[スポンサーリンク]

chemglossary

多重薬理 Polypharmacology

 ある化合物が複数種のターゲットに対し同時に活性を及ぼすことを多重薬理(polypharmacology)と呼ぶ。(画像引用:Medical Xpress)

 一般的に非治療ターゲットへの作用は毒性や副作用に繋がりうるため、通常の創薬研究では1種類の標的のみを特異的に狙う分子設計にて開発が進められる。

 一方で近年の低分子医薬創出率の世界的低下をうけ、新たな創薬コンセプト追究機運が高まっている。この背景から、多重薬理概念は画期的創薬に繋がりうると注目を集めている。すなわち、複数の生物経路へと干渉できる適切な分子設計ができれば、より効果が高く、低毒性で、耐性を生じにくい医薬品に仕上がりうるとの見方である。

 多くの市販薬にしても、単一ターゲットのみに結合しているわけではなく、かなりの率で多重薬理を示すことが知られている。システム生物学の発展に伴い、むしろ多重薬理による生化学ネットワークのmodulationこそが、独特な薬効発揮の根源にあるとの見方がなされつつある。

 また多重薬理医薬はそのoff-target効果により、drug-repurposingやdrug-repositioningの文脈から再利用されることもある。

 顕著な例がサリドマイドである。これは妊娠初期の催奇形性の為に1961年に市場から撤退したが、のちにらい性結節性紅斑(ENL)、多発性骨髄腫の治療に利用されるようになった。これはサリドマイドが複数保有するoff-target作用に起因する。

 現状の多重薬理創薬はアカデミック研究が先行しており、製薬会社では意図的にはあまりなされていない(リード最適化研究が複雑化するため)。しかしガンや中枢系疾患については、複雑な作用をもたらす治療薬が必要と考えられるため、例外的に行われる傾向にある。

参考文献

  1. “Polypharmacology – Foe or Friend?” Peters, J.-U. J. Med. Chem. 2013, 56, 8955–8971. DOI: 10.1021/jm400856t
  2. “Polypharmacology: drug discovery for the future” Reddy, A. S.; Zhang, S. Expert Rev. Clin. Pharmacol. 2013, 6, 41-47. doi:10.1586/ecp.12.74
  3. ”Polypharmacology: Challenges and Opportunities in Drug Discovery” Anighoro, A.; Bajorath, J.; Rastelli, G. J. Med. Chem. 2014, 57, 7874–7887. DOI: 10.1021/jm5006463

外部リンク

The following two tabs change content below.
cosine

cosine

博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 極性表面積 polar surface area
  2. リピンスキーの「ルール・オブ・ファイブ」 Lipinski…
  3. ポットエコノミー Pot Economy
  4. Imaging MS イメージングマス
  5. ケミカルジェネティクス chemical genetics
  6. クリックケミストリー / Click chemistry
  7. シュテルン-フォルマー式 Stern-Volmer equat…
  8. コールドスプレーイオン化質量分析法 こーるどすぷれーいおんかしつ…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. ハウアミンAのラージスケール合成
  2. FT-IR(赤外分光法)の基礎と高分子材料分析の実際【終了】
  3. ジョンソン オレフィン合成 Johnson Olefination
  4. ポリエチレングリコール結合ルテニウムカルベン錯体
  5. 光で動くモーター 世界初、東工大教授ら開発
  6. ノーベル化学賞は化学者の手に
  7. 田辺シリル剤
  8. 酒石酸にまつわるエトセトラ
  9. トマス・リンダール Tomas R. Lindahl
  10. ヘル・フォルハルト・ゼリンスキー反応 Hell-Volhard-Zelinsky Reaction

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

酵素触媒によるアルケンのアンチマルコフニコフ酸化

酵素は、基質と複数点で相互作用することにより、化学反応を厳密にコントロールしています。通常のフラ…

イオンの出入りを制御するキャップ付き分子容器の開発

第124回のスポットライトリサーチは、金沢大学 理工研究域物質化学系錯体化学研究分野(錯体化学・超分…

リチウムイオン電池の課題のはなし-1

Tshozoです。以前リチウムイオン電池に関するトピックを2つほど紹介した(記事:リチウムイ…

アルコールをアルキル化剤に!ヘテロ芳香環のC-Hアルキル化

2015年、プリンストン大学・D. W. C. MacMillanらは、水素移動触媒(HAT)および…

三種類の分子が自発的に整列した構造をもつ超分子共重合ポリマーの開発

第123回のスポットライトリサーチは、テキサス大学オースティン校博士研究員(Jonathan L. …

超分子化学と機能性材料に関する国際シンポジウム2018

「超分子化学と機能性材料に関する国際シンポジウム2018」CEMS International Sy…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP