[スポンサーリンク]

ケムステニュース

NECら、データセンターの空調消費電力を半減できる新冷媒採用システムを開発

[スポンサーリンク]

NECおよびNTTコミュニケーションズ株式会社(NTT Com)は28日、ノンフロンの新冷媒を採用したデータセンターの通信機械設備用の冷却システムを開発し、共同で実験を行なったと発表した。この結果、空調の消費電力を従来から半減できることを実証した。 (引用:PC watch8月28日)

国会議員の方の「サーバは増やすんじゃなくて、時代はもうクラウドなんですよ」という発言が話題になりましたが、クラウドサービスによっていつでもどこでもデータにアクセスできるのは、GoogleやMicrosoftといったクラウドサービス会社が巨大なデータセンターを保有していて、その中にある数多くのサーバーをトラブルで停止しないように24時間365日管理しているからです。

サーバーは高性能なパソコンですので内部のCPUをはじめとする電子部品は高温になっていて、部屋を常に冷却しなくはなりません。現在は電子部品の小型化が進み、ラックの中に何十台ものサーバーが収納されているため発生する熱の密度が高く、効率よく冷却することが求められています。今回のニュースはその冷却の効率を向上させる技術開発を行ったという内容です。

現状では、ファンの風を電子部品に当て、CPUといった特に熱を発する電子部品については、加えて熱伝導率が良い銅やアルミニウムの放熱フィンを接触させて放熱し、部屋全体をエアコンによって冷却することが一般的です。しかし本来は、発生熱源付近で冷却を行うほうが効率は良いことがわかっています。そのため局所的に冷却する方法の一例として水を循環させて冷却する方法がありますが、熱を受ける部分の機器が大きく後付けが困難で、しかも水漏れによるショートの危険性があります。また従来の冷媒を使って局所的に冷却する方法も考えられますが、高圧ガスを使用するため、有資格者による定期点検などといった管理が必要です。そこでNECとNTT Comでは、新しい冷媒を使った低圧の冷却システムを開発し、空調消費電力を従来の冷却システムと比較して半減できることを実証しました。

消費電力の比較(出典:NEC

この方法は、相(気体液体)変化冷却技術と呼ばれ、液体の冷媒が気化する際にサーバーから発生する熱を奪い、機器を冷却します。その気化した冷媒は、室外で冷却されて液体に戻り、熱源に戻されます。液体が熱源を通過した後も液体と気体の2相が存在していること、大容量で冷媒を循環させることがエアコンとは異なる点であり、このサーバー内を局所的に冷やすという用途においては適しているようです。加えて両社は配管内の気体と液体を分離する工夫を行ったことで気体の流れをスムーズにして低圧冷媒を大流量で流すことに成功しました。これにより、送風と圧縮の消費電力を下げるだけでなく、ユニットの小型化により、サーバの直上に後付けできるようになったそうです。

開発したシステムと従来型の比較(出典:NEC

機械的な話はここまでにして冷媒について見ていきますが、使われているのはR1224ydという新しい冷媒で、構造は下記のようなCC二重結合にフルオロ基、トリフルオロメチル基、クロロ基が結合しています。自然冷媒に関するニュースで紹介しましたが、オゾン層を破壊するハイドロクロロフルオロカーボンの代替としてハイドロフルオロカーボンが使われるようになった経緯があります。一方でハイドロフルオロカーボンも、地球温暖化係数が高いという欠点があるため、将来的には、地球温暖化係数が低い冷媒に代替していく動きがあります。フッ素化合物の地球温暖化係数を低くするには、二重結合を導入して大気中で分解されやすくすることであり、ハイドロフルオロオレフィンの冷媒が開発されています。このR1224ydにも二重結合があり地球温暖化係数は、0.88と非常に低いことが特徴です。一方で、クロロ基を有しているため、オゾン層を破壊しないか気になるところですが、オゾン層破壊係数は0.00023で実質0だとされています。フロンによるオゾン破壊は、UVによってClが解離し、それがオゾンと反応することが起こる現象です。おそらくこのR1224ydの場合は、二重結合の開裂が優先して起きるため、Clの解離が起こりづらいと考えられます。

R1224yd((Z)-1-Chloro-2,3,3,3,-Tetrafluoropropane)の構造

R1224ydは、圧力が低い環境で使われるのに適していて、カーエアコンといった圧力が高い用途には、R1234yfというハイドロフルオロオレフィンが開発されています。R1224ydはR1234yfの水素を塩素に置換した構造をしています。単にR1234yfよりも分子量を大きくするには、塩素だけでなくいろいろな官能基が考えられますが製造プロセスの共通化によりコストを抑えることができるからこの構造で商品化したのかもしれません。

R1234yf(2,3,3,3-Tetrafluoropropene)の構造

このR1224ydは、地球温暖化係数が極めて低い以外に、ハイドロフルオロカーボンと比較して冷媒や溶剤としての性能は同じであるという特徴があり、冷媒の性能を表す種々の物性値は、R245faと同等であることが示されています。用途によっては、R245faよりも高効率であることが示されているため、この相変化冷却技術においても、地球温暖化係数が極めて低い以外に冷却効率が一般的な冷媒よりも高いことが採用された理由かもしれません。

R245fa(Pentafluoropropane)の構造、地球温暖化係数は1030

サーバーの冷却効率を上げる他の技術として、サーバーを丸ごと液体に浸すことも検討されています。ここで使われている液体には不活性の絶縁体で、不燃性であることが求められるため、フッ素化合物が使われています。このようにフッ素特有の物性を活かす応用は今後も広がっていくと考えられますが、活性が低いことで地球温暖化係数や土壌汚染の問題も起きるわけであり、応用に適した絶縁性や不燃性を保ちつつ、環境中で分解されるような構造を持つ化合物を開発することが化学に求められていると思います。

関連書籍

[amazonjs asin=”479805724X” locale=”JP” title=”図解入門 よくわかる最新冷凍空調の基本と仕組み第2版”] [amazonjs asin=”4816361111″ locale=”JP” title=”図解 冷凍設備の基礎”]

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 化学グランプリ 参加者を募集
  2. 「消えるタトゥー」でヘンなカユミ
  3. 英グラクソスミスクライン、抗ウイルス薬を大幅値引きへ
  4. 韓国に続き日本も深刻化?トラック運送に必要不可欠な尿素水が供給不…
  5. 米化学大手デュポン、EPAと和解か=新生児への汚染めぐり
  6. 武田 新規ARB薬「アジルバR錠」発売
  7. 大幸薬品、「クレベリン」の航空輸送で注意喚起 搭載禁止物質や危険…
  8. 浄水場から検出されたホルムアルデヒドの原因物質を特定

注目情報

ピックアップ記事

  1. 水素結合の発見者は誰?
  2. メソポーラスシリカ(1)
  3. 忍者はお茶から毒をつくったのか
  4. マーティン・チャルフィー Martin Chalfie
  5. alreadyの使い方
  6. 女優・吉岡里帆さんが、化学大好きキャラ「DIC岡里帆(ディーアイシーおか・りほ)」に変身!
  7. 第65回「化学と機械を柔らかく融合する」渡邉 智 助教
  8. 第145回―「ランタニド・アクチニド化合物の合成と分光学研究」Christopher Cahill教授
  9. 徒然なるままにセンター試験を解いてみた
  10. オキソアンモニウム塩を用いたアルデヒドの酸化的なHFIPエステル化反応

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年10月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

MDSのはなし 骨髄異形成症候群とそのお薬の開発状況 その1

Tshozoです。今回はかなり限定した疾患とそれに対するお薬の開発の中身をまとめておこうと思いま…

第42回メディシナルケミストリーシンポジウム

テーマAI×創薬 無限能可能性!? ノーベル賞研究が拓く創薬の未来を探る…

山口 潤一郎 Junichiro Yamaguchi

山口潤一郎(やまぐちじゅんいちろう、1979年1月4日–)は日本の有機化学者である。早稲田大学教授 …

ナノグラフェンの高速水素化に成功!メカノケミカル法を用いた芳香環の水素化

第660回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院理学研究科(有機化学研究室)博士後期課程3年の…

第32回光学活性化合物シンポジウム

第32回光学活性化合物シンポジウムのご案内光学活性化合物の合成および機能創出に関する研究で顕著な…

位置・立体選択的に糖を重水素化するフロー合成法を確立 ― Ru/C触媒カートリッジで150時間以上の連続運転を実証 ―

第 659回のスポットライトリサーチは、岐阜薬科大学大学院 アドバンストケミストリー…

【JAICI Science Dictionary Pro (JSD Pro)】CAS SciFinder®と一緒に活用したいサイエンス辞書サービス

ケムステ読者の皆様には、CAS が提供する科学情報検索ツール CAS SciFind…

有機合成化学協会誌2025年5月号:特集号 有機合成化学の力量を活かした構造有機化学のフロンティア

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年5月号がオンラインで公開されています!…

ジョセップ・コルネラ Josep Cornella

ジョセップ・コルネラ(Josep Cornella、1985年2月2日–)はスペイン出身の有機・無機…

電気化学と数理モデルを活用して、複雑な酵素反応の解析に成功

第658回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 農学研究科(生体機能化学研究室)修士2年の市川…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP