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素材・化学で「どう作るか」を高度化する共同研究拠点、産総研が3カ所で整備

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産業技術総合研究所、材料・化学領域は、マテリアル・プロセスイノベーションプラットフォームの整備をスタートした。本事業では、日本の国際競争力の源泉である摺り合わせ型製造プロセスに取り組む企業の製造プロセスの高度化を目的とし、3カ所の産総研地域センター(つくば、中部、中国)に最先端のプロセス装置群や分析装置群を導入する。原料から製品に至るまでの製造プロセスデータを一括して収集し、その解析やデータ駆動型の製造プロセス改善ができる拠点の整備を進める。本事業は、令和2年度第3次補正予算「重点産業技術に係るオープンイノベーション拠点整備」に基づいており、令和3年度内に整備を完了し、企業の研究開発支援を開始する予定である。 (引用:産総研プレスリリース6月23日)

ケムステでも機械学習を活用した触媒や材料の開発を紹介してきたように、様々なデータを解析してモデルを構築し、高い性能を示す原料の組み合わせや合成条件を探索するデータ駆動型の研究開発は、注目を浴びています。政府は日本における製造プロセス技術のさらなる高度化を図り、データを活用したプロセス技術開発などを加速化させるために、マテリアル革新力強化戦略を大々的に打ち出しています。その一つの活動としてマテリアル・プロセスイノベーションプラットフォームを産総研の地域センターに設置することが決定しており、その整備がスタートしました。

そもそもこのプラットフォームを産総研で整備する目的ですが、それは二つあり、中小・中堅・ベンチャー企業などへの社会実装支援が一つに定義されています。産総研では大学と同じように分野ごとにグループを作り、チームで個々のテーマについて研究を行っていますが、加えて共同利用や共同研究のためのプラットフォームの整備も行っています。一つの大学や企業では高価で購入できない機器や、維持管理に専門的な知識を要する機器などを導入し研究支援を行います。マテリアル・プロセスイノベーションプラットフォームでも研究に必要な設備を導入し、中小・中堅・ベンチャー企業がデータ駆動型研究開発を遂行できるように支援するようです。

マテリアル・プロセスイノベーションプラットフォームの概要(出典:産総研プレスリリース)

もう一つはプロセス・インフォマティクス基盤技術開発に向けた整備で、材料の合成・製造方法を効率的に探索、最適化する取り組みにおいては、反応中の温度や圧力、流量などできるだけ多くのプロセスデータを取得し解析することが求められています。そのため産総研は、さまざまな実験データを取得できる装置や専用のネットワーク回線でデータを集約できる体制を整備するそうです。これは筆者の推測ですが、各企業のプラントのデータを産総研で集約できるようなシステムの整備や、産総研の拠点間でデータを集約できるようなネットワークを構築するということを意味しているのかもしれません。

マテリアル・プロセスイノベーションプラットフォームの活動が行われる地域センターはつくば、中部、中国の3拠点で、それぞれ担当分野が決まっています。

つくばセンターでは触媒がテーマということで、機械学習でのモデル構築に適切な設計システム、自動触媒合成・評価設備などを導入し、経験のない企業であってもデータ駆動型で研究開発できるようにするようです。中部地域には、自動車や航空機向けの材料を開発するメーカーが数多くあり、中部センターでもそれに関連した研究を数多く行っています。そのためこのプラットフォームでもセラミックス・合金などについて、原料となるナノ粒子から部素材に至るまでのプロセス全体を一括で開発するための機器を整備するそうです。中国センターもこれまでの取り組みに近いバイオマテリアルに関連したテーマを支援します。具体的には、バイオ由来の新材料を調整、分散・成形加工プロセス、分析・評価装置を導入するようです。今後の予定として令和3年度内に拠点整備を完了し、企業などによる拠点利用の開始を予定しているそうで、来年から本格的な研究がスタートするのではないかと予想しています。

自動合成装置の一例、産総研ではこちらの装置を導入した材料開発が進められている

ここからは内閣府の資料を読み解き、このような投資を通じてどのような未来を描きたいのかを見ていきます。内閣府の統合イノベーション戦略推進会議が策定したマテリアル革新力強化戦略という資料には、マテリアルの現状、戦略を作る意義、基本方針、アクションプラン、戦略の推進体制が細かく書かれています。

マテリアル革新力強化戦略の概念図(出典:内閣府

筆者が注目したのはアクションプランで、下記のように具体的な数値を入れて目標を掲げています。

  • 我が国の競争力の源泉である「革新的マテリアル」の社会実装を推進
    • 世界シェアが 60%以上の製品の数を 2030 年で倍増
    • ESGの観点から重要なマテリアル技術の社会実装事例を 2030 年までに 10 個以上創出
  • 重要なマテリアル技術・実装領域での戦略的研究開発の推進
    • マテリアル分野関連の総論文数、被引用数 Top10%補正論文数、被引用数Top1%補正論文数の国際順位向上
    • マテリアル分野における研究開発費の継続的な増加
  • データを基軸とした研究開発プラットフォーム(マテリアルDXプラットフォーム)の整備とマテリアルデータの利活用促進
    • 2025 年度までに、全国6か所のデータハブ中心とする全国的な先端共用設備提供体制を整備し、データ創出件数を約 100 万件/年
    • 全国的な先端共用設備提供体制の産学官からの活用件数が年間 3,000 件以上
  • プロセス・インフォマティクス(PI)の基盤技術確立とプロセスイノベーションプラットフォームの構築
    • 2021 年度までに、産業技術総合研究所地域センターをコアとしたプロセス・イノベーション・プラットフォームを全国3か所以上で整備
    • 2024 年度までにプロセスイノベーションプラットフォームの産学利用件数が 40 件以上
  • 産学官協調での人材育成
    • マテリアル分野の企業における人材需給ギャップの解消
    • 企業における新規採用者に占める博士号取得者割合の継続的増加
  • サーキュラーエコノミーの実現
    • 2035 年までに使用済プラスチックを 100%リユース・リサイクル等により、有効利用
    • 2030 年までにバイオマスプラスチックを約 200 万トン導入
  • 資源制約の克服
    • 重希土フリー磁石のxEV車への普及(2030 年の市販されているxEV車の 50%に重希土フリー磁石を搭載)
  • 国際協力の戦略的展開
    • マテリアル関連日系企業による主要先端材料の世界シェアの維持・確保

4番目のプロセスイノベーションプラットフォームの構築がこのニュースに直結しており、第一の目標にはめどがついた言えます。しかし整備後にも目標が付いており、3年間で40件以上の産学利用をターゲットにしているようです。この40件という数字が大きいか小さいかは分かりませんが、分野が絞られた中での共同研究・技術支援ではニーズに合った設備を導入する必要があると思います。他にも下線の目標は間接的に関係のあるもので、1番目の「革新的マテリアル」の社会実装を推進にはインパクトがある目標を掲げていて、プラットフォームの利用からこの目標に貢献できる成果が生まれるかもしれません。バイオマスプラスチックについてもプラットフォームにおける検討で技術的な課題をクリアし、バイオマスプラスチックの利用を考える企業も出てくると考えられます。そしてこれらの目標を通してSociety5.0の実現、世界一低環境負荷な社会システムの実現、世界最高レベルの研究環境の確立と迅速な社会実装による国際競争力の強化に取り組みグリーン社会の実現することを行き着く先と定めているようです。

Society 5.0の図説(出典:内閣府

このマテリアル・プロセスイノベーションプラットフォームは、マテリアル革新力強化戦略の基本方針、産学官共創による迅速な社会実装データ駆動型研究開発基盤の整備に合致しており、プラットフォームのリソースを使って研究を遂行し、データ駆動型研究開発でよりよい製品をいち早く開発することを想定しているようです。一部の企業では、AIのプラットフォームを導入しデータ駆動型研究開発を進めていますが、それなりの投資とデータ解析に長けた人材が必要で手軽に手を出せるものではありません。どの拠点の機能でも開発を一体的に行えるように設備を導入するようで、企業は開発する課題さえあれば、産総研との共同研究が進められるのではないでしょうか。いろいろな化学の分野において、学会発表や論文などで機械学習などを活用した成果の例は少しずつ増えてきていますが、現在のところ一部でのみ活発になっているに過ぎないと感じています。そのためこのようなプロジェクトが後押しとなり、産学関係なしに機械学習が当たり前の研究手段となり、研究者の誰もが基礎的な知識を持つようになってほしいと思います。マテリアル・プロセスイノベーションプラットフォームに関して国家予算で大型の投資が行われたからには、新しい研究方法で素晴らしい成果が得られ、世界で活躍する新しい製品が生み出されることを期待します。

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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