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三菱ケミカルと三井化学がバイオマス原料由来ポリエステルの関連特許に係るライセンス契約を締結

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三菱ケミカル株式会社は、当社が保有するバイオマス原料由来ポリエステルに係る基本特許(日本国特許第4380654号)を含む関連特許について、この度、三井化学株式会社とライセンス契約を締結いたしましたのでお知らせいたします。ライセンス対象の本製品は、再生可能なバイオマス原料を用いたPET(ポリエチレンテレフタレート)を指し、ボトルをはじめ様々な用途が見込まれており、従来の石油由来の製品と比べ、温室効果ガスの排出量を抑えることができます。当社が保有する本特許は、バイオマス原料由来の高品質ポリエステルそのものに関する物質特許で、製造販売など事業を行ううえで必要な基本特許となります。(引用:10月28日三菱ケミカルプレスリリース)

このニュースは、三菱ケミカルが出願して登録された特許(日本国特許第4380654号)について三井化学とライセンス契約を締結したという内容です。このライセンス契約により三井化学はこの特許に関係したビジネスを行うことができるようになります。

では具体的にどんな発明がこの特許で言及されているのか、特許第4380654号の明細書を見ていきます。まず発明の分野バイオマス資源由来の原料からのポリエステル製造で、石油由来の原料を発酵によって得られた原料に置き換えることで起こる問題を解決する手段を本特許にて出願しています。背景技術課題を解決するための手段ではより具体的に目的を記載しており、カーボンニュートラルの観点から石油以外の原料からプラスチックを製造することは重要で、発酵によって得られた化合物を使ってプラスチックを製造すれば、植物が育つときに二酸化炭素は吸収されているため二酸化炭素の削減に大きく貢献できるとしています。例えば、コハク酸やアジピン酸といったジカルボン酸は、グルコースの発酵によって得られ、ジカルボン酸の還元や同じく発酵によって得られたジオールと反応させることでポリエステルが得られます。

ポリブチレンサクシネート(PBS)の合成例(出典:三菱ケミカルプレスリリース

しかしながら、発酵によって得られた原料の不純物が問題で、具体的にはアンモニア塩や金属カチオンによって重合反応が阻害されて十分な分子量のポリエステルが得られなかったり得られたポリエステルが着色したりする問題が生じます。そこで、発酵法による原料を用いて高分子量で着色の少ない実用可能なバイオマス資源由来のポリエステルおよびその製造する方法を発明人らは研究しました。

結果、窒素原子の含有量が、ポリエステルの分子内に共有結合されている官能基に含まれる窒素原子を除いて(つまり、不純物由来の窒素原子の含有量が)0.01ppm以上、1000ppm以下であるときに良いパフォーマンスを示すことがわかり、請求項1に記載の通りその組成を持つポリエステルを新たな発明として出願されました。

次にどのようなデータからこの請求項が導き出されたを知るために、実施例を見ていきます。まず、実施例1では5 ppmのバイオマス資源由来コハク酸 、1,4-ブタンジオール、リンゴ酸ならびに触媒として二酸化ゲルマニウムを仕込みポリエステルを合成し、黄色度(YI:値が大きい方がより黄色い)と還元粘度(値が大きい方が粘度が高く高分子量のポリマーが生成していると判断)を測定しました。そしてこの実施例1をベースラインとして、実施例2から6ではコハク酸以外の条件を変えてポリエステルを合成し、黄色度と還元粘度を比較しました。結果、合成の原料や触媒が少し変わっても実施例1のように黄色度が低く、ある程度の平均分子量のポリマーが合成できることが確認されました。

YIと還元粘度の違い、実施例3から5の黄色度は、実施例2と同じと明細書では記載、実施例6にはデータなし、実施例12は60以上と記載

次にコハク酸に含まれる窒素原子含有量を変化させて実施例1と比較しました(実施例7から13、比較例2)。結果、コハク酸に含まれる窒素量が増えると黄色度は増加しポリエステル中の窒素原子含有量も増加しました。5000ppmのコハク酸では、ポリエステルの粘度の上昇は観測されず、ポリエステルの窒素原子の含有量は1200 ppmとかなり高い値となりました。

ポリエステル中の窒素原子含有量の違い

加えて0.7 ppmのバイオマス資源由来1.4-ブタンジオールを使っても合成がなされ(実施例14と15)、一定の品質のポリエステルが合成できることが確認されました。また、非バイオマス資源由来の原料を使って合成されたポリエステルと生分解性度の違いを比較し、発酵系コハク酸を用いたポリエステルは土壌中での生分解速度が速いことが確認したデータも示されています。

フィルム重量減少率の違い

a)バイオマス原料を使用したポリエステルの各種成形体と b)土中埋設時の石油資源由来品との形状変化の違い(出典:三菱ケミカルプレスリリース

さらに、実施例1のポリエステルを配合して組成物を、射出成形やシート成形、フィルム成形を行い、十分な性能を持つことを確認しています

射出成形物の衝撃強度の違い、左から2番目以降について残りの割合は実施例1のポリエステルが含まれる。

ここまでがポリエステルの合成に関する実験結果であり、これらのデータに基づいて特許で最も重要な発明の範囲を示す請求項を設定したと考えられ、特に原料やその窒素原子含有量の違いでポリエステルの物性値が変わった結果は、請求項1から15に関す連するコアな実験結果だと言えます。

請求項では、特性の組成を持つバイオマス資源由来の原料を使ったポリエステルがカバーされており、どんな方法で原料を精製して窒素原子量をコントロールする方法は、発明としては定義されていません。発明を実施するための最良の形態において、任意の方法でモノマーを精製することができるが、コスト、効率の点で好ましいのはイオン交換法又は塩交換法で、工業的生産性の点で特に好ましいのは塩交換法と記載されています。

本特許は2006年に出願されたものであり、その頃はカーボンニュートラルという話は、社会の中では大きな話題ではなかったと思います。どんな経緯で本特許を出願したかは分かりませんが三菱ケミカルでは、将来の需要を考えてバイオマス資源に関する研究を早くから始め特許を出願して準備していたと推測されます。そしてその技術が時代の変化によって注目を浴び、他社からライセンス契約をするほどキーの特許になったことは特許出願としては理想の結末ではないでしょうか。もちろん特許登録までにも一苦労ですし、登録された特許が実効性を発揮して市場で独占できたり、本件のように直接的に利益がもたらされることは稀ですが、地道な特許出願が大きな力となった良い例であることは確かだと思います。特許のライセンス契約を締結したことを発表した両社の意義ですが、両社のカーボンニュートラルへの取り組みをアピールする狙いと他社による特許侵害を抑えるための牽制の二つの意味があると思います。温室効果ガスの排出量を抑えるために生活が著しく不便になることは不本意であり、カーボンニュートラルに関する技術開発によって人々の生活がほぼ変わらずに地球環境を改善されていくことを願います。

本記事の内容はZeoliniteが該当特許を独自に解釈した内容です。

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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