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セライトのちょっとマニアックな話

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セライト (Celite®) は Imerys Minerals, Inc. の登録商標であり、珪藻土をベースにした濾過助剤です。有機合成研究室にはだいたい常備してあり、お世話になっている方も多いでしょう。主にパラジウム炭素などの金属 (不均一系触媒) を濾別したり、分液などで生じたエマルジョンを除去したりするのに使います。主な使い方や詰め方などはこちらのサイトにまとめられています。本記事では、セライトそのものにスポットを当ててちょっとだけマニア向け?なアレコレを綴りたいと思います。

そもそも珪藻土とは

珪藻(ケイソウ)は不等毛植物に含まれる単細胞性の藻類の一群を指し、ケイ酸 (シリカ、SiO2) 質の被殻に覆われているのが特徴の生物群です。それらの死骸の有機物が分解され、ケイ酸質だけが残って堆積したものが珪藻土です。図1に見て取れるように、珪藻には無数の細孔が開いています。これが不溶性の粒子を絡め取り、溶液のみを通過させるため、濾過助剤として広く用いられるようになりました。セライトに含まれる珪藻類は実に200種類以上と言われています[1]。そのほかセライトには珪藻類以外の残留物として、珪質鞭毛藻、放散虫、海綿類なども含まれています[1]。

図1   ヘッケルによる珪藻のスケッチ (Wikipedia より)

セライトの化学組成(%)
SiO2 89~90.5
Al2O3 4~5.5
Fe2O3 1.4~1.6
CaO 0.4~0.7
MgO 0.5~0.6

(ジーエルサイエンス株式会社HPより引用)

なぜセライトが濾過助剤として優れているのか

液体を濾して不純物を除き、清澄な液を回収する工程は、多くの産業で重要な役割を持っています。 しかし、フィルターの濾網だけで濾すと極小な不純物が抜けてしまったり、その濾網の表面に不純物が溜まって目詰まりを起こし、継続的な良い濾過が出来ません。 ここで濾過用に作られた数多くのセライトの中から濾過液に適したものを使用すると、微細な気孔を持った多様な形の粒子が濾面の上に集合し、緻密で、しかも液体の抵抗の少ない膜を作って、原液が通過する時、液中の極微な固形分を完全に補足し、清澄液が急速に得られます。同時にこの膜は、濾過面の汚れを防ぐ働きもすることになり、長時間の継続濾過が可能になります。

「珪藻土工業株式会社 取扱品ラインアップ『珪藻土』.pdf 」より引用

一定のポアサイズを持ったペーパーフィルターでは、微細な固体だと擦り抜けてしまう恐れがあります。セライトは珪藻土の独特な性質によって、より清澄かつ急速な濾過が可能であり、優れた助剤として活用されているということです。

セライトの No. による違い

有機系ラボではセライト No.545 (試薬情報リンク) が最も汎用されていると思いますが、他にも No.535、503 などが各試薬メーカーより市販されています。この No. 、何となくお気づきかもしれませんが、大まかに言えば目の細かさを表しています。No. 545 は目が荒く、粘稠な物質 (ワニス・ニカワ・ペクチン・鉱物油・寒天・スターチ・松ヤニ・ラテックスなど。コチラより引用) の濾過に適しています。目の細かさは No. 545 > No. 535 > No. 503 の順で、さらに目の細かいハイフロ・スーパーセル、スタンダード・スーパーセル、フィルター・セルなどもあります。フィルター・セルには、ファインと呼ばれる小さな珪藻土の粒子や断片が多く含まれており、非常に目が細かくなっています。スーパー・セルはファインがやや少なく、ハイフロ・スーパーセルや No.503、535、545 など流速の速い製品にはほとんどファインが含まれていません。また、これらの目の細かさには融剤焼成の有無も関与しています。珪藻土に炭酸水素ナトリウムを少量添加し、炉で焼成したものを融剤焼成品といいます。融剤焼成品では微粉末や小さな粒子が溶融炭酸ナトリウムによって大きな粒子に付着し、その結果、粒子径が大きくなっています。ハイフロ・スーパーセル、No. 503、535、545 は融剤焼成品です。またセライト No.545 は白色ですが、これも融剤焼成の過程を経て生まれる色です (融剤焼成していないスーパー・セルなどの製品はピンク色をしています)。以下の表にそれぞれの粒状と流速比を示します。

Celite 平均粒状(μm) 流速比
No. 545 25~40 2,160
No. 535 20~30 1,350
No. 503 12~20 900
ハイフロ・スーパーセル 8~12 500
スタンダード・スーパーセル 6~10 200

(株式会社東京今野HPより改変引用)

 

有機合成における濾過以外でのセライトの使い方

炭酸銀(I) をセライトに担持させた試薬は Fetizon試薬 と呼ばれ、マイルドな酸化剤として市販されています (ケムステ記事リンク/試薬メーカーリンク)。フッ化カリウム-セライト (試薬メーカーリンク)は、アルキル化、求核性芳香族置換、マイケル付加、ホスホロアミデート合成、有機スズ廃棄物除去などのためのマイルドな不均一系塩基性触媒として使用されます。1979年に、Ando と Yamawaki は、セライトに担持されたフッ化カリウムが炭素やヘテロ原子のアルキル化を促進することを初めて報告しています[1]。KF-セライトを用いたアルキル化の一例としてアニリンのモノアリル化があります。古典的な第二級アリルアニリンの合成では、第三級アミンにまで進行してしまうのを防ぐため、過剰量のアニリンと長い反応時間が必要になります。一方、アセトニトリル還流下での KF-セライト(1.25eq)の存在下で、求電子試薬に比べてわずかに過剰なアニリン(1.20 equiv.)を用いるだけで、短時間(2-8h)で 67~93 %という単離収率でモノアリル化生成物を回収しています (下図)。

KF担持セライトによるアニリンのモノアリル化 (原著論文[1]、図は総説[3]より)

リパーゼなどの酵素をセライトに固定化し、有機溶媒中で不均一系生体触媒として用いる方法も報告されています[2]。参考文献[2]のマテメソに載っているリパーゼの担持手順を以下に引用します。

The matrix was washed three times with Tris buffer 0.05 M pH 8.5 to remove soluble impurities. The celite-545 (3.5 g), pre-equilibrated in an excess volume of Tris buffer (0.05 M, pH 8.5), was incubated with commercial lipase (Steapsin 6.75 IU/ml and 18.2 mg/ml protein) at 8 °C overnight. The volume of the supernatant, amount of unbound protein, and the lipase activity were estimated. The bound-lipase activity was assayed in 20 mg of matrix. The bound protein in the matrix was determined by subtraction of the unbound protein in the supernatant from the total protein used for immobilization (Hills et al., 1991). The celite-bound lipase (4 g) was treated with a cross-linking agent (12 ml glutaraldehyde; 1%, v/v) to retain its activity for longer period of time (Chae et al., 1998, Palomo et al., 2007).

リパーゼに限らず、キモトリプシンやサブチリシンなどさまざまな生体触媒をセライトに担持させて使用する試みが報告されており、単なる濾過助剤ではないセライトの奥深さが伺えます[3]。有機合成におけるセライトの利用に関しては総説[3]に詳しくまとめられていますので、ぜひ参考にしてみてください。

参考文献

[1] Ando, T.; Yamawaki, J. “Potassium fluoride on celite – versatile reagent for C-alkylation, N-alkylation, O-alkylation, and S-alkylation” , Chem. Lett., 1979, 8, 45-46, DOI: 10.1246/cl.1979.45.
[2] Ashok Kumar, Shamsher S. Kanwar, “Synthesis of ethyl ferulate in organic medium using celite-immobilized lipase”, Bioresource Technology, 2011, 102, 2162-2167, DOI: 10.1016/j.biortech.2010.10.027.
[3] V. Pace, J.V. Sinisterra, A.R. Alcántara, “Celite-Supported Reagents in Organic Synthesis: An Overview”, Current Organic Chemistry, 2010, 14, 2384-2408, DOI: 10.2174/138527210793358213.

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創薬化学者と薬局薬剤師の二足の草鞋を履きこなしていた、四年制薬学科の生き残り。現在は私大薬学部教員として実験に邁進中。
薬を「創る」と「使う」の双方からサイエンスに向き合っています。
しかし趣味は魏志倭人伝の解釈と北方民族の古代史という、あからさまな文系人間。
どこへ向かうかはfurther research is needed.

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