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映画007シリーズで登場する毒たち

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やっと待ちに待った007ノー タイム トゥ ダイが公開されました。筆者はSFオタクではありますが、007みたいなアクションも大好きです。シリーズで一番のお気に入りはダニエル・クレイグ主演のカジノロワイヤルですが、ロジャー・ムーア主演のオクトパシーもお薦めです。
007とケムステ何が関係あんのって?
そりゃあスパイアクションと言えば化学が大活躍するからですよ。主人公の名前も結合(Bond)だし。

まずお断りしておきますが、筆者は化学が戦争や犯罪行為に使われることには断固反対の立場です。あくまでフィクションの中の話しとして紹介する話題であることご了承ください。

007に限らずスパイ活動と言えば銃や秘密道具が大活躍します。物騒な話しですが、その中で「毒物」も度々登場しています。先日Chemistry Worldに掲載されたこちらの記事を目にし、そう言えばそんな観点で007をあまり観てなかったなと思いまして、新作を観る前の予習として過去作をAmazon Prime Videoでちょっと注意しながら一気観してみました。というわけで今回のポストでは007の映画に登場した毒について紹介してみたいと思います。
なお、とてつもないネタバレを含んでいますので、作品をまだみていないという方はこの記事は読まない方がよろしいかと思います(最新作のネタバレはありません)。

さて、筆者のイチ推しカジノ・ロワイヤルからいきましょう。ジャームズ・ボンドがカジノでポーカー勝負をするのですが、その相手ル・シッフル(のガールフレンド)がボンドの飲み物(この時はまだシェイクしたウォッカマティーニではない)に毒物を混入します。一口飲んで異変に気付きますが手遅れで、高濃度の食塩水を一気飲みして吐き出すも効果は無く、フラフラになりながらボンドカーにたどり着きます。さて、このボンドカーにはなんと救命道具が完備されています。こんな設定はシリーズで初めてなのですが、まず除細動器を体に貼り付け、手首に針をぶっ刺し血液を採取すると、なんと遠隔で毒物の種類を本部で検索してくれるんです!モバイルLC-MSでも積んでたんでしょうか。凄い技術です。そしてこの毒物がジキタリスの毒であり、心停止にいたる前に解毒剤の注射を自分に打つように指示されます。(アマプラの字幕では「アンフェタミンの投与を?」と出ますが明らかに言ってません。ただ何を言っているのかは聞き取れませんでした。

ジギトキシンの構造

さて、このシーンで登場するジキタリスの毒ですが、ジギトキシンなどをはじめとする強心配糖体としてよく知られた毒です。強心剤として薬にもなりえるのですが、過剰摂取すると心停止に至る訳ですね。治療薬として注射に入っていたのは抗不整脈薬のリドカインなどかもしれませんね。
そしてこのシーンに一瞬だけ映る本部のディスプレイになにやら有機化合物の構造式が確認できます。一つは比較的はっきりしており、かなり手の込んだ化合物で、いわゆる環状デプシペプチドに分類されるような、天然物でありそうな構造になっています。元ネタはなんなのか気になりますね。もう一つはベンゾフランの構造は確認できるのですが、下の方が切れていて全体像はわかりません。いずれにしても一部の結合が欠落していることを除いて、かなりリアルな構造式になっています。

スクリーンに映る化合物たち(右側の化合物は下が画面から見切れて構造不明)

カジノ・ロワイヤルの最後に登場するミスターホワイトは、次々作のスペクターにも登場します。山奥に潜伏していたミスターホワイトですが、ボンドが発見した時はなんだかボロボロな状態です。どうやら組織への裏切りを察知されたらしく、「携帯電話にタリウムを仕込まれた」ことで病気になってしまい余命いくばくもないと告白します。

画像は一家に一枚周期表より

タリウム化合物は確かに毒で、我が国でも学生が知人に飲ませて殺害しようとするというとんでもない事件があったことをご記憶の方もいることでしょう。しかし、携帯電話にタリウム仕込んでもベロベロ舐める訳でもないですし、経皮吸収もたかが知れているので、あそこまでの状態にはならないんじゃないかなと思いました。なんとなくなんですが症状が放射線障害を意図している気がして、タリウムじゃなくてトリウムで設定したかったのか?とも思いました。一応放射性同位体しか天然には産出しない元素ですから。

ダニエル・クレイグシリーズではスカイフォールでも毒物が登場します。スカイフォールでは最恐の敵シルヴァが登場しますが、このシルヴァも実は元諜報部員であり、敵に囚われた際青酸化合物(cyanide)が仕込まれたカプセルを噛み砕き自殺を図ります。しかし顎部分に多大なダメージを受けたものの死に切れず、その後組織の一員となる訳です。
青酸カリ(KCN)が入ったカプセルはスパイの自殺シーンの定番ですね。ミッションインポッシブルでもそんなシーンがあったと思います。ただ青酸カリを使う場合はしっかり飲み込む必要があるのではないかと思います。一方シルヴァがカプセルを砕くシーンではシュワーって感じで泡立ってましたので、恐らくなんらかの酸も仕込んであって青酸ガス(HCN)が出てたんじゃないかなと想像します。

ハードボイルドな印象が強いダニエル・クレイグシリーズですが、昔の007シリーズはもうちょっとクスっとする要素や、荒唐無稽なところもたくさんあって娯楽色が強かったように思います。筆者はそんなボンドも大好きです。個人的に小学生の頃母親に劇場に連れて行ってもらったことから思い入れの強いオクトパシーではボンドは女性ばかりの謎の組織オクトパシーに潜入するのですが、この組織のマークはヒョウモンダコをモチーフにしており、女性首領のガウンにはヒョウモンダコがデカデカと描かれています。そんな彼女はペットとして当然ヒョウモンダコを水槽に飼っています。もちろんフラグです。

アジトでの乱戦が始まるのですが、ボンドの敵の手下が案の定水槽にぶつけられ、割れた水槽から飛び出したヒョウモンダコが手下の顔に張り付きます。あぁ哀れ。彼はテトロドトキシンの餌食になってしまうのでした。直接毒物を使ったシーンではありませんがこれも加えておきましょう。(ヒョウモンダコを話題にした記事はこちら)

TTX.png

テトロドトキシン

ロジャー・ムーアシリーズではムーンレイカーにおける毒が最も有名でしょうか。なんとこの作品の敵であるドラックスは全人類を毒ガスで抹殺することを計画してました。この毒ガス兵器はブラジルの北部に生育していたOrchidae nigraという絶滅したと考えられていた蘭(当然架空の蘭です)から得られる毒物で、なんと人間にしか効かないというミラクルな毒物です。よって人類を抹殺した後ドラックスが宇宙から帰ってきても地球上の他の生物は皆そのままというとてつもなく都合がいい兵器なのです。

そんな毒物あるわけないんですが、その構造式がバーーンと大写しになるシーンがあります。老眼を酷使してみて取れる範囲で筆者の補完を入れながら構造式を描いてみたのですが、まあありえない構造をしております。フィクションなのでこれで構わないのですが、カジノロワイヤルのリアルさとは対照的です。ただサリンのような有機リン系の毒ガスはありますし、構造式の禍々しさは伝わる感じがします。

色々ありえない構造ですが・・・(OSってのはOsを意図したのか?)

他にも毒を使った秘密兵器や敵の武器もたくさん登場しますが成分は不明です。ゴールドフィンガー、サンダーボール作戦では敵が神経ガス使ってきますし、ムーンレイカーではボンドの秘密兵器に30秒で死に至る毒矢みたいのもあります。日本が舞台に使われたこで印象的な作品であるショーン・コネリーの007は二度死ぬでは日本人ボンドガールのアキ(若林映子(あきこ)さん超美人!)が寝ている際、天井から敵の工作員に毒をたらされ、たった1滴が唇についただけで死んでしまうシーンがありました。ボンドの身代わりになるとはなんと不憫な。

とまあスパイ映画につきものの毒ですが、あまりリアルにやりすぎるのもよろしくないですね。あくまでフィクションということで割り切って鑑賞するのがよいと思います。ここまでオタクの駄文に長々とお付き合いいただきありがとうございました。クレイグ最終作ノー タイム トゥ ダイもお薦めですのでこんなご時世ですが是非劇場で大迫力の映像をお楽しみください!

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有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。

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