[スポンサーリンク]

ケムステニュース

科学論文を出版するエルゼビアとの購読契約を完全に打ち切ったとカリフォルニア大学が発表

[スポンサーリンク]

世界最大の科学出版社であるエルゼビアによって出版された学術誌の購読を完全にやめるとカリフォルニア大学(UC)が発表しました。カリフォルニア大学は大学に所属する研究者が発表した論文を全ての人に対して無償公開することを要求しましたが、エルゼビアが条件として大学側にさらなる料金を要求したために交渉が決裂したとのことです。 (引用:Gigazine 3月1日)

この問題は以前、ケムステニュースでも取り上げましたが、進展がありカリフォルニア大学が契約を更新しないことを決定したようです。前回のニュースをおさらいすると

  • UCLAとの契約は2018年末で切れるため、更新の交渉をUCLAとエルゼビアが行っている。
  • 大学側は契約の中に高額でない購読料と簡素化されたオープンアクセスを組み込みたいが、交渉は難航し時間切れが近い。
  • エルゼビアに圧力をかけるために、大学は教職員に対して論文査読の拒否とエルゼビア以外への投稿を求めるアナウンスを行った。

という内容でした。そして2月28日にUCよりプレリリースがあり、要点をまとめると

  • 現在論文の値段は非常に高く、研究の障壁となっているためUCはオープンアクセスを推進してきた。
  • UCの研究成果の18%がElsevierから出版されている。
  • そのためオープンアクセスのグローバルリーダーとなるべくUCは、エルゼビアに対してオープンアクセスを盛り込んだ契約を求めてきた。具体的には、購読料とオープンアクセス化の出版費用を統合した包括的な契約を求めていた。
  • しかし、エルゼビアは、UCが求める内容に同意しなかった。

という内容です。要はUCは、オープンアクセス化を加味した契約を要求したが、その点をくみ取った契約にはならなかったので契約しないことにしたようです。一方でメディアのニュースによると下記のようなことを主張しています。

  • UCの交渉担当であるJeffrey K. MacKie-Mason教授:エルゼビアは、UC側に歩み寄ってくれなかった。最終オファーはUCが望むオープンアクセス化に近い内容だったが、契約金が高くなっていた
  • エルゼビアのコミュニケーション副社長であるTom Reller氏:エルゼビアは、すべての研究者が無料で投稿するかオープンアクセス化するか選択できるような明確な方法と個々の大学図書館がコストを削減できるような明確な方法を提供する。UCとの交渉は続け、両者の隔たりにかけ橋ができることを望む。

つまりUCは、オープンアクセス化にした場合の契約金が高すぎたから契約しなかったようです。エルゼビアのコメントは従来のスタンスを崩さないことを主張しています。この決定に対してUCの学生は、

  • 短期間の不便や困惑があると予測できるものの大学の決定には賛成である。(生物遺伝学専攻)
  • 複雑な心境である。多くの学生が論文にアクセスできなくなるが、エルゼビアは独占しすぎていて大学の立場も理解できる。いつか両者がいくつかの点で同意できればと思う。(化学工学専攻)

とコメント。今後UCからは、エルゼビアの論文にアクセスできなくなりますが、実際に読めなくなるのは契約終了後に出版された論文だけで、契約終了前までに出版された論文は継続してアクセスでき、オープンアクセス化された論文にももちろんアクセスできます。なおUC図書館では契約終了後の新しい論文をUC読者が読むために “Alternative means of access” を他のアクセス権がないジャーナル同様に準備しているそうです。このAlternative means of accessはよくわかりませんが、構成員が読みたい論文があれば申請して大学図書館が個別のアクセス権を購入してくれるようなシステムなのでしょうか。

これまでも、エルゼビアとの契約をめぐる問題は、欧米の大学や研究機関でも同じような状況に陥り、UCのように契約を更新しないという選択をした大学もあります。しかしアメリカの大学で完全に契約を打ち切った例は、UCが初めてとみられています。特にUCはオープンアクセス化を推進しているため、今回のような結果になったのかもしれません。このUCの選択によって、他の大学が追従するのかが気になるところです。

ここからは自分の意見ですが、この決定によってUCの構成員が、エルゼビアの論文をSci-hubといった違法サイトからダウンロードするようにならないか心配で、オープンアクセス化を目指したのに違法サイトを助長しては意味がないと思います。オープンアクセス化を促進していく大学に対して、出版社はこのニッチで特殊なビジネスを守るために、どのような戦略をもっていくかが重要であると思います。前回も論じましたが、多くの大学がオープンアクセス化に傾き購読料が得られなくなった時、どうやってビジネスを続けていくかがカギになるのではないでしょうか。

追記:UCのプレスリリースの要約内容に誤りがあり訂正いたしました(4月3日)

関連書籍

[amazonjs asin=”4326000325″ locale=”JP” title=”学術情報流通とオープンアクセス”] [amazonjs asin=”4798158895″ locale=”JP” title=”図解でわかる! 理工系のためのよい文章の書き方 論文・レポートを自力で書けるようになる方法”]

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 国際化学オリンピック2022日本代表決定/化学グランプリ2022…
  2. 持田製薬/エパデールのスイッチOTC承認へ
  3. 平成をケムステニュースで振り返る
  4. ニュースの理由・武田、米で6年ぶり大型新薬
  5. 秋の味覚「ぎんなん」に含まれる化合物
  6. 吉野彰氏がリチウムイオン電池技術の発明・改良で欧州発明家賞にノミ…
  7. 広瀬すずさん出演のAGCの新CM『素材でがんばるAGC/水の供給…
  8. スキンケア・化粧品に含まれる有害物質を巡る騒動

注目情報

ピックアップ記事

  1. 【書評】科学実験でスラスラわかる! 本当はおもしろい 中学入試の理科
  2. 世界最高の耐久性を示すプロパン脱水素触媒
  3. アメリカ化学留学 ”実践編 ー英会話の勉強ー”!
  4. 質量分析で使うRMS errorって?
  5. ケミカルメーカーのライフサエンス事業戦略について調査結果を発表
  6. sinceの使い方
  7. Pallambins A-Dの不斉全合成
  8. カーボンナノベルトを結晶溶媒で一直線に整列! – 超分子2層カーボンナノチューブの新しいボトムアップ合成へ –
  9. 平尾一郎 Ichiro Hirao
  10. 劉 龍 Ryong Ryoo

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年3月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコゲン結合・有機電解反応・ロタキサン・配位重合

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年3月号がオンラインで公開されています!…

CIPイノベーション共創プログラム「未来の医療を支えるバイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第105春季年会(2025)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「未来の医療…

OIST Science Challenge 2025 に参加しました

2025年3月15日から22日にかけて沖縄科学技術大学院大学 (OIST) にて開催された Scie…

ペーパークラフトで MOFをつくる

第650回のスポットライトリサーチには、化学コミュニケーション賞2024を受賞された、岡山理科大学 …

月岡温泉で硫黄泉の pH の影響について考えてみた 【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい! というわけで、硫黄系温泉を巡る旅の後編です。前回の記事では群馬県草津温泉をご紹…

二酸化マンガンの極小ナノサイズ化で次世代電池や触媒の性能を底上げ!

第649回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院環境科学研究科(本間研究室)博士課程後期2年の飯…

日本薬学会第145年会 に参加しよう!

3月27日~29日、福岡国際会議場にて 「日本薬学会第145年会」 が開催されま…

TLC分析がもっと楽に、正確に! ~TLC分析がアナログからデジタルに

薄層クロマトグラフィーは分離手法の一つとして、お金をかけず、安価な方法として現在…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP