[スポンサーリンク]

化学書籍レビュー

アート オブ プロセスケミストリー : メルク社プロセス研究所での実例

[スポンサーリンク]

[amazonjs asin=”4759814922″ locale=”JP” title=”アート オブ プロセスケミストリー: メルク社プロセス研究所での実例”]

内容

コストと時間効率を究極まで突き詰めたプロセス化学の実例を,メルク社が世に送りだしてきた医薬品候補群から厳選し紹介する。各章は,実際の創薬プロセスの流れを追うパートと,化学の視点でプロセスを解説するパートの二部構成になっており,教育的な配慮も十分になされている。(内容説明より)

対象

創薬研究、医薬品プロセス化学、精密有機合成化学に興味を持つ大学院生以上の有機合成化学者

解説

プロセス化学とは、医薬の大量製造を目的とする合成化学のことである。臨床試験や商品化を目的とした、高品質・安定的供給を実現する経路や反応条件最適化を主に行う。「効く化合物」を見つけ出してくるメディシナル化学と対比的に語られることも少なくない。合成化学を愛する人はプロセス化学こそを愛するとも聞く。

製薬会社勤務のとある知人によれば、プロセス化学において別格の成果を挙げる会社は、ファイザー社とメルク社の2つだという。そのメルク社で成し遂げられた「伝説のプロセス化学」を1冊にまとめたのが本書である。プロジェクト毎に一つの章を当てて、9章に渡り濃密な解説が成されている。

編著者は米国Merck Research Laboratoriesで長年勤務した安田 修祥氏。もともと英文で執筆された「The Art of Process Chemistry」の邦訳に相当する。

[amazonjs asin=”3527324704″ locale=”JP” title=”The Art of Process Chemistry”]

各々の章は「大量合成法の確立」から話が始まる構成となっている。標的薬物に関する簡単な説明を付した後、メディシナル経路における問題点を述べ、それをどう解決して大量供給可能な経路に仕上げたのか・・・という筆致である。安価な原料の活用やエンジニアリング要素に拘る最適化では無く、ルート自体にざくざくメスを入れて合成を研ぎ澄ませて行く様は、プロセス化学者はもちろん、広く合成化学者にとって読み解くべき価値ある内容である。

加えて、研究過程で見いだされた「新しい化学の展開」が、「大量合成法」の後に全章で記述されるのもユニークな構成で見逃せない。メルクのプロセス化学者は、既存反応を活用するだけでは無く、前例のない新規反応開発も厭わない存在である。それを強調する意図もあるのだろう。この項目では主として、プロセス現場で実用された反応についての機構解析研究が記されている。一見して製品価値に直結しそうもない研究だが、プロジェクトを綿々と繋げていくことにより、結果的に最終品の大幅な価格低減などに結びついてゆくストーリーは圧巻そのものである。もちろんこれらは学術的価値にも直結している。
こういった内容を眺めて見ると、やはり流石のレベルと唸らされるほかない。プロセス研究の範疇を遥かに越えたインパクトをもたらす、「化学」としての完成度・展開力は、まさに”アート”と形容するにふさわしい。これほどのレベルになると、アカデミック研究と企業研究の境界は曖昧になってくるようにも思える。

世界最高峰の企業研究グループが創り上げた、高純度の知的結晶に触れたい合成化学者にとって、広く読むべき価値のある書籍と言える。「Classics in Total Synthesis」などにまとめられる珠玉の全合成研究とは、また違った煌めきを感じ取れることだろう。

関連書籍

[amazonjs asin=”4621088157″ locale=”JP” title=”プロセス化学 第2版: 医薬品合成から製造まで”][amazonjs asin=”4759814930″ locale=”JP” title=”医薬品のプロセス化学(第2版)”][amazonjs asin=”4759816178″ locale=”JP” title=”医薬品の合成戦略 -医薬中間体から原薬まで”]
Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 最新 創薬化学 ~探索研究から開発まで~
  2. 生涯最高の失敗
  3. 次世代シーケンサー活用術〜トップランナーの最新研究事例に学ぶ〜
  4. まんがサイエンス
  5. 化学探偵Mr.キュリー6
  6. Cooking for Geeks 第2版 ――料理の科学と実践…
  7. 【書評】元素楽章ー擬人化でわかる元素の世界
  8. Dead Ends And Detours: Direct Wa…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 2016年9月の注目化学書籍
  2. 花粉症の薬いまむかし -フェキソフェナジンとテルフェナジン-
  3. サイアメントの作ったドラマ「彼岸島」オープニングがすごい!
  4. テトラブチルアンモニウムジフルオロトリフェニルシリカート:Tetrabutylammonium Difluorotriphenylsilicate
  5. GHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)
  6. 目指せ!! SciFinderマイスター
  7. 酢酸エチルの高騰が止まらず。供給逼迫により購入制限も?
  8. 貴金属に取って代わる半導体触媒
  9. 抗精神病薬として初めての口腔内崩壊錠が登場
  10. ライマー・チーマン反応 Reimer-Tiemann Reaction

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年11月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP