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ケミカルバイオロジー

伊藤 幸裕 Yukihiro Itoh

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伊藤 幸裕(いとう・ゆきひろ)は、日本の化学者である。東京科学大学 総合研究院 教授。専門は創薬化学、ケミカルバイオロジー、有機化学。第26回ケムステVシンポ「創薬モダリティ座談会」講師・パネリスト。

経歴

2006      名古屋市立大学薬学部薬学科 卒業
2008      名古屋市立大学大学院薬学研究科 博士前期課程修了
2010    日本学術振興会特別研究員(DC2)
2011      東京大学大学院薬学系研究科 博士後期課程修了 博士(薬学)
2011      スクリプス研究所 博士研究員
2012      京都府立医科大学大学院医学研究科 学内講師(助教)
2015      京都府立医科大学大学院 医学研究科 講師
2019      京都府立医科大学大学院 医学研究科 准教授
2020      大阪大学産業科学研究所 准教授
2025      東京科学大学 総合研究院 教授

受賞歴

2015 メディシナルケミストリーシンポジウム優秀賞
2018 有機合成化学協会大正製薬研究企画賞
2019 日本薬学会奨励賞
2020 バイオ関連化学シンポジウム講演賞
2024 日本薬学会医薬化学部会賞

研究業績

これまでに私たちは、有機化学を基盤とした創薬化学研究を展開し、様々な生体機能分子を創製してきた。私たちの研究の特徴は、創薬化学研究で一般的に利用されている ligand-based drug design (LBDD) や structure-based drug design (SBDD) と独自の方法論を組み合わせてきた点にある1。以下、その代表例について紹介する。

1.  酵素触媒活性に依存して薬理活性を示す化合物の創製

酵素は、特有の有機化学反応を触媒する。私たちは、創薬標的となる酵素の触媒反応に着目し、触媒活性依存的に機能する様々な生体機能分子を創製してきた2。例えば、LSD1 阻害薬 PCPA を LSD1 自身に効率的かつ選択的に送り届ける小分子化合物 NCD38やがん細胞選択的に薬物を放出するドラッグデリバリー型化合物(PCPA-drug conjugate: PDC)がその代表例である。特に、NCD38 の誘導体 IMG-7289 は現在、臨床開発研究が進められている5


ケムステ内参考記事LSD1阻害をトリガーとした二重機能型抗がん剤の開発 (スポットライトリサーチ)

2. クリックケミストリーを利用した創薬化学

クリックケミストリーは、二つ以上のフラグメントを連結させ、新たな機能性分子を合成するアプローチ法である。私たちは、このクリックケミストリーを巧みに利用して、様々な創薬候補分子の創製に成功してきた。例えば、クリックケミストリーに基づく HDAC 阻害薬ライブラリーの構築によって、HDAC3 や HDAC8 に対する高活性かつ高選択的な阻害薬を見出した6。また、活性中心に金属イオン (M+) を持つ酵素上 (in situ) で、Mがクリック反応を促進することを利用した in situ クリックケミストリーによって、動物試験において抗うつ作用を示すヒストン脱メチル化酵素阻害薬の創製に成功した7

3.タンパク質分解誘導剤の創製

タンパク質分解誘導剤(proteolysis-targeting chimeras: PROTAC)は、生細胞内のタンパク質分解機構であるユビキチン-プロテアソーム系を利用して、標的タンパク質のユビキチン化とプロテアソーム分解を誘導する分子である8。細胞内のタンパク質のユビキチン化はユビキチンリガーゼ(E3)によって行われ、E3 によってポリユビキチン化が起こると、そのタンパク質はプロテアソームによって分解される。PROTAC は、E3 に結合する化合物と標的タンパク質に特異的に結合する化合物をリンカーで連結した分子であり、E3 と標的タンパク質の人工的な複合体を形成し、生細胞内のタンパク質分解機構を模倣するように、標的タンパク質のユビキチン化と分解を誘導する。私たちは、これまでに様々な標的タンパク質の分解を誘導する低分子型PROTAC を見出し、本分野の先駆的研究を行ってきた9。PROTAC は、創薬化学・ケミカルバイオロジー分野における新しい創薬モダリティとして期待され、現在、世界中で PROTAC 研究が展開されている。その中には現在臨床開発研究に至っているものも存在する10

参考文献

  1. Itoh Y, ChemPharm. Bull. 2020, 68, 34–45. DOI: 10.1248/cpb.c19-00741
  2. (a) Itoh Y, Aihara K, Mellini P, Tojo T, Ota Y, Tsumoto H, Solomon VR, Zhan P, Suzuki M, Ogasawara D, Shigenaga A, Inokuma T, Nakagawa H, Miyata N, Mizukami T, Otaka A, Suzuki T. J. Med. Chem. 2016, 59, 1531–1544. DOI: 10.1021/acs.jmedchem.5b01323; (b) Mellini P, Itoh Y, Tsumoto H, Li Y, Suzuki M, Tokuda N, Kakizawa T, Miura Y, Takeuchi J, Lahtela-Kakkonen M, Suzuki T. Chem. Sci. 2017, 8, 6400–6408. DOI: 10.1039/c7sc02738a.
  3. Ogasawara D, Itoh Y, Tsumoto H, Kakizawa T, Mino K, Fukuhara K, Nakagawa H, Hasegawa M, Sasaki R, Mizukami T, Miyata N, Suzuki T. Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 8620–8624. DOI: 10.1002/anie.201303999
  4. Ota Y, Itoh Y, Kaise A, Ohta K, Endo Y, Masuda M, Sowa Y, Sakai T, Suzuki T. Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 16115–16118. DOI: 10.1002/anie.201608711.
  5. https://ir.imagobio.com/news-releases/news-release-details/imago-biosciences-expands-phase-2-clinical-trial-bomedemstat-img (accessed 2022-06-04)
  6. (a) Suzuki T, Ota Y, Ri M, Bando M, Gotoh A, Itoh Y, Tsumoto H, Tatum PR, Mizukami T, Nakagawa H, Iida S, Ueda R, Shirahige K, Miyata N. J. Med. Chem. 2012, 55, 9562–9575. DOI: 10.1021/jm300837y; (b) Suzuki T, Kasuya Y, Itoh Y, Ota Y, Zhan P, Asamitsu K, Nakagawa H, Okamoto T, Miyata N. PLoS One, 2013, 8, e68669. DOI: 10.1371/journal.pone.0068669
  7. Miyake Y, Itoh Y, Suzuma Y, Kodama H, Uchida S, Suzuki T, ACS Catal. 2020, 10, 5383–5392. DOI: 10.1021/acscatal.0c00369
  8. Itoh Y, ChemRec. 2018, 9, 1681–1700. DOI: 10.1002/tcr.201800032
  9. (a) Itoh Y, Ishikawa M, Naito M, Hashimoto Y, JAm. Chem. Soc. 2010, 132, 5820–5826. DOI: 10.1021/ja100691p; (b) Iida T, Itoh Y, Takahashi Y, Yamashita Y, Kurohara T, Miyake Y, Oba M, Suzuki T.ChemMedChem, 2021; 16, 1609–1618. DOI: 10.1002/cmdc.202000933; (c) Chotitumnavee J, Yamashita Y, Takahashi Y, Takada Y, Iida T, Oba M, Itoh Y, Suzuki T. Chem. Comm. 2022, 58, 4635–4638. DOI: 10.1039/d2cc00272h.
  10. https://cen.acs.org/pharmaceuticals/drug-discovery/Arvinas-unveils-PROTAC-structures/99/i14 (accessed 2022-06-04)

おしらせ

第 26 回ケムステVシンポ「創薬モダリティ座談会」への登録はコチラの会告記事よりどうぞ!

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DAICHAN

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創薬化学者と薬局薬剤師の二足の草鞋を履きこなす、四年制薬学科の生き残り。
薬を「創る」と「使う」の双方からサイエンスに向き合っています。
しかし趣味は魏志倭人伝の解釈と北方民族の古代史という、あからさまな文系人間。
どこへ向かうかはfurther research is needed.

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