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化学書籍レビュー

Cooking for Geeks 第2版 ――料理の科学と実践レシピ

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[amazonjs asin=”4873117879″ locale=”JP” title=”Cooking for Geeks 第2版 ―料理の科学と実践レシピ (Make: Japan Books)”]

キッチンへ足を踏み入れたそのときから、あなたは知らず知らずのうちに物理学者となり、化学者ともなっている。チョコレートチップクッキーの生地がオーブンで加熱されると、卵のタンパク質が変性し(化学)、卵やバターの水分が蒸発し(物理)、小麦粉のデンプンが溶け(これも物理)、そしてメイラード反応とカラメル化によってクッキーの外側が茶色く色づく(これも化学)。そして、クッキーが焼き上がるのだ!

皆さん、料理はお好きでしょうか?2010年に第1版が発売され、世界中のギーク達を魅了しキッチンへと向かわせたJeff Potter著の名書、『Cooking for Geeks』の第2版が先日発売されました。第2版発売の記念も兼ねて、今回はこちらの本をご紹介したいと思います。

概要

熱を2倍にしても調理のスピードが2倍にならないのは何故?料理における風味とは何?焼きたてのクッキーと時間が経ったクッキーの食感が違うのは何故?

料理におけるひとつひとつの現象の裏には科学的な理由があるのです。この本は、そのような現象を科学的に、解析的に、解説していく本です。また調理方法だけでなく、道具や環境、物質や文化にも着目しており、料理に纏わる系統的な知識を得ることができます。

キッチンから機能的固着を追放しよう。料理の仕方を学ぶ最も効果的な方法は、レシピのステップごとにその背後にある理由を考えて、さまざまな違った答えを探求することだ。たとえ間違ったとしても、何がうまく行き何がうまく行かないかを学ぶことができるし、その過程で機能的固着を乗り越えた、新しいキッチンの見方が次第にできるようになってくるだろう。

対象

料理を本質的に理解したい人、料理が好きな人、科学が好きな人

解説

オライリー(O’REILLY)という出版社をご存知でしょうか。オライリーは、主に情報工学に関する本を取り扱っている出版社です。またそれらの本は、白黒の動物が表紙のシンプルな分厚い本が多く、情報工学を専門としていなくても、書店に並んでいる様子を見かけたことがある人も多いのではないでしょうか。私も、プログラミングやUNIXの学習において、昔から今もずっとお世話になっております。そのような出版社が出している本なのだと説明すれば、この本、『Cooking for Geeks』がどのような書籍であるのか想像がつくのではないでしょうか。

例えば、プログラミング学習における第一歩は “Hello, World!” を出力することであるのに合わせて、『Cooking for Geeks』の第一章のタイトルも「ハロー、キッチン!」となっています。調理の順序が重要であることを、原著では、f(g(x))!=g(f(x))という形で表現していますし、可逆反応と不可逆反応の概念を用い、ひとつひとつの調理が何を意味するのか考えるように促しています。なんともギーク向けな本ですね。

そんなこの本ですが、非常に内容は盛りだくさん。ページ数は450を超えます。調理に関する科学以外にも、実際のレシピや、料理人のインタビューなどが載っているので、様々な角度から料理に関する知見を得たい人にはうってつけです。

 

個人的に好きなのは「時間と温度」のパートと「食品添加物の使い方」のパートです。

「時間と温度」のパートでは、グリルでステーキを焼く時とオーブンでステーキを焼く際に生じる、調理したステーキの温度勾配の違いについて事を発し、3種の伝熱方法「伝導」、「対流」、「放射」で調理例と用途を分類しています。その上で熱を伝える手法の組み合わせを考案しており、参考になります。

また、手作りチョコレート(この記事内では、加熱によって硬質化している物質の粘度を下げ形状をコントロールし、その後再び温度調節によって物質の粘度を上げ、硬質化させることを「手作り」の定義に含んでいる)を作る際に必須となるテンパリングについても、ココア脂肪の結晶構造が変化する温度に着目し、温度変化の理由を解説しています。

手作りチョコレート製作におけるテンパリング目安グラフ(当書籍『Cooking for Geeks 第2版』より引用)

ああ、いいですね。グラフが使われると一気に理解しやすくなる人間です。途中で刻んだチョコレートを入れる方法の目的は、冷却及び固形化の種を作るためだったんですね。結晶化と言われてしまえば、解釈もすっきりとします。

あえて1つ間違いを指摘するならば、チョコレートを「溶かす」と訳していることでしょうか。しかしこれは訳者の間違いですね。

 

「食品添加物の使い方」では、原子や分子、イオンの説明から、風味付け用いられる溶媒としてのアルコールの役割を考察したり、保存料や増粘剤が果たす役割を解析したりしています。

食塩についても、液体に加えた時に何が起きるのかを丁寧に説明しています。逆に丁寧すぎて理系以外はわかりにくい…?

塩化ナトリウム(普通の食塩)は典型的な例であり、カチオンとアニオンから構成されたイオン化合物だ。しかし固体の状態(ソルトシェーカーの中に入っているもの)では、塩は1個のアニオンと1個のカチオンよりも複雑な構造を取る。塩は結晶として固体の形態を取り、その中ではカチオン、アニオン、カチオン、アニオンといった具合に、原子が電荷に応じて(3次元の市松模様に似た)繰り返しパターンに配置される。水を加えると、塩の結晶は溶解し、イオンが解放される(解離する)。アニオンとカチオンは分離して別々のイオンとなり、他の原子や分子との反応や結合が可能になる。だから、塩はすばらしい働きをするのだ! ショ糖にはこのようなことはできない。

キッチンに並ぶ複雑な物質(キッチンほど複雑な物質が並んだ実験室はそうそうないだろう)を細かく分類しているのも好感です。

食品におけるコロイドの分類(当書籍『Cooking for Geeks 第2版』より引用)

おわりに

当書籍は電子書籍化されていないですが、オライリー・ジャパンから直接pdfで買うこともできます。料理に対する新たな視点を当書籍から得てみてはいかがでしょう。この本を読み終えてからキッチンの前に再び立った時のあなたの目には、以前と異なる風景が広がっていることでしょう。

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