[スポンサーリンク]

化学書籍レビュー

持続可能性社会を拓くバイオミメティクス

[スポンサーリンク]

[amazonjs asin=”4759813888″ locale=”JP” title=”持続可能性社会を拓くバイオミメティクス: 生物学と工学が築く材料科学 (CSJカレントレビュー)”]

内容

生物に学ぶ考え方は,ナイロンに見られるように古くからあった.近年,ナノテクノロジーの飛躍的な展開により,表面のぬれ特性や形態・自己修復能等,より広範な視点から生物の機能に学ぶバイオミメティクス研究が盛んになってきた.生物学と工学を情報科学で繋ぐという視点から,最先端研究や産業化の動向を解説する.(引用 : 書籍紹介のページより)

対象者

  • 材料科学と生物学の研究者
  • 生物の仕組みに興味がある高校生以上の方

CSJ カレントレビューについて

本書は、化学同人社より出版されている「CSJ カレントレビュー」の書籍です。このシリーズは、化学の様々な分野の最新のテーマについて、基礎的な概念から最先端の話題を提供するために企画され、新しいスタイルの総説集になっています。このシリーズの総説集は、以下の三部構成からなっており、本書もこの流れに沿っています。

Part I 基礎概念と研究現場 (座談会形式のインタビュー、基礎概念の解説など)

Part II 研究最前線 (最先端トピックのレビュー解説)

Part III 役にたつ情報·データ (重要論文, 重要語句解説など)

この本シリーズの魅力そのものはこちらの記事で紹介されていますので、この記事では “二次元物質とは何か” について紹介しながら、本書籍を解説します。

バイオミメティクスとは

バイオミメティクスという言葉を私はこの本で知りましたが、直訳すると「生物模倣」と言うそうで、生物の形態や構造、機能などを模倣し新しい技術開発に活かす研究という意味です。有名な例は新幹線の先端の形で、カワセミのくちばしをまねて空気抵抗を減らすことを狙ってデザインされました。化学の世界でも同様の研究は活発におこなれていて、人口光合成などは聞いたことがあるかもしれません。本書では、様々なバイオミメティクスに関連した研究を紹介しています。

感想

CSJ カレントレビューはどの巻も読みやすいですが、本書はお世辞抜きにシンプルに面白くて読みやすいです。私はこの分野については全くの専門外ですが、どのトピックにおいても生物現象の説明が丁寧に記述されていて、ただ模倣したというわけではなくどのように生物の仕組みを取り入れたのかを知ることができます。もちろん生物の現象なのでたくさんの写真が掲載されていて容易に理解することができるため、大学生だけでなく理科に興味がある高校生にもおすすめいしたい本です。下記で紹介するのは本書の中で特に興味深かったトピックです。

自己組織化を利用したモスアイフィルムの作製

モスアイフィルムとは表面にナノスケールの微小突起を形成したフィルムであり、ガの眼を模倣したバイオミメティクスです。このモスアイフィルムをディスプレイの反射防止膜として利用する研究がおこなれていて、現状の反射防止膜よりも低コストで、大型テレビなど向けの大面積にも対応できるモスアイフィルムの作製方法が開発されました。開発のポイントこの微小突起をフィルムに作るための金型で、アルミニウムを陽極酸化すると自己組織的にポーラスアルミナが形成できるという現象を利用して大面積のロール金型の作製に成功したようです。

バイオミメティクス・バイオフィルムとしてのナノスーツ

電気顕微鏡は、チャンバーを真空にして測定を行うため、生物を生きたまま測定することは不可能です。この研究では、電子線を照射することで乾燥収縮することなく生物のSEMの測定に成功しました。きっかけは、ショウジョウバエの幼虫をFE-SEMでの観察で、高真空のチャンバーに入れてすぐに電子線を照射すると乾燥収縮しませんでしたが、電子線を当てずに高真空に放置してからSEMで観察すると乾燥収縮してしまいました。これは、タンパク質、脂質、多糖類などを含む細胞外物質(ECS)が電子線によって化学反応を起こし高真空に耐えられるナノスーツを形成したと言えます。この現象を応用して人工のECSをボウフラに塗布しプラズマ処理することで、そのままではSEMを観測できなかったボウフラも測定することに成功しました。

生物から学ぶ接合技術

ケムステでも取り上げたヤモリの足に関する研究が紹介されています。特に興味深かったのは、パルメリダエ・ロリドゥラエというカメムシの一種の虫で、なんとウツボなどの食虫植物がとらえた虫を食べる生き物がいるそうです。この植物の足の分泌液が、植物の粘液との直接接触を妨げているため、パルメリダエ・ロリドゥラエ自身は植物に捉えられないそうです。応用のパートには実用化における形状やサイズについて解説しています。

トピックス

トピックスには、すでに商品化されているカタツムリの防汚技術とマグロの皮膚から学んだ低摩擦効果の船舶用塗料が紹介されています。

このほかにも生物の様々な部位を模倣して新たな技術の開発について紹介しています。

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. CFDで移動現象論111例題 – Ansys Flu…
  2. 次世代医薬とバイオ医療
  3. 【書籍】「世界一美しい数学塗り絵」~宇宙の紋様~
  4. DNA origami入門 ―基礎から学ぶDNAナノ構造体の設計…
  5. [書評]分子の薄膜化技術
  6. 【書籍】有機反応機構の書き方 第2版
  7. 2016年2月の注目化学書籍
  8. 天然物の全合成―2000~2008

注目情報

ピックアップ記事

  1. マーティン・オストライヒ Martin Oestreich
  2. 仏サノフィ・アベンティス、第2・四半期は6.5%増収
  3. シャープレス・香月不斉エポキシ化反応 Sharpless-Katsuki Asymmetric Epoxidation (Sharpless AE)
  4. 塩野義 抗インフルエンザ薬を承認申請
  5. 機械学習用のデータがない?計算機上で集めませんか。データ駆動型インシリコ不斉触媒設計で有機合成DX
  6. トコジラミの話 最新の状況まとめ(2023年版)
  7. メタンハイドレートの化学 ~その2~
  8. (-)-Cyanthiwigin Fの全合成
  9. 配糖体合成に用いる有機溶媒・試薬を大幅に削減できる技術開発に成功
  10. 第11回ケムステVシンポジウム「最先端精密高分子合成」を開催します!

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年4月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

第61回Vシンポ「中分子バイオ医薬品分析の基礎と動向 ~LCからLC/MSまで、研究現場あるあるとその対処~」を開催します!

こんにちは、Macyです。第61回Vシンポのご案内をさせていただきます。今回は、Agilen…

水分はどこにあるのか【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

「MI×データ科学」コース 〜LLM・自動実験・計算・画像とベイズ最適化ハンズオン〜

1 開講期間2026年5月26日(火)、29日(金) 計2日間2 コースのねらい、特色近…

材料の数理モデリング – マルチスケール材料シミュレーション –

材料の数理モデリング概要材料科学分野におけるシミュレーションを「マルチスケール」で理解するた…

第59回天然物化学談話会@宮崎(7/8~10)

ごあいさつ天然物化学談話会は、全国の天然物化学および有機合成化学を研究する大学生…

トッド・ハイスター Todd K. Hyster

トッド・カート・ハイスター(Todd Kurt Hyster、1985年10月10日–)はアメリカ出…

“最難関アリル化”を劇的に加速する固定化触媒の開発

第 703回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院 理工学府 博士課程前期で…

「ニューモダリティと有機合成化学」 第5回公開講演会

従来の低分子、抗体だけでなく、核酸、ペプチド、あるいはその複合体(例えばADC(抗体薬物複合体))、…

溶融する半導体配位高分子の開発に成功!~MOFの成形加工性の向上に期待~

第702回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理学部(田中研究室)にて助教をされていた秋吉亮平 …

ミン・ユー・ガイ Ming-Yu Ngai

魏明宇(Ming-Yu Ngai、1981年X月XX日–)は米国の有機化学者である。米国パデュー大学…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP