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化学書籍レビュー

【書評】現場で役に立つ!臨床医薬品化学

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現場で役に立つ!臨床医薬品化学」は、2021年3月に化学同人より発行された、医薬品化学メディシナルケミストリーを中心とした教科書

現場で役に立つ! 臨床医薬品化学

現場で役に立つ! 臨床医薬品化学

¥4,400(as of 02/01 11:08)
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対象

薬学生、薬学系大学院生、薬剤師、薬学教員、創薬化学者、など。

目次

Part1 医薬品を理解するための基礎知識
1章 現場で必要な臨床医薬品化学とは
2章 医薬品と生体との相互作用
3章 医薬品のコンポーネント―ファーマコフォア,バイオアイソスター
4章 プロドラッグとアンテドラッグ

Part2 代表的8疾患の医薬品
代表的8疾患を学ぶ意義
5章   がんとその治療薬
6章   糖尿病とその治療薬
7章   循環器疾患とその治療薬
8章   精神・神経疾患とその治療薬
9章   高血圧症とその治療薬
10章 免疫・アレルギー疾患とその治療薬および抗炎症薬
11章 感染症とその治療薬
12章 そのほかの重要な治療薬

概要

医薬品の性質を理解することに重きを置き、有機化合物としての医薬品の物性、反応性および分子レベルでの医薬品の作用機序について理解し、医療や臨床の現場で説明できるようにするための学びの教科書。薬学教育モデルコアキュラムに掲げられている、医療の現場でよく出合う、代表的な「8疾患」を治療するための医薬品をできるかぎり網羅した。構造式を収載した[医薬品FILE]には一般名とともに販売名とステムも記載。また、二次元バーコードは添付文書やインタビューフォームに飛ぶことができる。本書で学び,病院実習や薬局実習。そして未来の臨床さらに創薬現場で、ぜひ役立てていただきたい。

感想

薬の作用機序や効き目 (薬物動態など) には、有機化学が密接に関与しており、まさに有機化学は薬学の基礎の一つです。しかしながら、薬学生や薬剤師からの意見としては「有機化学は臨床において役に立たない」という意見も散見されます。そういった意見の根幹には、薬理学や薬物動態学などと有機化学が独立したカリキュラムとして教えられてきたという背景があると思います。確かに筆者も Birch 還元の条件を薬剤師が細かに覚えている必要は無いと思いますが、構造式や官能基と作用機序を関連づけて覚えることは、創薬化学においてはもちろん必須の知識ですし、臨床において相互作用や副作用・薬効のケーススタディを考えるうえでも非常に重要だと感じます。近年の薬剤師国家試験では、いわゆる実践問題に代表されるように、症例の提示からいきなり構造式に関する問題が出てくることも通例となりました。まさに、薬学部で学んだ知識を統合的に考えるスキルが求められるようになっています。

本書ではまず Part1 として、医薬品化学の必須の知識として、生体との相互作用やファーマコフォア・バイオアイソスターの概念、プロドラッグの例などを沢山の構造式とともに例示し、二色刷りの図で見やすく示しています。医薬品化学の教科書として比較的平素な記述で綴られており、初学者から薬剤師免許を取得して久しい臨床薬剤師に至るまで理解・復習しやすく書かれていると思います。大学の図書館などで古い医薬品化学の教科書を読むと、出ている医薬品も古いものしかなく「またこの話か…」と難儀することもありますが、本書はフィンゴリモドやホスアプレピタント、HIVインテグラーゼ阻害剤なども例として載っていて、「おお、新世代の教科書だ」とちょっと感動しました。

Part2では、2013年に改訂された薬学教育モデル・コアカリキュラム (コアカリ) で提示された代表的 8 疾患、すなわち、がん、高血圧症、糖尿病、心疾患、脳血管障害、精神神経疾患、免疫・アレルギー疾患、感染症に対する医薬品の各論が載っています。これらの領域は、90年代から使用されていた既存の薬も多いですが、例えば糖尿病領域においては DPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬など、がん領域に関しては各種分子標的薬や HDAC 阻害薬など、新薬もどんどん上市されている分野になります。そういった分野の医薬品 (の有機化学・医薬化学的側面) について分かりやすく up-to-date することも本書で可能になると思います。

また、昔はあまり国試や授業で問われませんでしたが、近年は糖尿病治療に用いるインスリン製剤についてもその作用時間や投与回数などの化学的工夫をしっかり学ぶ必要が出てきています。インスリン製剤の設計にも医薬品化学の知見がふんだんに散りばめられており、本書はその違いを違いを理解するための一助となるでしょう。

さらには、新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) 治療薬についてもわずかながら構造式とともに記述されています。2021年当時の記述ではありますが、例えばレムデシビルなどは今後の薬剤師国家試験などでは恐らく必出となってくる医薬品だと思いますので、本書を入手しそのさわりだけでも理解しておくことが日々の学習の助けになると思います。

医薬品の構造式の横には PMDA (独立行政法人 医薬品医療機器総合機構) のサイトにアクセス可能な二次元コードが載っており、詳細な情報へすぐにアクセスすることができます。

また、本書は読み物としてのコラムやアドバンストな記事も充実しています。百聞は一見に如かず、以下に一部を示します。

2024年度の入学生から薬学部のコアカリが改訂され、大学独自のカリキュラムが重視されるようになります。医薬品化学を教える先生方、ぜひともバラエティ豊かな内容の本書の採用を検討してみてはいかがでしょうか (本書を教科書採用いただいた先生には,講義用図表 (PowerPoint) 進呈のサービスがあります。詳しくはコチラ)。
また、既に臨床で活躍されている薬剤師の皆様も、本書を手に取って一度薬学の基礎である有機化学に立ち返り、最新の臨床薬学について有機化学の視点から学び直してみるのもおすすめです。調剤室や DI 室に一冊備えておいても良いと思いました。臨床における化学のスペシャリストとしての薬剤師になるための最適な一冊だと感じます。

現場で役に立つ! 臨床医薬品化学

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DAICHAN

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創薬化学者と薬局薬剤師の二足の草鞋を履きこなす、四年制薬学科の生き残り。
薬を「創る」と「使う」の双方からサイエンスに向き合っています。
しかし趣味は魏志倭人伝の解釈と北方民族の古代史という、あからさまな文系人間。
どこへ向かうかはfurther research is needed.

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