[スポンサーリンク]

分光分析

【書籍】有機スペクトル解析入門

[スポンサーリンク]

有機スペクトル解析入門 (有機化学スタンダード)

有機スペクトル解析入門 (有機化学スタンダード)

小林 啓二, 木原 伸浩
¥3,740(as of 07/29 15:54)
Amazon product information

自然科学系書籍の老舗・裳華房さんより 2021年3月に刊行された「有機スペクトル解析入門」を紹介します。

有機化学におけるスペクトル解析の解説書としては、Silverstein の「有機化合物のスペクトルによる同定法」が最も有名な良書かと思いますが、学部生や M1 くらいの院生が読みこなすにはややハイレベルな気もします。そもそも分析機器は実際に使ってみないとその実質が分かりません。本書「有機スペクトル解析入門」は、そんな分析機器を使い始めたばかりの卒論生・院生にピッタリの入門書です。

有機スペクトル解析入門

東京大学名誉教授・城西大学名誉教授 理学博士 小林啓二・
神奈川大学教授 博士(工学) 木原伸浩 共著

B5判/240頁/2色刷/定価3740円(本体3400円+税10%)/2021年3月発行
ISBN 978-4-7853-3426-0  C3043

有機化学分野で広く利用される、UV-vis、IR、1H-NMR、13C-NMRの各スペクトルおよびマススペクトルについて解説した。これらの各スペクトルから得られる情報を統合し、構造決定できる能力を養える。
単なるスペクトルの解釈にとどまることなく、豊富な図を用いてその物理的背景から懇切丁寧にわかりやすく解説しているので、構造解析に行き詰まったときに自ら打開する力が身につくであろう。また、最終章の総合問題は、実践的な演習ができるだけでなく、豊富な解説が付されているため、「手引書」としても活用できる。初学者が有機スペクトル解析を学ぶためにきわめて適した入門書である。


本書の構成

本書は全 14 章から構成されており、スペクトル分析の基礎、紫外可視吸光スペクトル、IR スペクトル、NMR スペクトル、MS スペクトル、スペクトルによる構造決定をそれぞれ 1~数章に分けて解説しています。中でも NMR スペクトルについては 6章分を割いて詳細に解説されてあり、本書のメイン = 有機スペクトル解析におけるメインであることを物語っています。
各章末には演習問題が掲載されており、さらに 第14 章では各種測定法を組み合わせた構造決定の問題が多数用意されています。

1.  スペクトル分析の基礎
2.  紫外-可視スペクトルと電子遷移
3.  紫外-可視スペクトルの解釈
4.  赤外スペクトルと分子振動
5.  赤外スペクトルと特性吸収
6.  核磁気共鳴スペクトルの基礎
7.  パルスFT- NMR
8.  化学シフト
9.  スピン-スピン結合
10.1H-NMR測定法の広がり
11.13C-NMR
12.マススペクトルと気相イオン
13.マススペクトルの解釈
14.スペクトルによる構造決定

第 1 章 スペクトル分析の基礎

第 1 章では、分光分析の基本となる「光 (電磁波)」の性質について解説されています。電磁波の種類、分光の原理などをしっかりとおさらいしましょう。

第 2~3 章 紫外可視スペクトル

第 2~3 章は紫外可視 (UV-Vis) 吸収スペクトルについての解説です。UV-Vis の測定自体は簡単に行えますが、そこから得られる情報は実に幅広く、特に構造有機化学や材料化学、蛍光分子の開発などでは現在でも非常にお世話になる分光法です。本書では電荷移動錯体や pH に応答した吸収変化のメカニズムについても触れられており、UV-Vis を駆使した研究を始めようとしている方に対してとっつき易く纏められています。

第 4~5 章 IRスペクトル

第 4~5 章は赤外線 (IR) 吸収スペクトルについての解説です。ここぞという時に活躍するのがこの分光法です。ヒドロキシ基・カルボニル基・シアノ基の確認はもちろんのこと、近年ではクリックケミストリーの発展により有機アジドが多用されるようになっており、アジド基の確認にも IR が力を発揮します。
第 4 章では IR スペクトルの原理と測定法について纏められています。惜しむらくは、近年の主流な測定法である ATR 法についての解説がもう少し欲しかったというところです。その他の部分は一通り網羅されています。
第 5 章 は官能基と波数の関係を解説しています。学部時代の分析の授業では、ヒドロキシ基は 3400 nm–1、カルボニル基は 1700 cm–1 と暗記で覚えてしまった方も多いでしょうが、本書では官能基ごとではなく、高波数から低波数に向かって波数別に、なぜその官能基がその波数に吸収を示すかについてしっかりと述べられています。また、カルボニル基については別個で纏められており、細かな違いをしっかり理解することができます。

第 6~11 章 NMRスペクトル

NMR スペクトルについては 6 章分をかけて解説されています。有機分析化学における最重要手法なので、大部分を割くのは必然ですね。
本書では NMR の原理・装置の解説から、1H-NMR・13C-NMR測定の実際まで、導入としては充分すぎるほどしっかり記述されています。1H-NMR については NOE (核オーバーハウザー効果)HH-COSY のような二次元 NMR に至るまで触れられており、本書を一読すれば重要なポイントを掴むことができるでしょう。一方で 13C-NMR やそれを応用した二次元 NMR、また多核 NMR についてはさわり程度にしか記述されていないので、高度な測定を行いたいかたは本書でしっかりと学習したうえでさらなる専門書にチャレンジすると良いかと思います。
NMR を日常的に扱っている院生以上の方は、ケミカルシフトやカップリングなどに関しては測定しているうちに読みこなせるようになってくるかと思います。むしろ院生以上の研究者が学ぶべきは NMR の原理かと感じます。NMR に限らず機器の扱いにはその原理を理解し、与えられたスペクトルがなぜそのようになるのかを後輩たちに教える必要があると思います。本書を一読しておけば、その辺りはおおよそカバーすることができ、いざ鋭い後輩から「素人質問」が飛んできた時にもカッコよく対応できるはずです。NMR だけに特化した入門書を読むよりはコスパに優れているかも?

第 12~13 章 MS スペクトル

本書の最後に登場する分析法は MS スペクトルです。MS は分光分析法ではありませんが、有機化学において現代では NMR の次に汎用される分析法であり、新規化合物を合成した場合は原著論文の実験項にも必ず記述が求められます (元素分析の代わりとして認められています)。本書では MS について、低分子化合物の分析に必要となる基本的な情報が掲載されています。代表的なイオン化法やフラグメンテーション、McLafferty 転位など、学部生レベル (または薬剤師国家試験レベル) で学ぶべき項目は網羅されています。

第 14 章 スペクトルによる構造決定

これまでに出てきた測定方法を組み合わせて解く演習問題です。なかなか歯応えがありました。

感想

化学系教員の私としては、卒論生・院生へ分析化学のイロハを教えるためにぜひ活用したい教科書であると感じました。平素な記述ながらしっかりと重要なポイントを抑えており、表やコラムなども充実しています。価格も手頃であり、学生にも手が出しやすいでしょう。測定法の実際もさることながら、機器や原理の解説がとても丁寧で優れており、実際の測定時に本書を読みながら学ぶことで、理解を深めることができると思います。本書のまえがきでも述べられていますが、実践的なスペクトル解析の「手引書」として、測定室に一冊常備しておいても良いと感じます。ベテランの有機化学者には少し物足りない気がするかと思いきや、意外に取りこぼしていたところや忘れていた重要な事項を思い出すのに役立ちます。入門書として、手引書として、読み物として、さまざまな観点から長くお供になる一冊だと思います。

なお、内容の見本公式サイトから閲覧できますのでぜひ購入の参考にどうぞ。

有機スペクトル解析入門 (有機化学スタンダード)

有機スペクトル解析入門 (有機化学スタンダード)

小林 啓二, 木原 伸浩
¥3,740(as of 07/29 15:54)
Amazon product information

関連項目 (裳華房の書籍紹介)

【書籍】タンパク質科学 生物物理学的なアプローチ

 

Avatar photo

DAICHAN

投稿者の記事一覧

創薬化学者と薬局薬剤師の二足の草鞋を履きこなす、四年制薬学科の生き残り。
薬を「創る」と「使う」の双方からサイエンスに向き合っています。
しかし趣味は魏志倭人伝の解釈と北方民族の古代史という、あからさまな文系人間。
どこへ向かうかはfurther research is needed.

関連記事

  1. Handbook of Reagents for Organic…
  2. 理工系のAI英作文術
  3. 【書評】奇跡の薬 16 の物語 ペニシリンからリアップ、バイアグ…
  4. 化学するアタマ―論理的思考力を鍛える本
  5. 有機反応の仕組みと考え方
  6. 化学装置~化学業界のリーディングマガジン~
  7. Practical Functional Group Synth…
  8. 京都大学人気講義 サイエンスの発想法

注目情報

ピックアップ記事

  1. π拡張ジベンゾ[a,f]ペンタレン類の合成と物性
  2. (+)-フロンドシンBの超短工程合成
  3. 存命化学者達のハーシュ指数ランキングが発表
  4. 今年は共有結合100周年ールイスの構造式の物語
  5. その酸素、“本当にその場所”の値ですか? ニードル式酸素センサーを使ってみた!
  6. ルドルフ・クラウジウスのこと② エントロピー150周年を祝って
  7. インドール一覧
  8. アハメド・ズウェイル Ahmed H. Zewail
  9. 近況報告PartII
  10. 未解明のテルペン類の生合成経路を理論的に明らかに

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年11月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

査読に AI を使われた体験談

生成 AI の普及は加速しており、調べもの、英文校閲など研究者の皆さんも活用していることと思います。…

フィーゼルマン チオフェン合成/Fiesselmann Thiophene Synthesis

概要フィーゼルマン チオフェン合成(Fiesselmann Thiophene Synthesi…

“とび跳ねる水滴”に潜む物理 〜接触時間とエネルギー源で読む撥水・防氷のテク〜

熱したフライパンに落ちた水滴が、玉になってコロコロと走り回り、冷えた面では、結露水が合体した瞬間に跳…

AI時代に研究者がすでに持っている力・これから伸ばしたい力

論文要約や文献検索など、研究現場でもAI活用が日常化する一方、「自分の仕事の先行き」に漠然とした不安…

miHub®を活用した探索的データ解析の実践

開催概要研究開発においてデータ活用が進む中、機械学習モデルの構築や予測解析に…

“ある特効薬”のはなし ~本田宗一郎氏の回想から

Tshozoです。最近実家に戻っては色々と廃棄するなどの店じまいを少しずつ進めているのですが、中…

高分子鎖を束ねた新しい共重合体「束状共重合体」が誕生

第715回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院 工学系研究科(植村研究室)に所属されていた亀谷…

2026年「有機溶媒危機」へのアンサー。北大発・メカノクロスが挑む、溶媒に依存しない新たな合成法 = “メカノケミカル有機合成”の社会実装

株式会社メカノクロスは、メカノケミカル有機合成技術の社会実装に挑む北海道大学発の…

“壊れないよう” に作ってきた半導体ポリマーを、あえて “壊れるよう” に作る化学

半導体ポリマーは長いあいだ、「いかに壊れにくく、長持ちさせるか」といったような安定性を競って進歩して…

有機合成化学協会誌2026年7月号:固体高分子電解質・電子ドナー・アクセプター錯体・機械学習法・trichodermamide類・エナンチオ選択的スキップジエン合成法

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2026年7月号がオンラインで公開されています。…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP