機能・高性能シリコーン材料創製の鍵となるシロキサン結合のワンポ…
  6. そこまでやるか?ー不正論文驚愕の手口
  7. 副反応を起こしやすいアミノ酸を迅速かつクリーンに連結する
  8. 「人工知能時代」と人間の仕事

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. フラーレン /Fullerene
  2. キノコから見いだされた新規生物活性物質「ヒトヨポディンA」
  3. 硫黄 Sulfurーニンニク、タマネギから加硫剤まで
  4. ベンゼン一つで緑色発光分子をつくる
  5. 海外学会出張でeSIMを使ってみました
  6. Org. Proc. Res. Devのススメ
  7. 第六回 多孔質材料とナノサイエンス Mike Zaworotko教授
  8. ケムステスタッフ徹底紹介!
  9. 化学物質はなぜ嫌われるのか
  10. 富士通、化合物分子設計統合支援ソフト「キャッシュ」新バージョンを販売

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

注目情報

注目情報

最新記事

第137回―「リンや硫黄を含む化合物の不斉合成法を開発する」Stuart Warren教授

第137回の海外化学者インタビューはスチュアート・ウォーレン教授です。ケンブリッジ大学化学科に所属し…

吉岡里帆さん演じる「化学大好きDIC岡里帆(ディーアイシーおか・りほ)」シリーズ、第2弾公開!

印刷インキや有機顔料世界トップシェアのDIC株式会社は、2021年1月より、数々のヒット作に出演し、…

第14回ケムステVシンポ「スーパー超分子ワールド」を開催します!

ケムステーションをご覧の方々、あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます…

【日産化学】新卒採用情報(2022卒)

―ぶれずに価値創造。私たちは、生み出し続ける新たな価値で、ライフサイエンス・情報通信・環境エ…

高分子鎖デザインがもたらすポリマーサイエンスの再創造|オンライン R2

詳細・お申込みはこちら日時令和3年 2月18日、25日(木) 基礎編        …

化学者のためのエレクトロニクス講座~電解で起こる現象編~

化学者のためのエレクトロニクス講座では半導体やその配線技術、フォトレジストやOLEDなど、エレクトロ…

Machine learning-driven optimization in powder manufacturing of Ni-Co based superalloy

NIMS は、機械学習を適用することで、航空機エンジン用材料として有望な Ni-Co 基超合金の高性…

実験白衣を10種類試してみた

化学実験関連商品紹介動画シリーズ第二弾です。前回は実験メガネを紹介しました。今回は実験メガネ…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP