概要
★うるわしい働き者―炭素の楽しい物語
本書の紙から体内の血液まで,ほぼ万物が炭素の原子を含んでいる.おくるみもお棺もそうだから,私たちは炭素に包まれて生まれ,人生を過ごし,そして死ぬ.生物とは,炭素質の惑星が生んだ精妙な作品だといえよう.それほどに大事な炭素も,原子どうしの結合がほんの少し狂うだけで健康や命に障りかねない.
炭素は暮らしを支えるばかりか,地球の誕生・進化と未来,人類の行く末など,根源の問いにもからむ.詩心たっぷりな語り部といってよい地球科学者ロバート・M・ヘイゼンが本書で,宇宙の成り立ちと過去・現在・未来に深くかかわる炭素の意外な素顔を浮き彫りにする.
人体の炭素分は,カール・セーガンが見抜いた「星屑」にとどまらない.本書『交響曲第6番「炭素物語」』の序奏で説かれるとおり,恒星の誕生をはるかにさかのぼる138億年前,ビッグバン直後の10数分間にも,激しくぶつかり合う陽子と中性子が炭素の原子を生んでいた.その一部はいま,むろん読者の体内にもある.序奏に続く4つの楽章が,聴衆の心を引きこみながら,アリストテレスの四元素「土」「空気」「火」「水」にからめた炭素の美しい物語をつむいでいく.
著者はナポリ近郊の名高いソルファタラ・ディ・ポッツォリ火口を訪れ,炭素質の火山ガスが生むきれいな鉱物を見つめた.スコットランド高地の崖を登って炭素鉱物を探したこともある.ナミビアの貴金属鉱山だけで見つかる鉱物を手がかりに,未知の炭素化合物あれこれがひそむ地球深部に想いをはせる.
ときには立ち止まって,気候変動と炭素の関係を考えたりする.炭素がなければ暮らしも産業も成り立たないわけだから,そう単純な話でもない.
本書は,ダイヤモンドの輝きをもつ散文を音符として,炭素というかけがえのない元素を讃える大交響曲だと(引用;化学同人書籍紹介より).
対象者
・特になし
目次
プロローグ/黙 想
第1楽章「土」――深部の炭素
[序 奏]地球誕生の前
ビッグバンでも生まれた炭素
星の元素を知る一歩(ハーバードの恒星分類/星が生む炭素/燃えるヘリウム/散らばり続ける炭素)
[提示部]地球の誕生と進化
原初のダイヤモンド
地球の多彩な炭素鉱物(地球史と炭酸塩鉱物/ジェームズ・ホールと石灰岩論争/希少きわまりない鉱物)
ビッグデータ鉱物学(第2のデータベース/数学がひらく鉱物生態学/炭素鉱物チャレンジ)
[展開部]地球深部の炭素
深部炭素の鉱物学(高圧下のX線実験/さらに高圧の世界へ)
深部のダイヤモンド(巨大ダイヤのできた場所/ダイヤモンドが語る地球史)
中心核にある炭素
地球最深部の謎
[再現部]炭素の存在する世界
地球に固有な鉱物相
地球型の系外惑星
[終結部]なお残る謎
第2楽章「空気」――旅する炭素
[序 奏]大気ができる前
[短い独唱]大気の起源
炭素のシャワー
大気の消滅と再生
再生後の地球大気(証拠① 弱い太陽/証拠② 地球化学/証拠③ 隕石にひそむ大気)
[間 奏]地球深部の炭素循環
深みへと下りるもの
深みに下りた炭素の運命(深部の水/深部水のモデル/深部のメタン/同位体を見分けるレーザー法)
深みから地表に戻るもの(火山の炭素/地殻とマントル/炭素の観測と噴火予知/ダイヤモンドができる場所)
炭素のバランス
[短い独唱(ダ・カーポ)]大気の変化
心配なこと
温暖化の悪影響?
温暖化対策?
[終結部]既知・未知・不可知
第3楽章「火」――暮らしの炭素
[序 奏]素晴らしき材料の世界
数のルールとマジックナンバー
燃える炭素とエネルギー
ものづくりの原料
[スケルツォ]身のまわりで役に立つもの
熱い材料
冷やす材料
くっつく材料
滑る材料
[三重奏]ナノテクノロジーの主役
可能性の広がる新素材
軽くて強い未来材料
ナノマシンの部品
[スケルツォ再奏]炭素材料と暮らしの物語
身のまわりの高分子製品(絹の手触り/発泡材/命にかかわる重合ミス)
分解する高分子の明暗(切れたロープ/アルデンテのパスタ/崩れ落ちる古い楽譜)
[終結部]炭素なしで音楽は奏でられない
第4楽章「水」――生命の炭素
[序 奏]原始の地球
[提示部]生命起源の謎をさぐる
生命誕生の「5W」(誰が、なぜ?/いつ?/どこで?/できたのは何?)
生命の誕生:カギを握る炭素の化学(なぜ炭素が生命をつくる?/炭素のチカラ)
見えてきた生命への道(段階① 生体分子の誕生/生命のゆりかご : 深海の熱水噴出孔?/段階② 生体分子の選別と濃縮/鉱物の役割と生命の起源/情報分子RNAの役割/段階③ 自己複製系の出現)
もうひとつの創世記 : 地球外生命は存在するか
豊かなる地球型惑星
[展開部]生命の進化(主題と変奏)
主題:進化する生命
変奏①:鉱物を食べる微生物(深部の巨大生態系)
変奏②:光合成生物とその産物(悪臭の世界/手ごわい水)
変奏③:多細胞生物の登場(協力体制/奇妙な姿の生物たち)
変奏④:鉱物で武装する生物の出現
変奏⑤:生物の陸上進出(埋もれたバイオマス)
変奏⑥:ヒトの誕生(炭素で時間がわかる/歴史を語る炭素)
[再現部]人間活動と炭素循環
生物の死と炭素
[フィナーレ]「土」「空気」「火」「水」の協奏
内容
睡眠前の読書用に久しぶりの元素関連の書籍を購入。まあ大抵は2ページぐらいすすめると寝落ちしてしまうのだが。普通の元素本では面白くないので、一風変わったタイトルの本書を選んだ。
「交響曲第6番」と書いてある本書のタイトル。6番は言わずとしれた炭素の元素番号だが、なぜ交響曲なのか?
どうやら、莫大な研究費で深部炭素観測に望んだ著者が、その研究を推進するためには、交響曲のように多くの音色(研究)をまとめ全体像を出していくことを例えたようだ。さらに交響曲では、通常美しいソロの主題があり、この書籍でも「光る研究成果」として紹介しようということらしい。なるほど。
さて、実際読んでみると翻訳本なので日本語から書かれた書籍とはタッチが異なるが、違和感はない。深層炭素観測に関わる研究成果の一部を紹介したものであり、内容としてはかなり炭素鉱物の話が多い。
現に、第1楽章「土」として、”土”に含まれる炭素源の話からはじまる。炭素鉱物といえば、ダイヤモンドやグラファイトなどの純粋な炭素鉱物を思い浮かべると思うが、不純な(他の元素を含む)炭素鉱物は400種類以上もあるそうだ。確かに例えば、炭酸カルシウムCaCO3も炭素鉱物になる。
第2楽章「空気」では、一転して気体として存在する炭素、つまりCO2やCOなどの話に移り変わる。気候変動や二酸化炭素排出問題についての話ばかりかなと思いきや、炭素の観測による噴火予知などの話もあり参考になった。続いて、第3楽章「火」。日常的にある炭素製品を紹介する章だ。化学者としてはここはスムーズに読みやすい。
いつもこのような一般書を読むときは内容よりも、読み手を意識した書き方を勉強している。専門にハマりすぎてしまうと、専門外のひとを置いてけぼりにしやすい。大変参考になった。最後は第4楽章「水」。生命に関わる炭素、つまり我々自身だ。主の部分は意外とさっくり終わってしまって少し物足りなかった。ただ、変奏と第している部分に関しては、知らない内容もありなかなか読む価値がある。
総じて、有機化学主体のサトケンさんの炭素文明論などとはまったく異なるが、基礎知識に加えて、様々な観点や立場から炭素をみるということを学べたということで満足できた。眠いときでなければさらっと読めてしまうので、ぜひ読んでみてください。
追伸:各所にQRコードが散りばめられていて、登場する鉱石の画像や動画へ簡単にアクセスできるのは面白い。本を読んでいるときにQRlコードにアクセスしないよなあと思っていたが、これが鉱石の名前ではイメージがわかず、ついアクセスしてしまう。すぐにその写真をみることができるのは便利だ。そして、頭に思い浮かんだ鉱石よりも意外と地味である(石なので当たり前だが)ことに毎回納得。